特集『Hidden Unicorn~隠れユニコーン企業の野望~』では、新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業のトップにインタビューを実施。何を思い事業を運営し、どこにビジネスチャンスを見出しているのか。これまでの変遷を踏まえ、その経営戦略についてさまざまな角度からメスを入れる。

今回は、生活の基盤となるさまざまな分野でITシステムの開発を手がける株式会社エーアイネット・テクノロジ代表取締役の中山泰秀氏に、お話を伺った。

(取材・執筆・構成=齋藤一美)

中山泰秀
株式会社エーアイネット・テクノロジ代表取締役
日立の関連企業で技術者として従事した後、1991年に同じ部署にいた11人の技術者とともにエーアイネット・テクノロジを設立。2012年に2代目の代表取締役として経営を引き継ぐ。現在は最後の創業メンバーとして、約150名を超える従業員を率いている。
株式会社エーアイネット・テクノロジ
1991年7月、東京都中央区日本橋にて創業。その後本社を横浜に移し、1997年4月株式会社エーアイネット・テクノロジに社名変更。高い技術力と経験を武器に、より完璧に近いITシステムを追求。社会インフラを支える、質の高いシステムを提供し続けている。

目次

  1. 時代の流れに乗って技術者仲間と創業
  2. 高い技術力とものづくりマインドが強み
  3. 充実した手当で長く勤められる企業を目指す
  4. 最大の目標は「現状維持」を続けること

時代の流れに乗って技術者仲間と創業

― エーアイネット・テクノロジ様について、教えてください。

株式会社 エーアイネット・テクノロジ代表取締役・中山泰秀氏(以下、社名・氏名略):エーアイネット・テクノロジは通信、航空、鉄道、官公庁など、さまざまな分野でコンピュータのソフトウェアを開発している会社です。創業当時から通信大手として日本の先頭を走っているNTT様とその関連企業様とお取引をさせていただいていることもあり、DXや5Gに関わるソフトウェア開発など、常に時代の先を行く先進技術を提供しております。

― 創業から現在まで、どのように事業を展開されてきましたか。

創業したのは30年ほど前ですが、当時の日本は日本製のOSを開発するなど、ものすごくやる気と勢いがありました。今ではパソコンのOSといえばMicrosoftやApple社のものが標準ですから、考えられないですよね。当時はNTT、NEC、富士通、日立が中心となって、日本製のマシンや日本製のOS、日本製の通信制御システムを作り出そうとしていました。ノートPCなども世に出てきて、「ダウンサイジング」という言葉が流行ったのもこの頃です。

当時私は日立系の企業に在籍していたのですが、大企業にいるとこの流れに乗るような仕事がなかなかできませんでした。「自分がやりたいことをやるには、会社を立ち上げるしかない」と思い、同じ会社にいた技術者11人と一緒に起業することを決めました。1991年のことです。

― 最初の取引先はNTTさんだったそうですね。

在職中にNTTさんとお仕事をさせていただいていたこともあり、そのご縁でお仕事をいただくことができました。ちょうど我々が起業した1991年は株式会社NTTドコモ様が設立されるなど、分社化がどんどん進んでいた時期でしたので、その流れに乗って我々の仕事も軌道に乗せることができました。知り合いの紹介でご縁がさらに広がり、現在のようにさまざまな業界の企業様とお取引をさせていただくようになりました。

▼フリーアドレスの円形テーブル

テレワーク率8割を超える本社は、対面とならない円形テーブルによるフリーアドレス
左下には社内マスコットのLOVOTが(画像=株式会社エーアイネット・テクノロジ)

高い技術力とものづくりマインドが強み

― 順調に事業を拡大することができた秘訣は、何でしょうか。

とにかく高い技術力を持って、お客様のニーズに実直に応えてきたことだと思います。我々が創業した当時はソフトウェア開発を必要とする企業がたくさんあったにもかかわらず、その要望に応えられる会社は少なかったのです。パソコンやデータベース、UNIXなどを扱える技術者も少なかったので、技術者集団である我々が時代のニーズをうまく捉えることができたのです。

―貴社の強みは何でしょうか。

すべての工程をきちんと完了させるという、一見当たり前のことを徹底してやっています。必要な工程が5つあるならば、どんなに似ている工程があっても省略するようなことはしません。ものづくりに対する真摯な姿勢をベテラン社員はもちろん、新人もきちんと理解しています。たとえお客様に「そこまでの品質は求めていない」と言われたとしても、うちの社員は完璧にやります。

ソフトウェア開発というとゲームやAI、自動運転などを想像して華やかな世界だと思われることが多いのですが、実際はコツコツ、地道に積み上げていく世界です。弊社では新人研修に4ヵ月かけているのですが、技術を教えるだけでなく、ものづくりに対する心構えやマインド的な部分もしっかり伝えるようにしています。

ですから、うちが納品したシステムはトラブルがほとんどありません。一般的にシステムは納品後のトラブルに備えた保守体制が必要で、それにはコストもかかりますが、うちのシステムは本当に何も起こりません。お客様にはその点について信頼と評価をいただいていますし、それが次の仕事につながっていると思っています。

―これまでに、大きな転機やブレークスルーはありましたか。

転機といえるかどうかわかりませんが、2012年に私が社長になってから新入社員の採用人数を大幅に増やし、社内業務を手伝っていただくパートナー様の採用も増やしました。もっと会社を拡大して社員の給料を増やしたいですし、生活を安定させたい。そのために舵を切りました。

新入社員が入ると、2年目の社員には後輩ができますよね。下が入ってくることで人は成長しますし、より責任を持つようになります。また、パートナーさんが入ってきてくれることで社員のスキルアップにもつながるのではないかと思っています。

充実した手当で長く勤められる企業を目指す

― 貴社は、社員の離職率が非常に低いとお聞きしました。

入社3年目までの社員の中で、退職した者は一人もいません。やはり会社は人が命ですから、大切にしたいという想いは強いですね。特に我々の業界は人の流出も激しいので、長くいてもらえる会社にするためには労を惜しみません。

コロナ禍の初期には社員全員に2万円のコロナ手当を給付し、子育て家庭には支援金としてさらに10万円を給付しました。テレワークが始まってからは、全員にiPadやヘッドホン、マウス、キーボードなどを配布し、さらにテレワークでかかる電気代や通信費として年間12万円を支給しています。また、昨今の物価上昇に対応するため、今期のボーナスからは年間10万円を加算しています。

―課題だと思うことや、今後強化したいことはありますか。

強いて言えば、厳しさが足らないかなと思っています。今は約150人の従業員がいて、全員に良い会社だと思って欲しい、長く勤めて欲しいという想いから、多少ぬるま湯的な環境になっている部分もあると思います。必要な手当ては惜しまず出しつつ、全員の潜在意識をさらに引き出せるような厳しさも持って接していきたいですね。

最大の目標は「現状維持」を続けること

― 今後の目標や展望について、お聞かせください。

意外な答えだと思われるかもしれませんが、私の目標は「現状維持」です。これは、実は決して簡単なことではありません。だからこそ「現状維持」を続けて、社員とその家族に安定した賃金を払い続けることが私自身の最大の目標なのです。

とはいえ「新しい何かをやりたい」という気持ちは常にあるので、既存事業に軸足を置きつつ、お客様に新たな提案なども行っています。例えば、私は現在「神奈川県情報サービス産業協会」の理事を務めさせていただいているので、そこを通じて行政へのアプローチなども行っています。新規で行政に切り込んでいくのは簡単ではないのですが、引き続き粘り強く提案し、新たな事業につなげていきたいと考えています。