特集「令和IPO企業トップに聞く ~ 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。
1961年1月8日生まれ。福岡県出身。同志社大学商学部を卒業後、株式会社毎日コミュニケーションズ(現:株式会社マイナビ)入社。1993年にメディア総研株式会社を設立。2021年9月東京証券取引所マザーズ(現:グロース市場)および福岡証券取引所Q-Boardに上場。2023年2月に100%出資子会社「メディア総研イノベーションズ株式会社」を設立、代表取締役社長に就任。
創業から上場までの事業変遷
──1993年に設立されてから、2021年に新規上場を果たされたということですが、業績の推移は順調だったのでしょうか。メディア総研株式会社 代表取締役社長・田中 浩二氏(以下、社名・氏名略): 1993年にメディア総研株式会社を創業したのですが、2013年頃までは経済的に困難でした。しかし、そんな状態が続く中でも耐え抜き、事業を持続させることができました。 その苦しい時期に得た知恵や耐久力が、その後の企業運営における大切な財産となりました。それは財務状況の厳しさを乗り越え、問題解決能力を磨くためのプロセスだったと感じています。
バブル崩壊後の就職市場が冷え込む中、当初の事業として、高校生を対象とした進学支援事業を始めました。ちょうど全国各地に専門学校が増え、高校生が大学や短大だけではなく専門学校への進学を選ぶ流れが生まれたころでした。
── そういった状況下で、どのように事業を展開していったのでしょうか?田中:まず、初期の事業としては、進学情報誌の発行などを行っていました。その後、徐々に就職情報事業へと移管していき、高専生への就職支援イベントや合同説明会の提供といった事業にたどり着き、その結果としてIPOまで至ることができました。 高専生をターゲットにした当社主催の合同説明会は、現在、高専生の就職希望者のうち約85%が参加するイベントとなっています。
── 貴社のメインターゲットは高専生ですが、他社と比べてどのような部分に競争優位性があるとお考えですか?田中:先行者利益が大きいことで参入障壁ができていることだと考えています。
高専生の就職は大学生の就職とは異なり、倍率が非常に高く、30倍や50倍、100倍といった求人倍率です。企業が学生にアピールするためには、就職イベントへの参加や学校訪問などの取り組みが重要です。そこで当社ではそういった企業と学生を繋ぐための合同会社説明会を多数開催しています。高等専門学校との関係づくりを行い、高専生向けの就職活動イベントを拡大することによって、他の就職情報会社に負けないシェアを獲得してきました。
また地域的なアンマッチを解消する大学生対象の理工系イベントの開催も行っています。
国立大学理工系人材の9割が地方に散在しており、一方で理工系人材を欲している企業は大都市圏にあることから、そのアンマッチを解消するイベント「理工系業界研究セミナー」を17年にわたり開催してきました。学生をツアー形式で動員して、学生自ら旅費を負担する方式をとっていることから就職意識の高い学生が参加するため、企業からの評価が高いイベントです。当社が学生・企業双方の希望を聞いたうえで、あらかじめ受講時間割を決めるためマッチング率の高い仕組みとなっています。2023年7月期のセミナーには88大学・603名の理工系学生に参加していただきました。
エクイティを活用しようと思った背景や思い
── 事業発展において様々な手法があると思いますが、上場というエクイティを活用しようと思った経緯や背景についてお聞かせいただけますか?田中:創業から上場までの道のりは一筋縄ではいきませんでした。上場前、メディア総研株式会社は無借金経営であったこともあり、上場の必要性を問われることもありました。しかし、社会の変化が早くなり、学生の卒業後の選択肢が広がり、多様化するキャリアの選択肢の前に悩む学生に対し、十分な支援を提供していくためには、企業としてさらなる成長をすべきだと考えました。そのためには、新規事業の創出や既存事業の拡大など、今後成長のために大きな資金が必要になると考え、上場への道を選択しました。
今後の事業戦略や未来構想について
