特集「令和IPO企業トップに聞く ~ 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。

三和油化工業株式会社
(画像=三和油化工業株式会社)
柳 均(やなぎ ひとし)――三和油化工業株式会社 代表取締役
1975年11月12日生まれ。大学卒業後の1999年に三和油化工業株式会社入社。就業しながら経営学の大学院修士課程を修了し、MBA(Master of Business Administration)を取得。営業部門、製造部門、管理部門等を経て、2012年に代表取締役社長就任。グループ子会社の役員を兼任するほか、国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学の産学官連携客員教授も務める。
三和油化工業株式会社
1970年、愛知県で創業。「環境ニーズを創造する」をテーマに事業活動を展開し、持続可能な社会の実現への貢献を目指す。産業廃棄物を処分するのではなく資源と捉え、新品同等の品質の製品として再資源化し、資源循環を実現するリサイクルメーカーとしての役割を担うほか、エレクトロニクス分野向けの高純度溶剤の精製も手掛ける。2021年12月に東証JASDAQ スタンダード(現:東証スタンダード)、名証2部(現:名証メイン)に上場。

目次

  1. 創業から上場までの事業変遷
  2. そもそもエクイティを活用しようと思った背景や思い
  3. 今後の貴社における事業戦略や展望
  4. この金融/経済市場においての、貴社または代表ご自身のファイナンスにおける課題や重点テーマ
  5. ZUU onlineのユーザーに一言

創業から上場までの事業変遷

――貴社のこれまでの事業変遷について教えていただけますか。

三和油化工業株式会社代表取締役・柳 均氏(以下、社名・氏名略):弊社は、1970年に私の父が愛知県で創業したのが始まりです。当初は大手自動車メーカーがある城下町で、自動車部品や搬送機器の製造に使われる油や工業用洗浄剤を供給することを目的に設立されました。当時はモータリゼーションが進み、自動車が急速に普及していたため、私たちの製品は、製造業の中小企業を中心に販売され、自動車関連の需要の増加に伴い会社も成長しました。これが昭和の時代です。

1980年代には、フロンガスによるオゾン層破壊等、地球環境への悪影響が明らかになり、モントリオール議定書が採択されました。これにより、地球環境を損なわない方法での経済成長が求められるようになりました。実際、地場の大手自動車メーカーでも環境に悪影響のある化学物質を使った製造を徐々にやめていく方針を打ち出しました。

このように環境に配慮した取り組みが求められるようになり、化学製品の事業は徐々に衰退していきました。 そこで取り組み始めたのが、溶剤や塗料などの廃液を再生するリサイクル事業です。1990年代中盤以降、徐々に製造業がゼロエミッションを目指すようになったことで、製造業界全体としてさらに環境を重視しながら事業を展開することが求められるようになり、リサイクル事業は順調に成長し、東海地区から全国へと事業範囲を拡大していきました。

――リサイクルに舵を切ったことで順調に拡大されてきたということですね。

:そうですね。今後もリサイクルによって、資源がない国でも資源を循環させていくことが重要になります。 しかし、廃液を再生してきれいな製品を作ったとしても、購入する側の心理から考えると、品質保証がなければ、積極的な購入には至らず、再生した資源が国内で循環しない状況が続いています。そこで、お客様が信頼できるような品質保証を行えるような仕組み作りに、より一層取り組んでいくべきだと考えています。

そもそもエクイティを活用しようと思った背景や思い

――貴社はその後2021年に上場していますが、その背景や狙いについてもお聞かせいただけますか。

:実は、当社での上場は二回目の挑戦でした。 一回目は先代である私の父が2005年から2008年にかけて進めていたのですが、リーマンショックにより断念せざるを得ませんでした。当時、私は経営企画室長を務めており、父が上場を心に決めていたことを知っていましたので、その思いを引き継ぎ、いつか上場したいと考えていました。 その後、2012年に私が社長に就任しましたが、その時はまだリーマンショックの後遺症が残っていたため、すぐに上場することはできず、まずは企業として体力をつけることを優先しました。そこから紆余曲折はありましたが、なんとか準備を整え、2019年に上場を決意し、三年間の時を経て上場に至りました。

加えて、弊社はオーナー企業であり、借入時の担保条件が悪くなってしまうことに加え、これから結婚や家庭を持つことが予想されるような若い社員も多いため、そのような社員に安心して働いてもらうことにも繋がると考え、上場して信頼を得ることは重要だと考えていました。

――上場の背景にはお父様の思いもあったのですね。 続いて、未来に目を向けたお話もお聞きできればと思いますが、今後の貴社の事業戦略や展望についてお聞かせいただけますか?

三和油化工業株式会社
(画像=三和油化工業株式会社)

:私たちは昨年、2030年に向けた目標として「グランドビジョン2030」を発表しました。簡単に言うと、成長する産業に対してサステナブルな価値を提供していくということです。

私たちは、2030年までに半導体やEV関係、電子部品周りの事業が圧倒的に増加すると考えています。そのため、原料の供給において、日本全国、さらにはグローバルの範囲で化学材料の調達が必要となると予想しています。そこで、私たちは、原料を調達し、お客様に使っていただけるような品質に仕上げて供給することを考えています。さらに、お客様が使用した後の廃液を再資源化し、再び原料として循環させていくことで持続的な原料の提供が可能になります。加えて、そのような原料をリサイクルするための工場やプラント設備やその仕組み自体を提供していくことも考えています。

今後の貴社における事業戦略や展望

――今後の投資戦略についてもお聞かせいただけますか。

:上場したこともあり、潤沢に資金を調達できる状況が整いましたので、日本各地で設備投資を行っていきます。特に、東海地区や九州地区で大きな設備投資を進めていく予定です。 特に、東海地区では、地場の大手自動車メーカーの成長戦略において、EV戦略が重要視されていますが、それに対応するための工場のキャパシティが不足しています。そこに対して、2030年を見据えて追加で設備投資を行っていく予定です。

この金融/経済市場においての、貴社または代表ご自身のファイナンスにおける課題や重点テーマ

――貴社の財務戦略における重点テーマや課題についてもお聞かせいただけますか?

:現在は、事業の収益をキャッシュでプールできていますが、ただ保有していても貨幣価値がこれからますます下がっていくことが予想されますので、リスクを排除するために、金利が低いうちに借金を返済した上で、未来の成長のために投資をしていくことが重要だと思っております。

ZUU onlineのユーザーに一言

――最後にZUU onlineのユーザー様に対して一言いただければと思います。

:弊社はまだ上場して間もない会社ですが、国内で三社目のSDGs-IPOを果たしました。規模が大きい会社ではありませんが、SDGsやESGへの対応を重視し、これからの社会の使命を果たしていく所存です。日本が世界で勝ち抜くためには資源やエネルギーを安定的に調達することが必要不可欠であると考えています。製造業においては、原料の調達が特に重要になりますので、我々の持っているインフラや機能を活かして、日本の製造業の生産活動をより発展させていくことができるよう、リサイクル事業を主体とする企業として原料の供給をサポートすることで、企業成長を目指してまいります。

氏名
柳 均(やなぎ ひとし)
社名
三和油化工業株式会社
役職
代表取締役