外国為替取引(FX取引)は時間帯による制限がほとんどなく、平日なら原則24時間いつでも取引することが可能です。ウェリントン、シドニー、東京、ロンドン、ニューヨークと、次々に市場が開かれ、常にどこかで取引が行われているため、平日の昼間に仕事などで忙しい方でも取引に参加しやすい点はFXの大きな特徴と言えます。しかし、その中でも特定の時間帯で活発に取引が行われる傾向にあります。自分に合った取引時間を知ることで、初心者の方でも、日々の生活で効率的に取引を行うことができます。また、トレードパターン別の注意点についても解説します。
FXはそもそもいつ取引を行えるの?
まずは、国内のFX会社の情報も確認しながら、FX取引が行える時間を見ていきましょう。
平日はほぼ24時間取引可能
FX取引は、日本が祝日(元日、クリスマスの東京時間外の時間帯を除く)であっても、原則として平日のほぼ24時間にわたって行うことができます。その理由は、日本時間の早朝に始まるニュージーランド市場から、翌朝日本時間の明け方に終了するアメリカ市場まで、世界中のインターバンクディーラーが為替取引を行っているためです。元日(1月1日)のみは世界中で取引が行われないため、日本でも取引を行うことができません。
国内のFX会社の取引時間の比較
国内のFX会社の取引時間に大きな違いはありません。なお、米国のサマータイム期間(米国時間の3月第2日曜日から11月第1日曜日まで)とそれ以外の期間で取引時間が異なる点には注意しましょう。「ほぼ24時間」としている理由は、各社毎営業日にシステムメンテナンスの時間があるためです。システムメンテナンスの時間は通常、入出金やマーケット注文(成行注文)はできませんが、注文の予約(指値、逆指値注文等)をすることはできます。
初心者は24時間取引を行うべき?
24時間取引に参加できるFX取引は、平日の日中に仕事などをされている方でも参加しやすいメリットがあります。また、24時間FX取引に専念することで、より利益を獲得するチャンスを探っている方もいるかもしれません。しかしながら、初心者が24時間取引を行う際には、いくつか注意点があります。
一つ目に、24時間取引を行う場合には、取引の回数(頻度)が多くなりがちです。経験を積み重ねることで学ぶことも多いですが、取引の内容を振り返ることも、長期的に良い成績を収めていくためには大切です。特に、取引初期は、「ビギナーズラック」に遭遇することも案外あるものです。そのような成功体験から、当初の想定を上回るリスクをとってしまう可能性も十分考えられます。FX初心者にとってまず大切なことは、相場の変動に慣れることです。最初は少額からはじめて、ご自身に合ったリスク管理と資金管理の方法を探りましょう。
二つ目に、メンタルを含めた健康面にも注意する必要があります。健康は、長期的に良い成績を収めていくための大事な要素です。相場変動に神経をすり減らし、睡眠の質などに悪影響を及ぼす場合、取引でも冷静な判断ができなくなってしまいます。後ほど解説をするように、取引が活発に行われる時間に集中して取引を行うことで、健康面で無理をせずに取引を行うことも可能です。
相場が活発な時間を把握しよう!
市場が活発に動いている時間帯や、重要な経済指標のタイミングなどを把握しておくことで、メリハリを利かせた効率的な取引が可能になります。主要な市場の取引時間は次のとおりです。
市場 | 日本時間 |
---|---|
ウェリントン | 5:00~16:00 |
シドニー | 7:00~18:00 |
東京 | 8:00~19:00 |
香港 | 9:00~20:00 |
フランクフルト | 15:00~3:00 |
ロンドン | 16:00~4:00 |
ニューヨーク | 21:00~7:00 |
なお、サマータイムが採用されている国では、冬時間と夏時間で経済指標が公表されるタイミングなどが異なるため、FX会社からのアナウンスも参考にしながら取引を行うようにしましょう。そして、これらのなかでも、特に取引が活発な時間帯として、「東京時間(日本時間8時~16時)」、「ロンドン時間(日本時間16時~2時)」、「ニューヨーク時間(日本時間21時~6時)」と呼ばれるものがあります。ここでは、それぞれの時間帯の特徴について見ていくことにします。
東京時間(日本時間8時~16時)
日本時間に先立って、ウェリントン市場とシドニー市場での取引が開始されますが、参加者が少ないことから取引量自体はあまり多くありません。その後、8時の東京為替市場を皮切りに、香港やシンガポールなど、アジアやオセアニア地域からの取引が拡大していきます。
取引が拡大することはつまり、取引の流動性も高まることを意味していますが、特にTTM(Telegraphic Transfer Middle Rate)に注意が必要です。TTMとは、金融機関が顧客と外国為替取引をする際の基準となるレート(仲値)です。TTMは、金融機関の為替トレーダーが9時55分時点の為替レートをもとに決定するため、この時間に向けて取引が活発になる傾向にあります。とりわけ、5と10がつく日である「五十日(ごとおび)」に合わせて、日本企業は決済に向けて米ドルを大量に調達(購入)することが多い点を考慮しておく必要があります。その後、TTMが提示された10時以降は、相場の動きは比較的穏やかになる傾向にあります。
