特集『Hidden Unicorn~隠れユニコーン企業の野望~』では、新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業の経営トップにインタビューを実施。何を思い事業を運営し、どこにビジネスチャンスを見出しているのかなど、これまでの変遷を踏まえ、その経営戦略にさまざまな角度からメスを入れる。

株式会社エージェントグローは2016年5月の創業以来、SES(システムエンジニアリング事業)を展開する企業。2021年6月にはSES業界特化型業務効率化SaaS「Fairgrit®」の提供が始まり、事業はさらに拡大している。本稿では、代表取締役社長の河井智也氏に今日までの経緯や事業の特長、将来の展望などを伺った。

(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

河井 智也(かわい ともや)――株式会社エージェントグロー代表取締役社長
ニート時代を経て、お客様先常駐(SES)のITエンジニアとして就業。
その後、雇われ社長として3年間会社経営を経験。在任中、社員数を1名から70名に急拡大させる。任期満了を機に、2016年5月に株式会社エージェントグローを創業。オーナー社長として手腕を振るう傍ら、ウェビナー等を通じてこれまでの経験やノウハウを広く業界に提供している。日本画家である妻の影響もあり、プライベートでは日本画をこよなく愛する。
株式会社エージェントグロー
「中小企業で働くITエンジニアの労働環境を変える」というミッションを掲げ、2016年5月に創業。2023年2月現在、387名の従業員を擁する。
確かな経験と技術力のある自社正社員エンジニアがお客様先の案件に従事する「SES(システム・エンジニアリング・サービス)」事業と、SES企業におけるさまざまな業務の効率化を支援するSaaSの企画・開発・運営を行う「Fairgrit®」事業を展開する。

目次

  1. SES事業とSaaS事業の2本柱でビジネスを展開
  2. 思わぬ出来事からSES企業の経営者に就任
  3. SES業界の環境改善が最大の目的

SES事業とSaaS事業の2本柱でビジネスを展開

―― 最初に、株式会社エージェントグローの概要・事業についてお聞かせください。

エージェントグロー代表取締役社長・河井智也氏(以下、社名・氏名略):弊社は2016年5月に創業し、現在は387名の社員がいます。主な事業は2つあり、1つはお客様先に派遣・業務委託の形でエンジニアの技術力を提供するSES(システム・エンジニアリング・サービス)と呼ばれる事業です。もう1つはバーティカルSaaSと呼ばれる業界・業種に特化したSaaSの事業で、弊社ではSES業界向けに業務の効率化を支援する「Fairgrit®」を販売しています。SES事業が祖業で、2021年6月にSaaS事業を始めました。現時点ではSES事業が収益のメインで、社員の9割近くがこの事業に就いていますが、今後は「Fairgrit®」が伸びると考えています。

――近年はエンジニア不足が叫ばれていますが、採用の状況はいかがでしょうか。

弊社は、毎月のように中途採用を行っています。日本全体でITエンジニアが不足する中で採用力があるのは、同業他社の労働環境に悩んで弊社に転職するケースが多いからです。弊社は「中小企業で働くITエンジニアの労働環境を変える」というミッションを掲げており、不平等な環境の改善に努めているからだと思います。

――SES事業からSaaS事業に幅を広げたのは、なぜですか。

SES事業が拡大する中、人が増えると営業や人材管理、事務経理などの業務が煩雑になると考え、創業当初から専任のエンジニアを置き、業務効率化のシステムを開発していました。その結果、弊社の本社営業や事務職員の数は同業他社に比べると圧倒的に少なく、同規模の会社に比べると利益率ははるかに優れています。自社の優位性を高めるためには外部に出す必要はありませんでしたが、同じような悩みを抱える企業がたくさんあったため、「Fairgrit®」として提供することを決めました。一から開発したのではなく、自分たちで使っているものがベースになっており、他社様でもそのままお使いいただけることから、満足度の高いシステムになっています。

