ロジャーパパ

ロジャーパパ

GAFA企業での勤続9年を経て、2021年11月よりFIRE生活をスタート。米国株投資の実績や銘柄紹介、投資戦略などを、分かりやすく配信するYouTubeチャネル「ロジャーパパ米国株投資」はチャンネル登録者数11万人を超える。

「4%のリターンが期待できる」という統計的な情報を目にしたことから、投資に興味を持った

ーまずは、投資を始めたきっかけを教えていただけますか?

ロジャーパパさん(以下、ロジャーパパ):私が投資を始めるきっかけとなったのは、2008年のリーマンショック時に書店で見かけた勝間和代さんの『お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践(光文社)』という本との出会いです。その本に書かれていた「投資は4%のリターンが期待できる」という統計的な情報を目にしたことから、投資への興味が湧きました。

ー以前はパチンコなども経験されていたと伺いました。

ロジャーパパ:そうですね。だいぶ昔の話ですが、1996年にスロットを1年間本格的に取り組んだ経験があります。確率と統計を用いて一定の戦略を立てると、出玉率(期待できるメダル獲得枚数の割合)が100%を超える台が存在しました。

特に当時の4号機の「クランキーコンドル」はその1つで、1年間で400万円ぐらいのプラスになったんです。その経験から確率の力を信じていたので、投資が4%のリターンを見込めるという話を聞いて、すぐ納得できました。

ー投資に恐れを抱かずに、すぐ始められたんですね。何かご自身の特長や強みと感じられる点はありますか?

ロジャーパパ:そうですね。私は自分が「いいな」と思ったらすぐに行動に移すタイプです。学力は高くなく、覚えるのも得意ではないので、何回聞いても覚えられないものは覚えられません。

そのため、深く考えるよりもすぐに行動に移し、経験から学んできました。これが投資にも当てはまり、良いと思ったのですぐ行動に移せました。

また、リーマンショックで株価が下がっていたのも投資を始めた理由の1つです。以前スロットをしていた時に学んだことですが、確率が上がっていると次は下がるときが来て、逆に下がっていると大当たりの確率が上がってくるものです。その感覚を投資に応用し、株価が下がっているときに投資すれば良いと思ったので、すぐにSBI証券の口座を開設しました。

ー初めて購入した銘柄について教えてください。

ロジャーパパ:勝間さんの本では日本株について書かれていたので、最初は日本株を購入しました。当時は何の知識もなかったので、とにかく自分の知っている企業の株を買っていましたね。具体的には、伊藤忠商事、ファミリーマート、トヨタ自動車といった銘柄です。

この時期はリーマンショックの底値で、どの銘柄を買っても価格が上がる状態でした。そのため、購入した銘柄はその後上昇し続けました。

ーこれまでに大きな失敗はありましたか?

ロジャーパパ:失敗はたくさん経験しています。ただ、投資を始めた時期がリーマンショック直後で、さらにその後アベノミクスの影響で日本株が一段と上昇したため、2010年代に入るまでは非常に大きなリターンを得ていました。

たとえば長年テニスをやっていたことから、衛星放送会社のWOWOWの株を購入しました。これは、WOWOWがテニスの4大大会のウィンブルドンなどを生中継していたからです。2008年に400円で購入したその株は、2014年に錦織圭選手が全米オープンで準優勝し、さらにその年にジャパンオープンでも優勝したことで、2015年にはWOWOWの株価が4,000円を超えました。

そこで初めて10倍のリターンを得て、株を売却しました。2008年から2015年の7年間にわたり得てきたリターンは、トータルで1,500万円程度のプラスでした。しかし、その後の投資では自分にセンスがあると過信した結果、大きな失敗を経験しました。

たとえば、無根拠に「伊勢丹がいけてる」「日本はモノづくりの国だから」と考え伊勢丹やオンキヨーの株を購入したのですが、全然価格が上がりませんでした。再現性のない投資をしてしまい、相場に助けられている状況に気づいていなかったんです。