ロンドン時間(日本時間16時~2時)
日本時間の夕方になると、ユーロやポンドなど、欧州諸国の通貨に関する取引が活発になっていきます。ロンドン市場は、世界的に見ても市場参加者と取引量が圧倒的に多く、流動性が高い点が大きな特徴です。ロンドン時間の注意点は、日本時間の夕方(18時頃)にかけて、欧州景気を表す主要な経済指標が発表される点にあります。会社員の方で、この時間に経済指標を確認することが難しい場合には、無理に取引に参加することは避けた方がよいでしょう。
日本時間19時頃の昼休みを挟んで、ニューヨーク市場での取引が始まる21時頃から再びロンドン市場は活況を呈する傾向にあります。なお、日本時間翌朝1時(夏時間は0時)には、ロンドン市場で金の取引価格を決定する「ロンドンフィキシング」が行われます。金は主に米ドル建てで取引が行われることから、ロンドンフィキシングが為替相場(主に米ドル)に及ぼす影響にも注目する必要があります。
ニューヨーク時間(日本時間21時~6時)
日本時間21時から深夜2時にかけては、ニューヨーク市場とロンドン市場が重なることもあり、米ドルが絡んだ取引がさらに活発化していきます。日中に仕事や家事、勉学で忙しい方にとっても、比較的参加がしやすい時間ではないでしょうか。取引参加者が多いこの時間帯は、比較的スプレッドが安定していることも、初心者にとってこの時間がおすすめできる理由の一つです。
世界経済情勢とアメリカ経済情勢の影響を受けるニューヨーク市場において、米国の経済指標発表には注意が必要です。特に、原則毎月第1金曜日の夜(冬時間は22時30分、夏時間は21時30分)に発表される米国雇用統計は、最も注目度の高い指標とされています。特に重要な経済指標については他にも連邦公開市場委員会(FOMC)の声明や議事録の公表、GDP速報値の公表など、アメリカの経済指標は米ドルの価格に大きな影響を与えるため、FX会社がまとめている経済指標カレンダーを常にチェックするようにしましょう。
もう一つ、日本時間0時(サマータイム期間は23時)に行われる「ニューヨークオプションカット」に向けて、ニューヨーク市場の取引は特に活発になると言われています。この時間になると、その日の外国為替オプションの権利の行使または、不行使が決定されます。したがって、ニューヨークオプションカットは市場の動向を予測し、取引戦略を立てるうえで重要な情報となりますが、初心者はあえてこのタイミングでは静観し、相場が落ち着いてから取引を行うことも選択肢に入れておくとよいでしょう。
初心者がFX取引で注意するべき時間は?
FX取引の初心者の方は、「値動きが少ない時間帯の取引は避ける」、「値動きが大きい時間帯は静観する、もしくはデモ取引(少額取引)で慣れる」ことからはじめてみるとよいでしょう。
日本時間の早朝(6時~7時頃)
ニューヨーク市場での取引が終わり、ウェリントン市場やシドニー市場での取引が開始されるタイミングは、市場参加者も少なく、取引量も比較的少ない傾向にあります。取引量が少ないことから、スプレッドが広がりやすいため、初心者がこの時間に取引を行うことはあまりおすすめしません。
さらに、取引量が少なくても、1日の始まりとなるこの時間帯には、相場の急変動に遭遇するリスクも潜んでいます。週末を挟んで月曜日の取引には特に注意するようにしましょう。FX取引は、土曜日と日曜日に取引が行われていないわけではありません。世界的な取引量が少ないため、FX会社は取引の機会を提供していませんが、イスラム圏では金曜日が休日となっている国もあり、そのような国では土曜日と日曜日でも取引が行われています。また、週末の間に、経済に影響を及ぼす政治的イベントなどが発生した場合には、真っ先にその影響を受けることになります。
重要な経済イベントの前後
米国雇用統計など重要な経済指標の公表が、為替相場に与える影響が大きいことは、既に紹介したとおりです。FX取引初心者の方は、そのタイミングをまたいで保有することは避けた方がよいかもしれません。いずれにせよ、直前のタイミングは、取引量が少なく、値動きも小さい傾向があるため、初心者が無理に取引を行う必要はないと考えられます。初心者の方は、まずはこれらのイベントが発生するタイミングに慣れることが大切です。最初は、相場がどのように動くかを静観したり、デモ取引を行ってみたりすることをおすすめします。また、経済イベントの他にも、政治的なイベントにも常に注目しておく必要があります。
※重要な経済指標が公表される日時については、各FX会社が利用者向けにカレンダーを作成して、公表しています。
クリスマスや大晦日
元日を除く平日の24時間にわたって取引が行えるFXですが、クリスマス(12月25日)と大晦日(12月31日)が平日の場合、取引時間が短縮される可能性がある点に注意が必要です。2022年は12月25日が日曜日だったため、翌26日(月曜日)に欧米市場が休みとなりました。クリスマスおよび年末年始の取引スケジュールについては、各FX会社が事前に案内しているため、それを確認するようにしましょう。一般的には、クリスマスや年末年始のタイミングでは、取引量が少なく、流動性が下がると言われています。
