コロナ禍に伴う在宅勤務の増加などを契機に、株式投資に関心を持つ人々が増えている。しかし、4,000弱ある上場企業の中から、どのように投資先を見つけるべきか迷う人も多いだろう。そこで、元SAMURAI証券株式会社の代表で、金融コンサルタント・政治経済アナリストの澤田聖陽氏に、初心者が押さえるべき「決算書」のポイントについてご解説いただいた。

澤田聖陽(さわだ・きよはる)氏 
澤田聖陽(さわだ・きよはる)氏 
新卒で証券会社に入社。その後、投資銀行事業、Fintech事業を手掛ける。2013年から2019年までSAMURAI証券株式会社の代表を務める。現在は、澤田コンサルティング事務所の代表としてコンサルティング事業を行いながら、複数の企業に顧問として携わっている。また2020年10月からAGクラウドファンディング株式会社(アイフルグループ)の専務取締役も務める。

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株式投資で勝つための要素

決算書,ポイント
(画像=PIXTA)

決算書を読まずに株式投資をするのは、海図なしで航海に出るのと同じです。株式投資で利益を得るのは、偶然の要素と必然の要素があります。投資で必然の要素のみで勝つのは実際難しいのですが、だからと言ってすべて偶然に賭けるというのは無謀でしかありません。

株式投資で勝つ必然性を高めるのに絶対必要なのが、決算書の分析です。絶対に必要なものですが、意外にも決算書も見ずに投資する人はかなりいます。また決算書は見ているものの、内容をよく理解しないで投資してしまうという人も多いです。

本稿では、決算書とは何かということから、決算書の見方、個別事例における決算書の意味等を解説していきます。

決算書とは何か?

決算書とは一言でいえば、「ある時点の企業の状態を示すもの」ということになります。決算書は大きく分けると、「貸借対照表」(Balance sheet、以下「BS」)と「損益計算書」(Profit and Loss Statement、以下「PL」)に分けられます(上場会社ではBS、PL以外に、キャッシュフローを表す「キャッシュフロー計算書」も開示される)。

BSは「ある時点での企業の資産、負債及び資本の状況を表すもの」、PLは「ある期間の企業の稼ぎや儲けを表すもの」です。上場企業では四半期決算制度が導入されていて、例えば3月決算の会社であれば、6月、9月、12月、3月各月の末日時点でのBS、PLが開示されます。

決算書の見方

決算書の見方について、まずBSよりも単純なPLから説明していきます。

PLとは

PLが「ある期間の企業の稼ぎや儲けを表すもの」であることは前述のとおりですが、具体的に企業会計では、稼ぎは売上、儲けは利益ということになります。以下の参考例のPLに沿ってご説明していきます。なお、分かりやすいように単純なPL内容にしています。

PL

PLは縦に上から読んでいく形になります。まず一番上に「売上」が記載されます。これは文字どおり、その期間の企業の売上です。

次に「売上原価」ですが、売上には製造もしくは仕入れに関する費用が発生するわけですが、それが「売上原価」になります。売上には手数料売り上げなど、原価を伴わない売上もあります。

「売上」から「売上原価」を引いたものが、「売上粗利益」になり、商取引で生じた販売やバックオフィスなどのコストなどを引く前の利益になります。

会社を運営していくには営業や管理部門の人件費、オフィスの賃料、その他の経費などが必要ですが、それが「販売管理費」になります。

「売上粗利益」から「販売管理費」を引いたものが「営業利益」になります。「営業利益」は、企業が営業活動から得た利益ということになります。ここに営業活動以外で得た収益の「営業外収益」と、営業活動以外で必要になったコストの「営業外費用」を足し引きして「経常利益」が算出されます。

「経常利益」から臨時的な特別損益があった場合、それを引いたものが「税引前当期純利益」になります。企業の儲けに対しては法人税が課税されますので、「税引前当期純利益」から法人税を引いたものが「当期純利益」となり、これが株主への配当や内部留保(株主に配当せずに資本として会社に残る金額)の原資となります。

