本記事は、長友威一郎氏の著書『最強のナンバー2チームをつくれ! 会社を大きく成長させる、社員の強みを活かした人材育成』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋・編集しています
経営者にとっての幹部とは
私は多くの経営者から「ともに会社を運営できるナンバー2がほしい」という相談を受けてきました。では、どんなナンバー2を望んでいるのかと聞いてみると、ほとんどの方が自分の分身をつくろうとしていたり、自分と同じような判断基準をもつ人を育てたりしたいと思われているようです。
確かに、多くのコンサルティング会社や研修を行う会社では、ナンバー2とは「社長の分身のような存在」「同じような判断基準をもつ存在」だと言い切っています。要するに、ナンバー2とは社長が考えていることを正解にする人で、決して「NO」と言わず、すべてに「YES」と言ってくれる人がナンバー2、もしくは幹部であるというのです。確かに経営者からしたら、そんな人がいたら最高でしょう。
けれども、私は声を大にして言いたいのです。
「そんな人、いませんよ!」と。
仕事や会社に対する視座や責任感、事業にかける想いなど、経営者と社員ではすべてが違います。「今、あなたが言っている理想のナンバー2や幹部というのは、あなた自身のことなのですよ」というわけです。
これまで多くの経営者が「未来を見て、未来をつくり上げていくために、幹部を使うのだ」と言うのを聞いてきましたが、結局この言葉の奥にあるのは「いい加減、もうラクをしたい」という気持ちです。
一方、幹部の立場からすると、「そこまでいうなら、全部任せてよ」というのが本音でしょう。ほとんどの経営者は「あれどうなっている?これはどうなった?」と幹部に聞くだけで、結局決定を下すのは経営者で、幹部には決定の権限がありません。これでは、幹部たちのモチベーションも上がらず、自分たちで考えることを放棄してしまいます。それでは、いつまでたっても経営者自身が未来を見て、一人で未来をつくるしかないのです。
もし、そうしたことを防ぎたいのであれば、会社の未来をともに語り合い、同じ目標に向かって進めるナンバー2を育てていきませんか。経営者が思う「こんな人がナンバー2だったらいいな」という理想は捨てて、幹部やリーダーなど、ナンバー2候補である人たちと、信頼とコミュニケーションで成り立つ関係性を育んでいきましょう。最高のナンバー2という存在を現実のものとするには、これが一番の早道となります。
ナンバー2は一人でなくていい
実は私自身、現在の会社で経営に携わる前は、関連会社でナンバー2のポジションにいました。「ナンバー2としての役割とは何か」「より会社に貢献できるようになるには何をすればいいのか」と、さまざまな書籍を読みあさりました。しかしそこに書かれているナンバー2の条件は、何もかもができるうえ、トップのフォローも完璧というような、「そんな人は本当にいるのだろうか?」と思うようなことがあげられているのです。
本当にそんなに仕事ができるなら、ナンバー2で収まらず、独立して経営者になっているでしょう。そんな理想を一人のナンバー2に押しつけようとしても、なかなか適任者は現れません。
私はナンバー2歴が長かったのですが、上司である経営者からの依頼に対し、「これは自分一人では無理」「これはできない」と思うことがしばしばありました。けれど、求められていることにすぐ応えなければいけない。短期間で結果や成果を出さなくてはいけない。そんな時、「誰かが一緒にやってくれたらな」とよく思っていました。
基本的に人間は、得意なことはスムーズかつ要領よくできますが、苦手なことや経験していないことに関しては、どうしても時間がかかってしまいます。そこをサポートし合える仲間がほしいと、当時の私は切に願っていました。
こうした実体験から、「ナンバー2は一人でなくていい」という発想が生まれました。経営者の能力が100点だとしたら、能力が点の人間を3人集めたら180点と、経営者より優秀な働きができるようになります。ここが大きなポイントです。
日々、組織づくりのコンサルティングを行うなかで、ほとんどの経営者が自分の分身、もしくは同レベルの存在としてのナンバー2を求めています。その結果、ナンバー2を担う社員が精神的にも体力的にも潰れてしまった話をたくさん聞いてきました。「もう、社長にはついていけません」と離職してしまう人が本当に多かったのです。なぜそうなるかというと、経営者がナンバー2に求める基準が高すぎる一方で、決定権を彼らに渡さなかったからです。