一方で、当時私が働いていたGAFA(Google, Amazon, Facebook, Appleの総称)では、給料の半分が自社株という形で支払われ、その自社株がすごい上がっていることに気づきました。それがきっかけで自社株と日本株を比較し、アメリカ株への投資を本格的に開始しました。その結果、再びリターンが出るようになったんです。

しかし、その後も同じ過ちを繰り返しています。S&P500の株価が上がる中、個別株に短期トレードを試みた結果、一度に500万円ほどの損失を出したこともあります。

S&P500の魅力はアメリカという世界一の経済大国から選ばれた500銘柄かつ、全セクターに投資できる点

ー投資の方針が決まった背景と、米国株の魅力について教えてください。

ロジャーパパ:今の私の投資方針は、主にS&P500などアメリカ市場全体に投資できる投資信託を中心に据え、その一部をリターン追求型の自選銘柄や特定セクターに投資するという形です。

過去の、短期トレードはうまくいかず、市場平均を超えるのは難しいという経験から、毎月S&P500などに資金を入れ、自信のある銘柄を限定的かつ損切りラインをしっかり決めて投資する「コア・サテライト運用」と呼ばれる方法に落ち着きました。

ーロジャーさんほどの経験と知識があれば、S&P500に投資する代わりにご自身で色々な銘柄を集める選択もあると思いますが、やはりS&P500が良いという結論になるのでしょうか?

ロジャーパパ:たしかに、YouTubeを始めた2020年から現在の2023年までの間に、驚くほどのリターンを得ることができました。特にコロナが発生し金融緩和が始まり、市場が上昇した2021年の終わりまでの間、レバレッジ型の米国ETFの「SPXL」を購入したことで、一気に50%のリターンを得るなど、大きな成功を収めました。

これらの投資結果はリアルタイムでYouTubeに更新し、それが視聴者数の増加にも繋がっています。しかし、私が大きなリターンを得ているのはまだ3年間です。これを10年、20年と続け、市場平均を超える実績が確認できれば、S&P500ではなく自選銘柄にも投資するという選択が可能になるかもしれません。

しかし、まだそのような自信と実績がないため、私はS&P500を投資の中心に置いています。また、過去の調子に乗った失敗と家族の存在もあるため、より慎重な投資スタイルを取ることを心がけています。

ーS&P500の魅力は何でしょうか?

ロジャーパパ:S&P500の魅力は2つあります。1つ目は、アメリカという世界一の経済大国から選ばれた500銘柄という点 。アメリカには約4,000の上場企業があり、その中から選ばれたトップ10%程度の企業がS&P500に含まれています。

2つ目の魅力は、アメリカの全11セクター(情報技術、ヘルスケア、エネルギーなど)への投資が可能だという点 です。ナスダックやNYダウなどの他の指標だと、全セクターには投資できません。

S&P500は全セクターが対象であることに加え、時価総額の加重平均で指数化しています。そのため、株価が上がった銘柄の投資比率は自動的に増える仕組みなんです。

たとえば、コロナ禍でエネルギー価格が下がると、その比率は自動的に下がり、逆に価格が上がると比率も上がる形です。このような仕組みは人間が主導で行うことはできません。これら2点がS&P500の魅力と言えるでしょう。

テクニカル指標は全て過去の情報に基づくものであるため、未来を予測するものではない

ーありがとうございます。先ほどお話のあった投資の失敗に関して、もう少し詳しく伺ってもよろしいでしょうか?

