投資を始めたいものの、何からチャレンジすればいいかわからない。失敗が怖い。そんな理由から一歩踏み出せない方も多いだろう。今回は「高配当・バリュー株投資」によって資産を形成してきた兼業投資家のなのなのさんに、投資を始めたきっかけ、投資手法、注意すべき点から2023年に注目しているトピックスまで幅広くお話を伺った。

なのなの

プロフィール

なのなの

中長期独自目線の高配当・バリュー株投資をメインとした兼業投資家。雑誌などのメディア掲載多数。
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ブログ:なのなのの高配当株 投資メモ

学生時代に投資基準がなく失敗した経験から、高配当株メインの独自の投資スタイルを確立

ー はじめに、投資を始めたきっかけを教えてください

なのなの:株に興味を持ったのは中学生の時でした。当時、セガのメガドライブ(ゲームハード機)を持っていたのですが、国内では任天堂のスーパーファミコンが主流で、セガは苦戦を強いられていました。しかし、セガは海外が好調であったためか、新聞の証券欄を見るとよく株価が上がっており、個人的な印象と違うところで株価が上下していることに面白さを感じました。

それから「お金が自由に使えるようになったら株をやりたい」と思うようになり、大学生になってから、アルバイトをしてお金を貯め、大学1年生の冬に初めて株を買いました。

ー その時買った株を覚えていますか?

なのなの様:商船三井(9104)です。

ー 手がたいですね。

なのなの:たしか雑誌の袋綴じで紹介されていた銘柄かと思います。当時、商船三井が具体的にどういった事業をしているかなど全く知らなかったのですが、とりあえず雑誌の袋綴じでお勧めされている銘柄なら大丈夫だろうと思って購入しました。

ー なるほど。そこから投資を続け、今は高配当株とバリュー株がメインということですが、どのような経緯でその方向性に至ったのでしょうか?

なのなの:学生時代は特に基準もなく、インターネットの掲示板や雑誌に書かれていて面白いなと思った銘柄をとりあえず購入するというスタイルでやっていました。大学院も含めて7年間大学にいたのですが、その間はずっと赤字で、黒字になることはありませんでした。そして、段々と「今のやり方ではうまくいかないぞ」と考えるようになっていきました。

就職した後ぐらいから、なんとなく買っていたスタイルをやめ、一定の基準を設けるようにしました。具体的には、配当利回りが4.0%以上の企業に投資を絞るようにしました。そうすると、利益が安定して出るようになったので、今までそのスタイルを続けています。

ー その投資手法を確立したのはいつ頃ですか?

なのなの:2008年頃です。

ー 2008年以降、投資の手法は大きく変わっていませんか?

なのなの:そうですね。その投資手法をベースにいくつかの条件を追加したり、米国株やREIT(リート)など投資範囲を広げたりしていますが、基本のスタイルは大きく変えていません。

ー 今振り返ってみて、大学時代に赤字が出ていた原因は何だと思いますか?

なのなの:投資基準がなかったことが、一番の原因だと思います。なんとなく購入し、なんとなく売却するだけだったので、そのときの感情に流された思いつきの売買しかできていませんでした。また、基準がないため再現性もなく、例え利益が出たとしても、同じような成功が続きませんでした。

日本株は面白さ、米国株は利益重視で投資

ー 現在メインで投資している対象は何ですか?

なのなの:高配当株が中心です。高配当株はバリュー株を含むこともよくあるので、結果としてバリュー株にも多く投資しています。

ー 日本株と米国株を選んでいる理由を教えていただけますか?

なのなの:まず、日本株は面白さから選んでいます。直感的にその企業を理解できる点が魅力です。情報も入手しやすいですしね。

米国株は利益重視で投資しています。歴史的に見ると、米国株は毎年7%近くの利益を継続的に上げています。そういった市場を無視することはできません。

ー 「利益を追求するために米国株だけに投資する」という人もいますよね。日本株を選んでいるのはどうしてでしょうか?

