この記事の情報は2023年2月3日時点での情報です。

特集「令和IPO企業トップに聞く~経済激動時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社の経営トップにインタビューを実施。激動の時代に上場した立場から、日本経済が直面する課題や今後の動向、そうしたなかでさらに成長するための戦略・未来構想を紹介している。

今回紹介する株式会社グラッドキューブは、大阪府大阪市中央区に本社を構えるインターネット関連の事業を営む企業だ。自社開発「SiTest(サイテスト)」などを用いたウェブサイト解析・改善を行うSaaS事業やマーケティングソリューション事業、スポーツデータをAIで解析するSPAIA(スパイア)事業を手がけている。

本稿では、代表取締役CEOである金島弘樹氏に株式会社グラッドキューブの企業概要や強み、上場までの経緯、将来の事業展開について話をうかがった。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)
 

(画像=株式会社グラッドキューブ)
金島 弘樹(かねしま ひろき)――株式会社グラッドキューブ代表取締役CEO
1979年5月17日生まれ。大阪府出身。大阪商業大学卒業後、2002年1月、消費者金融会社の株式会社エイワに入社。近畿ブロックで受賞など営業トップの成績を残す。その後、不動産会社への転職を経て2007年1月にインターネットコンサルティングを目的とする合同会社GLAD CUBEを設立した。2008年2月、株式会社グラッドキューブに組織変更し代表取締役に就任。

2022年3月に代表取締役CEOに就任し現在に至る。
株式会社グラッドキューブ
2007年1月、大阪府大阪市生野区でインターネットコンサルティング業を営む合同会社GLAD CUBEとして法人設立。翌年2008年2月に「ネット広告代理」「ウェブサイト解析」「メディア事業」へ事業展開することから現在の商号となる株式会社グラッドキューブへ組織変更。

マーケティングソリューション事業や、サイト制作サービスを開始するなど事業拡大を経て、2013年4月にWeb解析ツール「SiTest(サイテスト)」β版をローンチ。2016年9月には、スポーツデータの解析メディア「SPAIA(スパイア)」を立ち上げ、新たな視点でスポーツファンにデータ解析や予測サービスを提供。

総務省が主催した2019年度異能ジェネレーションアワードでは、分野賞となる「何か・どこかに届くようになる賞」、2021年にはグーグル合同会社が主催する「Google Premier Partner Awards 2021」でオンライン販売部門最優秀賞を受賞。2022年9月、東京証券取引所グロース市場に上場し現在に至る。

目次

  1. 「データ×解析の力」に大きな強み
  2. ドロップシッピングから始まり業容を拡大
  3. スポーツ産業の拡大によるSPAIA事業の伸びに大きく期待

「データ×解析の力」に大きな強み

―― 最初に株式会社グラッドキューブについてお聞かせください。

株式会社グラッドキューブ代表取締役CEO・金島氏(以下、社名・氏名略):弊社は「データ×解析の力でSaaS企業として世界中のプラットフォームとなる」のビジョンを掲げ、2022年現在は3つの事業を展開しています。

▼グラッドキューブの事業内容

1つ目は、インターネット広告の代理業でアクセス解析や動画制作なども含め、マーケティングソリューション事業として展開しています。2つ目は、広告だけでは解決できない問題に対するウェブサイトの解析・改善を促すSaaS事業です。例えば「広告のキャッチコピーは良くても訪れるウェブサイトの使い勝手が悪く購入に至らない」といった課題の解決をお手伝いしています。

2013年にヒートマップ解析・ABテスト・EPO対策ツールの「SiTest(サイテスト)」を作りSaaSとして提供中しています。3つ目は、SPAIA事業です。私は、社員全員に「自分たちはインターネット広告代理事業でもSaaS事業でもなくアナリシスカンパニー、解析を通じて課題を解決する会社」と伝えています。

そういうことから、2016年にはスポーツとAIで解析するSPAIA(スパイア)という事業を立ち上げました。現在は、スピンオフして競馬に関してはJRAとNAR(地方競馬全国協会)と契約しデータをご提供いただいたうえで「SPAIA競馬」のサービスをローンチしています。今後は、すべての公営競技に関してデータをわかりやすく見せ、より楽しみやすい環境を整えたい考えです。

他にもNPB(日本野球機構)、Jリーグ、Bリーグとも契約していますが、NBAやMLBなど米国の4大スポーツ、海外サッカーなどとも連携し、データを世界中に出していきたいと思っています。

ドロップシッピングから始まり業容を拡大

――2007年に創業してから、今日までにおける事業の変遷をお聞かせください。

金島:私は、起業家の家庭で育ったこともあり、幼少のころから「いずれは親のように事業を興したい」とイメージしていたと思います。ところが、大学へ進学し就職活動の時期になっても具体的に興味のある職種・職業に巡り合えませんでした。それでも将来を見越してお金の流れやお金に関する法律・知識も蓄えたかったので、親や友人の反対を押し切り消費者金融(株式会社エイワ)へ就職しました。

入社後は、営業職に従事し全店舗(100店舗以上)で営業トップになり、近畿ブロックで優秀賞を受賞するなど好成績を記録できたことは誇りに思っています。一方で、お金が返済できず平気で噓をつく多重債務者や融資を断る辛さを目の当たりにして、「自分は本当にお客様を喜ばせているのか」といった疑問が生じたこともありました。

周りからは評価されていましたが、どこかで「この仕事は自分に向いていない」という悩みがあったため、「今後は過払い請求が増える」といった話を耳にし、退職を意識するようになったのです。さらにそんなタイミングで運悪く交通事故に遭い身体が動かなくなってしまいます。そんなリハビリ生活の時期に出合ったのが「あなたもインターネットで月商100万円」というようなタイトルの本でした。

