1998年に株式会社コメ兵入社。経理課にて財務会計業務、決算業務や監査対応等を担当後、旗艦店の副店長として、店舗運営をはじめ、採用や労務管理等も担う。
以降、総務部、店舗統括部の責任者を歴任後、2017年人事企画部長に就任。企業の成長に伴い様々な手法を取り入れて採用数を大幅に増加させながら定着率を高めてきた。
2020年の持株会社体制移行により、コメ兵ホールディングス全体の人事領域を管掌。
現在は、グループビジョン達成に向けた経営戦略を実現するための人材の「質」と「量」の最適化をはかる戦略の立案と実行に注力。
1947年に古着屋「米兵商店」を名古屋大須に出店。貴金属やブランドの時計・バッグなど、消費者のニーズに応じて取り扱う商品を広げていきました。事業は順調な成長を遂げ、いくつかの危機を経験したものの、2003年9月に株式公開を果たしました。
翌年に東京に進出した後も、大阪をはじめ全国に店舗展開を進め買取・販売ともに拠点を広げていき、2020年に持株会社体制に移行。
現在では海外法人含む16社を抱え、現在ではブランドリユースNO.1 のシェア※を誇ります
※リユース市場データブック2023
目次
人的資本経営に対する取り組みと強み
一番注力してきたのは人材育成の体制構築です。その結果人材が当社の強みとなり競争優位性になっていると考えています。特に主力事業であるコメ兵では、教育を一手に引き受けている専門の部署があり、鑑定士の育成・販売接客のフォローアップなどを行っています。鑑定士に必要な真贋や商品知識の習得には、長い時間を要する中、当社の鑑定士は、社内認定を受けた者しか買取り業務ができない制度となっています。これは教育部門が育成プロセス、カリキュラム等を体系化していることで、効率的に鑑定士を育て上げることができています。全社として人材育成にコミットでき、店舗数や組織が急拡大する中でも高い質のサービスを提供できているのです。
一方で、常に新商品が販売されますし、コピー品の質も年々上がっているので、一人前の鑑定士も常に知識をアップデートし続ける必要があります。教育カリキュラムを終えた後も 社内で商品に関する情報共有の配信があったりと、自身でも知識をアップデートできる仕組みになっています。
また、一般的には、鑑定士の育成では幅広い商材を一気に習得させることが多いと聞きますが、当社は、教育する側も、時計の教育担当者、宝石の教育担当者と専門領域が分け、それぞれの担当者が時間をかけて専門的な教育を行っています。これにより商材ごとの専門的なノウハウが鑑定士、そして社内に溜まっていく仕組みができています。 さらに、年間で約1,700,000点と商品の流通量も多いので、複数の販売経路に最適な商品が供給でき、豊富な顧客データ、商品データの蓄積につながっています。商品データの中には、当社で取り扱うことができる基準内、取り扱うことができない基準外どちらのものも含まれており、AIの開発にも活かされます。つまり、急速に情報が集まりそれが集積されていくことが当社の強みと考えています。
人的資本経営の取り組みで苦労した点と、乗り越えるための施策
当社は事業拡大を目的に、2021年3月期からの3年間でKOMEHYOの買取専門を100店舗出店する計画を掲げました。これに伴い、一年間で約200名のキャリア採用を行ってきました。 そこで、初年度に起きてしまったのは、前職の会社と当社の大切にしている価値観やカルチャーのギャップによるミスマッチでした。 我々はチームワークを重視した働き方、企業風土があり、従業員間の連携を図りながら業務を行っています。
一方で、個人成果主義で評価されている企業から転職した従業員も多いため、この文化に戸惑うことが多かったのです。 コミュニケーション上の衝突が起きたり、関係性がぎくしゃくしてしまうことケースも多く見受けられました。そこで、キャリア採用者全員に対し、理念や価値観の浸透をはかるため、社長自らが当社の歴史や大切にしている価値観を語る研修を実施しました。その結果、会社の想いや向かうべき方向を改めてインプットできる機会となり、キャリア採用者含め従業員のエンゲージメントが向上しました。また、従業員の多様化に合わせて、様々な人が働きやすい環境を作っていくことにも力を入れています。
一例ですが、副業の許可や育児支援、また一度退職した人が戻ってきやすくなるような「カムバック制度」の導入などを行いました。実際に、作曲や書籍の執筆を副業として行っている方がいたり、カムバック制度を利用して復職した方が出てきています。育児支援については昔から取り組んでおり、子供が小学校を卒業するまで時短勤務を可能にするなど充実しています。その結果、昨年くるみん認定を取得することができました。
