負けがこむほど熱くなるのは人間の性。感情のコントロールは、時にFXトレードの成績を大きく左右する。今回紹介するKaibe氏は感情に振り回されない投資を追求して、自動売買ソフトを作り続けている専業投資家だ。
2018年には世界で最も有名なFXトレード大会として知られる「ロビンスカップ」で準優勝したが、その栄冠を勝ち取る原動力となったのも自作の自動売買ソフトだった。どのようにソフトやロジックをつくりあげ、システムトレーダーとして安定収入を得られるようになったのか?
Twitter:@K_FLASHES_
サブプライムショックで300万の損失も…
――Kaibeさんは世界的なFXトレード大会として知られる「ロビンスカップ」で準優勝に輝いた実績があると聞いています。どのようなきっかけでFXを始めたのでしょうか?
サラリーマン時代に会社の先輩から投資を勧められたのがきっかけです。「貯金してても増えないだろ?」と。ただ、その先輩はどう投資して儲けているのかは教えてくれませんでした。「安定的に年20%ぐらいの利益を出している」ということしか教えてくれなくて。
それで、投資について勉強し始めたら、株はキャピタルゲインで大きな利益を得られることはあっても、安定して入る配当だけでは年20%もリターンが発生しないことを理解しました。でも、FXならレバレッジをかけて高金利通貨を買っておけば、年利20%以上のスワップ収入も狙えることがわかったんです。
私がFXを始めた2016年当時は米国の政策金利は5.25%もあって、オーストラリアは6.25%もありました。4倍のレバレッジをかければドル/円の買いでも年利21%ものスワップ収入が狙えたんです。
――ただ、翌年にはサブプライムショックが起きてドル/円も豪ドル/円も暴落しましたよね?
そうなんです。サブプライムショックで、それまでの含み益もスワップ収入もすべて吹き飛ばして300万円の損失を出してしまいました。スワップ狙いの「高金利通貨買い」だけではダメだと気づいて、その後1年間はみっちり相場の勉強をすることに決めました。
――1年勉強して、トレードは変わりましたか?
テクニカル分析に関する知識は相当身に付きましたね。その影響で、さまざまなテクニカル分析を組み合わせて売買シグナルを発してくれるインジケーターの研究も始めました。メタトレーダー4(MT4)というチャートソフト用に、海外のトレーダーがさまざまなインジケーターをつくって無料提供していたので、そのインジケーターの検証も行いました。
そのなかで、テスト結果がいいものを利用して、リーマンショック後の2008年11月からトレードを再開したんです。そうしたら、9カ月で6300%ものリターンが出てしまって(笑)。
――ものすごいリターンですね!
25万円で運用開始したのに、気づいたら証拠金残高が1600万円に増えていました。このときに、感情や期待に振り回されるようなトレードをしてはダメなんだとはっきりわかりました。それで、2010年からは売買シグナルに準じたトレードでなく、注文や利確・損切りまで自動化する自動売買ソフトの開発にも乗り出したんです。
―ー確かに、9カ月で6300%のリターンがでるトレードを自動化できたら最高ですね。
でも、そのインジケーターは行き過ぎの局面で逆張りして次の局面でデテンするショートスイングタイプのものだったので、ボラティリティ(変動率)が低下した2009年後半以降は稼げなくなりました。その後、どんな相場環境でも稼げるものを目指して、自作した自動売買ソフトを使って2011年から運用を始めたんですけど、そこでも壁にぶち当たった。
――思うように稼げなかったということですか?
いや、毎月50~100%ほどのリターンが出る非常に優秀な自動売買ソフトだったんですけど、優秀であるがゆえにFX会社から口座凍結を食らってしまいまして……。
――トレードする環境そのものを奪われてしまったと。
そのときに「裁量トレードをやらないとダメなんだ」と感じて、再び裁量トレードを始めたら2012~2014年にかけて数百万円の損失を出してしまいました。負けが込むと、どうしても熱くなってしまって、さらに負けるということの繰り返しで……。
利幅を稼ぎやすいゴトー日や金曜日を狙う
――ロビンスカップで準優勝したのは2018年のことでしたね。
そのあとも紆余曲折あったのですが、結局、原点回帰してFXの自動売ソフトの開発を進めたんです。それができあがったタイミングで、ロビンスカップがあったので腕試しのために参加したかたちです。
――自動売買ソフトでロビンスカップを戦ったわけですね。
チャート分析の基本として知られるダウ理論をもとに開発しました。「Flashes」と名付けたその自動売買ソフトは、上昇トレンドにあるときは押し目をつくって一旦サポートラインを割ったら買いで入り、下落トレンドならレジスタンスラインで売りで入るというトレードを実行するもの。
裁量トレードなら簡単に実行できますが、「サポートライン」「レジスタンスライン」をシステムに落とし込むのが結構大変で、複数のインジケーターを組み合わせてようやく実現できました。
――トレードスタイルは、押し目買い&戻り売りという非常にシンプルなもののようですが、勝率はいいのでしょうか?
