加渡 いづみ(かど いづみ) 先生
 
加渡 いづみ(かど いづみ) 先生

加渡 いづみ(かど いづみ) 先生

四国大学短期大学部 ビジネス・コミュニケーション科教授。ライフプランニングを専門とし、エシカル消費やSDGsの視点から地域活性化や消費者教育の実践に取り組んでいる。
四国放送「ゴジカル!」の火曜コメンテーターほか、徳島県消費生活審議会会長 徳島県「働く女性応援ネットワーク 会議」会長 も務める。

ーまず、簡単にご経歴からお伺いできたらと思います。

加渡教授
私は基本的にライフプランニングを専門分野としています。ライフプランニングの中でも、消費者教育に近い部分が専門です。消費者教育の機会、エシカル消費、SDGs、ダイバーシティ、そして女性の活躍に関する部分を活動フィールドとしています。

また、大学での教育研究に加えて、地元メディアなどでお金に関する情報を発信したり、行政関係の委員としての活動にも取り組んでいます。

ー「金融教育は国家戦略」という金融庁の提言について、率直な感想をお聞かせください。

加渡教授
岸田政権の新しい資本主義の考え方は、「貯蓄から投資へ」という方向性を示しています。これは、個人の資産形成は国や金融機関に任せず、自分自身で行うべきだという意味です。

その裏には、経済が停滞し、賃金の上がらない日本の現状が見え隠れします。個人の財布や家計に対する還元ができていないことから、このような発想に至ったのだと思います。

金融商品を販売する側には、適合性の原則を守り、相手に合った商品を提供する責任があります。利益だけを追求するのではなく、社会的モラルを持ち、ガバナンスについても理解していることが求められます。

また、貯蓄だけでなく投資も必要だと言われていますが、これは貯蓄を否定しているわけではありません。貯蓄は重要であり、投資も資産形成のための重要な手段です。ただし、投資にはリスクがあります。買う側も売る側もリスクを理解し、金融リテラシーを向上させる必要があります。

金融市場については、中立的な仕組みが必要です。教育や情報の提供、公正な市場環境の維持が求められます。一方、個人や企業には金融リテラシーの向上が必要です。貯蓄のみが美徳という考え方は時代遅れといえるでしょう。また、「risk」と「dangerous」の違いを理解することも大切です。

ー加渡先生が重視されているリテラシーとは、具体的にどのような要素なのでしょうか?

加渡教授
リテラシーを身につけるためには、情報や知識だけでなく、倫理観も大切です。お金に関する考え方は、利己的な視点が多いですよね。それは「自分のお金だから、どう使うかは自由」という考えから来ています。

しかし、地域や他人、未来のために何かをしたいという利他的な考えなしでは、これからの時代、幸せなお金の使い方は身につかないと思っています。この考え方は、「エシカル消費」につながるもので、消費は「企業への投票行動」として、商品や事業者を支援したり淘汰したりする力を持っているのです。

ー大学生は、どのようなリテラシーが必要だと思われますか?

加渡教授
大学生がお金について学ぶ理由としては、人生100年時代の到来という社会背景が挙げられます。100年の間には、学びや仕事、自己探求ななど様々な人生のステージが想定されます。働くことと学ぶことを、自由に行き来することでキャリアの流動性が飛躍的に高まってくると思います。

そうなった時に何が1番大事かというと、それはキャリアを考える力とお金に対する信念です。私は、それが今後の若者に求められるリテラシーの根本だと考えています。

ー実際に加渡先生が教えている内容も、そのような観点を踏まえたものとなっているのでしょうか?

加渡教授
そうですね。キャリアの話だけでなく、さまざまな講座で消費行動や生活設計、マネープランニングについても教えています。また、自分のお金の使い方が社会や未来にどのような影響を及ぼすのか、その点を考える授業も実施しています。

ー授業の具体的な内容や、授業を受けた学生たちの反応について教えてください。

加渡教授
私が教えている消費者教育や金融教育は、社会生活において最も基本的な対人スキルやコミュニケーションの教育でもあると捉えています。金融教育とは、利回りや金融商品といったお金の知識だけを教えるものではありません。消費者教育も同様です。

授業の中では、「想定外の事態をちゃんと想定しましょう」と学生に伝えています。お金や契約のトラブルは、誰にでも起こりうるものです。そのため、それらを自分に関連する問題として認識することが大切です。

