ネット証券やスマホ証券の登場によって敷居が低くなり、新たに株式投資を始める人が増えている。しかし、新型コロナウイルスの影響に伴う経済不安もあり、どのように投資先を見つけるべきか迷う人も多いだろう。そこで、割安な銘柄に投資する手法「バリュー投資」について、IFA法人マネーブレイン代表の白石定之氏にご解説いただいた。

白石定之氏
白石定之氏
中学3年から父親の勧めで株式投資を始める。慶大理工学部卒業後、日立製作所、野村證券を経て、2012年にIFA(独立系フィナンシャルアドバイザー)として独立、2014年にIFA法人マネーブレインを設立。
『バリュー投資講座』を開講し、自らの経験を踏まえ、バリュー投資の学びと実践の場を提供している。セミナーにおいては、資産運用におけるメンタルの重要性についての具体的で分かり易い説明が多くの参加者の共感を呼んでいる。楽天証券の投資情報メディア『トウシル』においては掲載コラムが週間人気記事ランキング1位を獲得する等、人気を博している。著書に『資産運用で成功する人はここにいる』『投資信託でうまくいく人、いかない人』がある。

HP:https://moneybrain.co.jp/

投資歴35年のIFAが実践する「バリュー投資」

バリュー投資
(画像=PIXTA)

私は1987年の中学3年生のときに、父親から「300万円を自分で運用して大学に行くか、親のスネをかじって大学に行くか決めろ」と言われ、「じゃあ、運用する」と答え、そこから私の株式投資が始まりました。現在、35年目になりますが、投資を始めて数年後にバリュー投資に出会い、今もバリュー投資に魅了され続けています。

なぜ私がバリュー投資にそこまで魅了されているのかというと、バリュー投資の根本の考え方が堅実で、効率が良いからです。また、バリュー投資においては企業を1社1社見ていくのですが、キラリと光る銘柄を発掘したときには宝物を発見したような喜びがあり、自ら発掘した銘柄に投資をして実際に利益を得たときの喜びもひとしおです。企業を調べる過程においては、創業者を筆頭に人の想いが企業を動かしていることが感じられ、それがとても興味深くもあります。

今回、バリュー投資の魅力について、私の経験も踏まえてお伝えしていきたいと思います。

「バリュー投資」とは何か?

バリュー投資というと、ウォーレン・バフェット氏を思い浮かべられる方も多いのではないでしょうか?ウォーレン・バフェット氏はバリュー投資の神様ともいわれる方であり、私も大好きで、バフェット氏に関する多くの書籍を持っています。

バリュー投資は簡単に言うと、「本来の企業価値から見て株価が安い銘柄に投資をする手法」です。何をもって本来の企業価値を測るかですが、一般的には、業績から見て割安な銘柄(PER(株価収益率)が低い銘柄)、保有資産から見て割安な銘柄(PBR(株価純資産倍率)が低い銘柄)に投資をする手法といわれています。

PER(株価収益率)=株価÷1株当たりの利益
PBR(株価純資産倍率)=株価÷1株当たりの純資産

ただし、私の経験からは、単に低PER、低PBRの銘柄に投資をするだけではなかなかうまくいかないと思います。実際のところ、「低PER、低PBRの銘柄に投資をするのがバリュー投資」と言われると、私自身、違和感があります。私のイメージするバリュー投資は、次のような視点で投資をする手法です。

① 大型株ではなく、中小型株
② 業績から見て割安なだけではなく、成長性も加味したうえで割安な銘柄
③ キャッシュリッチ(有利子負債よりも現預金等が多い)な銘柄

①の大型株ではなく中小型株になるのは、中小型株のほうが流動性が少なく、見ている人も少ないので、相対的に割安になりやすいからです。

②については、成長しない銘柄は結局、株価が上がったり下がったりで長期的に横ばいのイメ―ジですが、成長する銘柄は、上がり下がりしながら長期的に株価は上昇していくことが期待できるからです。また、成長していれば、多少買いのタイミングが悪くても、のちのち成長に伴って株価が上昇し、カバーしてくれることも期待できます。バリュー投資は、「割安な銘柄を長期に保有する手法」とも言われますが、長期保有に適しているのは、あくまでも成長性を兼ね備えた銘柄のみと考えています。

③のキャッシュリッチな銘柄を好む理由は、仮に大不況が来たときでも会社がつぶれにくく、安心感があるからです。

バリュー投資(割安株投資)に対して、グロース投資(成長株投資)という言葉が対極のように言われますが、私のイメージするバリュー投資は、この2つが融合した「割安成長株投資」です。バリュー投資を長年行っている人ほど、この割安成長株投資の視点になっている方が多いように思います。

そもそも「バリュー投資」は効率が良い

少し俯瞰してみましょう。現在、日本におけるさまざまな投資対象の利回り相当は、次のようになっています。

  • 普通預金……0.001%
  • 10年日本国債……0.052%
  • J-REIT(予想分配金利回り)……3.34%
  • 日本株(東証1部全銘柄 予想株式益回り)……6.03%