取り組みを行う前後の変化や取り組み後の反響
一番大きな変化としては、社員の離職率の低下です。 現在は、離職率がコメ兵ホールディングスグループで10%未満、コメ兵では約4%ほどとなっております。従業員数が増える中で、低い離職率をキープできており、働きやすい環境が整ってきたことの現れの一つとして捉えています。 また、数年前は、昔から当社で働いてくれている従業員と新たに入社した従業員との軋轢が、経営会議の中で取り上げられることも少なくなかったのですが、その報告もなくなってきました。
実際に従業員からも、従業員間でコミュニケーションを取って円滑に仕事ができるようになったという声や、当社に入社をしてよかったという声をいただくことが増えました。また、コメ兵では、自己研鑽、スキルアップを目的とした公募研修の応募者も増え、さらに研修に向き合う姿勢も、より前向きになってきました。自社理解の促進やエンゲージメントの向上が、従業員の自主性にもよい効果をもたらしていると感じます。
今後の展望と社員に対して期待すること
コメ兵ホールディングスには、「リレーユースを「思想」から「文化」にする。」というビジョンがあります。リレーユースという言葉は当社の造語で、「モノは人から人へ伝承(リレー)され、有効に活用(ユース)されてこそ、 その使命を全うする」という考え方です。我々はリレーユースという思想が世の中に広く、根付くことを目指しています。具体的にいうと、人々の選択肢の中に、新品と中古の両方の選択肢があることが当たり前になることです。中古品は経済的な価値だけでなく、新たな消費と生産を必要としないサステナブルな存在であり、社会的な価値も持ち合わせています。その価値を発信し浸透させていくことが二次流通だけでなく、一次流通の活性化につながり、生活を、社会をより豊かにすることができると考えています。 このリレーユースという思想を日本だけでなく世界にも広めることで、世界中のお客様と価値を共創していくことを目指しています。
そのために、従業員に対して期待することは、個人の成長です。 我々は、採用時の面談やホームページなどいたるところでチームワークを重要としているという考えを発信していますが、これは単に協力するということが大切であるという意味ではありません。まずは個々の能力を伸ばして、各自の得意分野の能力を最大限に発揮してくれることが前提で、そのうえでメンバーの能力を掛け合わせるということが我々のチームワークの考え方です。
だからこそ、一人ひとりが持っている能力を最大限発揮できるような環境づくりは重要です。臨機応変に評価制度を見直してアップデートしたり、意欲があれば誰でもスキルアップできるよう研修制度を充実させる等、従業員が自ら成長できる環境を整えています。しかし、企業は成長するための仕組みは提供できますが、「やるかやらないかは自分次第である」と従業員それぞれにしっかりと理解してもらうことも重要です。従業員一人ひとりが成長し、個人の強みを掛け合わせることで従業員と共に会社も成長していきたいと考えています。
ステークホルダーの皆様へのメッセージ など
国内と海外の2つのステージに分けて当社の成長性をお話しさせていただきます。 まず、国内については、都心部の大型店舗をはじめ、全国に店舗を拡大することができてきましたが、まだまだ我々のサービスを届けられていない方が多くいらっしゃいます。引き続き、店舗拡大を図るとともに、オンラインの充実や他社とのアライアンス拡大等によって成長していきたいと考えています。
一方、海外については、アジアを中心にラグジュアリー市場が伸びていますので当社のビジネスチャンスも広がっていると考えています。一次流通の規模を考えれば、海外が国内を超える規模になる可能性は十分にあると考えています。 また、人的資本経営という観点では、これまではホールディングス体制の強みを活かしながら、16個の事業会社がそれぞれの制度や施策を整えることでスピーディーな成長を実現してきました。 しかし、今後は多様な人材や事業に対応できるような組織体制や制度を整え、グループ全体で大きな飛躍を遂げることを目指しています。 今はちょうどその移行段階として捉えていただき、今後のさらなる成長にご期待いただけると嬉しいです。
- 氏名
- 黒瀬 哲史(くろせ てつし)
- 会社名
- 株式会社コメ兵ホールディングス
- 役職
- 人事企画部 人事企画部長