ロビンスカップに出場した2018年は130%のリターンを出しました。今でも運用していますが、2021年はボラティリティが低下しているので、そこまでの成績は上がっていません。
――ほかの自動売買ソフトで運用しているということですか?
複数のソフトを使っていますが、利益率が高いのはFlashesのロジックの一部と「仲値トレード」を組み合わせたものですね。ご存知のように、銀行がその日の為替取引の基準レートとなる仲値を決定するのは、毎日午前9時55分。この仲値決めに向けて、ドル高が進みやすいことは知られていますが、ゴトー日(毎月5日、10日、15日、20日、25日、30日)や金曜日はさらにその傾向が顕著になるんです。
ゴトー日や週末を控えた金曜日は、輸出系企業が貿易決済用のドルの調達に動くため、普段よりもドル高が進みやすいんです。
――ゴトー日ないし金曜日の仲値決めに合わせてドルを買うわけですね。
実は、茨城大学の教授が仲値に関する研究レポートを発表していて、そこにはゴトー日ないし金曜日の午前2~5時の間にドル/円の買いポジションを立てると、特に利幅が稼ぎやすいことが記されています。
その研究レポートを参考に、午前2~5時の間につくる押し目をFlashesのロジックで判別して、最良のタイミングでドル/円の買いポジションを立てるソフトを作ったんです。
――それは勝率が高そうですね。
安定して年20%程度のリターンが出ていますね。仲値決めに向けて20~30銭とドル高が進むと午前10時の仲値決定後に反落する傾向もあるので、すぐに利確して売りで入るロジックも取り入れています。これで、仲値決めまでの上げとその直後の反落の両方で利幅が稼げる。ただ、今、非常に成績がいいのは急騰・急落局面を狙う新たな自動売買ソフトです。年初から運用を開始して、9カ月で140%のリターンをあげています。
――どういうロジックの自動売買ソフトなのでしょうか?
下落トレンド中に急騰したけど、すぐに反落して下落を続けるチャートって見たことないですか?その反落時に直近安値を下抜けたタイミングで売りエントリーする、というロジックです。逆に上昇トレンド時は、急落後の急反発で買いエントリーする。急落して売りを入れた人たちが急反発すると損切りするため、上昇が加速しやすく、値幅を稼ぎやすいんです。
重要なのは「自分の感情に振り回されないようにすること」
――よく、いろんなトレード手法を思いつきますね
システムトレーダーのなかには過去のデータから新たな売買ロジックを生み出す人もいますが、私はどちらかというと“ひらめき”を重視するほう。思いついたトレードをロジックに落とし込み、検証を重ねるんです。思いつきをもとに自動売買ソフトをつくっていくので、検証してみたら予想していたような成績をあげられなかったというケースも多々あります。
――では、数々の自動売買ソフトをつくってきた立場から、FX初心者にアドバイスしたいことはありますか?
まずは、自分の感情に振り回されないように気を付けること。自動売買なら感情を排して運用できますが、常に稼げる自動売買ソフトはほぼない、ということも知っておくべきでしょう。
というのも、2020年3月のコロナショックを経てドル/円などの主要通貨の値動きは非常に読みにくくなっています。相場を正確に予想できている為替アナリストはいません。うまく説明できませんが、ドル/円の“クセ”はコロナショックの前と後で確実に変わりました。
だから、仲値トレードなどの普遍的な法則を狙い撃ちする手法は有効でも、Flashesのようなトレンドフォロー型のシンプルな自動売買ソフトだけでは勝てなくなってきた。最適なトレードスタイルは変化していくことを前提に相場に向き合うほうがいいでしょう。