――御社の特長を教えてください。

弊社と同業他社の大きな違いは2つあります。1つはエンジニア自身が案件を選ぶことができ、お客様からいただく単金額や報酬割合を把握できる「新SES企業」であることです。日本にはSES企業が約2万社あるといわれていますが、20年前の黎明期から業界のイメージは決して良くありません。残業が多く適正な報酬を得られない、希望する案件に参画できない、キャリアを描きにくいといった課題があり、これらは起業前に客先常駐のエンジニアとして働いていた私自身も痛感したことです。これらを解決するために弊社はエンジニア第一主義を掲げており、エンジニアに案件を選択させ、単金額・報酬割合を開示しています。

▼オフィスの様子

(画像提供=株式会社エージェントグロー)

するとエンジニアは残業が多い案件を避けられますし、収入をコントロールしやすくなります。報酬の還元率は77%と同業他社に比べて高い水準なので、結果的に同じことをしている企業と比べて年収ベースで100万~200万円は高くなっています。報酬の還元率は、2025年までに80%まで高める方針です。

――エンジニアの環境改革を率先して行っているわけですね。

おっしゃるとおりです。これに魅力を感じて転職を希望するエンジニアが後を絶ちません。もっとも、創業当初は少なかったのですが、昨今はエンジニア不足を背景に新SES企業へと舵を切るところも出てきました。しかしながら、その割合は全体の5%ほどで、残り95%はエンジニアにとって不利な従来型のビジネスモデルといわざるを得ません。今後新SES企業が増えると思いますが、現状はこの点が弊社の強みだと認識しています。

もう1つは「Fairgrit®」の存在で、これが大きな差別化要因となっています。例えば売上や従業員数、人件費などが同規模で「Fairgrit®」を導入していないSES企業と弊社を比べると、利益に2億円の差が生まれる計算です。なぜかというと、「Fairgrit®」を入れていないと営業や人材管理などの業務に約30名の人員が必要だからです。それに対しては弊社には8名しかいませんし、システム化されているので残業はほぼなく、余裕を持って働けるので離職率も低いです。こういった違いは、非常に大きいと思います。

▼SES企業の業務効率化を支援する「Fairgrit®」

(画像提供=株式会社エージェントグロー)

これほどの開発ができるエンジニアが客先に常駐すると、80万~90万円の売上になります。インハウスで動いてもらうとしても、給与は月50万円以上です。創業したばかりで自社内で働いてもらうのは大変でしたが、将来を先読みして投資しました。一般的なSES企業はエンジニアを採用するために求人広告費をかけ、売上を確保して黒字になってから業務効率化を始めますが、その頃にはある程度やり方ができあがっているので、そのタイミングで一からシステムを作っても導入するのが大変です。しかも、本当に良いシステムができるかどうかはわかりません。その段階で業務改善を目指すなら、初期に「Fairgrit®」を導入するほうがスムーズであることは確かです。

――「Fairgrit®」の実績や反響はいかがですか。

今は、十数社に限定してご利用いただいています。いきなり広げるのではなく、私どもで今後伸びそうな会社や名の知れた会社をピックアップして、ご提案しています。こういった条件に合わないところからご相談があっても、お断りしています。ただし、今後はさらに多くの企業様にお使いいただく方針です。

反響は「導入して助かる」「なくなると困る」など、ありがたい声をいただいています。特に新SES企業はエンジニアに対して案件と報酬の詳細を提示するので手間とコストがかかりますが、社員数が増えると手が回らなくなるからこそ、それをシステム化した「Fairgrit®」を活用していただいています。おそらく社員数200名以上の新SES企業の利益率は1~3%ですが、弊社は8%です。弊社のシステムを通じて、業務だけでなく収益も改善していただければと思います。

