新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業。政府からユニコーン100社創出が宣言されたこの状況下において、「現在の成長企業・ベンチャー企業の生き様」は、最大の関心事項と言える。ジャンルを問わず、一社のトップである「社長」は何を思い、どこにビジネスチャンスを見出しているのか。その経営戦略について、これまでの変遷を踏まえ、様々な角度からメスを入れる。
これまでの事業変遷について
—— 事業立ち上げの経緯についてお聞かせください。
日本ウェブサービス株式会社 代表取締役社長・岩井 伸夫氏(以下、社名・氏名略) 当社は2010年に大阪の小さなワンルームのレンタルオフィスから私一人で始めました。独立前は、同じ業種の会社で働いていたのですが、入社後すぐに取締役に就任し、プログラムやSEの勉強をすると同時に会社運営も学ばせていただきました。新しい会社の第1期生として入社したので、役員を務めながら、社長と良好な関係を築き、コミュニケーションを通じて運営や営業のイメージがつきました。
独立後、最初はハローワークに行って、出稿されている求人広告を限度枚数ギリギリまで印刷して事務所に持ち帰り、電話をかけてアポイントを取るといった地道な営業活動を行いました。
リーマンショックの後だったので、ハローワークに求人を出している時点で、業績がある程度ある会社だと判断していました。ただ、そういった形で地道に大阪で営業活動を広げていったものの、売上はついてこず、立ち上げから半年間はほぼ0円でした。
—— その後すぐに、東京に支店も作られたんですよね。
岩井 はい、東京と大阪でエンジニアを探そうと思って、当時流行っていたSNSのミクシィの掲示板で、東京での支店設立に興味がある方を募集しました。そこで応募してくださった方をキーマンにして、秋葉原に事業所を構えることができました。
—— その後の事業拡大について教えてください。
岩井 その後、年間10名ぐらいずつ採用をしていき、2014年までに社員数は約40人に増えました。事業拡大にあたっては顧客獲得や社内の組織体制の強化、また社内体制の確立のために福利厚生の充実に注力しました。特に、老後資金に関する福利厚生を充実させ、社員が安心して働ける環境を整えました。具体的には、企業型の確定拠出年金や職場のつみたてNISA、養老保険などを導入しました。
—— 社内制度のつみたてNISAはどのように運用されているんですか?
社員一人一人が個人の証券口座を持ち、会社が社員の家族の人数に合わせて積立て支給する形です。それをもとに社員は自由に銘柄を選んで運用できます。また、厚生労働省の安全衛生優良企業にも認定されており、IT企業としては全国初の3期連続認定を受けています。
—— それはすごいですね。離職率も低いとお聞きしましたが、具体的にはどのような数字でしょうか。
岩井 社員数が40名程度の時には最高で14%ほどありましたが、ここ数年は3~7%に収まっています。毎年約100名が入社している状況で、この低い離職率は事業成長と社内の組織体制の賜物だと思います。
—— 現状で社員数360名とかなり拡大されていますが、社員数が増えるとマネジメントの難しさも出てくると思います。どう対応されているのですか。
岩井 正直、120人を超えると名前と顔を一致させるのに精一杯になりますので、基本的には各拠点の部長に任せる形をとっています。私自身は課長レイヤーまでとコミュニケーションを取り、階層構造を作って運営しています。
飛躍的な成長を遂げた秘訣
—— 飛躍的な成長を遂げた秘訣についてお聞かせください。
岩井 先ほども触れましたが、福利厚生の充実によって離職率が下がり、それが求人の効果となって応募が増えたことが大きいです。また、法人としてさまざまな資格を取得し、安全衛生委員会や健康経営、女性活躍推進企業としての取り組みを進めています。これにより、女性の応募も増加しました。同時に、顧客開拓も怠らず、仕事の安定確保を保っています。
—— 福利厚生などの知識は前職の時に学ばれたのですか?
岩井 前職では充実した福利厚生や法人資格に関する取り組みはありませんでした。また、独立した際は、立ち上げたばかりの会社で求人を出してもなかなか人が集まらないため、私自身が人材採用にかなり困りました。
その経験から、企業が人を集めるためには、働きやすい環境の整備や国や地方自治体から認定される資格が重要だと感じました。それが差別化につながり、1歩、2歩リードできると考え、積極的に資格を取得しました。
経営判断をする上で重要視している点
—— 経営判断をする上で最も重視している点についてお聞かせください。
岩井 経営判断において最も重要なのは、投資の判断だと思います。
主に、社内のコミュニティ形成と求人関係に投資をしています。 社内のコミュニティ形成では、社員間の交流を活性化できるように運動会や旅行、懇親会などに投資をしています。 求人関係では、中小企業のチカラさんでタレントを1年間使えるということで、2023年7月から田村淳さんをネットやパンフレットに起用し、求人や営業に活用していました。また、ホームページにも投資をしており、例えば採用ページのトップに様々な動画を載せています。フィロソフィーや会社の本来あるべき姿、会社の概要のショートバージョンとロングバージョン、従業員の紹介などを含めて様々なことに投資をしています。 —— やはり、選択と集中を行い、限られた資金をどのように振り分けるかが重要ですね。優先事項として、採用やマーケティングに多く投資されているのですか。
岩井 そうです。いずれもまずやってみて効果を見ようというスタンスで取り組んでいます。
事業拡大の未来構想
—— 事業拡大の未来構想について、お話をお聞かせください。
岩井 今後については、現在のソフトウェア開発事業をメイン事業として継続して拡大していきます。また、コンサルティング事業にも力を入れていく予定です。
さらに、ビジネスパートナー事業にも注力し、企業同士をマッチングさせるビジネスを展開しようと考えています。これにより成長率を維持し、2026年には大企業へステップアップすることを目指しています。中小企業基本法によれば、ソフトウェア業界で大企業とされるのは、資本金が3億円を超え、かつ従業員が300人を超えた時点です。あと2年でこの基準を達成したいと考えています。
また、私たちのグループ会社の親会社であるJ HOLDINGS株式会社は、2030年以内にグループ市場に上場することを計画しています。現在、監査法人や証券会社の選定を進めている段階です。
—— IPO以外にもM&Aを考えているのでしょうか。
岩井 はい、考えています。実は、2020年にアクセルメディアという東京の会社を買収しました。今後もIPOを通じて資金調達を行いながら、買収を通じて事業基盤を強化することを視野に入れています。
—— 買収候補は同業種がメインになるのでしょうか。
岩井 現在は同業種を考えていますが、将来的には視野を広げ、さまざまな可能性を検討していく予定です。
ZUU onlineユーザーへ一言
—— 最後に、ZUU onlineユーザーへのメッセージをお願いできますか。
岩井 はい。我々はIT業界に強い会社で、様々な専門知識を持つエンジニアが揃っています。新しいビジネスチャンスや、現在のビジネスを成長・発展させるために、我々と協力できることがあれば、ぜひお話をいただければと思います。
—— 例えばどのようなことで御社に相談すればよいのでしょうか。
岩井 最近は自社サイトやECサイトの立ち上げ、業務の効率化を図りたいというご相談を多くいただくので、そういったお悩みがあればぜひお問い合わせいただければと思います。また、漠然と「この商品を売りたい」というご要望でも構いません。それが例えば、SNSの運営の仕方に繋がることもあります。
デザイナーも在籍しているので、今流行りのデザインで訴求することも可能ですし、総合的にコンサルティングも行っていますので、気軽にご相談ください。
—— 本日はお時間いただきありがとうございました。
- 氏名
- 岩井 伸夫
- 社名
- 日本ウェブサービス株式会社
- 役職
- 代表取締役社長