LSI/半導体設計を専門とし、300人以上のエンジニアを擁する三栄ハイテックス社は、国内有数の独立系企業として大きく躍進しています。近年、中国や台湾市場への展開を果敢に進め、デジタル技術を用いて新たな価値を生み出すパートナー企業として、お客様からの高評価を得ています。間淵社長の前向きなビジョンと半導体業界への深い洞察は、会社の成功に不可欠な要素となっています。半導体設計の今後の展望、海外市場での事業展開、IoT時代のネットワーク技術など、間渕社長の考えを伺い、どのようにして新たな価値を生み出し続けているのかに迫ります。その驚くべき洞察と経験を通じて、これから三栄ハイテックス株式会社がどのような発展を続けていくのか探ります。
(執筆・構成=川村 真史)
間淵 義宏(まぶち よしひろ)――三栄ハイテックス株式会社 代表取締役社長 1957年、静岡県浜松市生まれ。岐阜大学大学院修了後、1982年4月に日本電気株式会社に入社。1990年4月よりNECエレクトロニクス・アメリカに出向し、1998年4月に同社半導体ソリューション技術本部部長に就任。その後、2004年4月に株式会社システム・ファブリケーション・テクノロジーズに入社。2008年6月、三栄ハイテックス株式会社入社し、同年9月常務取締役を経て、2009年4月より現職に就任。
起業と事業変遷について
―始めに、三栄ハイテックス株式会社の事業変遷について簡単にお聞かせいただけますか?
私がきたのが2008年で、ちょうどリーマンショックのときでした。もともとはヤマハ社の半導体と一緒に関わってきて、電子楽器や携帯電話/PCの音源などを扱っていました。私が入社したときには、ヤマハ社の半導体事業が縮小していました。その後、リーマンショックや震災、コロナと立て続けに大きな変化があり、半導体業界は激しく動きました。
日本の半導体市場は大変厳しく、エレクトロニクス業界が衰退し、自動車業界だけが残りました。そのため、当社のお客様も減少傾向にある中で、ヤマハ社を中心に、ルネサス エレクトロニクス社やデンソー社などの大手企業にお付き合いを広げ、分散化してきました。それぞれの企業で利用する半導体の分野が違うので、我々の技術が利用されている市場も多様化しています。
生き残っている半導体メーカーにはほとんど入ってしまったため、これ以上日本のマーケットで広げることは難しい状況です。
一方、中国のマーケットは非常にスピードが速く、莫大な資金を投じて半導体産業を拡大しています。日本のビジネススタイルとは全く異なるため、我々三栄ハイテックスは中国市場に参入していっているところですが、まだまだそのスピードにはついていけていない状況です。
―現在の半導体業界はどのような状況にありますか?**
過去に私が入社した頃は日米半導体摩擦があり、日本の半導体産業が圧倒的に強かったのですが、今は中国も力をつけています。半導体技術は国防やセキュリティに関わる問題でもありますから、各国と熾烈な競争が続いています。
例えば、ミサイルやセンサーなど、精密な技術が求められるものはすべて半導体技術が関与しています。ロシアも中国もこういった部品を必死に集めています。
兵器やセキュリティ関連、皆様が持っているスマートフォンにしても、半導体技術の進歩があってこそです。半導体技術の進歩は、社会に大きな変化を与えています。現在のAI技術も、半導体技術が進歩することで計算能力が劇的に上がり、これまでの考えが拡大しています。
半導体技術は全産業に関わってきます。例えば車も半導体技術に頼っており、半導体がなかった場合、車が製造できなくなってしまうのです。このため、サプライチェーンが非常に重要になってきます。
三栄ハイテックスの強みとは
―ありがとうございます。続いて、三栄ハイテックス株式会社の強みについて教えていただけますか?
弊社は大手半導体メーカーの技術サポートを主に行っており、エンジニアリングサービスを提供しています。半導体にはデジタルやアナログなど様々な技術がありますが、弊社はデジタルもアナログもトータルでサポートができるところが強みです。特に最近はアナログ技術に力を入れています。
―過去の成功やブレイクスルーに関して教えていただけますでしょうか?
