コロナ禍に伴う経済不安と在宅勤務の増加などを契機に、株式投資に関心を持つ人々が増えている。ネット証券やスマホ証券の登場により投資への敷居も低くなり、「iDeCo」や「NISA」など資産形成をサポートしてくれる制度も充実してきている。しかし、自分に合った制度が何か迷う人も多いだろう。そこで、FP相談ねっと代表でファイナンシャルプランナーの山中伸枝氏にご解説いただいた。

山中伸枝(やまなか・のぶえ)氏
山中伸枝(やまなか・のぶえ)氏
心とお財布を幸せにする専門家。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。株式会社アセット・アドバンテージ代表取締役(asset-advantage.com)。FP相談ねっと代表(fpsdn.net)。一般社団法人公的保険アドバイザー協会理事(siaa.or.jp)。1993年米国オハイオ州立大学ビジネス学部卒業後メーカーに勤務。これからはひとりひとりが、自らの知識と信念で自分の人生を切り開いていく時代と痛感し、お金のアドバイザーであるファイナンシャルプランナー(FP)として2002年に独立。年金と資産運用、特に確定拠出年金やNISAの講演、ライフプラン相談を多数手掛ける。執筆:金融庁サイト 有識者コラム連載、50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話(東洋経済新報社)、ど素人が始めるiDeCo(個人型確定拠出年金)の本(翔泳社)他

HP:https://www.nobueyamanaka.com/

「iDeCo」と「つみたてNISA」とは

iDeCo,つみたてNISA,活用方法
(画像=PIXTA)

報道によると、iDeCoの口座開設数は4年間で約6倍にも上っているそうです。またつみたてNISAについては1年間で1.6倍も口座開設数が増加。ほとんどのメディアでは、コロナ禍で特に若年層を中心に資産形成の意欲の高まりが感じられると分析しています。

一方、積極的に運用をしている人は、iDeCoはまだまだ少数派で、つみたてNISAに至っては、口座開設はしたものの投資信託を購入せず、そのまま放置している人も少なくありません。

iDeCoもつみたてNISAも経済成長の力を借りて、資産形成をする仕組みですから、投資をしなければ意味がありません。本稿では、iDeCoやつみたてNISAの目的の再確認と実際にどのような運用をすべきなのかをお伝えしていきたいと思います。

最近はiDeCoやNISAという言葉もだいぶ知られるところとなり、仕組みについて詳細を語る必要もないと思いますが、これらの制度を一言でいうと「税制優遇という特典付きの投資口座」です。すなわち、「貯蓄から投資へ」を後押しする制度です(のちに金融庁は「貯蓄から資産形成へ」と言葉を変えました)。

過去20年、国は「自らの生活を守りより豊かにいきるためには、資産形成が不可欠」と主張してきました。しかし、なかなか国民の行動変容が起きなかったことをうけ、「節税」のメリットを強調しアピールしたのがiDeCoとNISAです。

\iDeCo3年連続新規加入者数No.1!(楽天証券調べ)/

iDeCoおすすめネット証券ランキング

ネット証券は、証券会社の中でも手数料が安く、商品も多いのでおすすめなのだが、会社も数多く存在する。iDeCoを始めるなら、どの会社を選べばいいのだろうか。

サービス内容や扱っている投資信託の質を比較して、初心者におすすめの主要ネット証券のiDeCoランキングを作成した。

2023年8月1日現在
引用元:SBI証券楽天証券松井証券マネックス証券auカブコム証券各ページより引用

※口座管理料と加入・移管時の手数料は、公的機関と運営会社に支払う額の合計。そのうち運営証券会社に支払う手数料は無料。

なぜ資産形成が必要なのか

ではなぜ私たちは資産形成をしなければならないのでしょう。

最も大きな理由は「長生きになったから」です。人生100年といわれますが、寿命が100年になったとしても60歳の人が30歳の人のように心身ともに若返るという訳ではありません。60歳は60歳として、そこから先の老後が長くなるという意味です。

