千葉県立佐原高校を卒業後、青山学院大学へ入学。
プロ野球選手を目指し、大学まで野球に没頭する。
大学卒業後は都内ハウスメーカーで3年、大手不動産会社で3年の修行を経て 2011 年同社に入社。
父である5代目社長「菅谷重行」の愉しく働く姿に憧れ、家業であるハウジング重兵衛に戻り、事業を継承する事を決意。
入社後 1 年は職人として現場を学び、2012 年常務に就任、2019 年に社長に就任し現在に至る。
創業からこれまでの事業変遷と貴社の強み
—— これまでの事業変遷と御社の強みについて教えていただけますか?
株式会社ハウジング重兵衛 代表取締役・菅谷 重貴氏(以下、社名・氏名略) 当社は、初代の菅谷重兵衛が木こり兼大工として始めたのが起源です。木材を製材して材木商として売り、一部は建築も手掛けて事業運営をしていました。
四代目である私の祖父の時代はバブル期だったため、建設業が好調で、酒を飲みに行って仕事を取ってくるようなことも多かったそうです。しかし、その後のバブル崩壊を受け会社が大変な時期がありました。
2000年頃から、父が五代目として引き継ぎ、新築をメインとした業態からリフォーム事業へと大きく転換しました。時流に合わせて変化し、生き残るために工夫を重ねてきたことが、今の強みの一つです。また、地元密着でやってきたことも大きな強みだと考えています。
—— 御社の特徴として、職人さんの雇用形態や育成に注力されている点があると思いますが、その点も詳しくお聞かせいただけますか?
菅谷 現在グループ全体で150名のうち、約30名が自社の正社員雇用している職人です。2015年頃から職人の減少を見越して、育成に力を入れるようになりました。また、良い親方が複数名育ってきたということもあり、2018年からは新卒採用を始めました。職人の育成に注力してから10年ほどで30名ほどに増え、これが、お客様からの信頼感にも繋がり、営業社員にとっても大きな強みとなっています。自社でこれほど職人を抱えている企業も珍しいと言われます。
また、当社が120年続いてきた理由を聞かれたら、私は一言で「家族を大事にしてきたから」とはっきりと答えるようにしています。お客様の家に関わる事業体としても、社員を家族のように考え大切にするという点でも、当社の企業理念である「家族を大切にする人を増やす」を徹底してきたから今があるのだと感じています。
—— 職人業界の厳しい環境の中で、御社がどのようにしてこのような形を実現しているのか、興味があります。
菅谷 職人業界は「きつい、汚い、危険」という3K職種として知られています。加えて、給料が意外と安いという現実もあります。職人の多くは一人親方として働き稼げるものの、経費がかさむことから、実際にはあまり儲からないという声をよく耳にします。また、技術を教えない風潮もあり、親方が自分の技術を秘匿することが一般的でした。
しかし、私たちは自社で職人を育てることが強みになると考え、積極的に雇用を進めてきました。やんちゃな性格の職人が多い中で、彼らを束ねるのは大変ですが、集団としての力を発揮できるよう努めています。ただ、まだまだ発展途上なので、現在の30人の職人を100人に増やすことを目指しています。
承継の経緯と当時の心意気
—— 事業を承継されたときの状況についてお伺いしたいのですが、先代から引き継ぐ際にどのような苦労がありましたか?
菅谷 まず、私は大学まで野球に打ち込んでいました。親からは家業を継げとは一切言われず、プロ野球選手になる夢を本気で応援してもらっていたので感謝しています。大学で野球を終えたとき、将来について少し悩みましたが、結局は父と働きたいという気持ちが強くなりました。
父に伝えたところ、すぐに戻るのではなく、他の会社で経験を積んでこいと言われました。父は他の会社を知らない私にとって、他の会社の経験が大事だと考えていたようです。それで東京で建築業の修業を3年間行い、その後は三井のリハウスで3年間働きました。そして、ある程度の成果を出せた自負を持って、2011年にハウジング重兵衛に戻りました。
当社に来てから最初の3年間は特に大変でした。父の考えと同じく、会社を良くしたいという思いは一緒でも、会社経営のプロセスが違ったからです。父は長時間働くことが当然だと考えていましたが、私はそれでは社員が疲弊すると感じていました。実際に当時 は東日本大震災の影響もあり、社員の疲労や退職が相次いでいました。
私も1年間職人を経験し、2年目以降は経営に携わるようになりましたが、しだいに父とぶつかることが多くなりました。会議中に親子喧嘩を社員に見せるようなこともあったりして、これではダメだなと思いましたね。
—— そこから切り替えたきっかけは何だったのでしょうか?