なのなの:面白さと楽しさからですね。投資候補先の店舗に行ってみたり、商品を使ってみたりして、その会社の株は買いかどうかを考えるのは楽しいですし、また、会社を身近に感じられるので応援したい気も出てきます。逆に米国株は、肌感覚でその会社が買いかどうかがわからないので、日本株ほど楽しいとは思えません。IR資料は当然英語で書かれていて、細かなニュアンスを汲み取ることも難しいですし。

例えば、パネラ・ブレッドなど海外でしか出店されていない飲食業の優位性は全くわかりません。それより、「かつや」のアークランドサービスホールディングス(3085)や、ラーメン「町田商店」のギフトホールディングス(9279)などのお店に足を運んで「味がおいしく、店舗運営も効率化にされているし、少し株を買ってみようかな」と考える方が面白いと感じます。

スクリーニングの基準は、配当利回り3.8%以上、PER18倍以下

ー 数字でスクリーニングしているというお話ですが、今はどういったスクリーニングをされていますか?

なのなの:高配当でスクリーニングするときは、配当利回り(※1)3.8%以上、PER(※2)18倍以下としています。

※1:購入した時点での株価に対し、年間でもらえる配当金を示した数値。1株あたりの配当金÷株価×100で表される
※2:「Price Earnings Ratio」の略で、「株価収益率」。企業の利益から株価が割安かどうかをはかる指標

ー その数字はどういうロジックなのでしょうか?

なのなの:はじめに基準を作った時、4.0%以上でうまくいったのが一番の理由です。

経験上うまくいったというのが一番の根拠で、あとは少しこじつけにはなってしまうのですが、たとえば資産が1億円になった時に利回り4.0%で回すと毎年400万円が入ってきます。「doda」の調査(2022年)によると、日本の正社員の平均年収は403万円です。1億円を持っていたとき、4.0%の利回りが得られれば、平均並みの生活ができることになります。1億円あったときに日本の平均年収分を稼げるということで、4.0%ぐらいが理想だと考えました。

また、少し聞きなれない話になるかもしれませんが、「株式益回り」という考え方があります。PERの逆数で算出するもので、その企業の年間1株あたりの利益が株価の何%にあたるか示す指標です。現在、日経平均の株式益回りは7%程度です。その半分よりやや上ぐらいを配当金として得られたらよいと考え、4.0%の配当利回りを基準としました。

ー PER18倍以下というのは、どういった根拠でしょうか?

なのなの:PERが18倍を超えると、稼いだ利益と同水準、またはそれ以上に配当金を出している会社が多くなってくるためです。そうした会社は将来的に配当を減らす可能性が高く、スクリーニングからは外します。

また、割高な高配当株はキャピタルゲイン(株価の上昇)が狙いにくくなるため、PER18倍は最低ラインとしてスクリーニングにかけています。

ー そうすると、おのずとバリュー株を選ぶことになりますね。

なのなの:はい、そのとおりです。

ー バリュー株に対しても独自のスクリーニングをしていますか?

なのなの:そうですね。バリュー株を調べるときは、PBR、自己資本比率、ROEや営業利益率などを条件に入れてスクリーニングすることがあります。

ー 基本的に「バイ・アンド・ホールド(長期保有)」ですか?

なのなの:そうです。

ー 将来的な目標などがあれば、ぜひ伺いたいです。たとえばFIRE(経済的自立と早期退職)を目指しているなど。

なのなの:将来については回答が難しいですね……。逆にインタビュアーさんは、将来何か達成したい目標はありますでしょうか?

