近年、循環型社会の実現に向けて、リユース・リサイクル事業がますます重要な役割を果たすようになっている。本企画では、環境に配慮した循環のインフラを構築し、持続可能な社会の実現に貢献している株式会社ECOMMITの代表取締役である川野輝之氏に、同社のこれまでの事業変遷や自社事業の強み、そして今後のビジョンについてお話を伺った。

株式会社ECOMMITは、持続可能な社会を目指し、リユース・リサイクル事業を展開、デジタルを掛け合わせることでその工程を可視化し、トレーサビリティの高い循環を実現する革新的な企業である。本社を鹿児島県に構え、独自の選別ノウハウや再流通網を活かし、本当に環境に良いビジネスをモットーに環境負荷低減に取り組んでいる。同社は循環型社会の実現に向けて、可能な限り廃棄物を減らし、不要になったものに新たな価値を見出し、それを必要とする人の元へ届けることで循環の輪を生み出すサービスを提供している。本稿ではインタビューを通じて、同社の代表取締役である川野輝之氏から、事業のこれまでの変遷や自社事業の強み、過去のブレイクスルーや成功実績、そして今後の展望や新規事業への取り組みについて伺った。このインタビューを通して、持続可能な社会に向けたECOMMITの果たす役割や今後の方向性を知ることができるだろう。

(画像=株式会社ECOMMIT)
川野 輝之(かわの てるゆき)
株式会社ECOMMIT株式会社ECOMMIT 代表取締役CEO
川野 輝之(かわの てるゆき)――株式会社ECOMMIT 代表取締役CEO 高校卒業後、中古品輸出企業に就職し、4年間の修業期間を経て22歳でECOMMITを創業した川野氏は、中国に輸出された日本の電子ごみによる環境負荷を目の当たりにし、トレースできない中古品の海外輸出を一切停止。環境問題に改めて向き合うことを決意し、現在は自社開発システムを活かした循環のインフラ構築を主軸に、企業や自治体のサーキュラーエコノミー推進事業を全国に展開している。鹿児島から世界へ、循環商社のリーディングカンパニーを目指す。
株式会社ECOMMIT
2007年8月17日創立、2008年10月1日に設立された株式会社ECOMMITは、鹿児島県薩摩川内市を本社に構える循環型社会を目指す企業である。従業員数は130名(2023年1月現在)、売上高は10億円(2022年実績)で、資本金は5億2,220万円(資本準備金含む)である。年間取扱実績重量は12,000tで、産業廃棄物収集運搬業や一般廃棄物収集運搬業、古物商などの許認可を保有する。

起業のきっかけとこれまでの事業変遷



―それでは、インタビューを始めさせていただきます。最初に、起業のきっかけやこれまでの事業変遷についてお聞かせいただけますでしょうか。

実は最初は熱い思いもなく、リユース事業を前職でも行っていたことから、この事業なら自分で始められるという自信がありました。慕っていた方が相次いで退任したタイミングも重なり、運命だと感じたのが最初のきっかけです。一方で、前職で海外へ行く中で、本当に世の中のためになる仕事だという確信は持っていました。当時は環境問題への熱意や使命感が強く有ったわけではありませんでしたが、自分だったらこの仕事をもっと表舞台に立たせることができると思い起業を決意しました。しかし、創業当初は中古品の売買、特に農業機械や建設機械の売買が中心でした。

―それからしばらく経って、リーマンショックが起こり、事業がうまくいかない時期もあったかと思います。その後、この仕事の良い面と悪い面が見えてきたということですが、具体的にどのようなことを目の当たりにされたのでしょうか?

当時の日本では、家電量販店が積極的に下取りを行い、資源をリサイクルするエコ活動が流行っていました。しかし、その裏側では中国人がこれらの家電を買い取り、まとめて海外に販売された結果、現地で売られもせずにごみになり、逆に環境に負荷をかけているという状況がありました。私はこの現状を理解するため中国や東南アジア諸国を訪れたのですが、それによって現地で発生している環境負荷の実態を目の当たりにすることになりました。

特に衝撃的だったのは中国で見た光景でした。ブロック塀のようなバラックで主に女性や子供たちが働いているのですが、そこの匂いや水質汚染はとてもひどいものでした。さらに河川周辺では水俣病のような病気が発生し、死亡率も高くなっていました。

これらの事実に大きな衝撃を受けた私は、この業界で働く者としての使命感を感じ、この現状を変えていくことを強く決意しました。今後は、リサイクルというサステナブルな活動が真の意味で環境負荷の低減につながるように、自社が担う役割も見直さなければならないと思いました。

―当時のメンバーからはその決断に不安の声もあったとのことですが、どういった経緯で環境ビジネスに進むことを決めたのでしょうか?

不安の声はもちろん真摯に受け止めていましたが、それでも私たちは環境保全とビジネスを両立させることだけを追求していこうという強い決意を持っていました。家電製品だけではなく、洋服も結果的に海外でごみになってしまうケースも多く、ごみ処理技術が進んでいない国ではそれによって野焼きや不法投棄が助長されてしまいます。利益のことだけ考えればそれでも事業は成立しますが、私たちは真実の循環を追求する事業展開を選びました。当初は不要になったものを集めて販売するだけのビジネスを行っていたのですが、徐々にリユース・リサイクルを含めた循環の仕組みづくりを担う必要性を感じるようになっていました。

―そのような事業転換の中で、どんな展開をされていったのでしょうか?