参考例のPLに沿って、具体的な数字で説明します。

売上1,000万円で売上原価が500万円かかっているので、売上粗利益は500万円になります。

販売管理費が250万円かかっているので営業利益が250万円、営業外収益が50万円、営業外費用が100万円かかっていますので、250万円+50万円-100万円で経常利益が200万円になります。

臨時的な特別損益は無かったので税引前利益は経常利益と同額の200万円、そこから法人税(30%と仮定)が引かれて、当期純利益が140万円ということになります。

参考例は分かりやすいように単純化して説明しているので、上場会社では業務内容によって投資資産の評価損益が売上に計上される企業があったり、特別利益に計上される企業があったりと、もっと複雑になりますが、PLの大まかな仕組みは理解いただけたかと思います。

BSとは

BSは「ある時点での企業の資産、負債および資本の状況を表すもの」になります。PLに比べると少し複雑になりますが、PLと同様に以下の参考例を使ってご説明していきます。

BS

BSは大きく資産の部、負債の部、資本の部に分かれます。

負債の部と資本の部は調達や支払うべきものおよび自己資本の状況を表すもの、資産の部は企業の保有する資産の状況がどのようになっているか表すものになります。

資産の部は、「流動資産」「固定資産」「投資その他の資産」に分けられます。

「流動資産」は、その名のとおり流動性のある資産で、代表的なものとしては現預金、受取手形、売掛金、(販売用)商品などがあります。

「固定資産」は、流動資産とは逆に固定化されていて現金化が容易ではない資産です。土地建物のような不動産、工場の機械などが有形固定資産、ソフトウェアなどが無形固定資産になり、その合計が固定資産になります。

「投資その他の資産」は、固定資産で有形固定資産、無形固定資産のどちらにも入らないもので、代表的なものとしては短期売買目的ではない有価証券や関連会社株式などがあります。

「流動資産」「固定資産」「投資その他の資産」を合計したものが、その企業の資産の状況なのですが、気を付けなければいけないのは、資産が本当に簿価(BSに記載されている金額)の価値があるのかどうかという点です。

上場企業は、毎期監査法人の監査が入っており、簿価と実勢価格が大きく乖離している資産は減損処理と言って簿価を修正させられます(BSの価格が下がった分はPLでの損として計上されます)。

逆に言うと、「簿価と時価の乖離があるであろう資産」を保有している企業は、減損処理によるPLの損失計上とBSの資本の減少が発生するリスクがあるということです。

例えば、不動産業などは、BS上に不動産を多く抱える可能性が高いわけですが、BS上の不動産と実際の不動産価格との乖離が顕著になったり、賃料収入などの収益を生んでいた不動産の空室などが多くなって、当初想定どおりの収益を生まなくなったりすると、監査法人から減損処理を迫られる可能性があります。

また売掛金が決算期末を越えて未収になってしまったりすると、貸倒引当金を積まされたりします。これも一種の資産の減損処理と言えます。

「資産の部は、BSに計上されている額の価値が本当にあるのか?」という点が、資産の部を見るうえでのポイントになることが分かっていただけたかと思います。

減損処理などの可能性のある資産を多く保有している企業は、期末で減損損失を計上して大きな赤字に陥るというケースもありますので、投資に際して気を付ける必要があります。

例えば、参考例のBSの場合、純資産は2,000万円ですが、仮に固定資産の土地、建物、機械の価値(合計2,500万円)が、実質的には土地の価値300万円しか価値が無かったとしたら、「2,000万円̠(純資産)-2,200万円(資産価値の減少分)」で、この企業は実質的には200万円の債務超過(会社が抱えている負債の総額が、資産の総額を超えている財務状況)ということになります。

次に負債の部ですが、負債の部は他人資本(銀行借入や社債等)による資金の調達や、「支払手形」や「買掛金」など取引先への支払い債務が記載されています。

銀行借入について1年以内のものは短期借入金、1年超のものは長期借入金に入れられます。もともと長期借入金で、返済まで1年以内になったものは1年以内長期借入金として流動負債に移されます。