つまり就労収入が得られなくなる時間が人生の3分の1以上になりそうなので、その分働けるうちに蓄えないといけないよね、というのが真相です。生きていくにはお金が必要なのです。

また蓄えたお金もただ置いておくだけでは、資産価値が目減りします。私たちの預金は銀行を介し企業に貸し出され、企業はその借入を利用してモノやサービスを生み出し、私たちはそれを消費します。このモノやサービスの値段が物価です。

銀行は、私たちに支払う預金金利と企業から得られる貸付金利の差を利益とします。そして企業は借りたお金を返せるだけの利益を売上から生み出さなければならないので、結果として私たちが消費する物価は預金金利より上がってしまうのです。このようなお金の流れを「間接金融」と言います。預金だけにお金を置いておくと、インフレに負けるとか、資産価値が下がるとかいうのは、間接金融だからです。

一方私たちが、成長する企業に直接投資をして、その成長の経済的恩恵を受けたらどうでしょうか?モノやサービスを売って得た利益の恩恵ですから、物価以上に成長しているはずですよね。消費者が投資家に変わることによって、もたらされるお金の循環を「直接金融」と言います。

したがって、「貯蓄から資産形成へ」というのは、言い換えれば「間接金融から直接金融へ」と言っていることと同じなのです。特に若い方は、物価と預金金利の差が時間を追うごとにどんどん開いていってしまうので、早いうちから直接投資へ行動を変えていくことが非常に重要なのです。

私がファイナンシャルプランナーとしてセミナーや個人相談でお客さまと接していると、投資を実際に行うことにハードルを感じるという方がとても多くいらっしゃいます。その場合は、まず「なぜ資産運用なのか?」をお話することにしています。さらに、心のブロックを外すために、気になっていることに向き合います。

例えば、投資方法を迷っている方の場合、株式投資なのか、FXなのか、はたまた仮想通貨なのか……。これについては、「投資信託の積立」が選ぶべき投資方法だとお伝えしています。

投資に踏み出せない人に限って、「日本の株価ってまたすぐに下がりますよね」とか「もう少し安くなるまで待ったほうがいいですかね」とかおっしゃいます。市場は生き物ですから、上がったり下がったりしながら成長していきます。市場を創り出しているのは、「私たち人間の明日はもっと幸せになりたい」という素直な欲求です。なによりも、全員が経済活動の一員だという意識をもち、市場を傍観するのではなく、参加する意識が重要です。

\iDeCo3年連続新規加入者数No.1!(楽天証券調べ)/

資産形成はゼロサムゲームではない

中には、投資って勝ち負けのようでイヤという方もいます。確かに短期で売買を繰り返すような「投機」は誰かの損が誰かの利益、ゼロサムゲームです。

でも「資産形成」と表現される投資は長期投資で、経済を育てその果実をみんなで分配するプラスサムの行動です。自分が見込んだ会社の株主になり、長期でその会社を育て、その会社の生み出す商品やサービス、技術が世の中をもっとよくするために貢献したらうれしいじゃないですか。資産形成には、勝ち負けはなく、みんなが幸せになる未来があります。

すると、iDeCoやつみたてNISAで行うべきことは必然的に、世界中の頑張っている会社に投資をすることとなります。具体的には世界中に投資をするバランスファンドなどが選択肢です。

十分に勉強してから投資を始めようという生真面目な方もいらっしゃいます。投資を仕事としていない人にとって最も重要なものは「時間」です。投資をしなければ何も始まりませんが、投資をすればそこから成長が始まります。成長をもたらすひとつの要因は時間ですから、迷うより始めたほうが得策なのです。

最近は若い世代が投資を始めているとよく言われますが、これは本当に素晴らしいことです。しかし情報が多いがゆえに、大きな声にばかりに関心が集まり、原理原則ではなく目先のメリットばかりが議論されてしまうきらいがあります。

