特集『Hidden Unicorn~隠れユニコーン企業の野望~』では、新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業の経営トップにインタビューを実施している。経営者たちは何を思い描き事業を運営し、どこにビジネスチャンスを見出しているのだろうか。これまでの変遷を踏まえ、その経営戦略にさまざまな角度からメスを入れていく。

株式会社CS-Cは、デジタルマーケティング領域を軸とした事業でローカルビジネスの活性化を支援する企業だ。今回は、代表取締役社長の椙原健氏に上場までの歩みや事業内容、未来構想についてお話をうかがった。(※ローカルビジネス:個人事業主や中小企業を中心とした、地域に根付いた店舗ビジネスの総称。食・美・旅・衣などのジャンルがある。)

(取材・執筆・構成=杉野 遥)

(画像=株式会社CS-C)
椙原 健(すぎのはら たけし)――株式会社CS-C 代表取締役社長
1976年11月4日生まれ。福島県南相馬市出身。日本大学を卒業後、2001年4月株式会社スターフューチャーズ証券へ入社。2002年12月に転職し大手コンサルティング企業の株式会社ベンチャー・リンクへ入社し、店舗コンサルティング業務に従事。2006年6月、株式会社Vleへ出向した後、独立し2011年10月に株式会社CS-Cを設立、代表取締役社長に就任し現在に至る。

2022年、世界最大の起業家コミュニティEO(Entrepreneurs’Organization:起業家機構)の日本支部であるEO Tokyo Centralで「EO of the year 2022」を受賞。
株式会社CS-C
2011年10月、東京都北区でローカルビジネスを展開する企業を支援する目的として法人設立。2012年7月「外食版SEOサービス」、2014年4月「C+(シープラス)」グルメ版をリリースした。デジタルマーケティングを軸に事業を展開し、2018年10月、SaaS型統合マーケティングツール「C-mo(シーモ)」グルメ版、ハンズオン型コンサルティングサービス「C+(シープラス)」ビューティー版をリリース。2021年2月「C-mo(シーモ)」ビューティー版をリリース。

「かかわるC(Client、Country・Community、Consumer、Children)に次のステージを提供し笑顔になっていただく」を企業理念に掲げ、ローカルビジネス市場のDX化を通じて街や地域、国の活性化を目指している。2021年12月に東京証券取引所マザーズ市場(現:グロース市場)へ新規上場を果たし現在に至る。

目次

  1. 株式会社CS-Cの歩み~コンサルティングからSaaS型ビジネスへ~
  2. デジタル×リアルの支援で、ITが苦手なクライアントでもDX化が可能に
  3. ローカルビジネスの活性化が日本全体を元気にする
  4. 株式会社CS-Cの未来構想

株式会社CS-Cの歩み~コンサルティングからSaaS型ビジネスへ~

―― まずは御社の歩みについてお聞かせください。

株式会社CS-C代表取締役社長・椙原健氏(以下、社名・氏名略):弊社は、2011年10月にローカルビジネスのDX化を通して街や地域、日本全体の活性化を目指すために設立した会社です。私を含めた経営陣が、店舗とIT・インターネットの両方のビジネス経験を持つ「店舗とデジタルのプロである」という点が特徴的かと思います。

ローカルビジネスに着目したきっかけは、私自身が福島県南相馬市の出身であり、以前から「ローカルビジネスを何とかしなければ街が元気にならない」という想いを抱いていた点にあります。同時にローカルビジネスは、国内GDPの約10%のシェアを持つビジネスの観点でも巨大で魅力的なマーケットでした。

設立初期は、グルメ業界に特化したデジタルマーケティングのコンサルティングサービス「C+(シープラス)」グルメ版を展開しました。当時、飲食店の検索方法といえば大手ポータルサイトが主流だった一方で、GoogleマップやSNSを使って探すエンドユーザーも増え始めていました。

エンドユーザーの検索手段が増えるなかで、飲食店ではプロモーションが追い付かず、マーケティングやITのリテラシー不足という課題を抱えていました。「C+」グルメ版では、エンドユーザーの動きと飲食店側の課題のギャップを埋めるため、立地や業態を踏まえたWeb戦略や予算最適化のコンサルティングからプロモーション用のコンテンツ制作までを支援しました。

「C+」グルメ版はニーズが多く導入店舗数が順調に伸び、リアル店舗のコンサルティング実績からマーケティングノウハウや行動データを蓄積していきました。培ってきたグルメ業界のノウハウやデータをもとに、2018年には新たにSaaS型のプロダクトをリリース。SaaS型統合マーケティングツール「C-mo(シーモ)」グルメ版です。

属人性の高いコンサルティング事業では、急速なスケーリングは難しいため、「SaaS型ビジネスで成長を加速しよう」というねらいがありました。2018年以降は「C-mo」グルメ版の拡販に注力し、2020年の上場も目指していましたがコロナ禍に突入してしまいます。グルメ業界は、特に影響が大きく弊社では約70%の大幅な売上減となりました。

