特集『HiddenUnicorn~隠れユニコーン企業の野望~』では、新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業の経営トップにインタビューを実施。何を思い事業を運営し、どこにビジネスチャンスを見出しているのかなど、これまでの変遷を踏まえ、その経営戦略にさまざまな角度からメスを入れる。

今回は社会問題をビジネスで解決する「イシュードリブンカンパニー」として、空き家を活用したペット共生型障がい者グループホーム『わおん』『にゃおん』など、介護・福祉業界を中心に多様なビジネスを全国に展開する株式会社アニスピホールディングス代表取締役会長 藤田英明氏にお話を伺った。

(取材・執筆・構成=杉野 遥)

藤田 英明
株式会社アニスピホールディングス代表取締役会長
学生時代に福祉に目覚め、社会福祉法人の施設長・理事として従事した後、日本初の混合介護による夜間対応型高齢者デイサービスで起業。全国に950の事業所を展開し、世界有数のデイサービス開設実績数を誇る。2018年より「ペット共生型障がい者グループホーム『わおん』『にゃおん』」を展開し、全国に約1,294点を展開中(2023年4月現在)。介護・福祉業界の異端児として、業界における前人未到の実績到達を目指している。
株式会社アニスピホールディングス
「人間福祉と動物福祉の追求」を企業理念とし、社会問題を事業で解決するイシュードリブンカンパニー。障がい者の「ハウジングファースト」と「動物の殺処分ゼロ」をミッションとして事業を展開。人と動物の垣根を超えた「ハッピー」を実現しつつ、持続可能な社会貢献ビジネスを創出する。

目次

  1. 社会問題を複合的に解決する「ペット共生型障がい者グループホーム」
  2. レベニューシェア経営はオーナーと入居者の双方にメリットがある
  3. 介護・福祉業界を変革するデジタル化への挑戦
  4. 株式会社アニスピホールディングスの未来構想

社会問題を複合的に解決する「ペット共生型障がい者グループホーム」

―― 御社の事業内容について、教えてください。

アニスピホールディングス代表取締役会長 藤田英明氏(以下、社名・氏名略): 2016年に設立した当社では、「人間福祉と動物福祉の追求」を企業理念として、メイン事業であるペット共生型障がい者グループホーム『わおん』『にゃおん』の他、フィットネス型障がい者デイサービス、日中サービス支援型の障がい者グループホーム、精神科訪問看護などの事業を多角的に展開しています。

当社を設立する前、私は高齢者向けのデイサービス事業を展開していました。大学卒業後、社会福祉法人で介護職を経て事務長を務めましたが、当時痛感したのがご家族の深刻な介護疲れでした。老人ホームはすぐに入居できるわけではなく、当時は600人待ちという状態。600人目の方が入居できるのは15年後。気が遠くなる待ち時間です。
在宅介護が続いた結果、ネグレクトや虐待に発展してしまうケースも見聞きしました。こうした悲惨な現状を解決するため、26歳の時に起業して高齢者向けのデイサービスを立ち上げたのです。デイサービスは最終的に全国950拠点、利用者は約3万人まで増えました。

▼「人間福祉と動物福祉の追求」を企業理念に掲げる

(画像=株式会社アニスピホールディングス)

介護事業を展開する中で、高齢化がもたらすさまざまな社会問題を意識したことを機に生み出したのが、ペット共生型障がい者グループホーム『わおん』『にゃおん』であり、当社の祖業です。
『わおん』『にゃおん』は、空き家を活用した保護犬や保護猫と暮らす障がい者向けグループホームで、障がいのある方の生活場所を確保するだけでなく、動物の殺処分、空き家問題という3つの社会問題を複合的に解決するビジネスモデルです。

日本全国に、障がいを持つ人が現在約1,160万人(日本人口の約9.2%)いるといわれています。同時に高齢化が進み、親御さんが彼らの面倒を見ることが難しくなっていくという問題があります。また、高齢者の飼い犬や飼い猫の将来も問題です。東京都で動物が殺処分される理由の7割は「飼い主の高齢化」という調査結果もあるほどです。さらに、全国に800万戸あるとされる空き家も深刻な問題です。
障がいのある方は就労していても所得が低く、生活保護を受けている方も少なくありません。生活保護受給者は動物を飼えないという決まりがあるため、動物と暮らせる当社のグループホームは、動物が好きな障がい者の生活を豊かにするという機能も兼ね備えています。

▼ペット共生型障がい者グループホーム

(画像=株式会社アニスピホールディングス)