\iDeCo3年連続新規加入者数No.1!(楽天証券調べ)/

実践すべき「iDeCo」と「つみたてNISA」の活用術

iDeCoの一番のメリットは所得控除だから、所得が少ないと節税のメリットも少ない。これは事実ですが、そもそもiDeCoの目的は時間を有効に使った資産形成ですので、足元の節税メリット数千円に固執していると、もっと大事なものを見失ってしまいます。

iDeCoは60歳までおろせないから、リスクが大きいという方もいます。ですが、そもそもお金はゴールまでの時間によって金融商品を使い分けする必要があるのです。短期で使う予定のお金は流動性重視ですから、普通預金へ。中期で使う予定のお金は確実性が大事ですから、定期預金で。長期でお金をつくるなら成長性重視で投資。人生のリスクに備える目的なら、保険。これがお金の適材適所です。

すると、60歳以降に使うお金は、iDeCoで貯めるが正解なのです。今は子育て期なので、老後にまでお金が回らないという方もいます。40代でお子さんを持つのも珍しくなくなった昨今、60歳以降で使えるお金はすなわち、お子さまの大学進学資金として使うこともできます。

いつでも解約自由なつみたてNISAですが、やはりここでも本来の目的は長期資産形成ですから、ほんのちょっと利益が上がったからといって売却してしまうのも原理原則からするとNGです。

住宅ローンがあるので、なかなか投資までお金を振り向けられないという方もいます。ですが、話を伺うと変動金利なので今後の金利上昇リスクが怖いから繰上げ返済できるように、積み立て預金をしていますというのです。金利上昇に備えるなら、そこはつみたてNISAでしょう。金利が上がるときは先行して景気が良くなっています。つまり株価は上昇している可能性が高い、であれば預金でせっせと積立しても、金利上昇リスクには対抗できないのです。

\iDeCo3年連続新規加入者数No.1!(楽天証券調べ)/

「iDeCo」と「つみたてNISA」は二刀流で

現状、税制メリットの大きさと使い勝手の良さで考えると、「iDeCo」と「つみたてNISA」は二刀流で使いこなしたい制度です。それぞれ掛金に上限が設定されていますが、例えば若い方は老後を迎えるより前に使う目的のお金も多いでしょうから、月3万円の投資可能額なら、2万円がつみたてNISA、1万円がiDeCoでもよいでしょう。その後つみたてNISAを1万円、iDeCoを2万円としてもよいですね。なにより投資に回せるお金を増やして、どちらも上限いっぱいまで活用することを目指したいものです。

FPとしてお客さまの資産形成アドバイスを行っていると、最大のリスクは「心」だとつくづく感じます。市場の変動リスクは、「長期・積立・分散」でコントロール可能ですが、「心」はコントロールが非常に難しいものです。ひとたび不安に駆られると、冷静な判断ができなくなってしまうので、最初になんのために資産形成が必要なのかをしっかり落とし込み、そのうえで税制優遇のある仕組みである「iDeCo」や「つみたてNISA」というパーツを上手に埋め込むことが重要です。

冒頭申し上げたとおり、コロナ禍で資産運用を始める方が増えています。とても良いことですが、なんとなく将来不安だから、なんとなく税金が得するという話題性だけではなく、長期の資産形成は経済活動の一員として正しい行為であるということをしっかり理解して、じっくりと資産形成をしていただきたいなと思います。

\iDeCo3年連続新規加入者数No.1!(楽天証券調べ)/

会社も従業員もトクをする! 中小企業のための「企業型DC・iDeCo+」のはじめ方
会社も従業員もトクをする! 中小企業のための「企業型DC・iDeCo+」のはじめ方
あなたの会社にぴったりの確定拠出年金は?企業型DCとiDeCo+、どちらを導入すべき?導入・設計・運営・手続き…こんなとき、どうする?会社の資金繰りや節税対策、企業年金などに頭を抱えている経営者から何から取り組めばいいのかわからない経理担当者まで、確定拠出年金のギモンを解決する実務Q&A。