経営者の視野とスピード感を、部下に求めるのは酷というものです。
そのため、一人の人間にナンバー2としてのスキルを求めた場合、うまくいくことは非常に稀です。大抵の方々が成長する前に重責に耐えきれず潰れてしまいます。それならば、2~4人をナンバー2候補として経営者自身が育て、それぞれの強みを組み合わせて理想的なナンバー2チームをつくり上げればよいわけです。
実際にこれを試した結果、コンサルティングの担当企業および自社においても、会社組織全体の底上げに成功しました。複数人のナンバー2を育てることは、組織自体を活性化し成長させるための一番の近道だといえます。
column ナンバー2育成にかけた1年がその後の会社の未来を照らす
実際にナンバー2チームを取り入れ、社内の環境が劇的に整ったというクライアントがあります。A社というハウスクリーニングの会社で、岐阜県に本社があり、岐阜県、愛知県、静岡県で60店舗ほど子会社化して展開されています。これまでは先代の2代目経営者がトップダウンで指示を出していましたが、40代前半の息子さんを3代目としてバトンを渡すことになりました。
まずは3代目経営者の理念、ビジョン、ミッションをつくるところからスタートし、そこからナンバー2チームをつくることになりました。先代のときは、経営者がいてあとはみんな一緒、という文鎮型の組織形態でした。役職者もいましたが、指示命令系はすべて先代の経営者でした。
3代目もこれではいけないと思い、金融系の会社の専務をナンバー2として引き抜いてきました。その人はもともと金融関連の仕事をしていたので数字には強かったのですが、コミュニケーションが苦手で、ナンバー2チームに必要な4タイプでいうと、「影響さん」タイプでした。数字面での影響力が強く、管理会計もできるのですが、現場の社員とのコミュニケーションが図れず、現場の状況をまったく把握できていません。そこで、この専務も巻き込みながら、「各県のエリア長、もしくはエリア長の下にいるリーダーたちも取り込みながら、ナンバー2チームをつくりましょう」と提案しました。
けれども、プロジェクトがスタートしてから最初の半年間、3代目経営者がことごとく口を出すため、次第にナンバー2チームのメンバーたちも「ああ、また始まった」とげんなりしていきました。メンバーたちからは、「やっぱり、社長の言うとおりにやっておけばいいんですよ」という言葉が聞こえてくるほどでした。
改めて、ナンバー2チームの目的、意味を考え直し、経営者自身に我慢していただくことなど伝えました。
そこから3代目が口出ししない時間を徐々に長くしていったのです。その分のうっぷんは、弊社の担当者に吐き出してもらい、ナンバー2チームには口出ししないことを徹底してもらいました。それと同時に、3代目が一対一でナンバー2メンバーとコミュニケーションを取るようになってから、また大きく変わっていきました。ナンバー2チームの目的を伝え、「だからあなたには、このようにしてほしい」というリクエストを出していったところ、半年たつ頃にはメンバー全員が自然と変わっていったのです。
最初の半年は愚痴や不満ばかりでしたが、経営者が口を出さなくなったことで一人、二人と変化が現われ、丸1年たち、2年目がスタートするときになって初めて、メンバーから「こんなことをしたい」「うちの組織はここが課題だ」などの話が自主的に出てくるようになりました。経営者も2年目になってようやく「やっぱり、こういうチームをつくっていったほうがいいね」と理解されました。
現在は3年目がスタートしていますが、もう3代目は口出しせず、次期経営者候補である専務が私たちとやりとりするようになり、部下について「もっとこの人をこのようにして引き上げていきたい」などの相談に応じています。
誰しもそうですが、結果をすぐに出したいと思う気持ちはわかります。ただし、人や組織に対する取り組みの場合、結果はすぐには出ません。徐々に時間をかけて、1年くらいしてからようやく成果が少し見えてくるというパターンがほとんどです。
けれど経営という観点から見たら、たったの1年です。たった1年で組織がよくなるきっかけをつかめるのなら、今後3年、5年と成長の階段を上っていくうえで、この1年は「踊り場」になるかもしれませんが、未来に対する明るい兆しを見いだすことができます。そのために時間をかけて人が育つのを待つということも、会社の明るい未来のためには必要不可欠な時間といえるでしょう。