コロナ禍を機に2020年からは、ヘアサロンを中心としたビューティー業界へ本格的に参入しました。もともと2018年には、新規事業として「C+」ビューティー版をリリースしていたのですが、コロナ禍によって事業のメインをグルメ業界からビューティー業界へとシフトする判断をいたしました。

2021年2月には「C-mo」ビューティー版をリリースしビューティー業界の拡販を進め、同年12月に東京証券取引所マザーズ市場(現:グロース市場)へ上場を果たしました。現在の収益構造は、SaaS事業が売上の約70%を占め、同時にビューティー業界からの売り上げが約60%を占めています。

弊社の新しい動きとしては、旅館やホテルといったトラベル業界への本格参入を目指しており、ファーストステップとしてコンサルティング事業から始めていく予定です。

▼株式会社CS-Cの沿革

(画像=株式会社CS-C)

デジタル×リアルの支援で、ITが苦手なクライアントでもDX化が可能に

―― メインプロダクトであるSaaS型統合マーケティングツール「C-mo(シーモ)」について教えてください。

「C-mo」は、ローカルビジネス特有の「本業が忙しくデジタルマーケティングに対するリソースもコストも割けない」という課題を解決するために生み出したプロダクトです。具体的には、ニーズ調査から新規客の獲得、固定客化までの工程をワンストップで行えるツールであり、ITやマーケティングが苦手な方でも手軽に使える操作性を重視しています。

イメージは「銀行のATMのような感覚で使える」ことです。シンプルな機能に絞って、とにかく分かりやすいUIとUXで極力自動化して使えるプロダクトを目指しています。クライアントは、個人商店からチェーン店までさまざまです。グルメ業界では、月商300万~500万円の店舗もありますし、1,000万円を超えるクライアントも一定数いらっしゃいます。

ビューティー業界の場合(ヘアサロン中心)は、月商200万~400万円ほどのレンジです。ローカルビジネスのクライアントは、マーケティング予算も限られていますので「C-mo」の利用価格は月額5万円と小規模なクライアントも利用しやすい価格を設定しています。これは、弊社内で広告に関する業務工程をすべて自動化し、低価格でも利益を生み出せる体制を創り出したことで実現した価格設定です。

そして「C-mo」は、リアル面のサポートにも注力している点も特長です。カスタマーサクセス部門には、約70名のスタッフを置き、ITが苦手なクライアントが取り残されないよう徹底的にサポートしています。クライアント側の「担当者が退職してしまった」「使い方が分からない」といった問題がある場合は、カスタマーサクセス担当者が問題解決に向けたサポートを行います。

「C-mo」は「デジタル×リアル」がワンセットとなったプロダクトという点が一番の強みです。

▼SaaS型統合マーケティングツール「C-mo(シーモ)」とは

(画像=株式会社CS-C)

ローカルビジネスの活性化が日本全体を元気にする

――ローカルビジネスの課題や将来性についてお聞かせください。

ローカルビジネスは、弊社がターゲットとしているビューティー業界やグルメ業界、そして新規参入を進めているトラベル業界のほか、アパレル業界が挙げられます。これらの業界の市場規模は約51兆円、約134万店舗とされています。(総務省・経済産業省「平成28年経済センサス‐活動調査結果」、「厚生労働省令和元年度_衛生行政報告例」等より集計)

これだけの巨大マーケットですからローカルビジネスの活性化によって地域経済はもちろん、日本経済全体を元気にする原動力になるでしょう。一方で日本のローカルビジネスには、大きな2つの課題があります。1つ目は人口減少によるシュリンクです。内需向けのビジネスですから人口に比例するのは当然ですが、課題解決には外からニーズを増やす……つまりインバウンドの必要性は避けて通れません。

インバウンドは、弊社のクライアントであるグルメ業界やトラベル業界のビジネスに直結するものです。そのため「日本の観光産業が今後どこまで伸びるのか」「国がどのようなインバウンド施策を打ち出すのか」については、特に注目しています。

2つ目の課題は、コロナ以降顕著になっている人材不足です。この点では「業務工程をいかにDX化していくか」というところが重要になっていくでしょう。店舗のオペレーションのDX化も必要とされていきますので、弊社ではマーケティング以外の領域のDX化への挑戦も視野に入れています。

▼日本のローカルビジネスの市場規模

(画像=株式会社CS-C)

株式会社CS-Cの未来構想

――最後に御社の未来構想をお聞かせください。

引き続きローカルビジネスの活性化に向けて「C-mo」をメインプロダクトとしてシェアを拡大してまいります。グルメ・ビューティ業界をさらに深耕していくと同時にトラベル業界やクリニック業界などへ横展開を行っていく計画です。従来の営業活動は、アライアンス戦略を重視しており金融機関やビールメーカー、美容ディーラーなどにご協力いただいています。

さらなる成長に向けて、営業力を高める体制を強化していきます。トラベル業界については、早期に本格参入ができるよう準備を進めている段階です。定量的な構想でいえば2027年度には、売上高100億円、利益20億円、時価総額1,000億円規模を目標に掲げています。

皆様には「ローカルビジネスといえばCS-C」というイメージで、ぜひ注目いただければ幸いです。