平田 博嗣(ひらた ひろつぐ)特任教授
 

平田 博嗣(ひらた ひろつぐ)特任教授

東京都の公立中学校から始まり大学の附属中学校に勤務、小学生から大学生までも教える。途中サンパウロ日本人学校、ナイロビ日本人学校にも勤務。退職後、海外子女教育振興財団で相談員を勤める。現在はこれまでの経験をいかし大学で社会科教育法、教育実習、生徒指導等の講義を受け持ち、3つの保育園の理事も勤めている。

ー はじめに平田先生の自己紹介をお願いします。

平田博嗣特任教授:私は大学卒業後、教員として東京都の中学校に勤めていました。その後、出身大学に呼ばれ、大学の附属学校で働くことになったんです。主に中学校に所属していましたが、幼稚園、小学校、高校にも顔を出していました。また、大学では「社会科教育法」という授業を長年担当し、教員養成や教育実習に関連する活動にも携わってきました。
現在は清泉女子大学の特任教授として、社会科の授業や社会科の教員養成に取り組んでいます。また、教育学など、現場でないと理解しづらい内容を教えることが私の基本的な活動です。

ー 金融庁は近年、国民の金融リテラシー向上を図る「金融教育」を国家戦略として推進することを提唱しています。この金融庁の提言について平田先生の感想をお聞かせください。

平田博嗣特任教授:国家戦略と聞くと少し重々しく感じますが、多くの人たちが金融への理解を深められることは、非常に有意義だと考えています。

ー 私が学校にいた時も社会科の授業の中で、経済や金融の分野に触れた記憶があります。ただ、全体的な割合からすると、それは少なかったかもしれません。金融教育という名目があることで学習への比重も増えると思うのですが、その点についてはどう思われますか?

平田博嗣特任教授:率直に言うと、従来の中学校や高校の経済教育は、アダム・スミスの理論から始まり、世界恐慌などの話が取り上げられていますが、現代の社会や生活にはあまり関連がないように感じます。
需要曲線、供給曲線や神の見えざる手などの内容が中心で、日常生活における経済や暮らしに直結する問題にはあまり触れていません。学んだことを身近なことに落とし込めるような学習内容に変えていく必要があると思います。
教育現場はときに一律に捉えられがちですが、実際は千差万別です。実際にはさまざまな現場で、教師たちが工夫しながら教育を提供しているのが実態です。

ー なるほど。現場の先生による工夫について、もう少し詳しくお話を伺えますか?

平田博嗣特任教授:たとえば、中学校の現場では、生徒たちに実際の株取引をシミュレーションしてもらい、時事問題と結びつけながら株価変動の理解を深めてもらっています。この取り組みは、運用成果を評価するものではありません。どのような理由から利益が出たのか、あるいは損失が発生したのか、それを分析できるかどうかを評価します。

ー 今までの社会科の授業でも、さまざまな工夫がされてきたということですね。平田先生は社会科教師の育成にも携わっていらっしゃいますが、金融教育を今後推進していく上で、特に必要とされる要素は何でしょうか?

平田博嗣特任教授:生徒への指導においては、専門用語にとらわれず、具体的な事例を用いて教えることが重要だと考えています。たとえば世界恐慌について教える場合、生徒たちはその言葉自体はすでに知っていますよね。そこで、単に用語そのものを説明するのではなく、「バブル崩壊の原因」「日本経済の停滞理由」「リーマンショックの発生理由」といった具体的な事例を丁寧に追っていくことで、金融教育の根っこの部分を伝えられるよう心がけています。

ー 金融は私たちの日常生活と深く関わっているため、子供たちに教える際には身近な例を通じて説明することが重要ですよね。平田先生のこうしたアプローチに対する生徒や学生の反応はどのようなものでしょうか?

平田博嗣特任教授:やはり具体的な生活レベルに落とし込んで話すと、生徒や学生の理解も深まりやすいと感じています。できるだけ身近な話から入り、そこから金融を学んでもらうという手法が有効です。
私たちは、日々の生活を通じて金融の具体例にたくさん触れています。そのため、それに対する問いを発したり、詳しく解説したりといったアプローチが可能です。「金融」という言葉自体は大層なものに聞こえるかもしれませんが、生徒たちのお小遣いの使い方や、足りないときの調達方法など、日常の中で私たちは金融と深く関わっているのです。

ー 平田先生が指導されている学生たちは、金融や経済への興味・理解が深まっている様子でしょうか?

平田博嗣特任教授:率直に言って、現状ではそこまでの熱量はないと思います。そのため、私としてはお金や金融について、より身近に、広く浅く触れられるような教育システムの構築が必要だと考えています。 そうした教育システムを通じて、学生たちが金融知識を自分自身の問題として捉えられるようになってほしいと思っています。

ー 平田先生が今述べた教育システムは、金融教育が導入され始め、一部で認識が深まってきた部分かと思います。このような動きが加速することで、社会や学生たちにどのような変化が起こると思われますか?

平田博嗣特任教授:たしかに変化は生じると思います。ただし、その効果が即座に現れるとは考えにくいですね。たとえば、平成29年~30年に学習指導要領が変わったとき、すぐに結果が出ると期待されましたが、教育による変化が現れるまでには10年かかるでしょう。
我々教員は、そのような長い時間軸で地道に取り組んでいく必要があります。社会全体が短期的な成果を期待し、すぐに変化が出てこない現実に不安を覚えることもあるでしょう。しかし、教育現場や子供たちを見ると、そう簡単に変わらないことがわかるはずです。
そのため、即効性を求めず、長い目で見てほしいと思います。地道な教育努力が、結果的にたくましい芽を育てるかもしれません。

ー 金融という分野を社会教育と結びつけることは難しいと感じていましたが、平田先生のお話を伺い、実践的な授業を目指して取り組まれていることが理解できました。

平田博嗣特任教授:教育というのは結局のところ、子供を育てることですからね。金融を通じて子供たちの人格形成を促すことが大切です。そのため、儲かる・儲からないといった話だけではなく、他人への思いやりなど、立派な大人へと育てる視点を含めて教育を考えていく必要があります。私としては、そうした観点を持ってこれからも教育活動に注力したいと思っています。