ロジャーパパ:投資にはさまざまな段階があります。最初は何もわからず、WOWOWでテニスが観られるといった理由で投資をスタートし、一定の成功を得ました。しかし、この投資には再現性が全くなかったので、他の銘柄への投資は失敗しました。

そこで一度腰を落ち着けて、投資の勉強を始めました。ボリンジャーバンド、移動平均線、RSIといったテクニカル指標を学び、その仕組みに基づいた投資をするようになりました。

しかし、テクニカル指標は全て過去の情報に基づくものであるため、未来を予測するものではありません。経済は人間が動かしており、株価も上がると思う人と下がると思う人がいて、そのバランスで価格が決まります。 このように、過去のデータが全てを予測するものではないということを理解せず、失敗した経験があります。

現在では、テクニカル指標をある程度見つつ、マクロな視点から投資をするようにしています。金利の動きや景気の状況など、全体のサイクルに注目しています。具体的には、金融相場、業績相場、逆金融相場、逆業績相場の4つのサイクルを理解し、それに基づいて投資判断をしています。

このように慎重に投資をするようになってからは大きな失敗もなく、予想したとおりのサイクルが多く見られるようになりました。この経験が少しずつ自信に繋がってきています。

ー詳細な指標よりも、マクロ経済を全体的に見て投資を計画していくという流れでしょうか?

ロジャーパパ:そのとおりです。たとえば、現在のように金利が高い状況では、ハイテク株などの成長株は割高になりがちで、価格が上がりにくいんです。実際、去年はそのために価格が上がらなかったのですが、今急激に上昇しているのは市場が年内の利下げを予想しているからです。同時に、直近の決算をきっかけに株価を急騰させているエヌビディアやアルファベットなど、生成AI関連銘柄のみが市場を牽引しています。ただし、FRBはまだ利下げを明言していませんし、生成AIも大手ハイテク企業の利益成長率に貢献できるかは未知であるため、慎重に動向を見守っています。

直近でハイテク株が上がっているとはいえ、その銘柄を個別に追いかけるような行動は避けています。こんな時こそVUGのような分散の効いたグロースETFを上手く活用するタイミングだと考えています。

成功の秘訣はマクロ経済を見ること、投資のルールを最初に決めること

ー成功の秘訣はマクロ経済を見ることにありますか?

ロジャーパパ:その点は本当に大きいと思います。もう一つ重要なことは、市場平均以上のリターンを狙うことは、ハイリスク・ハイリターンになるため、リスクとリターンの管理がポイントということです。たとえば「この銘柄が上がる」と思っても、さまざまな理由で上がらないこともあるため、損切りのラインを定める必要があります。一例として、「価格が20%下がったら売る」といったようにです。

価格が上がった場合においても、利確ラインを決めるやり方があります。ただ、それではもったいないと思います。トレーリングストップという手法を使って、価格が下がったときは損切りする一方で、上がったときは持ち続けます。ただし、ある時点で価格が上がったところから30%下がったら、その銘柄に何か問題があった可能性があるため、利確します。

たとえば、価格が100%上がったとしたら、30%下がったとしても70%の利益が取れるため、それで十分と考えます。常に底値で買い、高値で売るのは不可能なので、そのルールを最初に決めるんです。

このルールを設けないと、価格が下がったら「いつか戻るかもしれない」と思い、売らずに持ち続けたり、少し上がっただけで利確してしまう可能性があります。そうなると、価格が下がっている銘柄をずっと持ち続け、価格が上がっている銘柄はすぐに売ってしまうため、トータルで勝てません。

ーなるほど。

ロジャーパパ:たとえば10銘柄に投資して、3銘柄しか価格が上がらなかったとしても、その上がった3銘柄がずっと上がっていけば、残りの7銘柄を全部30%で損切りしてもトータルで勝てます。とても単純なことですが、これをちゃんと実行するのが大切です。

ネット証券の場合、一度逆指値を使って損切りラインを決めておけば、設定を90日間維持できるため手間もかかりません。

自分が設けたルールは簡単に破ることができてしまうので、「ルーティン化」することで投資の失敗を避ける

ー自分で決めたルールを守ることと、意思の強さが大事なんですね。

ロジャーパパ:そのとおりです。自分との約束は簡単に破ることができてしまいます。これは投資だけでなく、ダイエットや英語の勉強でも同じです。しかし、自分が設けたルールを守り、それを続けることが成功には欠かせません。

これは非常に難しいことなので、ルーティン化したほうがよいでしょう。たとえば、S&P500以外の投資をするときは、必ず損切りラインを決めるといったルールを作ります。それが決められないなら、投資をしないというルールにしてもよいかもしれません。ルーティン化することで、大きな失敗を防ぐことも期待できますよ。

ー投資初心者が陥りがちな失敗とその対策についてもお伺いしたかったのですが、それも自己設定のルールを守り抜くルーティン化が重要ということでしょうか?

