特集「令和IPO企業トップに聞く ~ 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。

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(画像=トヨクモ株式会社)
山本 裕次(やまもと ゆうじ)
トヨクモ株式会社代表取締役社長
関西大学工学部管理工学科卒業後、1990年4月に野村證券株式会社入社。その後、ドレスナー クライ ンオート ベンソン証券会社を経て、2000年4月にサイボウズ株式会社入社。同社の役員、子会社の代表取締役社長等を歴任後、2010年8月にサイボウズスタートアップス株式会社(現当社)代表取締役社長に就任。
トヨクモ株式会社
2010年8月、クラウドサービス等の新たなサービスを展開することを目的に、サイボウズ株式会社の100%子会社としてサイボウズスタートアップス株式会社を設立。2014年3月、経営陣によるMBOを実施。2019年7月トヨクモ株式会社に商号を変更。2020年9月24日に東京証券取引所マザーズ市場(現:東証グロース市場)に上場。ビジネス向けのクラウドサービスを提供するサービス企業。安否確認サービス、サイボウズ社の「kintone」に連携するクラウドサービス、日程調整が簡単にできるグループスケジューラーなどを提供。ミッションとして「すべての人を非効率な仕事から解放する」ことを掲げ、クラウドを使ったテクノロジーとアイデアで、すべての人を非効率な仕事から解放する製品をつくり続けます。

目次

  1. 事業変遷について
  2. 今後の事業戦略について
  3. 思い描く未来像
  4. ファイナンスにおける課題や重点テーマ
  5. トヨクモ株式会社様から皆さまへのメッセージ

事業変遷について

トヨクモ株式会社
(画像=トヨクモ株式会社)

ー創業から現在までの事業戦略についてお聞かせいただけますか?

トヨクモ株式会社 代表取締役社長・山本 裕次氏(以下、社名・氏名略) はい、まずトヨクモの創業についてお話しします。私自身はサイボウズで新規事業の担当者をしていました。当時はクラウドサービスがなく、グループウェアのパッケージを世界に販売しようとしたのですが、日本の文化と世界の文化が全く違っていました。このままでは世界では通用しないと感じ、日本的なマイクロマネジメントをしないツールが必要だと考えていました。

タイミング的にはクラウドサービスが出始めていた頃で、スマートフォンもどんどん普及していたので、新しいチャレンジをしようということで、サイボウズスタートアップスという会社を設立しました。サイボウズ自体は組織規模も大きくなってきており、新しい会社を立ち上げてスピード感を持って取り組みたかったのです。

そして、2011年に東日本大震災があり、ビジネス向けのクラウドサービスの展開が加速しました。津波でデータが流されたことから、クラウドで情報を扱ってもいいのではないかという考えが広まりました。そのタイミングで、サイボウズもクラウドシフトを行い、現在の主力製品となる「kintone」を発表しました。

ートヨクモさんは、最初は世界に向けてビジネス向けのクラウドサービスを作っていたとのことですが、2011年に日本向けのクラウドサービスにシフトしたと言います。その転換点についてお話しいただけますか?

山本:はい、2011年から日本向けのクラウドサービスを作ることになりました。「kintone」の売れ行きが伸び始めていたことからサイボウズスタートアップスも合流して「kintone」に集中したいとの要望がありました。

当社はkintone以外のビジネスも行っていたことから、最終的に株式を買い取ることにしました。それまでは新規事業を多く立ち上げていたのですが、会社立ち上げのため選択と集中を行いリリースしているサービスをクローズし、二つだけ残しました。そして、計画的に集中して立ち上げていくことになりました。

トヨクモ株式会社
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ーそこで大きなシフトや選択があったとのことですが、苦労した点は何ですか?

山本:正直に言うと、そこでの苦労はそれほど大きくありませんでした。選択と集中がうまくいったことに加えて、サイボウズの知名度を活かしたビジネス展開ができたことが大きかったです。100社、200社などの実績がなければ、製品として本当に使いやすいものにはなかなかなりません。スピード感を持ってより良いサービスを作るために選択と集中ができたことに加えサイボウズの協力体制があったことが、順調に進んだ要因だと考えています。

今後の事業戦略について

ー今後の事業戦略や展開について教えてください。

山本:まず私たちの事業についてご説明します。私たちは情報サービスというドメインで事業を展開しています。情報サービスは成長産業だと考えおり、今後も情報を活用するニーズがどんどん広がっていくと思っています。私たちの目指すところは、一つのジャンルでシェアナンバーワンになることではありません。情報サービスの総合メーカーとして、安くてシンプルなクラウドサービスを展開していきたいと考えています。

ーどのような戦略で世界市場に展開していくのでしょうか?

