「米中新冷戦」をいち早く提言し、その発言が注目を集めるエミン・ユルマズ氏。「いずれ日経平均は30万円を突破する」との予測を立てていることでも有名だ。
バブル崩壊後、失われた30年とも揶揄される日本株式の低迷とともに歩んできた日本人にとって、30万円という数字は俄には信じがたいかもしれない。同氏にこの青写真を描く理由を聞いた。
トルコ・イスタンブール出身。17歳で日本に留学。わずか1年後、日本語で東京大学理科一類に合格。卒業後、野村證券に入社、M&Aアドバイザリー業務、機関投資家営業業務などに従事。四季リサーチを経て、2016年から個人投資家のコミュニティを運営する複眼経済塾の取締役・塾頭に就任。
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日経平均は、過去2回の相場サイクルと同じ軌道を辿っている
-エミンさんは「日経平均30万円」を提言されています。この予想の理由をお教えいただけますか。
数字のインパクトから、私の説をメディアで取り上げていただく機会が増えありがたく思っています。ただ、私のビジョンを勘違いしている方も多いので、最初に誤解を解いておきたいと思います。
端的にいうと、30万円は全く奇想天外な数字ではないということです。日本株は「約40年間の上昇(ブル相場)と約23年間の調整(ベア相場)」というサイクルを過去に2回繰り返しています。ブル相場の1回目は、東京証券取引所の前身である「東京株式取引所」が開設した1878年からの40年間、2回目は一時停止していた東証が終戦後に再開された1949年からの40年間です。この時、それぞれ株価は240倍と225倍に上昇しています。
2013年からはアベノミクスによる3回目のブル相場が始まり、今は上昇の真っ只中にあります。上昇前2012年の日経平均株価の安値を見ると7000円くらいですから、これを200倍したら140万円にもなります。そのことを考えたら、日経平均株価30万円は全く不可能な数字などではありません。
-エミンさんは控えめに30万円と予測されているのですね。
そうです。ただ、この数字にも根拠があります。2回目の上昇期間を、日本株がすごく割安値だった戦後直後と、すごく割高だったバブル期を除いた1965年から1985年までの20年間に置き換えると、株価は20~25倍になっています。
これを今の3回目のサイクルに当てはめてみます。2013年に始まったアベノミクス後の最初の高値である2万円。これを20倍すると40万円、25倍すると50万円です。それを保守的に見積もっても30万円はいくだろうと予測しています。心の中では140万円も夢じゃないと思っていますけどね。
-経済が成熟した日本では難しいと思っていましたが、30万円が現実味を帯びた数字に見えてきました。
私は、みなさん悲観的に捉え過ぎだと思うんです。例えば、明治維新のときなんて日本には馬に乗って刀を持った侍がいるなか、でっかい船で外国人がやってきて、当時の日本人はこんな人達と競争できるのだろうかと思っていただろうし、高度経済成長が始まる前は戦争で周りが全部焼け野原になって、こんな状況から国を立て直せるのかと考えていたはずです。それでも、日本は繰り返し復活してきた。過去に比べたら、今の状況ははるかに恵まれていると思いませんか。今後も日本にビッグチャンスは何度もやってくると思っています。
米中新冷戦の脅威は日本株にとって“追い風”
−株価サイクル以外に、日本株躍進の理由はあるのでしょうか。
他にも2つあると考えています。それが「米中新冷戦」「アメリカ株のバブル崩壊」です。
まず1つ目の米中新冷戦についてですが、その前に、米ソ冷戦が2回目の日本株のサイクルに与えた影響を考えてみましょう。第二次世界大戦後、アメリカとソ連は徐々に対立を深め、冷戦は1945年から1989年まで続きました。これは、2回目の日本株の上昇期間とほぼ一致します。冷戦中の日本はアメリカにとって重要な国でしたから、共産主義陣営に取り込まれないよう優遇されてきた。ところが、共産主義が崩壊すると、日本から資本が一気に引き上げられて、中国、ソ連、東欧諸国に流れていきました。これらの国には豊富な資源があるのに経済発展が遅れていて、成長が期待できるからです。
1989年11月にベルリンの壁が崩壊する一方で、日経平均はその1カ月後に高値をつけバブル崩壊へと向かいます。冷戦の終結と日本のバブル崩壊が同時期という事実が、私の3回目の株価サイクル予測の一因となっています。
シリア内戦やウクライナ危機が勃発し、再び東西の対立が強まったのが2013年です。そして、日本株の3回目の上昇が始まったのもこの年です。新冷戦の構図では、アメリカと中国が激しく対立しています。
