コロナ禍に伴う在宅勤務の増加などを契機に資産運用に関心を持つ人々が増えている。しかし、「資産運用」と一言でいっても、その対象は幅広く、何から始めるべきか迷ってしまう人も多いだろう。

そうした読者のために、資産運用を始める際のマインドセットや、株式や投資信託のみならず不動産や仮想通貨といった様々な投資商品について解説した書籍が「貯金ができない私でも、1億円貯まる方法を教えてください」だ。本作の著者でありクレディ・スイス証券にプライベートバンカーとして勤務した経験を持つウェルス・パートナー代表取締役・世古口俊介氏に話を聞いた。

世古口俊介
世古口俊介(株式会社ウェルス・パートナー 代表取締役)
2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイス銀行(クレディ・スイス証券)のプライベートバンキング本部の立ち上げに参画し、同社の成長に貢献。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。2017年8月に内藤忍氏と共同で資産デザインソリューションズを設立し、代表に就任。500人以上の富裕層のコンサルティングを行い1人での最高預かり残高は400億円。
世古口俊介の関連記事一覧

資産運用を始める前に決めるべき「人生の目標」

(画像=PIXTA)


―「プライベートバンカー」というと主な顧客は富裕層だと思います。そうした方々を対象にビジネスをしてきた世古口さんが、今回広く一般の方向けに資産運用全般について解説する書籍を執筆された理由を教えてください。

私は、元々プライベートバンクで、富裕層の資産運用をサポートしてきました。その過程で、富裕層の方々も、その多くは最初から富裕層だったわけではなく、小さな事業、あるいは10万、20万といった少額の投資からスタートした人も多いということに気づいたのです。

そして、キャリアを重ねていく中で、彼らが「なぜ富裕層になれたのか」ということを紐解いて理解することができたので、シンプルに「より多くの人が投資を始めて富裕層になったらいいな」と考えたことが、本書を執筆した理由の一つです。

もう一つは、「投資家が少なすぎる」という日本の現状をなんとかしたいと考えたからです。ベンチャー企業に投資する「ベンチャーキャピタル」というファンドの日本における年間投資額は、アメリカの50分の1で、中国の30分の1です。資金が集まりにくければ、有望なベンチャー企業が日本から生まれる可能性が下がってしまいます。

将来有望な企業にリスクマネーを提供してくれるような投資家を増やすことができれば日本のためになるのではないか、という思いが本書を執筆したもう一つの理由です。

―本書の中では、資産運用を始める前に「人生の目標を決めること」を推奨しています。FIREなども話題になっていますが、「人生の目標」を持っていない人の方が多いと思います。世古口さんが過去にコンサルティングされてきた方々は、どのような「人生の目標」を持っていたのでしょうか。

もちろん人によって様々な目標があるのですが、ある程度パターンは決まっています。具体的には、「仕事を辞めた後に、自分の退職金やそれまでに積み重ねた資産を減らさずに生活水準も落としたくない」と希望される方が多いのです。

例えば、「経営していた会社を売却したため、まとまった金融資産が数億円あるものの、それを取り崩したくないので、運用してインカムゲインを増やし有効活用したい」というような方々ですね。

もちろん、「資産を10倍にして超富裕層になってハワイに住みたい」というような人もいますが、そういう場合には「不確実性の高い投資をする必要があるので難易度は上がります」という話をしますね。ただ、さすがに1年後であれば不可能ですが、10年越しの計画であれば一定の実現性があるので、「目標を達成するための期間」も含めて考える必要があるでしょう。

―ただ、20~30代の若い人にとって「人生の目標」を決めるのは難しい部分もあると思います。そうした方々にアドバイスはありますか?

