茂木 克昭(もぎ かつあき) 教授
 
茂木 克昭(もぎ かつあき) 教授

茂木 克昭(もぎ かつあき) 教授

1955年宮城県生まれ。1978年一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。横浜支店、渋谷支店、調査部、ロンドン支店、国際通貨研究所、東銀リサーチインターナショナル等を経て2007年に退職。2007年以降、石巻専修大学経営学部教授。著書に「初学者のための金融論入門」(現代図書)がある。

ー最初にご経歴について伺ってもよろしいでしょうか。

茂木教授
私は約30年間銀行で働いていましたが、2007年に退職しました。その後、縁があって、現在は石巻専修大学の経営学部で教鞭をとっています。
大学では「金融論」や「国際金融論」といった科目を担当しています。

銀行での実務経験は私にとって大きな財産です。銀行時代は、実務とエコノミストの業務を兼任していました。そこで得た経験を活かし、現在の授業に反映させています。

ー学習指導要領の改定で、2022年度から高校の授業で金融教育が必修化されました。この政策について率直な感想をお聞かせください。

茂木教授
私の高校時代には、金融という独立した科目はありませんでした。ご存知のように、その状況は長く続いていましたよね。しかし、日本の社会状況も日々変化しています。私たちは長寿社会を迎え、人生の長い期間にわたってお金に関わる必要性が増してきました。

直近20年間は、低金利状態が続いています。貯蓄を増やす方法に頭を悩ませる時代になりました。このような背景から、金融の重要性が高まっているのだと思います。金融教育や金融リテラシーの必要性も、同様の理由から高まってきているのでしょう。

ー高校では金融が必修化されましたが、大学の教育現場ではどのような対応を予定していますか?

茂木教授
現状では、特に情報関連の分野が注目されています。たとえば、大学ではデータサイエンス学部のように、情報関連の内容を充実させているところも見受けられます。しかし、大学において金融に特化した学科や学部を設けるという動きは、まだあまり見られません。

金融というのは目に見えるものではありません。社会人でない学生にとっては、あまり親しみのないものかもしれません。そういった意味で、金融を教えることは難しい側面があります。

しかし、避けては通れない分野であるため、その重要性を知らせることに重点を置いています。

ー「金融は学生にとって身近なものではない」という言葉が印象的でした。茂木教授はどのような点を意識して学生へ講義しているのでしょうか?

茂木教授
たとえば、地元にある地方銀行がどのような業務をしているかという情報を提供したり、現在の為替相場がなぜそのような状態になっているのか、といった具体的な事例を取り上げたりしています。

金融市場や外国為替市場の実情は、ニュースでも報道されていますよね。それらと絡めて話を展開することで、具体的なイメージを持ってもらいます。また、時事的な問題についても大きく取り上げることがありますね。大きな出来事が起こった時は、それを授業の中で取り扱うようにしています。

ー聴講している学生の反応が気になります。金融というと難しく感じる学生が多いのか、それとも株や為替に興味がある学生が増えている様子でしょうか?

茂木教授
多くの学生がアルバイトをしていることから、金融は学生にとっても日常生活に関わる分野ともいえます。そのため、学生も一定の理解はあると思います。金融を「重要な分野だ」と認識している様子で、私の授業の受講者も一定数います。

ただし、金融制度のような抽象的な話になると、学生が直接触れる機会が少ないため、理解に苦労することもあります。

ー欧米と比較すると、日本の金融教育は個人資産や金融制度に関する側面が弱いように思えます。

茂木教授
ご指摘の通りだと思います。たしかに、経済や金融という分野は密接に関連していて、それらの関係性を理解するための教育は一定量行われています。しかし、個人の資産運用や人生のさまざまな段階での資金管理、あるいはリスクとリターンの関係に関しては、まだ十分に教育が進められていない印象です。

一般的に、個人が貯蓄を増やし、金融資産を増やすことは重要です。しかし、現在のゼロ金利や金融緩和の状況において、預金だけでは資産を増やせません。そこで、既存の金融資産を増やすためには、リスクをともなう金融資産の運用が必要になります。

しかし、それは同時に損失リスクも大きくなるということです。そのため、どれだけのリスクを取り、予想されるリターンをどう評価するかが重要になります。

また、人々の寿命が延びていくと、退職後の生活期間も長くなります。たとえば65歳で退職し、80歳まで生きるとなれば、その間の生活資金をどう捻出するかが問題ですよね。しかし、退職後の主な収入源は基本的に年金だけです。そのため、退職までに蓄積した貯蓄の活用が不可欠となります。

繰り返しになりますが、投資や運用をする場合には、リスクを取ることが避けられません。リスクを認識し、どう管理するかが大きな課題といえるでしょう。リスクとリターンに関する理解を深めるためには、金融リテラシーの向上が極めて重要です。

ーリスクとリターンの理解を深めるために、大学レベルで可能な取り組みはありますか?

茂木教授
この問題はそこまで複雑ではないと思います。たとえば、株式投資や外貨投資は利益をもたらす可能性がある一方で、損失のリスクも存在します。これは誰もが理解していることでしょう。

しかし、資産を増やしたい人にとっては、リスクのある資産にどの程度投資するのが適切なのか、客観的に判断する知識が求められます。大学などを通じて、健全な資産運用に関する基本的な常識を学んでいく。そのような方向性が望ましいのではないでしょうか。

ー金融リテラシーを身につけてもらうために、企業ができることは何でしょうか?

茂木教授
今はインターネットの時代なので、情報収集は格段に容易になりました。さらに、企業が提供するさまざまな情報源も存在します。

学びの場はどこにあるか?という問題について考えると、社会人として大学院へ進むことも1つの選択肢です。また、大学に通わなくても、多様なメディアを通じて金融リテラシーを身につける機会も広がっています。

金融リテラシーの学習という観点で見てみると、現在私たちには多くのチャンスがあると言えるでしょう。

ー身につけておきたい金融リテラシーとは、どのようなものでしょうか?

茂木教授
お金に支配されないこと、お金を無駄に使わないことが重要です。また、人生はそれほど甘くはありません。簡単にお金を稼げるわけではない、という認識が必要です。少し厳しい話になりましたが、これらの基本的な理解は絶対に必要だと考えています。

ー私も同様に、人々が正しい知識とリテラシーを持ち、個人の資産を適切に運用・形成していく社会が理想だと思います。本日はありがとうございました。