出典:
普通預金……三菱UFJ銀行 2021年9月17日
10年日本国債……財務省 2021年9月16日
J-REIT……一般社団法人不動産証券化協会 2021年7月末日
日本株……日本経済新聞社 2021年9月17日

預金は減らないという強みがあり、一方で株式は大きく上下に動くので、単純に比較できるものではありませんが、これらの中では日本株の6.03%が際立っています。バリュー投資はこの日本株を対象にして6.03%を活用しているという点が、そもそも効率が良い要因です。

さらに、この6.03%は東証一部全銘柄の平均値ですが、バリュー投資においては基本、平均よりも割安な銘柄を選定していくので、より効率の良さにつながっていると考えています。

抑えるべき「バリュー投資」の銘柄選定ポイント

バリュー投資においては、当然ながら銘柄選定がとても重要です。どのような視点で銘柄選定をしていくかですが、私は次の5つを基準としています。

① PERが低いこと(高くても25倍まで)
② 売上高営業利益率が高いこと(最低でも5%以上)
③ 売上高、営業利益が右肩上がりの傾向にあること(過去10年間の増加率が最低でも30%以上)
④ キャッシュリッチであること(有利子負債よりも現預金が多い)
⑤ 共感できること

このうち、①、②、⑤は必須条件で、③、④については少なくともどちらか一方はクリアする銘柄を選定しています。

①において、PERが25倍を超える銘柄を避ける理由は、高PER銘柄は高成長が期待されているケースが多いため、もし高成長できなかった場合に株価が急落する危険性が高いからです。高成長すると思われた銘柄の成長が止まったときの株価の急落ぶりは半端ありません。高成長が続き、株価が大きく上がるかもしれませんが、私はそれよりも危険性を避けるほうを重視しています。

逆にPERが低ければ低いほどよいかというと、そういう訳でもありません。PERが低い銘柄はいつでも低い万年割安株だったりします。仮にPERが10倍で低いと思っても、過去の推移が7倍から10倍の範囲で推移していたら高いということになります。このため、単純にPERの絶対値だけを見るのではなく、過去のPERの推移から見て、低いのか、高いのかを見る必要があります。

②、③においては、注目した銘柄について、決算短信や有価証券報告書から次の表を作成して、売上高、営業利益、営業利益率の推移を見ています。このような表を作成することによって、過去の推移や前年比が一目瞭然で確認できるのでおすすめです。

表

②において、売上高営業利益率が高い銘柄に着目するのは、高ければ高いほど、独自性があり、競争力があると見ているからで、その銘柄が業界のトップ企業であればなおよいでしょう。また、足もとの数字だけではなく、表からこれまでの推移を見て、利益率が上がっているのか、下がっているのか、横ばいなのかも見ていきます。

③においては、表から売上高、営業利益が順調に増えているか、成長性について見ていきます。これまで順調に成長してきた企業は、これからも成長が続く可能性が高いと見ています。

④については、前述のとおり、会社がつぶれにくく安心感があるからです。キャッシュリッチであるということは、高収益企業である表れでもあります。配当金の増額や、自社株買いといった株主還元も期待できるため、私自身、キャッシュリッチな銘柄を好んで選定しています。

⑤については、そもそもなぜ創業したのか、創業者の想いを見ていきます。今に至る会社の沿革を調べ、現在、その会社が何を行っていきたいのかについても見ていきます。その結果、応援したいと思ったり、社長の考えや想いに共感できたりする企業を選んでいきます。「業績は良くて高収益なので割安だと思うんだけど、何かモヤモヤするものがあるなあ」と思ったら対象外とします。やはり投資をするのであれば、単に儲かればよいというのではなく、気持ちよく投資したいものです。このため、共感できるかについても見ていきます。

このような視点から選定をしていくことで、割安で、かつ応援したいと思える自分にとってすばらしい銘柄がピックアップできます。

「バリュー投資」の実践方法

銘柄の選定ができたとしても、どのように投資をしていくかがまた難しいところです。いつ買ったらよいのか、いつ売ったらよいのか、悩まれる方も多いと思います。そのような方におすすめしたいのが、次の表を作って、売買のルールをあらかじめ決めておくことです。

投資対象銘柄リスト

投資対象銘柄リスト

投資対象は少なくとも5銘柄以上をおすすめします。1、2銘柄への集中投資はうまくいけばよいですが、うまくいかなかったら大けがをすることになります。逆に10銘柄を大きく超えると管理が難しくなってくるので、10銘柄程度がおすすめです。

そして、下がったら段階的に買い、上がったら段階的に売るために、買い水準を3段階、売り水準を2段階設定します。この買い水準、売り水準については、私自身は移動平均線やPERから求めた値、過去の高値、安値などを参考にして決めていますが、ここでは一つ簡単な方法をお伝えしたいと思います。