例えば、「40代・50代でFIREする」といった具体的な目標がある場合は、そこから逆算して考えればよいでしょう。もし、そうした目標がなければ、「まずは始めて見る」というのが一番良いと思います。

そこから、「退職した時に家族が幸せに生活できるくらいの蓄えは作る」といった目標などにシフトすることを見据えて、投資信託の積立などによって、「リスクを取る」ということに慣れてもらうことが重要です。

―本書の中では、低コストのインデックスファンドも推奨しています。「元プライベートバンカー」がおすすめする商品としては少し意外に感じました。

金融や投資のプロの人ほど、資産に占めるインデックスの割合は多いと思います。

eMAXISシリーズのような低コストインデックスファンドの最大の問題は、「それだけだとつまらないこと」でしょう。日経平均などの指標を見ていれば、おおよその価格がわかるので、詳細をチェックしなくなってしまうんですね。

ある意味「ほったらかし」にできることはメリットですが、「指数を超えるパフォーマンスにチャレンジしたい」と考える人にとってはデメリットと言えるでしょう。そうしたチャレンジも投資の楽しみだと思いますし、実際にどちらもやっているという人も多いですね。

インデックスの中で、もう少し差をつけたいのであれば、ファンドの内容に注目してみるとよいでしょう。インデックスファンドの中でも、「割安なバリュー株中心」「成長しているグロース株中心」といったようにテーマで分かれているものや、ハイテクなどのセクターで分かれているものがあります。これらを合わせて買うことで、指数よりは良い運用を目指す、という工夫をしてみてもよいのではないでしょうか。

「資産配分」が資産運用の結果の8割を決める

(画像=PIXTA)


―本書の中では、「資産の配分」の重要性にも言及していますね。

資産運用の結果の8割は、全体の資産における不動産や株・債券の割合で決まるといわれています。つまり、運用(投資)に割く時間の8割は「資産全体の配分が最適かどうか考えること」に使うべきなのです。

私自身もそうですし金融機関に勤める人間の多くは、新入社員時代に、このことを叩き込まれます。ただ、誰も実践していないのが現状です。何故なら、「証券会社は株を、保険会社は保険を勧める」という構造になっているので、資産配分については語られづらいのです。

このように意外と、資産全体の配分の重要性は忘れがちになるので、強調していくべきだと考えています。

―また、株や債券のみならず不動産投資についても解説しています。

「リスクが低い」というと語弊があるかもしれないですが、「成功する再現性が高い資産」との観点から債券・株・不動産を挙げています。

「金融商品だけ」「不動産だけ」といったように、どちらかだけ投資している人も多いのですが、両者の特徴はまったく異なります。

不動産投資は借り入れが前提となる投資ですし、レバレッジを効かせることができるので、本格的に投資を始める前の「種銭づくり」にも有効です。また、シニアの方々には相続対策として有効でしょう。

国内不動産であれば、購入後に入居者から支払われる家賃で銀行からの借入金を返済していくことになりますが、そのシミュレーションが非常に重要です。「物件が古くなれば家賃は下落する・空室ができる」「さらに古くなれば修繕が必要になる」といった理由で、キャッシュアウトが大きくなる可能性もあるので、これらを踏まえてシミュレーションをした上で、成功が見込めるようであれば有効な投資法と言えるでしょう。

―そのほかに、ご自身で実践してみて面白い投資法はありますか?

個人的に面白いと思うのは「ベンチャーキャピタル」ですね。

私はシード期の会社に出資しているのですが、その場合、何十億円かの資金をファンドが集めて、百何十社に分散して投資を行います。もちろん上手くいかず潰れていく会社の方が圧倒的に多いのですが、メルカリやメドレーのような会社が出てくることもあるのです。こうした企業が上場すれば投資家も利益を得ることができるのです。

投資した資金が6~7倍くらいになる場合もあるので、利益を出すとともに「日本の経済に寄与している」という感覚があるので、面白いと思いますね。ベンチャーキャピタルへの投資は1,000万円程度から数千万円の資金があれば行うことができるでしょう。

あと、太陽光発電なんかも面白いですよ。毎日の発電量や売電量が天気などによって変わるので、毎日チェックしてしまいますね。その他にも絵画やワインなんかも面白いと思います。

―そうしたものはいわゆる「サテライト資産」にあたると思います。どの程度の資産があれば、これらの「ちょっと変わった投資」をしてよいものなのでしょうか?