金曜日
週末に経済に重要な影響を及ぼすようなイベントが発生した場合、週明けの月曜日に為替相場が急激に変動するリスクがあります。そのため、週末にポジションを持ち込むことを避けるためにも、初心者の方には、金曜日の取引はなるべく最小限に抑えることをおすすめします。
【トレード別】取引時間のパターン
これまで紹介した各市場の特徴や注意点を踏まえて、トレードパターン別にどのような生活パターンが考えられるか、注意点も含めて考えてみましょう。
スキャルピングの場合
秒または分単位で超短時間の価格変動を狙うスキャルピングでは、取引を行う時間帯をどこに設定するかが重要です。スキャルピングの特徴は、細かな価格変動を追い求める点にあります。したがって、スプレッドが広くなる時間帯は望ましくないため、取引量が多く、流動性が高い時間帯に集中して取引を行うことが鉄則です。平日の日中に仕事などを終えて、夜間に取引が行える方の場合には、日本時間21時以降に訪れるロンドン市場とニューヨーク市場が重なる時間帯で十分に取引の機会はあると言えるでしょう。
スキャルピングの場合には、そこからさらに取引の時間帯を絞ることも有効です。反復的かつ高速な取引が求められるスキャルピングは、一瞬一瞬の集中力と緊張感が他のトレードパターンよりも求められます。より高いパフォーマンスを発揮するためにも、特に集中する時間を決めて、心身ともに健康を維持することも大切です。
デイトレードの場合
デイトレードは、数時間から1日かけて決済を行っていく短時間型のトレードパターンです。FX取引初心者の方は、スキャルピングよりもデイトレードの方が、相場に慣れるのには適していると言えます。デイトレードは、1日の市場動向を見極めて、小さな値動きから利益を獲得する点が特徴です。そのため、スキャルピング同様に、(スプレッドが比較的狭いとされる)市場の動きが活発化する時間帯に取引を行うようにしましょう。一方で、その時間帯には、主要な経済指標が公表されるタイミングと重なる場合があります。その前後は、価格が急激に動くことがあるため、スケジュールを把握したうえで、リスク管理をしっかりと行うことが必要です。もしそのタイミングで、取引に参加できない場合には、無理に取引を行わないことも選択肢の一つです。
スイングトレードの場合
数日から数週間の期間で取引を行うスイングトレードは、短期的な為替トレンドを見極めたうえで、スキャルピングやデイトレードよりも大きい利益を目指していくトレードパターンと言えます。このような特徴から、一見すると常に取引画面の前にいる必要はないように思えますが、当初の想定と反対の動きを見せた場合などに備えたリスク管理には注意が必要です。FX取引初心者は特に、取引をチェックできない環境や時間帯でポジションを保有することはなるべく避けた方がよいかもしれません。
中長期保有の場合
中長期保有では、数週間から数年にわたってポジションを保有します。したがって、特定の時間帯に集中して取引を行う必要がない点は、日中に仕事などで忙しい方にとっては魅力的かもしれません。しかしながら、各国の経済指標や政策決定、地政学的リスクなど総合的に判断したうえで、中長期的なポートフォリオを構築する必要があることから、ある程度相場観やFX取引に精通してから挑戦してみるとよいでしょう。
まとめ
FXは、原則平日の24時間にわたって取引を行えますが、初心者の方はどの時間帯に参加すべきか悩むはずです。ここでは、市場やトレードパターン別の特徴や注意点について解説をしてきましたが、「生活に余裕のある時間帯」と「市場が賑わっている時間帯」が重なっているタイミングを見つけてみましょう。まずは、そのタイミングに集中して取引を行うことで、相場変動とFX取引に慣れることが大切です。逆に、市場が賑わっていない時間帯の取引は、極力避けた方が良いでしょう。とりわけ、初心者の方が長期的に良い成績を収めていくにあたっては、取引の振り返りや経済の基礎的条件を分析(ファンダメンタルズ分析)する時間を多めに確保されることをおすすめします。
本記事で参考にしたサイト一覧
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1992年宮崎県生まれ、兵庫県在住。関西学院大学アカウンティングスクールを修了後、NTTビジネスアソシエ西日本で、NTT西日本グループの決算や内部統制、DX等の業務に従事。マレーシアでの留学経験(管理会計研究)を経て、2022年10月ファイナンシャルプランナーとして独立。独立系ファイナンシャルプランナーとして、日々お金や暮らしに関する悩みに向き合っている。NISAやiDeCo、企業型確定拠出年金を活用した資産形成、クレジットカード、預金口座といった金融系はもちろん、会計税務に関する記事などオンラインメディアでも多数執筆。趣味は野球観戦と海外旅行。 1級DCプランナーや2級ファイナンシャル・プランニング技能士など保有資格多数。
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