創業当時は単純にトラック一台で買取・販売を繰り返すところからスタートし、三年ほどで一定量が集まるようになり、自分たちで輸出も行うようになりました。そこから商社業の形態に変わっていきました。ただ、この業界は非常にオールドスタイルの側面があり、イノベーションが起こりづらく、アップデートされない部分が多々ありました。

―そこをどのようにアップデートしていくことを考えたのですか?

逆に言えばオールドスタイルな部分はIT化すればポテンシャルがあると考え、システム開発を始めました。特にオペレーションを可視化するシステム開発に注力しました。その結果、現在では回収から選別、再流通という循環の工程の全てを一気通貫で手がけるようになり、大量生産・大量消費・大量廃棄の社会システム全体をアップデート出来る可能性のある会社へと変わってきたと思っています。

株式会社ECOMMITの強み

―そのような事業成長を通して培った、御社の強みは何でしょうか。

弊社の強みのひとつとして挙げられるのは、目利き力とマッチング力です。15年の経験から、様々なデータが蓄積されており、例えばどこで何がどれくらい必要とされているのか、どのチャネルで流通させるのが最適なのかという知見や、流通先のトレンドに関するデータを保有しています。それらのデータから、環境負荷が最も低く、かつ経済価値を最大化することが出来る能力が弊社の最大の強みだと考えています。さらに、これらのデータをデジタル化して独自開発のシステムでオペレーションと紐付けることにより、属人的ではなく標準化されたノウハウとして活用出来ていることも弊社の強みだと思っています。

―大手リユース業者では取り扱わないようなものも扱える理由は何でしょうか?

まず、大きな特徴として、グローバルに事業を展開していることが挙げられます。これにより、国内だけでは再流通が難しい商品も扱うことが可能になっています。また、特に急成長を遂げているアジア市場に創業当時から強いコネクションを持っているため、それらの地域との取引に強みがあります。さらに、リユースだけでなくリサイクル分野にも力を入れており、そのままリユースできない商品でも適切に再利用することができる点が、大手リユース事業者との差別化ポイントとなっていると思います。

―御社でシステム開発をしていることによる、既存の廃棄物系業者やリサイクル系業者との違いは何でしょうか?

既存の業者では、循環の工程がブラックボックスになりがちで、属人的な知見に頼った業務になってしまうケースが多いと思います。弊社ではシステムを活用することにより、その工程を可視化し、透明性を高めることで、安心感を持ってお取引させていただけるように努めつつ、スマートかつ効率的に事業を推進できることが大きな違いだと思っています。

―過去のブレイクスルーや成功の秘訣は何でしょうか?

秘訣は、早い段階で業務システムの開発に投資を行う決断が出来たことです。取扱い量が増えるに連れて、目の前のスペースや人員の拡大の決断を迫られるような場面もありましたが、父の影響もあり、人は人にしかできないことにフォーカスし、機械にできることは機械に置き換えるという考え方を創業当時から続けてきました。それが結果として成功につながったと思います。

―一方で、循環経済を実現するためにはどのような課題がありますか?

我々が向き合う領域やお付き合いさせていただく企業や自治体も多種多様で、それぞれに特有の課題やこれまで積み上げられてきた慣習もあります。それをひとつの仕組みで平準化をしたり、システム化するのは非常に難しいですが、その分市場規模も大きいと見込んでいます。環境問題という地球規模の壮大な課題に対して、我々も含めた個々が単独で成し得る影響力は決して大きくないと思っています。だからこそ、個人や法人、行政に関わらず、業界の垣根を超えて出来るだけ多くの方々に賛同いただき、ご参加いただけるようなサービスを開発し、常にアップデートしていく必要があると考えています。

―マネタイズが難しい領域だと思われますが、すでにビジネスモデルは確立していますか?

我々のビジネスモデルでは、回収したものを再流通させる工程における量×単価の販売益と、回収・選別のスキーム提供によるサービス料金として顧客からいただくフィーがあります。また、取組みを通じて達成したCO2排出量削減への貢献度を数値化してレポーティングするサービスも行っています。アセット重視のビジネスモデルに留まらず、そこから得られるデータやノウハウを活かした付加価値の高いノーアセットビジネスを展開することにより、より収益性の高いビジネスモデルの確立を目指しています。

―さまざまな企業や自治体と連携していらっしゃいますが、どのような点で評価されていると感じていますか?

例えば、伊藤忠商事様のような繊維業界を牽引するリーディングカンパニーでは、当然のようにファッションにおけるサステナビリティも求められており、再生原料の調達・活用も重要視されています。しかし、再生資源は天然資源と違って回収する必要がありますし、回収から選別を自社で行うことは大変な作業です。自治体においても、焼却施設のキャパシティや最終処分場の残余年数からも、地域から排出されるごみの量自体を減らすことが喫緊の課題となっており、我々が提供するサービスは、そうした企業や自治体の課題解決に有効であり、親和性が高いと評価いただいているのだと思います。

―法的な問題など難しい点が多々ありますね。そこで、パートナーシップを組む相手としてなぜ御社が選ばれたのでしょうか?