例えば、私は太陽光発電への投資はフルローンで行っています。つまり、1円も使っていません。そういう意味では、そこまで手元の資金がなくても始めることはできるのです。

また、ワインも買っていますが、1本数万円から購入できますし、絵画も数百万円のものもありますから、必ずしも莫大な資産がなければ始められないというわけではありません。

ただ、こうした商品は、資産全体に占める割合としては10%程度の中で投資するのが良いと思います。また、自分自身が好きなものであれば、リスクの許容範囲も多少変わるのではないでしょうか。ワインについては、私も価格が半分くらいに下がったものから飲んでしまっています。

私自身は、お客様にリスクがあることを勧めているので、自分自身も積極的に投資でリスクを取るようにしています。実際、昨年投資したアメリカ不動産が家賃滞納で大変なことになりました。そうした失敗をしながらも、様々な投資をしています。

適切に「リスクを取る」ことが重要

(画像=PIXTA)


―「プライベートバンカー」や「凄腕投資家」といった方々は、「負け知らず」「不敗の投資家」というイメージを持たれがちですが、実際には「適切にリスクを取っている」というわけですね。

先のことわかりませんし、一定の確率で失敗するのは当然です。問題は、それが、「どの程度の失敗か」という話だと思います。致命的なレベルにならず、被害が少なく済むのであれば、失敗もした方が良いと思います。

人間には、現状維持バイアスがあるので、「今の状態ではなくなることが怖くて新しいことができない」という人も多いでしょう。しかし、一度失敗することでダメージの度合いが分かれば、過剰に恐れる必要がなくなります。

私自身は、株・債券・不動産の比較的手堅い3種類がコア資産として全体の8割を占めており、残りの2割で積極的にリスクを取るようにしています。私のお客様にもそのような人が多いですね。

―また「プライベートバンカー」というと一般の人がリーチできないような特別な商品の仲介をしているようなイメージもあります。

「プライベートバンク」だからといって、スペシャルな商品はそれほどないですね。「ものすごくパフォーマンスがよいファンド・めちゃくちゃ有名なヘッジファンドに投資できる」といった話は聞いたことがないです。

1つだけあるとしたら、証券担保ローンが使えるという強みはあるかもしれません。投資している商品を担保に入れてお金を貸して、さらに運用することができるのは、プライベートバンクの強みだと思います。

金融商品に色はないので、SBI証券で買ってもクレディ・スイスで買っても中身は同じです。つまり、「量販店で買うか、セレクトショップで買うか」という程度の違いだと思います。

そういう意味では、プライベートバンクで金融商品を買う意味はなくなってきていると思います。ただ、プライベートバンクにお金を預けていると担当者が付くので、そうした喜び・付加価値はプライベートバンクにしかできないといえるかもしれませんね。

高齢者の方々は、プライベートバンクのように担当者がしっかりついて対応してくれる金融機関の方がよいかもしれません。しかし、今の40代・50代であればネットを通じて低コストで取引ができるので、そちらを選ぶ人が増えるのは当然の流れだと思います。私自身も株を購入する際には、SBI証券のようなネット証券を使っていますよ。

―最後に、これから新たに資産運用を始める方にアドバイスをお願いいたします。

繰り返しになりますが、まず「リスクを取る」感覚を覚えてもらった方が良いでしょう。ただ、その失敗が致命的で自己破産まで行くなど取り返しがつかないものになってしまってはならないので、少額から投資を始めることが重要です。

また、できるだけ多くの種類のアセットに投資して、それぞれの動きを理解できるようになるとよいでしょう。

武器としてのFX
貯金ができない私でも、1億円貯まる方法を教えてください
超セレブ向けの資産管理やコンシェルジュサービスの会社を経営する著者が、そのプロのノウハウを生かし、サラリーマンなど一般的な会社員の資産形成のための考え方と実務をQ&A方式で解説。

国内株式編・外国債券編・外国不動産投資・資産配分など、具体的な投資戦術がわかる。投資初心者から中堅者まで、参考になる知識や情報が盛りだくさんの内容

※画像をクリックするとAmazonに飛びます