むしろ、生き残ること自体に必死でした。半導体業界の競争が激しくなって以降も、私たちはファンダメンタルな技術を高めて、さまざまなお客様に技術を提供してきました。その技術力が弊社の強みだと思っています。
―今後は、基本的にエンジニアリングサービスを維持し続けるという考えですか?
はい、基本的にはエンジニアリングサービスというビジネスモデルは変えるつもりはありません。メーカーとして製品を持つことは、ビジネスモデルが異なりますし、投資も必要になります。弊社の目標は優秀なエンジニアを育て上げ、そのサービスを提供していくことで、メーカーになることではありません。そのエンジニアリングサービスで、日本のマーケットだけでなく、中国のマーケットにもチャレンジしていきます。
―新規でベンチャー企業が半導体業界に参入するのは難しいですか?
そうですね。日本ではベンチャーの成功率が低いので、エンジニアも育ちにくく、社会全体がベンチャー企業に対して一定の理解がない状態です。また、日本でのベンチャー事業において、成功した人もいますが、アメリカのベンチャーと覚悟が違う感覚があります。
アメリカは流動性が高く、ベンチャーを創業し、ダメなら次にすぐ取り組むという環境が整っています。しかし、日本では流動性が低く、ベンチャーに対する環境が整っていないと言えます。
―日本のベンチャー事業に対する環境はどう改善すればいいでしょうか?
流動性を高める必要があります。また、投資家がエンジェルとして機能できるようなベンチャー企業が生まれやすい環境を整える必要があります。現状では、投資家がいないことが課題として挙げられます。
特にエンジニアの流動性を高めることは、日本が発展していくためには、非常に重要な問題だと思います。シリコンバレーのような地域では、エンジニアが個人業として活躍しています。日本にもそういった人材が必要になります。
―御社の直面している課題についてお聞かせください。
課題は、人材リソースの不足です。リソースは少子高齢化の流れもあり、なかなか確保が困難で、いくら政府が新たな対策を講じたとしても、我々がそれを利用するまでには時間がかかります。
また、適切な教育を受けたエンジニアや外国人材の採用も難しい状況です。
教育制度がしっかりしている国や地域で、多くの人材が排出されるものの、競争も激しくなっていて、人材の確保が難しいです。また、今回のコロナ禍で外国人材が帰国してしまい、大きな戦力を失ってしまいました。
また、国内でのヘッドハンティングも、やはり難易度が高いです。特に、我が社は浜松にあり、地方のため、人材確保がさらに困難です。地方では、様々な制約があるため、相手にする人材が限られます。また、浜松には世界的メーカーがいるにもかかわらず、浜松を知っている人は少なく、人材の獲得が難しいです。
これまで中国市場を狙い、中国の人材も獲得してきましたが、中国政府主導の半導体内製化による中国国内のエンジニア需要増、日本国内のコロナ禍対応の不安により多くの戦力が帰国してしまいました。その中で、どのようにグローバルなエンジニアを確立するかが課題となっています。
未来の展望について
―では最後に、投資家や読者に向けて、御社のアピールや半導体業界の今後に関して、一言をお願いできますでしょうか?
以前は日本が半導体業界で世界一の地位にあったものの、現在では台湾や韓国に抜かれてしまっています。日本には素材や半導体技術に強い人材が存在しておりますが、ビジネスモデルが築けなかったのだと考えております。今後、政府主導で半導体産業を復活させる可能性があります。国防の問題も含め、日本の半導体業界が再び建て直すにはマーケットの存在が不可欠であり、その意味で日本がマーケットを含め、再建のステップを踏み出していくことが重要で、日本の半導体産業が再び脚光を浴びることを期待しています。
- 氏名
- 間淵 義宏(まぶち よしひろ)
- 会社名
- 三栄ハイテックス株式会社
- 役職
- 代表取締役社長