ー そうですね……たとえば50代~60代に1億円あったら、株だけで生活することを考えるかもしれません。

なのなの:たしかにその考えも魅力的です。ただ、私はそういった生活をすると本当に自分が社会に貢献できているか、などと考えてしまうかもしれません。人との繋がりも失われる可能性があるため、株だけの生活が本当に良いことなのか何とも言えないところがあります。

そのあたりは、その時々の視点や人生の流れによって柔軟に変えていこうと考えています。一度仕事を辞めてしまうと、新たに始めるのが大変になってくるというのもありますし。

将来の展望としては、どんな選択肢にも対応できるようになりたいと思っています。お金はゲームのスコアのようなものと考えており、生活のためというよりは、お金が増えること自体に楽しみを見出しています。

ー 物欲はあまりないのですか?

なのなの:それほどありません。食事に関して言うと、例えば王将はものすごい美味しいと感じます。

投資初心者にはまず証券口座を開設し、身近な銘柄を購入することから初めてほしい

ー 堅実に過ごされているんですね。投資初心者の場合、まず何から始めればいいでしょうか?

なのなの:まずは証券口座を開設することです。そして、身近な銘柄を購入することから始めてみましょう。

投資を始めたいと相談を受けたとき、よく先ほどのようなアドバイスをするのですが、実際に証券口座を開設する人は半分くらいで、そこからさらに株を買う人はその半分くらい、最終的に投資を継続する人が当初の5%ぐらいのイメージですね。行動を起こさないと何も始まらないため、まずは証券口座を開設し、株を購入することを推奨します。

ー 実際に何かしらの株を買ってみることが大切なのですね。

なのなの:まずは身近なものから購入してみてください。たとえば近くにヤマダ電機があるなら、ヤマダホールディングス(9831)の株を、ゆめタウンがあるなら、イズミ(8273)の株を購入してもいいですね。

ー 購入後、株が値上がりしたり値下がりした場合、どのような判断をとればいいでしょうか?

なのなの:初心者の方であれば、なぜ売るのかということを明確にしつつ、正しくても間違っていても自分の判断で売るのがよいかと思います。売ったあとに株価が変動した場合、そこから学びが得られます。「なぜ株価が上がったのか?」「持っていたほうが良かったのか?」など、自分で体験しないと理解できないことがあります。他人任せにせず、自分の判断で売買することが大切です。

ー バリュー株や高配当株の投資における注意点を教えてください。

なのなの:業績が安定していない企業の株は避けること、見せかけの配当利回りにだまされないようにすること、あとこれは人それぞれですが、あまり集中投資しすぎない方が私はよいと考えています。

特に、業績が安定していない企業、つまり業績にブレがある企業は避けたほうが賢明です。こうした企業は、将来的に配当を減らす可能性があります。

そういった企業は、ある程度、過去の業績から見極めることができます。また、集中投資しすぎると、利益が大きい反面、損失も大きくなるので、自分がどれだけリスクを取れるかを考慮しながら、いくつの銘柄に投資するか決めるとよいかと思います。

ー なのなのさんのポートフォリオを拝見しました。たくさんの銘柄を保有していますね。

なのなの:そうですね。日本の銘柄だけでも220程度保有しています。

ー 投資はどのような人に向いていると思いますか?

なのなの:自己判断ができて、しっかり行動に移せる人が向いています。ほかには、投資を楽しめる人ですね。せっかく投資をするなら、楽しんだ方がお得です。

先日、投資勉強会に参加したところ、みんな真剣に学び、楽しんで投資をしている様子でした。

ー 利益を得ることを主な目的にすると、投資が苦しくなることもあるのでしょうか?

なのなの:それは人それぞれだと思いますね。利益を得ることを目指す人は、その目標達成のために最短距離の努力をすると思います。それもひとつの方法といえるでしょう。

ー ほかにも「投資を楽しむことが原動力になる」というお話がありました。

なのなの:そうですね。投資に関する学びや分析が苦にならない人は、努力を努力と思わないため、必ず結果がついてきます。

もし、何を買うべきかわからない人は、アメリカのS&P500のインデックスを積み立てておくことをおすすめします。初めての投資は行動することが最も重要です。

ー 自己判断と自分の基準を持つことが重要だと話されていましたが、やはり自分の基準を持たないと、他人の意見に惑わされて投資スタイルがブレてしまうのでしょうか?