いくつかの理由がありますが、まず一つは我々が真剣に環境問題に向き合い、循環型の社会の実現という未来志向のビジョンを持っていることだと思います。もう一つは、循環の工程を可視化するトレーサビリティを重要視しており、定量的な評価が難しい環境貢献度を数値化してレポーティングすることにより、信頼をいただけているのではないかと思います。

―創業から15年間サーキュラーエコノミーの文脈で取り組んできた実績も評価されているのでしょうか?

そうですね。15年という期間は短いようで長く、これまで積み重ねてきた実績と経験値が安心感に繋がり、その点も評価をいただけているのだと思います。

長期的な未来構想

―今後5年後や10年後の長期的な未来構想を教えていただけますか?

5年後には、我々の存在やサービスがもっともっと生活者にとって身近なものになり、使わなくなったものは「捨てる」のではなく「次の人に届ける」のが当たり前だという考え方が世の中に浸透していることを目指しています。しかし、それはファーストステップであり、我々が目指すのは、ものづくりを始めとした社会システム自体を変えていくことです。実態として循環のインフラが整えば、ものづくりの場から循環を前提とした商品設計や生産が可能になり、バリューチェーンの構造を変えることが出来ると思っています。

―そうした商品設計を進めるメーカーやブランドと連携して取り組んでいるということですか?

はい。すでに複数のブランド様とディスカッションや、実際に取引を行っており、回収を前提とした完全循環型の商品設計やスキームの検討が進んでいます。

―今後どのような時代が来ると思われますか?

リセール(認定中古品のような形でメーカーが回収して、メーカーが検品して、メーカーが自分たちのリセール品として販売)がアメリカでメインストリームになりつつある現在、洋服も同じような形で販売する時代がもう目の前に来ていると思います。ただ、これを実現するためには生活に身近な場所での回収のインフラの確立と仕組みの浸透が必要です。

そこを我々が担っていくと、店舗の方が、新しい商品を販売する際に、「お買い上げありがとうございます。使い終わったらまたこの店舗に持ってきてください」という言葉をかけられるようになり、ユーザーも使い終わったものは「捨てない」という選択肢が当たり前になってくると考えています。

―それは、メーカーからするとどのようなメリットがあるのでしょうか?

新品を売って利益を上げる方法だけでなく、リセールによる利益も得ながら、さらにユーザーのロイヤリティも高めることができます。メーカーは大量生産・大量消費モデルではなく、より長く使えるものを作り、回収することで繰り返し販売していく。リセール率が高くなれば利益も上がる仕組みに変わります。

―現在感じている課題や取り組んでいる重点は何ですか?

現在、短期的な課題としては、新しい回収インフラの構築が挙げられます。従来の行政システムだけでは限界があるため、顧客接点を持つ企業とのアライアンスを重視しています。大型マンション、商業施設、駅など、お客様が日常生活で利用するより生活に身近な場所に回収拠点を増やすことに力を入れています。この取り組みの基幹として、PASSTO(パスト)というブランドを開発しリリースしました。まずは関東エリアの郵便局や、大手町・丸の内・有楽町といった都心部を中心に回収ボックスの設置を開始しており、今後拠点を全国に広げていきます。

―鹿児島からスタートし、関東や広島などに拠点を広げているようですが、今後の拡大計画はどのように考えているでしょうか?

既に関東圏は殆どのエリアをカバー出来ており、関西圏はパートナー企業との協業により対応が可能となっております。また、今後中部エリアにも循環センターを設けることを検討しています。拠点やエリアネットワークはほぼ完成形に近づいてきており、今後は取扱量の拡大や品目の多様化などに対応する為に、選別などの工程を全自動化するなど、機械やAIによる作業の自動化や効率化がスコープになってきます。

―昨今は、多くの機関・個人投資家がESG投資に関心を寄せています。最後に、この観点で御社から弊媒体読者へ、メッセージをお願いいたします。

最後にお伝えしたいことは、私たちがものづくりのバリューチェーン全体を変革するための鍵を握っていると考えているのと同時に、業界全体が手を取り合って変化を促進していく必要もあることです。人類全体で取り組むべき課題であり、高度循環経済成長のような形で業界や組織の垣根を越えてスピード感を持って進めていくことが重要です。皆さんの力添えをお願いし、共にバリューチェーン全体の変革を促していきたいと考えています。

私たちは、さまざまな企業様と連携していくことが大切だと考えています。回収拠点としてインフラをご提供いただける企業様や回収したあらゆるもの(資源)を原材料としてリサイクルしてくださる企業様、そして物流を担当してくださる運送企業様など、あらゆる分野のステークホルダーとして多岐にわたる企業様にご参加いただきたいと思っています。

氏名
川野 輝之(かわの てるゆき)
会社名
株式会社ECOMMIT
役職
代表取締役CEO