私自身、当時インターネットに触ったことはありませんでしたが、「こんな世界があるんだ」という驚きとともに「もし自分が下半身不随になってもできるかもしれない」といった思いが込み上げ生業にすることを決意しました。そういった経緯があり2007年に合同会社GLAD CUBE(翌年株式会社に組織変更)を設立に至ります。

この社名には、このビジネスで人を喜ばせたいという気持ちから「喜び(glad)」と、それを「カタチにする(cube)」という気持ちを込めています。

――事業は何から始めましたか。

金島:ドロップシッピングのEC(Electric Commerce:電子商取引)から始まり、しばらくしてインターネット広告のコンサルティング事業に領域を広げ、軌道に乗り始めると広告代理店事業も行うようになりました。当初は、私一人でしたが2011年に弟(現取締役)と高校時代の友人も入社し、職場も自宅から小さな事務所に代わり、同年には「Google Excellent Performer Award」の最優秀賞を受賞しました。

▼株式会社グラッドキューブのGoogle Excellent Performer Award最優秀賞などの実績

(画像=SiTest

これは、Googleが優れた実績を挙げたビジネスパートナー企業を表彰する制度です。新規顧客数や広告費などの条件を満たしたことで最優秀となり、これを機に弊社の名も徐々に広まっていったと思います。広告代理店事業は、順調でしたが媒体依存となるリスクも感じていて自分たちだけで安定した利益を上げられるビジネスとして次に注目したのが、サイト解析です。

当時は、海外製のツールしかなく使い勝手は良くありませんでした。それなら「国産のツールを創ろう」ということで、2013年に「サイトをテストする」の意味で名付けた「SiTest(サイテスト)」のベータ版をリリースすることに。おかげさまで画期的なツールとして多くのユーザーから評価をいただきました。

さらに2016年には、広告代理店事業やSaaS事業(SiTest)で培った自社の分析力を活かし、スポーツデータを解析する事業として「SPAIA」が誕生します。「SPORTSをAIでANALYZEする」というのが名称の由来ですが、こうした経緯により3つの事業がそろいました。

――御社は、2022年9月28日に東京証券取引所グロース市場へ上場しました。上場に至るまでの経緯をお聞かせください。

金島:私は、かつて経営力をつけるため、グロービス経営大学院の大阪校に通っていて(事業に専念するため、2013年に退学申請)、講師の紹介で弊社の現取締役CIRO兼経営企画部長である財部友希に出会いました。財部は、ベンチャー企業や大手企業勤務を経て2012年にSNSコンサルティング業で起業していました。

当時、弊社社員へSNSを教えてもらう講師として来てもらううちに、経営や会社の将来について相談もするようになり、「会社を大きくしたい」という話をするなか、財部からIPOの提案を受けました。これをきっかけに上場を意識し始め、すばらしいVC(ベンチャーキャピタル)との出会いも後押しして実現した格好です。

社内は、成熟し社員の成長もあり、さらなる成長や事業の拡大、社会的信用の面からも、このタイミングを選びました。ただし私自身は、上場したからといって鼻にかけるのではなく社員に対してもそうであってならないと伝えています。みんなで一緒に成長する姿勢も変わらず、一起業家として社会に貢献したい気持ちもブレることなく持ち続けています。

スポーツ産業の拡大によるSPAIA事業の伸びに大きく期待

――さらなる成長を目指すための今後の目標や、5年後、10年後のあるべき姿についてお聞かせください。

金島:常時20~30%の成長をさせ、企業価値の向上を目指します。また今後は、公営競技を中心にデータドリブンが加速することにより、SPAIA事業が大きく伸びると確信しています。いまのうちからシェアを取っておくと、会社の売上・利益にかなり貢献するに違いありません。またドバイやシンガポール、香港など競馬が盛んな国にも展開したい考えです。

日本もそうですが海外でもデータやAIをもとに予測するサイトはなく、弊社に勝機があると思います。またSPAIA事業で得た知見をもとに、スポーツだけではなく医療美容、健康といったジャンルにも進出したいです。広告代理店事業やSaaS事業に関しても、顧客の拡大や平均顧客単価の上昇に努めます。実際のところ平均顧客単価は、この2年で約2倍近くとなりました。

自社の従業員満足度を上げることでお客様にも真剣に向き合ってもらうことも考えないといけません。動画制作など新たなサービスも開発したいと思います。

――御社が成長していくうえでの課題はありますか。

金島:会社が成熟・成長していることはたしかですが、まだ経験が足りないことは課題の一つと思っています。社員が自ら考えて動いたり、今後300人、500人、1,000人になる体制を見越して働きやすくするための社内システムの構築や役割分担を進めたりしないといけません。

――最後に読者の皆様にメッセージをお願いします。

金島:世界の時価総額ランキングは、欧米や中国企業に席巻され、日本企業はほぼ姿を消している状態です。米国は、機関投資家やファンド、エンジェルを含めた金融調達のエコシステムがあり、良い企業の株は長期保有する文化が根付いています。一方で日本は、短期売買で稼ぐ投資家が多く、もっと長期で保有して日本経済全体を良くする人が増えれば良いと思っています。

弊社の株式は市況や様々な影響もありまだまだ安定していません。株価としては上がりづらいかもしれませんが、2月の通期決算発表、そして2月後半には「事業概要及び成長可能性資料に関する資料」を開示予定ですので、しっかりとお伝えしてまいります。スポーツ市場の規模は、現在の約5兆円から25兆円産業になるとされ、公営競技を中心に関連事業に参入するIT企業も増加傾向です。

私たちも真摯に業務と向き合っていきますので、弊社の状況を株価だけで判断することなく、こういった市場動向も総合的に見て、長期的に応援していただければと思います。