ロジャーパパ:そうですね。そうしたルーティンがあれば、仮にそのルーティンが間違っていると判断した際に、自己反省することが可能です。

私自身も相場サイクルに沿った投資をしていますが、これが一生涯続けられるとは思っていません。だからこそ、常にマーケットを観察し、全ての経済指標をチェックし、アメリカ中央銀行の政策会議やパウエル議長のスピーチを見ることをルーティンとしています。

しかし、市場平均に勝つことは非常に難しいんです。初心者の方々には、まずその事実を理解してほしいですね。そのため、初心者はまずS&P500で毎月コツコツ1,000円でも積み立てていくと良いでしょう。2~3年経ったときに、自分の資産が30%~40%増えていることに驚くと思います。

それを経験することで、より大きな投資へのチャレンジが可能です。まずはS&P500に投資して成功体験を積む、これを意識してみましょう。大枠としてはS&P500を理解し、そこにコミットし続けることが大切です。

ーS&P500以外で好きな銘柄はありますか?

ロジャーパパ:アメリカの会社がすごいと思う理由の1つに、経営者が何のために経営者をやっているのかを理解し、それを淡々と実行していることが挙げられます。具体的には、「投資家へ還元するために自分は仕事をしている」という意識が非常に強いんです。それは配当金と自社株買いの2つの形で現れます。この2つをしっかりやっている銘柄は、やはり株価が上がりますね。

また、アメリカには50年以上連続で増配している銘柄が30以上存在します。こんな銘柄は、日本には1社もありません。P&GやJohnson & Johnsonなど、誰もが知っている銘柄もこの例に当てはまります。

20年間保有し、配当金を再投資し続けると、ハイテク銘柄を多く含むナスダック100よりもリターンが大きいんです。ただし、それは一見つまらないかもしれません。それほど動きがなく、配当利回りも2.5%程度なので。しかし、S&P500の経営陣は配当金を増やし続けるために必死なんです。増配できなかったら、経営者自身、再就職すら難しくなってしまうので。私が好きな銘柄はこういう種類のものです。

S&P500は過去全ての暴落を乗り越え、最高値を更新し続けているため、米国株の動向に悲観はしていない

ー今後、米国株の動向がどうなっていくとイメージされていますか?

ロジャーパパ:現在、金利が上昇し、6月で停滞するような状況ですが、銀行が3つ破綻したり、米国の物価がまだ上がっているため、景気が悪化する可能性があります。その結果、企業の業績も悪化し、株価が下がる逆業績相場に入る可能性もあるでしょう。

ただし、仮に景気が後退しても、今度は金利を下げて景気を回復させようとするはずです。その点を考慮すれば、株価が再び上昇することは十分考えられます。

過去100年間で見ても、S&P500が30%以上暴落することが8回ありました。世界大恐慌や直近のリーマンショックやITバブルの崩壊、ブラックマンデーなども含まれます。しかし、S&P500はその全ての暴落を乗り越え、最高値を更新し続けているんです。 一方、日経平均は1989年12月末の4万円近い最高値をいまだに超えていません。

アメリカは常に最高値を更新し続けていて、世界の時価総額のトップもアメリカです。そのため、米国株の動向に関しては特に悲観していないというのが率直な感想です。

ー初心者におすすめしたい書籍があれば教えてください。

ロジャーパパ:最初に紹介した勝間和代さんの『お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践(光文社)』がおすすめです。少し古いのですが、私が投資初心者の頃に読んで参考になった一冊です。