山本:トヨクモは、機能をシンプルにして価格を抑え、全世界に展開していくことを目指しています。例えば日本の家電産業は機能が複雑で高価格になり、シンプルで安価なサービスにシェアを奪われていったという流れがあります。情報サービスも同じようなことが起こると思っています。高機能なものを利用する人は少数です。シンプルで大衆向けのサービスを提供したいと思っています。日本がIT分野で弱いとされている現状を逆手に取り、世界市場で勝負していくつもりです。

ーどのような市場にチャレンジしていきたいと考えていますか?

山本:ITサービスの中で、ユニクロやニトリのような市場はまだ誰も目指していません。私の目から見る限り、特に競合は見当たらず、非常に良い市場だと考えています。今後5年、10年先を見据えて、ITの情報サービスで世界を目指したい会社があるということは、投資家の方にぜひ知っておいていただきたいです。 投資するかどうかは個人の判断ですが、その会社がどのような戦略でビジネス展開をしていくのか、その結果を見ながら判断してほしいと思います。他のジャンルでも同じようなことが起こると思いますし、私たちの会社もシンプルな考え方で取り組んでいるので、知っておいていただければと思います。

思い描く未来像

ー 今後の未来構想について、どのようなことを考えていますか?

山本:重要なのは、優秀な人材が集まる会社になることです。長期的な戦いになると思っているので、焦らず着実に体力をつけ、市場の隙間を埋めるように準備していきたいと考えています。他社が高機能で高価格になっていく中で、私たちがシンプルで手頃な価格のサービスを提供することで、市場に入っていくことができると思っています。

ー人材採用や組織の展開について具体的に教えてください。

山本:現在、トヨクモはまだ60人ほどの規模の会社ですが、2~3年後には100人を超えるかもしれません。その段階で連携したサービス展開をするために人材を活用することが必要になると考えています。これまでは新卒を含むジュニア層も採用していましたが、今後は3年後に加速度的に展開できるよう、優秀なキャリア人材を積極的に取り入れていく方針です。中長期的にも積極的にチャレンジする必要があると考えており、そのために優秀な人材を採用し始めています。

ー人を大切にされている印象を受けましたが、新入社員の育成や教育についてはどのように取り組んでいますか?

山本:教育は難しいですね。当社では若い社員が多く、これからスキルを積んでいく方が多いのです。まずはやってみる、チャレンジしてもらうことが大切だと考えています。先輩が後輩に教えるのではなく、自分で試行錯誤しながら学んでいく環境を提供しています。もちろん、質問や相談があればサポートしますが、学校ではないので、教えることに重きを置くのではなく、実践の場で優秀な人材が力を発揮できる環境を整えることが大切だと考えています。

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ー人材の確保が重要だというお話がありましたが、具体的にどのような取り組みをしていますか?

山本:人材確保が当社の課題であり、特に日本では人口減少が進んでいるため、優秀な人材を確保する競争が年々厳しくなっています。そのため、当社では昇給を継続しており、現在はこれまで年収を10%程度増やしてきました。新卒の給料も積極的に上げており、最低でも年収は512万円以上になっています。

ー素晴らしい取り組みですね。しかし、全員の昇給は難しいのではないでしょうか?

山本:そうですね。全員の昇給を評価で上げるのは難しいと考えているため、2019年から年収を増やす仕組みとして、毎年賞与支給額を一ヶ月分増やす方法をあえて実施してきました。仕組みとして年収を上げていくことで、平均年収を世界で戦えるほど高くし、生産性もそれに合わせて高くしていくことができれば、世界にチャレンジできる会社になれると考えています。

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ファイナンスにおける課題や重点テーマ

ーエクイティを活用しようと考えた背景や思いについて教えてください。

人材採用を中心にエクイティを活用しています。優秀な人材を採用するためには、エクイティを活用していくことが効率的だと考えました。事業におけるエクイティを活用したジャンプアップはまだこれからです。

ー金融、経済市場における貴社または代表ご自身のファイナンスにおける課題や重点テーマについて教えてください。

山本:ソフトウェアの分野は、ハードウェアなどのコストがかからないので、1億や2億あれば十分にチャレンジができると思います。製造業とは違い、お金がかかるのは、会社を買収するようなM&Aくらいですね。

ただ、エクイティを利用するのか、デットを利用するのかという点ですが、現在の日本の金融環境ではデットを利用することが良いと私は感じています。私たちの会社は無借金経営ですが、借入をした場合、現在の水準であれば低い利率で借りられる可能性があり、エクイティの方がコストは高いように感じます。その時々の目的や状況にもよりますが、現状であれば、必要なタイミングには、デットを活用することも検討します。

トヨクモ株式会社様から皆さまへのメッセージ

ー最後に、ZUU onlineのユーザー向けに一言お願いします。

山本:トヨクモは利益率が高く、堅実に売上成長しているため、チャレンジしている姿を感じられにくいかもしれません。まずは筋肉質な会社の中で基礎体力をつけていくことが大切だと思います。ただ、将来的には必ず世界にチャレンジしたいと考えており、今からその準備を進めるべくまずは国内市場でチャレンジして参ります。