特集「令和IPO企業トップに聞く ~ 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。

日本ナレッジ株式会社
(画像=日本ナレッジ株式会社)
藤井 洋一(ふじい よういち)――日本ナレッジ株式会社代表取締役
1985年に金融機関を退職後日本ナレッジ㈱を創業。システム受託開発及びパッケージソフトウェア開発を手掛ける。2001年よりシステム検証事業を新たに立ち上げ、近年はソフトウェアテストの自動化サービスに注力している。 また社外活動として、2005年に一般社団IT検証産業協会の設立に関わり、ソフトウェア品質向上の活動を推進。2013年には、一般社団コンピュータソフトウェア協会においてソフトウェア製品の品質認証制度(PSQ認証制度)を委員長として制度設計、運用を開始するなど、日本のIT産業の発展に寄与している。
日本ナレッジ株式会社
当社は、主にソフトウェアシステムの検証サービスを提供する「検証事業」とシステム受託開発、業務系パッケージソフトウェアの開発・販売等を行う「開発事業」を主たる事業として展開。 設立当初は、業務系のパッケージ開発を主業務とし、「徹底した顧客志向の開発」というコンセプトのもと開発事業を進めてきたが、 2001 年度より業務系の開発事業で培った経験とノウハウを活かし、ソフトウェアテストに関する専門的な知見と技術を提供する検証事業を立ち上げ、注力している。

目次

  1. 創業から上場までの事業変遷
  2. 今後の投資戦略
  3. ZUU onlineのユーザーに⼀⾔

創業から上場までの事業変遷

――まず、創業から上場までの事業の変遷について、会社紹介も含めて教えていただけますか?

日本ナレッジ株式会社代表取締役・藤井 洋一氏(以下、社名・氏名略)

当社は1985年にスタートしました。私はもともと金融機関に勤めていたのですが、サラリーマン生活に向かないと感じて、税理士の資格取得を目指し勉強を始めておりました。また、中小企業において電算化が進んでいない実情を目の当たりにし、コンピューターの必要性を感じておりました。そのような中、MJS(現在の株式会社ミロク情報サービス)がシステム販売の代理店を募集していることを知りました。

このような経緯で当社はMJS製品の代理店としてスタートを切りましたが、当時のMJSは経理・給与計算のシステムは充実していたものの、販売管理システムについては、一般の卸向けしかなかったため、その他の業界については個別でのソフトウェア開発が必要であり、当社も独自で開発を行うようになりました。 私はもともと金融機関出身であり、ソフトウェア開発の経験はなく、見よう見まねで始めたのですが、創業から3年ほどでスタッフも増え徐々に軌道に乗り始めました。

当時は特定の業界向けのパッケージソフトは少なかったのですが、ある顧客からの依頼で鋼材卸業向けのパッケージを開発いたしました。この製品が業界内でかなり好評を得て広がり、NECや大塚商会からも注目され、同社と協業する機会を与えて頂くなど、着実に事業を拡大してきました。

実は上場に至るまでは、それほど会社を大きくしようとは思っていませんでしたが、60歳を迎える前に、新たなチャレンジが必要だと感じ、2018年に上場を目指すこととしました。当初はうまくいかない場面もあったのですが、昨年、証券会社を変更して約一年半の準備を経て、上場に成功いたしました。

当社の強みとしては、弊社は開発会社のバックグラウンドがあり、テストの自動化に早くから取り組んできました。これが他社との違いだと考えます。

―テスト自動化への取り組みが差別化のポイントなのですね。上場を目指した背景にはどのような狙いがあったのでしょうか?

藤井 : 業界の変化を長く見てきた結果、淘汰される側ではなく、生き残る側にいたいという思いがありました。そのためには、事業承継や人材確保が必要であり、資本と信用を得ることを主眼に上場を狙いました。

――今後の事業戦略についてはどのような展望をお持ちですか?

藤井 : この業界では人材不足が深刻です。これまではテストビジネスとなると、常駐型や派遣型が主流でしたが、コロナによってその流れが変わってきました。また、自動化へのニーズが非常に高くなっております。当社にとっては、かなり追い風だと捉えています。 リモートワークもかなり促進されていますので、地方人材も活用できるようになりました。弊社では、地方拠点の増設を図っており、地方の優秀人材の活躍の場を提供し、人材不足の根本解消を図っております。

また、M&Aも視野に入れており、特に地方の中小企業で後継者不足に悩むケースが多いため、業界団体での役員経験を活かし、文化や風土が合う会社を見つけ、可能性を探っているところです。

今後の投資戦略

――今後の投資領域としてはやはり”人材”が1つのテーマになるイメージでしょうか?

藤井 : そうですね。どうしても、我々のようなIT業態となると拠点拡大等の設備投資は、反対意見も多いのですが、我々としてはやはり人材獲得を経営上の最優先課題と捉えており、長期的かつ安定的な成長を見越した上で、人材採用(特に新卒採用)を目的とした地方拠点拡大を図っていくつもりです。

もう一つは、AIの活用です。以前からお付き合いのある筑波大学さんの産学連携プロジェクトにも参画し、実用的なAI技術の開発に取り組んでまいります。

――大手や大きな資本を持つ企業も参入してくる場合に、何か具体的な戦略は考えられているのでしょうか?

藤井 : 例えば、金融系大企業の実施するシステム開発のテスト工程ボリュームはかなり大きく、同業大手の中には、元請けであるSIerからテスト工程を中心に受注し、積み上げていくビジネスモデルを取られている企業もあります。こちらは、一つの受注金額としては大きいのですが、プロジェクトが終了すると、次の受注につながらないケースが多くなっております。

しかしながら当社は、プロジェクトの単発的な成果に留まらず、ストック型のビジネスを構築していくことを目指しています。つまり一つのサービスが成功すれば、それを同じお客様の別事業や別領域に展開して継続的な取り組みを実施するということです。ここが同業大手との一番の違いとなっており、弊社の強みと言える部分です。 更に、同業大手も多く手掛けている、現在主流の”手動型”のテストはかなりレッドオーシャンになってきておりますので、私たちは”自動化テスト”に特化し、差別化を図ってまいりたいと考えています。

――今後は、お客様であるユーザー企業との直接取引を増やしていくということでしょうか?

藤井 : 仰るとおりです。従来型の開発がなくなることはないと考えていますが、クラウド系のビジネスへの転換を進める企業は、私たちのターゲットとなります。クラウド系開発においては、すでに潜在的なお客様をかなり多く保有しており、今後はこういったお客様との取引を増やしていくつもりです。

主要取引先である株式会社大塚商会様とも、同社のオンプレミス製品をクラウドに切り替えることについて支援をさせて頂いている経緯もあり、クラウド化のノウハウがかなり蓄積されております。 今後は、このノウハウを多くの企業様へ展開していこうと考えています。

ZUU onlineのユーザーに⼀⾔

――最後に、ZUU onlineユーザーに向けてのメッセージがあれば、ぜひお聞かせください。

藤井 : 当社は長期的な成長を目指しており、上場を機にしっかりとした人材確保と技術の基盤作りに力を入れてまいります。急激な成長よりも堅実な基盤を築き、その上で大きく成長していく計画です。長期的な視点で私たちを見守っていただける投資家の皆様に、ご支援をお願いしたいと思います。

氏名
藤井 洋一(ふじい よういち)
社名
日本ナレッジ株式会社
役職
代表取締役