思わぬ出来事からSES企業の経営者に就任

――創業から今日までの変遷をお聞かせください。

私は情報系の専門学校出身ですが、就職するのが怖くて卒業後は家で引きこもっていました。いわゆる、ニートです。ところが親が自己破産してしまい、働かざるを得ない状況になりました。最初は物流倉庫に勤めましたが、やはりエンジニアになりたいと考え、ようやく20~30名規模のSES企業に入社することができました。その後人材の採用や教育に興味を持ち始め、ビジネススクールに通いながら転職活動をするのですが、未経験者が採用されるはずがありません。ならば少しでも人事の経験を積めるところにしようと思い、年商1,000億円の会社が新規事業として立ち上げたSES子会社にエンジニアとして入社し、お客様先に常駐しながら自社エンジニアの後輩の指導にも携わることができました。

ところが、ある日親会社から電話が入り、社長が会社のお金を持って逃げてしまったとのこと。負債もあるので「クビになるか親会社の社内SEになるか」の決断を迫られ、人事ができないなら辞めると伝えたところ、なぜか私を気に入ってくれ、社長就任を打診されました。会社としてお客様にサービスを提供する責任があり、教育してきた社員を路頭に迷わすわけにもいかなかったため、その要請を受けました。30歳になる頃でした。

それからは経営者兼エンジニアとして働き、社員数を70名まで拡大しました。一方で頑張っている社員の給料は低く、その改善について本社と話し合っても平行線で終わることが多かったため、3年後の任期満了に伴い退職し、エンジニアの待遇改善を目的として起業したわけです。

SES業界の環境改善が最大の目的

最初は「新SES企業として自社が成長すればよい」と思っていましたが、それでは全国70万人のエンジニアを応援したり、業界全体を変えたりすることはできません。また、同じ新SES企業でも弊社のように利益が出ているところばかりでなく、いくらエンジニア第一主義といっても利益が出ない会社が増えてしまっては社員にとってはマイナスですから、何とかしたいとの思いで業界特化型SaaS事業も始めました。今後は「Fairgrit®」を同業他社に広げていくことにより、エンジニアの労働環境の改善と新SES企業の利益改善を目指します。現在は新SES企業の経営者が集まって情報交換をするなど連携し、またSNSを使った啓蒙活動も行っています。

――今後の目標をお聞かせください。

2023年にスタートしたのが、SES業界が長年抱える課題である多重請負構造の解消です。プラットフォーム上で発注者と受注者が直接取引できる仕組みはすでにありますがあまり普及しておらず、こういった課題も「Fairgrit®」で解決する予定です。このシステムには導入企業に在籍する全エンジニアのスキルや契約内容の情報があり、大企業がスカウトメールなどで彼らにアプローチできる仕組みを作りたいと思います。今は中小企業向けに業務効率化ツールとして使っていただき、エンジニアのアカウント数が増えていますが、次は優秀なエンジニアと大企業のマッチングができるプラットフォームも兼ねるイメージです。実現すると弊社は業界ナンバーワンになりますから、この事業を通じて2026年にはIPOを目指し、2030年には売上100億円、営業利益20億円を目指しています。数値的な目標も大切ですが、私は辛い思いをしたからこそ業界を変えたいと思っていますし、それをできるのは私しかいないと思っています。道筋も見えてきましたから、これからの飛躍が楽しみです。

――高い志を感じました。ところで、日々のニュースなどで気になるトピックはありますか。

業界特化型SaaS関連のニュースは気になりますし、IPOを果たした社長のインタビュー記事や動画もよく見ています。また、社会貢献にも興味があります。

――最後に、ZUU onlineの読者へメッセージをお願いします。

私自身がここまで順調に進んでこられたのは、情報収集を徹底したからです。これが武器になり、今があると思います。ZUU onlineの読者の皆様も、何か目標があるなら情報収集を怠らないことをおすすめします。SES業界には約70万人にエンジニアがいて、これは労働者100人に1人の割合です。日本に大きな影響を与える業界であり、その業界を変えようとしているのが私たちエージェントグローです。ぜひ、ご支援をいただければと思います。