── 今後の事業戦略や未来構想についてお聞かせください。田中:我々の今後の事業戦略は、高専生たちに対するキャリアサポートを更に強化し、彼らの就職や進学支援だけでなく、その後のキャリア転職やスタートアップへの参画、起業するという選択肢も持てるような支援を行うことを目指しています。
具体的には「ヒューマンネットワーク」と「DX」を融合した4つの高付加価値学生支援ビジネスを展開していきます。1つ目は高専向けサービスの安定化により高等専門学校と高専生の基盤を強化します。2つ目は教員ネットワークの拡充です。WEBマガジン「月刊高専」の取材継続によるネットワーク構築、「高専プラス(進学情報)」登録者数の増加及び進学セミナーへの動員、大学教授の紹介等でインフラを整備していきます。3つ目は理工系企画を拡充するために、理工系大学イベントを発展させていきます。高専を中心とした理工系に特化した転職支援の収益化を目指し、高専卒業求職者の「転職スイッチ」への登録者数の増加や高専中途退学者に対しての取り組みを実施していきます。
4つ目の新領域への進出としてスタートアップへの支援を行っていきます。この層にはまだまだ潜在的な需要があると考えています。この先、彼らが学んできた専門知識を活かした独自のビジネスの立ち上げは、ほぼ確実に顕在化していくのではないでしょうか。
── スタートアップを目指す学生に対してどのような取り組みをお考えでしょうか?田中:我々はこれらのスタートアップを支援すると同時に、その成功を共有する形で、新たな投資を行っていく予定です。成功見込みのあるスタートアップへの投資を行い、その利益をさらなる事業成長のための資金として再投資することも検討中です。これにより、我々自身も事業を拡大し続けることはもちろん、私たちが支援したスタートアップもまた、ステップアップして新しい挑戦が可能となるような環境を作っていきたいと思います。
その一方で、高専生は就職を選択する方が約60%、進学を選択する方が約40%です。そのような学生たちに対しても、より高度なキャリアサポートを提供していきます。彼らが専門知識を活かし、理想の就職先に進むことができるよう、引き続き就職活動のサポートも行っていきます。
新規事業の創出、新たな投資の展開と、様々な取り組みを通じて、我々はその要求に応えていきます。高専の学生たち一人ひとりが自身のキャリアを自由に形成でき、成功を享受できる社会を創ることが、我々の最終的な目指すところです。これからも、我々の事業戦略や展望を通じて、高専の学生たちの可能性を最大限に引き出していきます。
── 新型コロナウイルスなど、激動の時代を迎えています。このような状況下で、金融や経済市場において、どのような課題やテーマがあると考えていますか?田中:日本の教育カリキュラムに「金融リテラシー」が不足していることは課題だと感じています。これは、特に技術者やスタートアップを志す人たちにとって大きな課題です。彼らの技術やアイデアを市場に広めるためには、金融知識や投資に関する知識が必要だからです。
特に、IPOのメリットや株式市場の役割など、基本的な事業資本政策も多くの人にとって未知の領域です。これらの課題を解決することで、多くの人々のキャリアや生活を豊かにすることが可能になると思います。教育システムの改革や金融教育の普及が今後は必要となるでしょう。
メディア総研株式会社から皆さまへのメッセージ
─― 最後に、ZUU onlineのユーザーに向けてメッセージをお願いします。田中:企業にとっての高専と大学の違いをご紹介させていただけたらと思います。大学が極めて専門的な分野の研究や開発に注力しているのに対し、高専は研究結果を社会へ実装することに重きをおいている傾向が強いです。つまり、企業とのタイアップによる新商品開発や、新規事業の立ち上げなどは、高専のほうがやりやすい傾向にあります。 また、高専の教育にはPBL(Project Based Learning)という課題解決型のカリキュラムが組み込まれていることも強みです。ですので、新規事業開発や既存ビジネスのリニューアルをミニマムで検証したい方などは、高専との共同事業を検討いただけたら、良いシナジーが生まれていくと思います。
我々は「イノベーションとイノベーション人材で世界をフラットにする。」という経営理念を掲げています。今後も「就職活動が景気動向や企業の採用環境に依存しない社会を作る」という命題の実現のために、高専生を中心とした理工系学生の就職活動支援に注力していきます。