まずは投資対象とした銘柄について、「今の株価は安い」もしくは「この株価まで下がったら買いたい」と思ったその株価を買い水準の①とします。そして、買い水準②は買い水準①から1割下、買い水準③は買い水準①から2割下の株価で設定します。売り水準①は買い水準①の2割上、売り水準②は買い水準①の4割上で設定します。

仮に買い水準①が1,000だったとすると、次のようになります。

売買水準の例

売買水準の例

これはあくまでも1つの例ですが、なかなか決められないという場合は、参考にしていただければと思います。

実際の投資において、10銘柄を投資対象とした場合、1銘柄当たりの最大投資金額を全体の運用資産の10分の1(運用資産が1000万円であれば、1銘柄当たり最大100万円)で考え、買い水準①、②、③で段階的に買うようにしていきます。

投資においては悩みのない状態にすること、割り切ることが重要です。いつ買ったらよいのか、いつ売ったらよいのかを常に悩んでいる状態だと、「あのとき買っていたら」「あのとき売っていれば」という「たら」「れば」につながり、その結果、運用のやり方自体がチグハグになってしまいかねません。

この表を基に売買をしていくやり方は、投資対象とした銘柄がそもそも割安で、かつ、「安く買って高く売る」仕組み(高いところを買ってしまい、安いところを売ってしまうことを避ける仕組み)になっています。丹念に行っていくことによって、中長期で資産を増やすことができるはずと考えています。

「バリュー投資」メリットとデメリット

では、このバリュー投資のやり方をしていれば万能なのでしょうか?今回お伝えしたバリュー投資のメリット、デメリットを挙げてみましょう。

バリュー投資のメリット

  • 基本、「安く買って高く売る」仕組みなので、中長期で資産を増やすことが期待できる
  • 安くなるまで現金ポジションで待つので、マーケット全体が下落する局面でも大きく資産を減らすことなく、逆に安いところで買うことができる
  • 成長している銘柄であれば、株価が下落しても待てばいずれ上昇が期待できる
  • 業績の裏付けがあるため、安心感がある

バリュー投資のデメリット

  • 安くならないと買わないので、上昇局面を逃すことがある。
  • 景気の波に業績が大きく左右される銘柄は、株価が安いときに業績が悪いので割高、株価が高いときに業績が良いので割安に見えてしまうことがある(このため、景気の波に業績が大きく左右される銘柄については、業績が悪く株価が安いうちに買い、業績が良く株価が高いときに売るという戦略を取る必要がある)
  • 成長すると見ていた銘柄が成長しなかったときには、株価が下落したまま低迷することがある。
  • 株価の上昇までじっと待つ必要がある。

このようにメリット、デメリットの両面がありますが、「段階的に安く買って高く売る」仕組みは、短期で資産を大きく増やしたい方には向かないと思う一方、中長期の視点で「増やしたいけど減らしたくない」という方にはぴったりだと考えています。

これから資産運用を始める方へ

私自身、資産運用における一番の敵は、自分自身の中にある一喜一憂の心理だと思っています。

一喜一憂の心理は、マーケットが上がれば上がるほど「もっともっと!」とお金を投じさせ、下がると怖くて踏み込めない、もしくはさらに下がると思うと売りたくなるということを私たちにさせてきます。結果として、一喜一憂に支配されてしまうと、「高いところで買い、低いところで買えない、もしくは売ってしまう」を繰り返して、資産を減らしてしまうのです。

一喜一憂は人間であれば当たり前のようにするもので、簡単に克服できるものではありません。そこで、一喜一憂に支配されないために、次の2つをお伝えしたいと思います。

1つ目は、自分自身が一喜一憂したらそれに気づき、横に置き続けることです。気づき、捉えることができれば、「あっ、また一喜一憂してしまった。こういうときには判断しないほうがいい。冷静になるまで待とう」と横に置くことができます。

2つ目は、投資のやり方自体を一喜一憂に支配されないやり方にすることです。そして、「このやり方をやっていれば、うまくいくはずだ」と自分を信じることです。実は、今回お伝えしたバリュー投資のやり方は、一喜一憂に支配されないやり方になっています。一喜一憂の心理がさせる「高いところを買わせ、安いところを売らせる」とは真逆の「安いところを買い、高いところを売る」を行うやり方で、感情に流されないようにするために、投資対象銘柄リストを作り、売買水準を決め、それに従って動くようにしているのです。

このやり方自体も数ある投資手法のうちの1つにすぎませんが、どんな手法で投資をされるにしろ、資産運用の一番の敵は自らの一喜一憂の心理であることを、頭の中に常に置いておかれることをおすすめします。

一喜一憂に支配されないことを意識し、自分の行っているやり方を信じ続けることによって、いつしか一喜一憂しない心を手に入れていることと思います。そのときには、きっと運用の結果も付いてきているでしょう。頑張ってまいりましょう!