特集『Hidden unicorn企業~隠れユニコーン企業の野望~』では、各社のトップにインタビューを実施している。今後さらなる成長が期待される隠れたユニコーン企業候補のトップランナーたちに展望や課題、戦略についてヒアリングし、各社の取り組みを紹介していく。
株式会社ソルブレインは、クライアントの事業全体のマーケティングをデータ連結で支援するグロースマーケティングを行う会社だ。本インタビューでは、代表取締役である櫻庭誠司氏に同社の企業概要や日本経済の展望、今後の事業展開などについてうかがった。
(取材・執筆・構成=山崎敦)
一気通貫したDXで、事業全体の最適化を支援する
――株式会社ソルブレイン様のカンパニープロフィールと、現在までの事業内容についてお聞かせください。
株式会社ソルブレイン代表取締役・櫻庭 誠司氏(以下、社名、敬称略):
弊社は、2008年に設立した宮城県仙台市に本社を構える企業で、現在は東京にもオフィスがあります。企業の持続的な成長を実現する「グロースマーケティング事業」を行っています。
グロースマーケティングと聞いても、あまりなじみのない言葉かもしれません。弊社では、グロースマーケティングを上図のように定義しています。図下側の事業構造のなかで、各セグメントに特化した企業様はたくさんいらっしゃると思います。
弊社では「部分的な最適化は事業全体の最適化には直結しないのでは?」と考え、事業全体をワンストップで支援し全体の最適化を行うことで、事業収益の最大化を実現するのがグロースマーケティングと位置付けています。
2008年の創業時、弊社はSEO支援サービスの提供から始まり、クライアント様の抱える課題に合わせて、リスティング広告運用や広告の受け皿となるサイト制作などのWebプロモーション領域をどんどん拡大させていきました。有難いことに売上は伸びていったのですが、ある日、契約が相次いで打ち切られる事態が発生しました。クライアント様の要望にはしっかり応えていたはずなのに、です。
原因を模索する中、一つの結論に辿り着きました。
“売上・利益の成長”という本質的な価値提供が出来ていなければ、契約継続に繋がらないということです。
例えば、SEOで上位表示を達成してセッションを増やすことができ、中間KPIは達成したとしても、最終的な売上・利益に結び付かなければ、意味のない施策となってしまいます。
リスティング広告の運用でも同様のことが言えます。CPA(Cost Per Action)が合ったとしてもCPO(Cost Per Order)が合わなければ、問い合わせ数は増えたのに利益は増えていないということになりかねません。さらには、LTV(Life Time Value)を測定し、事業に反映させていくことが重要です。獲得した顧客が将来的にどれくらいの利益をもたらしてくれるのかを算出し、利益に対するより正確な費用対効果を導くことで、最適な投資や判断が行えるようになります。
そうして、売上・利益の成長にとことん注力することを決め、自分たちの枠に囚われることなく、様々な課題解決に取り組んでまいりました。
その中で、事業を一気通貫で分析・最適化する仕組みを作ることが、企業の成長にとって非常に重要であることが分かってきました。今では、事業活動により生み出されるデータを分析し、テクノロジーを最適な形で活用することで、事業利益の最大化を実現する「グロースマーケティング」事業を展開しています。
――ソルブレイン様は企業の持続的な成長を促進する「グロースマーケティング」を実現するためのグロースマーケティングプラットフォーム「SKEIL」などのプロダクトを通じてお客様のご支援をされていますが、業界内における競合優位性はどのようなポイントでしょうか?
櫻庭:一番の強みは、バリューチェーン全体をデータ連結させ、事業成長に還元する点です。昨今、データドリブンという言葉を耳にすることが多いことからも分かるように、各セグメントをデータ化するツールやサービスはたくさんあります。しかし、その結果、セグメントごとにデータが分断していたり部分最適に陥っているケースが多く見受けられます。SKEILはそうした分断されたデータを繋ぎ、全体最適を可能にするプラットフォームです。
事業活動において最終的な目的は利益を上げることです。その利益を上げるためには、事業全体を見たうえでのボトルネックに対して改善をし続けなければいけません。そのため、全体分析を行いスピーディにボトルネックを発見し、改善に着手できることは大きな強みになります。
ポイントでデータ化するのではなく、全体を見て何がボトルネックなのかを認識することが重要です。例えば「リードの質を高める代わりに量は少なくてもいいのか」「リードの質は悪化してもいいからとりあえず数を稼いで営業担当にトスするのがいいのか」という議論があると思います。ただその際に質の悪い問い合わせに対応する人員コストまで勘案している可能性は低いです。しかし、利益を重視するのであれば、人員コストまで検討すべきです。
様々な角度から俯瞰的な分析をするためにも、全体をデータ連結させていくことが本質的な改善につながるのです。
――グロースマーケティング領域は労働集約的になったり、個人の能力に依存したりするようなことはないのでしょうか?
