よりリアルに金融や経済を感じたいと思い投資へチャレンジ
ー最初に、エルさんが投資を始めたきっかけについて教えていただけますか?
エルさん(以下、エル):私は元々金融機関で働いていました。その職に就くきっかけとなったのは、金融や経済に対する強い関心です。しかし、投資を実践したほうがよりリアルに金融や経済を感じられると思ったため、徐々に投資へチャレンジするようになりました。
ーありがとうございます。続いて、エルさんの投資歴について伺いたいと思います。初めて購入した銘柄と、その後の投資の過程を教えていただけますか?
エル:最初に購入したのは日本の個別株で、現在の日本製鉄や東京電力などをボーナス時に購入していました。その頃は資金量も限られており、まだインデックスファンドが広く普及していなかった時期だったので、主にアクティブファンドを購入していました。
その中には日本株も含まれていましたが、米国株を始めとする全世界に投資するアクティブファンドも多く含まれていました。当時は、ゴールドマンサックスが提供する投資信託などの情報を、パンフレットを取り寄せて入手していました。
その後、ユニクロを展開するファーストリテイリングがフリースブームで注目され、ブレイクする前に投資した結果、大きな利益を得ました。これが資産を増やすきっかけとなり、2015年以降に本格的に米国株への投資を始めたことで、資産拡大がさらに進みました。
ーエルさんが主に米国株に投資するようになった理由についてお聞かせいただけますか?
エル:企業の収益性や成長性、過去の株価上昇などを考慮し、どこに資金投入すべきか考えた結果、リスク対比で最も有利だと感じたのが米国株でした。2015年頃に本格化した理由は、投資の手続きが以前よりも簡単になったからです。
かつては特定口座で米国株への投資ができず、一般口座を使う必要がありました。そのため、確定申告などが手間でした。しかし、特定口座での取引が可能になったことで、投資の管理が以前よりも複雑でなくなりました。それがきっかけで、あらためて米国株への投資を本格化したという流れです。
投資ポートフォリオは全体の7~8割が米国株、次いで日本株が主力
ーエルさんの投資ポートフォリオの全体像について詳しくお聞かせいただけますか?
エル:正確な比率はすぐにお答えできないのですが、イメージとしては、私が書籍「英語力・知識ゼロから始める!“エル式”米国株投資で1億円(ダイヤモンド社)」でも紹介している10銘柄がコアで、それだけでも8,000万円以上あります。それ以外の米国個別株はすでに全て売却し、S&P500連動のインデックスファンドにシフトしています。全体の7~8割が米国株で、次いで日本株が主力となっています。
日本株は主に個別株を保有しており、これも数千万円単位の資産規模です。米国株の配当は100%再投資し、「VOO」というS&P500連動のETFに再投資しています。米国株は最近絞り込んでいますが、現状のポートフォリオは一定期間続ける予定です。一方、日本株については、クレジットカード決済など日々の資金変動に合わせて売却したり、状況に応じて柔軟に買い増しをしています。
ーエルさんは2019年にアーリーリタイアされ、現在労働という意味でのお仕事はされていないのですよね。その場合、生活費などは株の売買益、つまりキャピタルゲインだけでカバーしているのでしょうか?
エル:そうですね。米国株の配当は全て再投資しています。一方、日本株については利用することもあります。実は、ブログで2022年の運用状況をまとめた記事を書いていて、その中で年末時点でのポートフォリオや運用結果を公開しています。
去年は資産が若干減少しましたが、配当金は過去最高を記録しました。それでも主な収入源は、やはりキャピタルゲインですね。
過去の失敗から、特定の銘柄や特定のセクターに偏って投資してはいけないことを学んだ
ーエルさんが過去に投資で失敗したと感じた経験について教えていただけますか?
エル:個別株投資が必ずしも自分の思い通りにならないのはよくあることで、それは失敗とも言えますが、投資の想定範囲内とも言えます。ただ、自分が1番失敗したと感じるのは、2019年前後にタバコ銘柄に集中投資したことです。当時、タバコ銘柄が全世界で高い配当を出していたことから、「高配当の銘柄に投資することで良い結果が得られる」と安易に考えました。
そこで、フィリップ・モリス・インターナショナルなどのタバコ銘柄に集中投資した結果、フィリップ・モリスだけで800万円ほど損しました。その時期はSDGsの観点から、機関投資家などがタバコ銘柄に対する投資を控えていたこともあり、私の予想とは反対にタバコ株は世界的に売られていました。配当は高かったものの、結局は株価の下落に耐えきれず売却し、損失を出す結果になりました。これが私の投資における最大の失敗です。
ー当時の失敗と今の成功は、どのように繋がっているのでしょうか?