また、「断る力」の重要性も教えています。現代の若い世代は、他人から強く何かを迫られる機会が少ないかもしれません。そのため、はっきりと断る力を身につける必要があります。そこに至る道筋として、自分の習慣や癖を自覚し、「これは当たり前だろう」という固定観念を疑うことも大切だと伝えています。自分が考える「普通」と、隣の人が考える「普通」は、必ずしも一致するものではないのです。

これらが私の考えるリテラシーの要素です。

ー「想定外を想定する」というお話がありました。その考えを学生たちが日常生活に取り入れるためには、どのような教育が必要でしょうか?

加渡教授
アクティブラーニングが有効な手段です。私の授業では単なる座学だけでなく、様々なカードゲームを活用します。

たとえば「Yes/Noゲーム」というものがあります。防災の授業中に、「自然災害の発災により避難所に逃げなければならないが、自分の家には犬がいる。その犬を避難所に連れて行くべきか?」といった問題を提起してみるんです。YesかNoのいずれかを必ず選択し、グループメンバーで一斉に意思表示を行います。カード呈示までの話し合いは行わないというのがポイントです。

「犬は家族同様なのでYes」と回答する学生もいれば」、「私は犬アレルギーだし、公共マナーとしても良くないからNo」と回答する学生もいます。このように、自分の「普通」が他人の「普通」とは異なることを実感してからその後の議論が始まるわけです。

実際に想定外の状況に立たされると、考える時間はありませんよね。そのため、普段の状態の時にカードゲームを通じて、様々なシチュエーションでのシミュレーションを行い、「想定外のトラブル」、「当たり前という固定観念」に意識を向けるきっかけを作っています。

実際に想定外の状況に立たされると、考える時間はありませんよね。そのため、平常時に様々なシチュエーションを学生に考えてもらっています。

ー日常生活で自分の価値観に気づく機会は非常に少ないので、素晴らしい取り組みだと思います。ちなみに、若い世代にとって金融に関する「想定外」とは何でしょうか?

加渡教授
成人年齢が引き下げられ、18歳でも自分の意思で契約できるようになりました。「報道されているトラブルは自分には関係ない」と油断していると、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。

ローンやクレジットに関心を持っている学生は少なくありません。私たち教員が持っているお金に対する価値観は、若い世代の価値観とは異なるかもしれません。その違いを尊重し、考慮する必要がありますが、自分で判断し行動するためには、正しい情報や知識、さらには経験や倫理観が欠かせません。

大学は社会に出る前の最後のステージ、いわば「プレ社会人」の場です。大学が金融教育や消費者教育を受ける最後のチャンスといえるでしょう。

大学教員として私はこの重要性を深く認識し、学生たちと真剣に向き合う必要があると考えています。

ー「最後のチャンス」という言葉が非常に印象的でした。加渡先生が大学の金融教育に対して、どのような視点を持っているのか教えていただけますか?

加渡教授
まず、大学生活の中で3つの「My」を身につけてもらうことが重要だと考えています。1つ目は「My style」。金融や消費者問題、お金といった事柄は、他人と同じではありません。そのため、重要なのは自分の価値観やスタイルを持つことです。生き方、働き方、学び方を自分流にすること、そして自分の信念を持つこと、これが「My style」です。

2つ目は「My size」。自分の経済力を自覚し、それに見合ったお金の使い方を学ぶことです。残念ながら、給料明細の読み方すら知らない新社会人もいらっしゃいます。そのため、自分の財布の大きさ、つまり「My size」をしっかりと自覚する必要があります。

そして最後が「My file」、信頼できる情報と知識を持つことです。現代の学生はインターネットの情報や閉じられた狭い交友関係でのやり取りを鵜呑みにする傾向があります。しかし、誤った情報や根拠のない噂話をそのまま信じてしまうと、一瞬で大きなリスクを背負う可能性もあります。だからこそ、そのことを理解し、信頼できる情報源「My file」が必要なのです。

My style・My size・My fileを大学在学中にしっかりと学び、身につけること。そして、これらの視点を忘れずに社会へ出ることが重要です。授業では、これらの点を常に強調しています。

ー加渡先生の金融教育に対する想いが、ひしひしと伝わってきました。本日は貴重なお話をありがとうございます。