櫻庭:契約開始時は、クライアント様の事業領域やバリューチェーン、商慣習などをちゃんと理解しなければいけないため、瞬間的に労働集約的になることはあります。しかし、ボトルネックを割り出して打ち出す施策が決まり、いいサイクルが回り始めれば必ずしもそうではありません。
個人依存というところも難しい一面がありますが、基本的にどのプロジェクトも弊社のテクノロジーを使っていくことが前提なので、誰が担当してもパフォーマンスに差が出ないような仕組み化に注力しています。
費用対効果をきちんと理解することが企業DXのポイント
――ソルブレイン様は「全ての産業にテクノロジーで最適解を提供する」というミッションを掲げられています。代表様の目線から見た現状の日本企業におけるDXの浸透度と、ビジネスを進めていくうえで特に重視されるポイントをお聞かせください。
櫻庭:まず浸透度に関してですが、日本において一部の大企業はしっかりと浸透していると思います。昔からデータファクトに基づいて改善していこうという概念がしっかりと浸透している大企業は昔も今もDXができているイメージです。一方で、ほとんどの企業に関しては伸びしろが相当残されているように感じます。DXという言葉だけが先行し、日本の企業全体でDXに対する理解はまだまだ醸成されていません。
DXが進んでいる会社とそうでない会社の大きな違いは「投資対効果を判断できているかどうか」だと考えます。
・DXによって売上・利益にどのようなインパクトがあるのかイメージが湧かず踏み出せない
・着手してみたが、効果が曖昧で途中で頓挫してしまった
上記はDX推進する際に、よくある課題の一例です。
どうしてこういうことが起こるのかというと、投資対効果の視点で考えられていない可能性が大きいです。もしくは、考えるためのデータや環境が整っていないか。
企業は日々投資を行い、投資以上のリターンを重ねることで成長しています。DXも同様で、DXによってどんなリターンがあるのかを整理した上で、取り掛からないといけません。
DXが「投資対効果があり会社にとっての利益が創出される」という文脈までちゃんとつないで説明・理解することができれば、一気に浸透するのではないかと考えています。
――2022年末に日本政府からスタートアップ企業の育成に向けた方針が打ち出されるなど成長企業にとってはビジネスチャンスが期待されますが、現在の日本経済が直面している課題と、今後の日本経済の動向についてお考えをお聞かせください。
櫻庭:課題という意味でいえば、やはり既存のビジネスモデルが非効率的なことはどなたも気付き始めていると思います。なかなか既存のモデルを変えることができないのは、そこに既得権益があるからなのではないでしょうか。変わらなくても何十億という利益が出ている会社様はたくさんありますので、だからこそ現状維持を選ばれているのではないかと思います。
ただこれまでは、技術や予算、人的リソースの問題で難しかった施策も今はテクノロジーの進化によってやろうと思えばできることがすごく増えました。そのため「いまどんなテクノロジーに優位性があるのか」「自分の業界においての優位性は何なのか」についてしっかりと理解することが大切なのではないでしょうか。
テクノロジーに嫌悪感を持たずに、自分の会社をさらに良くしていくマインドを持っている企業が勝つ時代になっている感じがします。
――ソルブレイン様と同様の事業領域を持つ企業が2023年以降の市場において成長していくためのポイントは何だとお考えでしょうか?
櫻庭:まず弊社の属するようなマーケットは、とても大きいですが、マーケットの大きさに対してプレイヤーはまだ少ないです。そのようなマーケットにおいて弊社も含めたプレイヤーがいかに大きく成長できるかが重要なポイントです。主に「クライアントにどれだけ理解を得られるか」「システムの改善で会社にどれだけのプラスがあるのか」を理解いただくことが大切です。
弊社の場合、どうしても実施前は概算の数字での説明になってしまいがちです。ただ「この施策を行うことでどれだけのコストが削減されどれだけの利益が生まれるか」「効率化によってどれだけのリーチが生まれるのか」という部分を毎回説明しています。
例えば効率化のためのシステム導入でどれだけの人的コストが削減され、それを給料ベースで換算すれば年間どれだけの人件費が削減できるのかという話をすると、一気に興味を持っていただけるというケースもありました。やはりどの会社様でも人件費はネックになる部分ですので、その部分をシステムで代替できることは魅力的に映るようです。
グロースマーケティング領域の伸びしろは非常に大きい
――ソルブレイン様の今後の目標(売上、成長、事業展開など)、5年後、10年後に目指すべき姿についてお聞かせください。
櫻庭:現在の展望としては、既存のクライアント様のさらなる成長を実現すること、そして、新たな業界の開拓にも注力している最中です。
「全ての産業にテクノロジーで最適解を提供する」このミッションを最短で実現するため、事業の成長を加速させていきます。
――目標に向けた現在の事業課題をお聞かせください。
櫻庭:今後の事業成長において、やはり優秀な人材の獲得が重要だと考えているため、新卒・中途問わず採用に力を注いでいます。
――最後に、弊媒体の読者層である投資家、資産家を含めたステークホルダーの皆様へ、メッセージをお願いします。
櫻庭:グロースマーケティングは、企業の本質的な課題である”売上・利益の向上”にアプローチする考え方で、どの業界・企業にも必要不可欠であり、今後の伸びしろは非常に大きいと考えています。
また、今や企業が生き残る上でテクノロジーの活用が必要不可欠な時代です。
AIやクラウドコンピューティングなどのテクノロジーは劇的に進化し、汎用性も高くなってきましたが、多くの企業でリソースやノウハウが不足しているのが現状です。
ソルブレインは、高い技術力で事業のバリューチェーンを横断した全体最適を実現し、付加価値の創出に取り組んでまいります。