また、マネックス証券の岡元兵八郎さんの『知識ゼロからの米国株投資入門(幻冬舎)』もおすすめです。岡元さんは30年以上にわたり、米国株をはじめとする世界株の専門家で、多くの証券会社で活躍してきた方です。ビギナーに向けてわかりやすい言葉で語ってくれる方なので、この本も非常に有益だと思います。

ー投資初心者に対しては、わかりやすい本がよいということですね。

ロジャーパパ:そうですね。本を選ぶ際は知識や理解力に応じて選ぶことが重要だと思います。 私自身、学力が低く理解力も相対的に劣っていたので、最初から難易度の高い本を読んでも理解できませんでした。そのため、最初はわかりやすい本から入りました。

もちろん、最初から難易度の高い本を理解できる人は、そういった本から始めても問題ありません。しかし、難解な内容に挫折しそうな人は、私が先ほど紹介したような読みやすい本から始めるとよいでしょう。

投資は全員が日常的にしているものなので、投資に向き不向きなんてないと思っている

ー投資に向いている人、向いていない人がいると思いますか?

ロジャーパパ私は投資の向き不向きなんてないと思っています。投資は全員が日常的にしているものです。生活をしている以上、お金を使い、そのお金をどこかに置いているわけです。それ自体が投資の一部と言えるでしょう。

多くの人が投資と聞くと、「何を買えば100%上がるか」といった正解を見つけることだと思っています。それは勘違いなんです。経済はサイクルがあり、その中でどのように資産を効率よく置いていくかが重要です。会社員も専業主婦も、働くことや家事をすることで家庭の資産を増やしているわけで、それも投資の1つの在り方だと思います。

今の時代、S&P500にもスマホ1つで気軽に投資できます。色々な情報が錯綜していますが、事実は1つなんです。それは、現時点ではアメリカが世界一の経済大国ということ。そのため、今はアメリカ株に投資し、将来的に他国が経済大国となった場合には、その国の株に投資すればよいと思います。

ー最近では新しいNISAなどの存在で投資を始めやすい環境が整ってきたように思えますが、ロジャーパパさんは周囲でそのような意識の変化を感じますか?

ロジャーパパ:そうですね。私はNISA制度が2014年に導入されて以来、ずっと活用しています。通常は投資からの利益に対して20%の税金が課せられるので、非課税となるNISA制度は大きな恩恵です。今では、家族全員の非課税枠を活用して投資しています。

ただし、この制度の恩恵は投資をすでに始めていた人たちにとって感じやすいもので、投資初心者にとっては、非課税が当然と感じられるかもしれません。それでも投資を始めてみると、新たな気持ちや意識が生まれるでしょうね。

たとえばS&P500に投資してみて、10%のリターンが限界だと感じ、それが物足りなくなったとします。100万円が110万円になり、税金がかからないことで10万円が増えました。このとき「もっと増やしたい」という気持ちが湧くかもしれません。この段階が投資初心者にとって第一の罠で、難しいところだと思います。

もちろん、一部の天才的な投資家はこれを突破できますが、大多数の人はそうではありません。そういう時にこそ市場平均を信じて、一定の投資を続けることが大切です。なぜなら、S&P500が下がる時期も必ず来るからです。それを見越して淡々と毎月投資していくことで、価格が低いときに多くの株を手に入れ、価格が上がったときにその恩恵を受けられます。

たとえば、2000年から2015年までの15年間は、ITバブルの崩壊とリーマンショックという大きな市場の変動がありました。しかし、この期間にS&P500を持ち続けた人は、結果として資産が1.6倍になりました。これは配当金の再投資効果です。S&P500は1.5%の配当を出していますが、これを15年間再投資すれば、資産は1.6倍になります。

だからこそ、投資に対する真剣な考え方や精神的な準備が重要です。短期間で大きな利益を期待するのではなく、淡々と投資を続けることが大切です。資金の増加を望むなら、副職などで収入を増やしてみるとよいでしょう。それは投資初心者が最初に乗り越えるべきハードルであり、考え方の変革が必要なポイントだと思います。

ー私はオール・カントリーとS&P500を保有しており、毎月積み立てています。経済ニュースを見て米国株が下がっているのを知ると、買い増し欲求が出てきます。これについてはどう思われますか?

