高金利通貨を買って、スワップ収入を稼ぐ――かつて多くの個人投資家が手を出した投資法を今なお続けているトレーダーがいる。株・FXで“億り人”になった結喜たろう氏だ。
その手法は、高金利通貨の為替変動リスクを相殺する低金利通貨の売りを組み合わせたスワップ投資だ。買いと売りのスワップ金利差が安定的に得られるという。果たして、どれほど有効なのか?結喜氏の投資法を追った。
都市計画・建築設計などを行う事務所で働く傍ら、株・FX投資を行い、株式会社山幸投資事業部設立。
FXでは高金利通貨の買いと低金利通貨の売りを組み合わせて低リスクでスワップ収入を稼ぐ投資法を実践。『FXで究極の海外投資 為替変動に左右されない金利貯蓄型運用』(パンローリング)などの著書がある。現在、自らが実践する株式投資の方法を記した新著を執筆中。
ポジションを組み合わせて利益を安定的に確保
――低リスクでスワップ金利を稼ぐトレードを実践していると聞いています。どういう手法なのでしょうか?
高金利通貨ペアの買いポジションに対して、値動きが似通っている低金利通貨ペアの売りポジションを組み合わせるんです。そうすれば、為替の変動リスクを受けずに、「高金利通貨ペア-低金利通貨ペア」のスワップ金利の差分を安定的に稼ぐことができます。現在は、
メキシコペソ/円 21万通貨買い
トルコリラ/円 2万5000通貨買い
豪ドル/円 2万2000通貨売り
ユーロ/ドル 1万3000通貨売り
というポジションを1年以上、保有し続けています。一時的に含み損を抱えた時期もありますが、直近ではわずかな含み益が生じていて、スワップ金利の収入は年10%以上出ていますね。
――新興国通貨は高いスワップ金利がもらえる一方で、為替の変動リスクが大きい。特にトルコリラは下げ続けていますが……。
そのトルコリラやメキシコペソといった新興国通貨の値下がりを相殺するのが、豪ドル/円の売りポジションやユーロ/ドルの売りポジションなんですよ。
――どうやって、高金利通貨の為替変動リスクを相殺する通貨ペアを探すのでしょうか?
私は数十通貨ペアの過去1年分以上のヒストリカルデータをもとに、相関係数を弾き出しています。
上は2つの通貨ペアの相関係数を弾き出して表にしたもの。一般に豪ドルとニュージーランドドルは似たような値動きをすることが知られているように、豪ドル/円とニュージーランドドル/円の相関係数は「0.84」と高い。豪ドル/円とカナダドル/円の相関係数も「0.77」という高さ。つまり、豪ドル/円の買いとカナダドル/円の売りを組み合わせれば、為替変動リスクをかなり抑制できるというわけです。
――どうやって相関係数を弾き出しているのでしょうか?
計算そのものは簡単で、ヒストリカルデータから各通貨ペアの毎日の変動率を弾き出して、そこから標準偏差を導き出し、ほかの通貨ペアと比較してるだけ。なかには各通貨ペアの毎日の“値幅”から標準偏差を導き出して相関係数を計算する人もいますが、ドル/円は110円前後でトルコリラ/円は12円前後というように価格にはバラつきがあるため、値幅を基準にすると正確な相関係数を導き出せないのです。
――とても簡単には思えないのですが……結喜さんは理系の方ですか?
東京都立大学大学院工学研究科卒で理系ではありますが、それよりも兄の影響が大きいですね。私の兄は某大手証券系の運用会社で長年クオンツ運用を担当してきました。クオンツ運用では、数学的手法から市場を分析し、さまざまな金融商品を組み合わせた投資戦略を組み立てていきます。
複数の金融商品の相関係数を計算して、リスクヘッジしながら着実なリターンが見込める手法を導き出す。兄からすれば、高金利通貨と低金利通貨を組み合わせたスワップ投資などお遊びみたいなレベルでしょう。
――お兄さまの影響で投資を始めたのでしょうか?