負債の部の見方としては、資本の部と比べて過剰債務状態ではないか(自己資本比率などの水準を確認すれば分かります)、負債に対しての返済や支払いが約束通り行われているかという点がポイントになります。

最後に資本の部ですが、資本の部は大きく分けて資本金、資本剰余金(主に資本準備金)、利益剰余金に分けられます。

資本金と資本準備金は増資によって調達した資本です。増資の際、増資金額の1/2を超えない額を、資本金に計上しないで資本準備金に計上できるという決まりがあります。その他資本剰余金という科目もありますが、ここでは割愛します。

利益剰余金は、今まで企業が貯めてきた税引後利益で株主に配当しなかった金額(内部留保)の合計額です。

資本の合計は、純資産といわれます。よく純資産価格という言葉を聞くと思いますが、この純資産の額を指します。

株価が割高か割安かを資産アプローチの観点から評価する指標としてPBR(株価純資産倍率)という指標がありますが、これは時価総額を純資産価格と比べた指標になります。

時価総額が100億円で純資産価格が50億円であればPBRは2倍、逆に時価総額が50億円で純資産価格が100億円であればPBRは0.5倍ということになり、後者のようなPBR1倍を割っている企業を純資産割れの状態と言います。

企業が純資産以下の価格で買えるわけですから、一般的には割安に放置されている状況です。ただし、PBR1倍割れだから必ずしも「割安だから買い」と言えません。割安に放置されているにはそれなりの理由があり、その点を加味する必要があるのです。

ソフトバンクの決算書は特殊なのか?

企業の決算書の成り立ちをご説明してきましたが、お話ししたようなBS、PLの見方だけでは、企業の状況を見極めにくい会社も存在します。

最も顕著な例は、ソフトバンクグループ <9984>です。

ソフトバンクグループの2021年3月期の決算を見ると、売上が5,628,167百万円に対して、税引前利益が5,670,456百万円と売上を税引前利益が上回っているといういびつな状態になっています。また投資利益が7兆5,290億円計上されていますが、投資利益のうち約6兆5000億円がキャッシュインを伴わない有価証券の評価益等だというのも極めて特徴的です。

ソフトバンクグループは、IFRS(国際会計基準)という会計制度を採用しています。上場企業は日本基準とIFRSのいずれかの基準を採用することになっており、IFRSを採用している企業は東証上場企業3,700社弱のうち234社となっています(2020年6月末時点)。

IFRSでは、投資有価証券を時価で評価して、損益をPLに計上します。ソフトバンクも投資先の上場株、未上場株を時価評価して、含み益をPLに投資利益として計上しています。この利益はあくまで含み益ですので、その時点で含みの部分をPLに利益として計上しますが、今後価値が下がれば逆に評価損を計上することになります。

ソフトバンクグループは兆円単位のベンチャー投資を行っており、その価値が常に増えたり減ったりします。2021年3月期に、日本企業で過去最高の4兆9,879億円の純利益を計上しましたが、業態の性質上利益のボラティリティ(振れ幅)が高いといわれるのはそのためです。

決算書を見るべきポイント

決算書で見るべきポイントを3つ挙げるとすると、以下に記載した点であると考えます。

1. PLは粗利益率やその推移を見る。粗利益率が下がっている傾向があるようであれば要注意

2. BSは資産の部の本当の価値と、負債の部の返済や支払いの履行状況を見る。

3. 業種によってBS、PLの特徴があるので同業他社の数値と比較して検証してみる。

多くの決算書を見ていくと、決算書の数字の違和感に気が付く能力が身に付いてきます。

例えば特定の業種の企業を複数見ていくと、ある企業だけあまりにも不自然に粗利益率が高い点など気が付くようになります。

また売上は伸びているけど、不自然に売掛金が増大していて回収できていないのではないかなど、この違和感に気が付く能力を身に付ければ決算書読みの上級者と言えます。

まずは出来るだけ多くの企業の決算書を読むことから始めていただければと思います。