ロジャーパパ:それは全然問題ありません。重要なのは投資の目的設定 です。もしコア投資で長期的な投資を目指しているならば、そのアプローチは適切ですね。なぜ迷うのかというと、前提が定まっていないからかもしれません。まずは、何のために投資をしているのかを明確にするとよいでしょう。

たとえば、30年後に自分の老後資金として2,000万円作るケースで考えてみましょう。その場合、今のように株価が下がっているときには、余剰資金を可能な限り投資することが最善です。なぜなら、過去の実績から考えると、30年後には株価が上がっている可能性のほうが高いからです。

ただし、もし投資期間が5年しかない状況であれば、2000年から2015年のように、株価が下がって戻っただけの時期もあるため、株価が下がっているからといって米国株に多額の資金を投入するのはリスクがあります。そのような場合は、値動きが少なく利回りが確定している債券などを選択するとよいでしょう。つまり、投資の目的が重要ということです。

同時に、アドバイスを参考にする際は、どのとうなトレードを前提にしているかを確認することも重要です。多くのインフルエンサーやプロの投資家は「損切りが大事」と言います。これは、前提が短期トレードの場合です。しかし、つみたてNISAを始めて30年後に老後資金を作ろうと考えているのに、株価が下がったからといって損切りしてしまうのは間違いです。つまり、このアドバイスは長期投資には当てはまりません。それでにも関わらず、有名人が「損切りが大事」と話す言葉の意味をそのまま信じて、つみたてNISAで運用するS&P500を実際に損切りしてしまう人も結構多いんです。

要するに、自分がどのような前提のもと投資をしているか、これを理解することが大切です。株価が下がったときに買い増しするのは「ナンピン買い」と呼ばれる手法で、長期投資においてはこれが正解です。しかし、短期トレードで株価が下がっているからといって急いで買い増しすると、どんどん下がっていく可能性が高いんです。

たとえば、株価が100ドルから50ドルに下がった場合、50%上がっても75ドルにしかなりません。つまり、株価が元のレベルに戻るためには、実際には100%、2倍上がらないと駄目なんです。これは50%上がることよりもはるかに困難ですよね。

だからこそ、投資の前提を確認しましょう。具体的には、いつまでにいくらを貯めたいのか、何のために投資をしているのかを明確にする必要があります。これを決めておかないと、状況によって自分の行動がブレてしまいますよね。

ーお話を伺い、ロジャーパパさんがなぜFIREできたのか理解できました。投資と聞くと「ラクして稼ぐ」というイメージが先行しがちですが、やはり正確な目標設定と日々の情報収集は欠かせないんですね。

ロジャーパパ:そうですね。加えて、何となくの直感も大事かもしれません。たとえば、私は仮想通貨のビットコインやイーサリアムを持っています。2018年の仮想通貨バブルでブロックチェーンを知り、高値で購入しました。それ以降価格は下がりましたが、また戻ってきています。一度も売ったことはありません。

なぜかというと、それはブロックチェーンの可能性を信じているからです。下落時に買い増しを続けていったところ、今の市場状況でも投資額の2倍以上になっています。

要するに、自分がよいと思ったものにチャレンジすることは、重要なアクションを起こすきっかけになると思います。自分がよいと思った理由が変わらなければ、それをコツコツ続けることが大切です。 失敗は避けられませんが、そのときは他人のせいにせず、なぜ失敗したのか自己反省することが重要です。

投資に多くの時間を費やすことで、私自身何度も反省と改善を繰り返してきました。もちろん投資だけがお金を作る唯一の方法ではありません。ビジネスを自分で立ち上げたり、キャリアを積み上げたりといったように、方法はたくさんあります。

私は本当に投資が好きなので、「ウォールストリートジャーナル」などを楽しみながら読んでいます。全ての人が投資を深く勉強する必要はありません。投資にそれほど興味がない人であれば、S&P500などに積立投資するだけでも十分だと思います。無理をする必要はありません。