レベニューシェア経営はオーナーと入居者の双方にメリットがある

――ペット共生型障がい者グループホームのビジネスモデルについて教えてください。

『わおん』『にゃおん』では直営施設とオーナー様が経営する施設があり、現在は全国に1,294拠点があります。オーナー様とは、レベニューシェアという形で契約を結んでいます。店舗経営はフランチャイズ、またはコンサルによる開業支援のいずれかが多いです。オーナーの立場からすると、それぞれにメリットがありますが、デメリットも気になるところでしょう。フランチャイズは縛りが多く自由度が少ない、コンサルの場合は開業した段階で支援が終わってしまい、後は自力で何とかするしかない。

レベニューシェアは、フランチャイズとコンサルのデメリットを解消する第三の形というイメージです。研修・教育体制は万全ですが、屋号は自由に変えられ、契約期間は2年間で解約時の違約金はありません。解約後も閉店する必要はなく、運営を継続していただけます。
収益は障害者総合支援法に基づく給付費が中心で、月の収益の3%を当社がいただき、残りはオーナー様が受け取ります。
ちなみに、当社は不動産や人材紹介、Webマーケティング、システム開発などを行う子会社を持っています。オーナー様が店舗運営に際して子会社のサービスをご利用いただくことで、ホールディングス全体の売上が上がっていくという構造です。

『わおん』『にゃおん』にレベニューシェアを導入したのは、入居者様を守るという意味合いもあります。入居者様にとっては大切な住まいですから、解約後も運営を続けられるほうがよいのです。

介護・福祉業界を変革するデジタル化への挑戦

――介護・福祉業界の発展に向けて、関心のあるトピックを教えてください。

20年以上思っていることなのですが、この業界はデジタル化がすごく遅れています。書類は手書きが基本ですから、事務作業に費やす時間がとても多いのです。高齢者介護に携わる職員の業務を分析すると、約40%は事務作業でした。介護を行うために資格を取得して働いているのに、これでは本末転倒です。一方、紙文化に慣れているがゆえに、現場の職員がデジタル化に拒否反応を起こしてしまうことも、デジタル化が遅れている一因だと思います。

業務のデジタル化については当社でも積極的に取り組んでおり、直営店では防犯の意味を兼ねてWebカメラを設置しています。将来は、顔認証機能といった新しいテクノロジーを活用したいところです。個人を識別し、食事など日頃の動きをデジタルでチェックして記録できるようになれば業務効率が大幅に向上しますし、服薬管理の面でも必要性を感じています。

服薬管理のプロダクトはすでにオランダで実用化されており、顔認証においては中国の技術が進んでいます。海外ではすでに優れたデバイスが発売されていますが、日本では規制上持ち込みが難しいのが現状です。そこで国内の事業者と手を組み、自分たちの手でデバイス開発に着手することを検討しています。

ちなみに、高齢者の要介護認定調査は調査員が対象者の家に出向き、ヒアリングなどを通して行われるのですが、調査費用は年間で1兆円に上ります。こうした調査においても、カメラで日頃の動きをチェックできるようにするなどしてデジタルを活用すれば、コスト削減につながるでしょう。介護・福祉業界のデジタル化は、一日でも早く取り組むべき官民共通の課題だと思います。

株式会社アニスピホールディングスの未来構想

―― 御社の未来構想を教えてください。

前期の売上高が全体で21億円に達しましたので、今期は40億円、来期は70億円を目指して成長させたいと考えています。仕込んでいた子会社の事業が来期以降に花開くと考えているため、今後は子会社の収益も業績に寄与する見込みです。グループホーム事業については1,200拠点を超えて一定の規模に達しましたが、今後は2倍、できれば3倍まで伸ばしたいですね。

新しい取り組みとしては、障がい者向け就労支援施設の全国展開を計画しています。日本における障がい者の工賃は月額2万5,000円程度で推移しており、これが障がい者の自立を妨げる要因になっています。当社では最低でも月額10万円ほどの工賃を稼げるような仕組みを構築し、問題解決に取り組んでまいります。
具体的には愛知県にあるリネットジャパン様と提携し、「環福連携(環境×福祉)」の就労支援モデルを計画しています。これは不要になったパソコンからレアメタルを取り出して販売する「都市鉱山モデル」で、当社のグループホームの入居者様の就労機会として提供できるよう進めていきます。

――最後に、読者の皆様へメッセージをお願いします。

日本には障がいを持つ方(知的・身体・精神)が1,160万人もいて、いまだに年間2万5,000頭ほどの動物の殺処分が行われています。
皆様には、介護・福祉・動物を取り巻く現状をぜひ知っていただきたいと考えております。
こうした社会問題を解決したいという気持ちがある経営者の方や個人の方がいらっしゃれば、ぜひ当社にご相談ください。よろしくお願いいたします。