なのなの:そうですね。自分の基準が定まっていないと、相場が大きく動いた時に動揺して底値で売ったり、高値で掴んだりしてしまいます。

2023年注目するトピックは米国株の動向と、米国の利上げの打ち止めのタイミング

ー 2023年に注目しているトピックスはありますか?

なのなの:短期的に注目しているのは、米国株が復活するかどうかです。歴史的に見て、米国株が2年連続で下落することはほとんどありません。また、大統領選挙の前年は、株価のパフォーマンスが好調な傾向にあります。米国株は昨年下落し、今年は大統領選挙の前年なので、米国株もそろそろ上昇し始めてもいいのではないかと考えています。

ほかにも、アメリカの利上げがいつ打ち止めになるかも気になるトピックです。

ー 米国株が現在2年連続で下がっている状況ということですが、長期保有の視点に立つと心配ではありませんか?

なのなの:いえ、心配はしていません。ただ、上昇に転じるのがいつになるのかは気になるところですね。

ー その影響で配当も変わりますよね。

なのなの:はい、アメリカの景気が悪くなり、日本企業の業績が下がった場合、配当が減る可能性はあります。ただ、最近は株主還元を強化する日本企業も増え、配当はそこまで影響がないかもしれません。

ー なるほど。逆に言えば、今は株価が安いタイミングなので、新規参入者にとってはお手頃価格で買えるということでしょうか?

なのなの:それは少し難しい話です。アメリカの景気減速懸念は根強く、まだ下がる可能性もあります。ただ、最近日本もインフレが進んできており、これに賃金上昇が伴えば、株価が上昇していくかもしれません。

正直なところ、どちらに転がってもおかしくないため、初心者の方はとりあえず少額で試すのがいいかもしれません。

ー なるほど。やはり楽観的には始められないということですね。
最後に、これから投資を始めようと考えている人へメッセージをお願いします。

なのなの:まずは投資を始めてみましょう。始めたら、きちんと勉強することもお忘れなく。

投資の世界はエリートと夢見るギャンブラーが集まる場です。MBAホルダーの機関投資家や、何億円も持っている株好きの個人投資家が毎日、多大な時間を使って株の分析をしています。初心者がそういった人たちを出し抜いて簡単に利益を得られるとの幻想は持たないほうがよいでしょう。ギャンブル感覚にならず、まずは投資を始めて勉強することから取り組んでみるのがよいです。

ー 投資の情報は現在、YouTubeやSNSなどでたくさん見つかりますよね。昔と比べて投資の勉強がしやすい環境になっている印象を持ちます。

なのなの:そうですね。情報が豊富になるのは良いことです。勉強すればするほど結果も出やすくなりますし。

初心者の方には、できるだけ一次情報をもとに投資判断してほしいと思います。Twitterなどで話題になっているからといって購入するのではなく、自分で一次情報を確認してから購入しましょう。そうした癖を身につけることを強くおすすめします。

ー 信頼できる勉強の素材としては、何が最適だと思いますか?

なのなの:あらゆる情報源が有効です。マネー誌で取り上げられている銘柄を調べるのも、おすすめの勉強方法です。

ー おすすめの本はありますか?

なのなの:投資初心者は、図書館、ブックオフ、近所の本屋どこでもいいので、読みやすそうな本を見つけて読んでみるとよいでしょう。次第に理解が深まってきたら、名著と呼ばれている本にも目を通しておくとよいかもしれません。

投資初心者の場合、YouTubeなどを通じて投資の世界に触れてみるのも1つの方法です。ただし、誤った情報や参考にならない情報も数多く存在します。そのため、情報を正確に見極める力も同時に身につけるよう心がけてください。

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