投資は、単純に株の値動きだけを意味するものではない

ー投資を楽しめる人には、何か共通の性格や嗜好があると思いますか?たとえば、ゲームや数字が好きだったり。

ロジャーパパ:短期トレードはたしかにゲームのような側面がありますよね。テクニカル分析を用いて多くの取引を繰り返す行為は、ゲーム感覚で楽しめます。たとえば、ボリンジャーバンドを使えば、ある範囲内に株価が収束する確率を算出できます。それで100回トレードを繰り返すと、おそらく51回は当たるでしょう。

そのようなゲーム的な要素を楽しむのも面白いですが、私自身は世の中について学びたいという意欲が強いですね。たとえば最近話題のChatGPTなど、新しい技術やプロダクトが出てくるのはとても興味深いです。そのような印象的な事象や企業の株価が上がるのを見ると面白さを感じます。

また、やはりアメリカのような活気のある場所に魅力を感じますね。ニューヨークのタイムズスクエアやハリウッドに行くとワクワクします。アメリカで働いたり、ハーバードに行くといった夢を持つ人たちも多いと思います。その場合、実際にその場所に行ってみると感動しますよ。こうした感情の喜びは、そのまま投資に活かせると思うんです。

投資は、単純に株の値動きだけを意味するものではありません。 私の場合、実際にGAFAなどのアメリカ企業に入社し、自分の時間を投資しています。その結果、自社株から大きなリターンを得ました。また、それ以上に有益だったのは、そこでしか出会えない人たちとの交流や思想です。

10年間弱もの長い期間GAFAでシニアマネージャーを務めた経験から、今では日本企業の社外取締役も務めています。これも一種の投資のリターンと言えるでしょう。要するに、投資と自分の人生が連動している感覚です。それが私にとっては自然な流れで、性に合っていると思います。

ーつまり、投資は知識を深める手段の1つであり、それがまた新たな知識への欲求を引き出すものということでしょうか?

ロジャーパパ:そのとおりです。たとえば、私が24歳で初めてアメリカに行ったとき、英語が全く話せなかったのにもかかわらず、やりたいことや憧れに引き寄せられて新しい世界に飛び込みました。そういった欲求があるからこそ、新たなことを学ぼうと思えますし、学ぶ過程で壁にもぶつかるんです。そして、壁を乗り越えていくことで少しずつ成長していけます。

たとえ英語が完璧でなくても、自分の意思をしっかりと伝えられれば、通じるものです。私の英語はネイティブには程遠い日本人英語ですが、GAFAのような会社でハーバードやコロンビア出身の部下を持てました。これは現代のアメリカ社会が平等であるからこそ可能なことです。

だからこそ、私は一つひとつのことをコツコツ積み上げていくことが大切だと感じています。

伝えたいのは、投資は非常にフェアなものだということ

ー多くの人たちにとって勇気づけられるお言葉だと思います。投資で成功しているのは、一部のエリートだけと考えている人も多いと思うので。

ロジャーパパ:私が伝えたいのは、投資は非常にフェアなものだということ です。たとえば、S&P500やAppleの株を持っているとしましょう。私の子供たちも、0歳からジュニアNISAを通じてこれらの株を保有しています。彼らが持つAppleの株と、ウォーレン・バフェット氏が持つAppleの株は同じリターンを提供します。バフェット氏のApple株がより高いリターンを提供するわけではありません。

0歳の子供たちがApple株を持ち、そしてAppleの優秀なチームによって生み出される製品の恩恵を受けられるというのは、本当に素晴らしいことです。そうした気持ちがあるため、頻繁な売買をすることに私は否定的です。Appleをよく理解しているのなら、なぜそのような行動を取るんですか?と思ってしまいます。

S&P500のような指数では、アメリカのトップ500社が集まり、その株価上昇を自動的に反映しています。自分がそれを超えられると思う理由がわからない、というのが私の見解です。投資はフェアであり、それ以上何も求めるべきではありません。そう強く感じています。