エル:その失敗から学んだことは、特定の銘柄やセクターに偏って投資してはいけない、ということです。私が本やブログで紹介している「最強の10銘柄」は、業界もある程度分散されています。これらの銘柄は過去の実績から見て、多くの場合S&P500よりも優れたパフォーマンスを示しています。
また、この10銘柄は市場が不安定な時でも比較的価格が下がりにくく、価格が上昇する局面では相応に上がる特性があります。つまり私のポートフォリオは、トータルでS&P500よりも優れた成果(負けない投資)を出すことを目指しています。
ーS&P500より優れたパフォーマンスが期待できるんですね。
エル:ちょっと意外かもしれませんが、これらの10銘柄は、たとえば投資信託のアクティブファンドでよく使われる「シャープレシオ(効率係数)」という指標で見ると、S&P500の500銘柄全体に投資するよりもレシオが優れています。つまり、リターンとリスクのバランスが良いことが過去の実績からは言えるということです。
マーケット全体の動向に一喜一憂せず、常に冷静でいることが重要
ー投資初心者がよく陥る失敗とその対策について、何かアドバイスがあればご教示ください。
エル:初心者がよく陥る失敗とは、マーケット全体の動向に一喜一憂してしまうことだと思います。たとえば株式市場が厳しい状況に見舞われた際、「もう投資をやめよう」といった撤退判断をしてしまうことは最も避けるべきです。
また、投資資金が豊富な人は、メディアの情報に乗せられて過剰投資しないよう気をつけましょう。メディアが日本株を推奨している時期に、過度に日本株への投資を増やすのはおすすめできません。
要するに、重要なのは常に冷静でいることです。それができるようになったら、中級者や上級者へとステップアップしていけるでしょう。
ー投資に自信がなく、深く調べることが苦手な人は、情報に振り回されがちですよね。そういった人たちに対するアドバイスはありますか?
エル:私からのアドバイスとしては、まずは少額から始め、タイミングにとらわれず投資をしてみることです。
実際に自分のお金を使って投資し、日経平均やS&P500がどのように動いたら自分の保有資産もどの程度変動するかを体感する。それが重要です。こうした経験を積むことで、徐々に投資のリスクを理解できるでしょう。
ー勉強も重要ですが、スポーツのように経験してみることで、量が質を上回るようなこともあるということですね。
エル:そのとおりです。
ーありがとうございます。投資初心者におすすめの書籍はありますか?
エル:向いている本は人それぞれで、おすすめするのが少し難しいんですよね。あえておすすめするとしたら、私のブログに掲載している「【保存版】オススメ投資本10冊(中級・上級者編)」の中で紹介している『マネーと常識(ジョン・C・ボーグル)』という本です。この本では、インデックスファンドの紹介やその優位性が非常にわかりやすく解説されています。
また、最近読んだ本だと『無理なく貯めて賢く増やす パックン式 お金の育て方(パトリック・ハーラン)』もわかりやすかったです。資産運用に先立つ支出管理の話など、投資の基本的な部分について書いてあるので、投資初心者にとって有益だと思います。
ーありがとうございます。続いて、エルさんが個人的に好きな銘柄や商品について教えていただけますか?
エル:現在保有している銘柄の中だと、クレジットカード会社のVisaが好きですね。常に割高な印象はありますが、安定感があると思っています。
また、投資信託ではeMAXIS SlimのS&P500が良いと思っています。これは現在日本で最も売れている投資信託の1つです。
ーVisaの安定感は、どういうところで感じますか?
エル:やはり、世界で最も使われているクレジットカードの仕組みを提供していることが大きいですね。楽天やイオンといった会社がクレジットカードを発行する際、通常それらの会社が個人向けの信用リスクを負います。しかし、VisaやMastercardといった企業の場合、彼らが提供するのはあくまでクレジットカード発行のブランドとその仕組みです。加盟店手数料が大きな利益となります。
つまり、数多くの銀行や企業がクレジットカードを発行する過程で、Visaは手数料を得ます。このモデルが非常に堅実で安定しているんですよね。
あまり難しく考えず、タイミングも気にせず少額から始めてみてほしい
ーあらためて、株式投資の魅力について教えていただけますか?
エル:私にとっては、長期的な視点で見たときに、投資がほぼ確実に増えるという見通しが持てる点が魅力です。半年や1年という短期間では見極められないかもしれませんが、5年~10年という長い期間で見ると、投資は確実に増加していく傾向にあります。
また、インデックス投資のような、手間がかからず気苦労のない投資方法も魅力的です。個別株への投資に関して言うと、自分が知っている企業がどのような戦略を持ち、業務を展開しているのか興味を持てるようになり、それが学びとなります。さらに、その知識が資産を増やす助けにもなるんです。
ー投資に向いている人、向いてない人はいますか?
エル:投資をしなくてもよい人は存在します。たとえば収入が多い人は、特に投資を必要としないかもしれません。また、投資によって資産を減らし、それが精神衛生上良くないようなら、そもそも投資を勧めるのは適切ではないでしょう。
しかし、生活に余裕がなく、潤いを感じられない人々にとっては、投資は少しでも生活を豊かにする一助となりえます。成功すれば、わずかでも資産が増える可能性があるからです。
ー最後に、投資にチャレンジしたいものの失敗が怖いという人たちに向けて、一言メッセージをお願いします。
エル:初めはあまり難しく考えず、タイミングも気にせず少額から始めてみることをおすすめします。体験しながら経験を積むことで、徐々に投資額を増やしていくとよいでしょう。