私が大学生時代には兄が証券会社で働き始めていたので、投資が身近に感じられたのは事実ですね。大学生になったばかりの1990年代後半はネット証券が急成長し始めた時期なので、私もイー・トレード証券(現SBI証券)に口座を開設して株の取引を始めました。大学を卒業して設計事務所で働き始めた頃にはITバブルが到来していたので、ソフトバンクを買い増し続けて短期間で600万~700万円近く稼いだ時期もありました。ITバブル崩壊で、すべての利益を吐き出してしまいましたが(苦笑)。
ライブドアショックで毎日1000万円ずつ資産が目減り
――株式投資から始めたわけですね。
ただ、2006年は自殺しようかと思うほど損しましたね……。ライブドア関連の銘柄で5000万円近くの含み益が出ていたのに、ライブドアショックを受けて連日ストップ安を記録。寄り付かないので、手じまい売りができず、毎日1000万円ずつ資産が目減りしていったんです。FXを本格的に始めたのは、そのあとですね。
――その頃から現在のようなスワップ投資を始めていたのですか?
当時は円キャリートレードが全盛だったんです。ヘッジファンドなどが低金利の日本円を借りて売って、ドルに替えて投資するということを当たり前のようにやっていた。その影響で豪ドル/円やニュージーランド/円を買ってスワップ金利を稼ぐ「ミセスワタナベ」のような個人投資家が増殖したんです。2007年にはサブプライムショック、2008年にはリーマンショックが起きて、ミセスワタナベは軒並み大損してしまうのですが、私は兄の影響で為替変動リスクを相殺しながらスワップ金利だけを稼ぐ手法を実践していたので、それほど大きな被害を受けずに済みました。
――低リスクのスワップ投資でどれぐらい稼いできたのでしょうか?
スワップ投資を始めた2006年は各国の政策金利が高かったので、年20%以上のリターンは出ていましたね。700万~800万円をFXで運用していたので、ほったらかしでも毎年150万円以上の利益が出ていました。ただ、リーマンショックを経て利下げに動く中央銀行が相次いだこともあって、その後のリターンは減少傾向にありますね。
投資で100万円稼ごうとするなら、アルバイトで同額稼ぐのと同程度の労力をかけるべき
――本当にほったらしでも稼げるんですか?
本当に3~4カ月に1回ぐらいの頻度でしか、口座の状況を確認していません(苦笑)。日々の値動きによって、各通貨ペアの相関係数は少しずつ変化します。だから、3~4か月に一度の頻度でリバランスしているんです。たとえば、トルコリラ/円の買いと豪ドル/円の売りポジションを持っていたのに、相関係数が下がっていたらトルコリラ/円の買いの枚数を減らして、豪ドル/円の売り枚数を増やすなどの調整が必要になってくる。相関係数の高い通貨ペアを組み合わせて、買いと売りのポジション額が同じになるよう調整しておけば、急激な為替変動リスクの影響を限りなく抑えることが可能です。
――ただ、初心者にはハードルが高そうですね。
高金利の通貨ペアと似たような値動きをする通貨ペアを探し出して、売りと買いを組み合わせるところから始めるといいかもしれません。その時に、2つの通貨ペアだけでなく、ユーロ/ドルの買いないしは売りを組み合わせて3つの通貨ペアでポートフォリオを組むと資産の変動リスクが抑制できる傾向にあります。ユーロ/ドルは世界中のトレーダーが注視する主要通貨ペアなので、これを少し組み入れるだけで自然とパフォーマンスが向上します。
――ほったらかしにしている間は何をしているのでしょうか?
株ですね(笑)。兄のアドバイスをもとに世界中の機関投資家が実践しているクオンツ運用を個人レベルに落とし込める方法を研究しています。具体的には、すべての上場企業の決算情報をエクセルに落とし込んで、四半期ごとの業績の伸び率などを計算してランク付けし、上位の銘柄でポートフォリオを組んだ場合にどれだけのリターンが発生するか?という分析を続けています。実は、この投資は10年近く前から続けているのですが、2013年以降のアベノミクス相場では3年間で2億円近い利益を出すことに成功しました。米中貿易摩擦の影響で世界の株が急落した影響で2018年には3000万円の損失を出してしまいましたが……。
――最後に投資初心者の方にアドバイスをください。
楽して儲けることはできないと伝えたいですね(笑)。投資で100万円稼ごうと思ったら、アルバイトで100万円稼ぐのと同じぐらいの労力をかけるべきです。仮に楽して100万円稼げても、継続して稼ぐことはできません。それどころか、急激な相場変動で一瞬にして100万円を吹き飛ばしてしまう可能性のほうが高い。実際、私はそういう体験を何度も何度もしてきました……。「チャートを見ないでも勝てます」みたいな、楽して儲ける系の投資話にはくれぐれもご注意ください!