菅谷 研修での気づきが大きかったです。色々な経営にまつわる研修を受けていたのですが、その中でも印象的だったある研修で、他人を変えるのではなく、自分の考え方や行動を変えることが大切だと学びました。「他人と過去は変えられない、変えられるのは自分と未来」という考えに触れ、父との関係も、文句を言っているばかりではなく感謝と謙虚さを持って接することで変わりました。自分の関わり方を見直し、父としてではなく、社長として接するようになったことで、関係性もよくなっていきました。会社の目指す方向は同じだったので、父のやり方や考えを尊重することで、父も私に仕事を任せてくれるようになり、会社も良い形で成長していき、2019年に社長に就任させてもらいました。
ぶつかった壁やその乗り越え方
—— ぶつかった壁やその乗り越え方についてお聞きしたいと思います。事業を引き継いでから社員の働き方を大きく変えたと伺いましたが、どのように従業員に浸透させていったのでしょうか。
菅谷 まず、父との関わり方を見直す過程で、社員に対するアプローチも変わりました。以前は父の影響もあって、トップダウンの指示が強かったと思います。父はいわゆる職人肌で、営業のことはあまりわからないからと社員に任せることが多く、やはり親方気質で経営していました。
私自身もそのような気質を持っていますが、働いていて指示されるだけではやりがいがないと感じました。前職でも、自分でやりたいことができるようになって、仕事が面白くなってきた経験があります。そこで、社員にも主体性を持って働ける環境を提供したいと考えました。
そこから、社外研修や理念の再構築を行いました。会社を大きくすることが目的ではなく、真の仲間を作ることが私たちの目的です。その結果として目標を達成していくというスタイルを共有し、共通認識を持つことができました。
—— 離職率も改善されてきたと伺いました。従業員に浸透していると感じますが、手ごたえはいかがですか?
菅谷 そうですね、ここ数年で離職率は3%程度に落ち着いています。しかし、今年に入って数名の退職者が出ました。特に副店長レベルでの退職があり、まだ課題が残っていると感じています。
店舗によってはうまくいっているところもありますが、育ち盛りの店舗ではまだ問題が残っています。単に売上を向上させるだけではなく、社員間で良い関係性を築くことが重要です。店長への関わりが足りなかったことや、メンバーが大事にしている部分を理解できていなかったことも要因としてあります。
現在、これらの課題に取り組んでいるところです。条件としては改善されてきていると思いますが、まだまだやるべきことがあると感じています。
今後の新規事業や既存事業の拡大プラン
—— 今後の展望についてお伺いしたいと思います。例えば、既存の事業を拡大する計画や、新しい事業を考えていることがあれば教えていただけますか?
菅谷 私たちは「一志団結」という理念を追求しつつ、高い目標を掲げて進めていくことが大切だと考えており、2030年にグループ全体で売上100億円を超えることを目指しています。そのためには、不動産事業に注力する必要があります。空き家の増加を背景に、リフォームを組み合わせた不動産事業を展開したいと長年思っていて、今年、ようやく新規事業としてスタートできたのは目標達成に向けた大きな一歩だと感じています。
—— それは素晴らしいですね。他にも何か新しい取り組みがありますか?
菅谷 職人不足を解消するために、一般社団法人Japan Multi- Crafter Academyという会社を作り、職人を育成する学校を設立しました。これにより、職人を正社員として雇用することがリスクではなく、集団化が可能であることを業界に示したいと思っています。こういった活動にも力を入れ、グループ全体で売上100億円、社員数400名(職人100名、一般職員300名)を目指しています。この規模まで成長させた上で、社員一人ひとりの顔と名前が一致するような、血の通った組織を作りたいと考えています。
—— 2030年までに達成したい目標が明確ですね。目標を達成する上で重要視しているところがあれば教えてください。
菅谷 現在、グループは4社体制で運営しています。ただ、これらの代表は全て私がやっている状況なので、今後は経営者を育てることが重要だと考えており、社内からリーダーを育成したいと思っています。外部から人材を求めるのではなく、社内から経営者を輩出することで、信頼できる組織を築きたいと考えています。
メディアユーザーへ一言
—— 読者の方に向けてメッセージをお願いできますか。
菅谷 今、我々は試行錯誤を続けており、その過程で社員が辞めてしまうこともあります。会社として完璧ではないものの、これからも諦めずに進んでいきたいと思っています。
採用活動が多様化し激化している今、高い給料を払えば人材を確保できるかもしれませんが、それでは結局大手にはかなわないと思っています。そこで、地場に密着して、ここで働きたい、この仲間とともに成長していきたいと思えるような組織を作り続けていきたいと考えています。
—— 貴重なお話を伺えたことに感謝しています。