米ソ冷戦の終結後には、アメリカは日本をスケープゴートに仕立て、中国に対しエンゲージメント政策で民主化を促そうとしたわけですが、今回はそのようなことができません。なぜなら、日本はちょうど両国の真ん中に位置していて、日本が太平洋のバランスを握っているようなもの。日本を仲間外れにする戦略は取れないのです。
日中関係も悪化していますが、本来であれば中国も日本と対立することは好んでいないはずです。同時にアメリカ・日本と敵対するパワーはないですから。このような政治的な背景も地政学的な環境も、今の日本経済に追い風になってきていると感じます。
アメリカのバブル崩壊が招く、日本株への再評価
2つ目がアメリカのバブル崩壊です。アメリカ株は今、超長期の上昇サイクルの中にありますが、経済のファンダメンタルからかけ離れた動きをしています。つまり、バブル化しています。
連日「S&P500とナスダックが最高値を更新」というニュースが流れ、好景気なのかと思ってしまいますが、そうではありません。私たちアナリストは景気のダウ輸送株指数を用います。工業株指数のダウは景気敏感株の指標であり、その中でもダウ輸送株指数は特に敏感に反応します。
ダウ輸送株指数を見てみると、S&P500とナスダックが最高値を更新している時は実は下がっているんです。これはいわゆるダウ理論で言うところの、ダウ理論が最高値をコンファーム(承認)してないということ。つまり、実態の伴っていない株高です。S&P500のPSRが3倍という数字をみても異常なことがわかります。
そうなると、アメリカの株高の要因は殆どGAFAMと見ることができます。テック株は巣ごもり銘柄ですから、コロナにも強かった。GAFAM5社の時価総額が全日本企業の時価総額を超えたというニュースもありましたが、いずれにせよ、アメリカ株は過大評価されすぎているし、日本株は過小評価されすぎている。アメリカのバブルはいずれ弾けます。
−アメリカのバブルが弾けるとどのようなことが起こるのでしょうか。
世界の株はアメリカ株に連動しているので、世界中が迷惑を被ることになります。もちろん、日本株も暴落するでしょう。ただ、私はアメリカ株のバブルが弾けた方が、日本にグローバル資本が入りやすくなるので好機だと思っています。
しかし、アメリカのバブル崩壊が何をきっかけに起こるかはわかりません。ワクチンが効かないコロナ変異型が原因になるかもしれないし、バイデン政権の支持率低下や、ただ単純に上げ相場の息切れによるものかもしれない。今が日本のバブルで言う1988年なのか87年なのか、それとも1989年の10月なのかというのは予測ができないのです。分かったら私は今頃、第2のバフェットですから(笑)。
冗談はさておき、将来の予想は短期になるほど難しい。半年や1年後に株価が上がっている確信はないけれど長期ビジョンであれば「30年後に日経平均30万円」になるだろうと見通しを立てることができるのです。
−日本株ではどんなテーマやセクターに注目されていますか。
日本のバリュー株の人気が爆発すると思います。「バリュー=クオリティ」と言い換えられます。世界的に見てバリュー株の象徴は日本株なんです。日本株は、高成長ではないけれどもクオリティが高い。
今の相場は、2000年のITバブルに非常に似ています。ITバブルが崩壊した後、テック株を始めグロース株は10年以上パフォーマンスが悪く、反対にバリュー株のパフォーマンスが好調でした。アメリカのバブル崩壊後も、同じようにバリュー株にお金が流れると思います。
例えば、製造業、機械、自動車セクターであれば、三菱重工、川崎重工、マツダ、ホンダが代表的です。ロケットや戦闘機や飛行機を作っているのに時価総額が1兆円を割る企業があるなんて実に信じがたい話です。
大企業でなくとも、世界シェアが非常に高く高品質の製品を作っているところはたくさんあります。鉄鋼、化学、半導体と挙げればキリがありませんが、判断基準としては、PBR(株価純資産倍率)が1倍割れ、PSR(株価売上高倍率)が1倍前後で、配当があって、自己資本比率が5割以上かつ営業キャッシュフローがプラスだったら問題ないでしょう。まだ日の目を浴びていない優良企業はゴロゴロ転がっています。
-銘柄選びが難しいと感じる人へのアドバイスはありますか。
株式投資が初めてという人なら、最初は儲けようという欲を出さずに、自分が応援したい企業の株をちょっとだけ買ってみてください。好きなアパレルや靴メーカーでもいいですし、車が好きなら自動車メーカー、よく電車や飛行機を利用しているなら鉄道会社や航空会社でもいいです。慣れ親しんだ会社の株を購入すれば、その会社の業績とか株価の動きに興味を持ってくるはずです。その企業を単純に応援したいという気持ちが大切です。そうすれば多少株価が下がっても投資を嫌いになることはないですから。
資産運用には、さまざまな金融商品や手法がありますが、株の現物取引なら証券口座を作って購入するだけなので、本当に簡単にスタートできます。その入り口さえくぐれば、そこから色々な資産運用に興味が持てると思います。