個別株投資に取り組むにあたって避けて通ることができない企業分析。企業を分析するための切り口は多様であるため、投資初心者の中には、「どこに注目して良いのかわからない」という人も多いだろう。

こうした疑問について、5万人を超えるTwitterフォロワーを持ち、『今だからこそ始める!本気で稼ぐ株式投資の教科書』などの著書を持つ元株式アナリスト・たりたり社長が解説する。

たりたり社長
たりたり社長
元株式アナリスト、PM経歴、銘柄分析の経験が強み。noteではおすすめ本の紹介や投資マニュアルも公開 KADOKAWAから発売の『本気で稼ぐ!株式投資の教科書』は楽天ランキングで2週連続1位獲得
Twitter:@taritariblog
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注目すべきは、「どのようにお金を得ているのか?」

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(画像=PIXTA)

企業分析において最も重要な点は何か?

企業分析の最初の一歩にして結論でもあるこの質問への答えは、「どのようにお金を得ているのか?」というものです。すべての企業は、この「お金の獲得方法」という部分を中心にして動いているといえます。

しかし、最初に企業分析に挑戦する人は「そもそも何を調べればいいのかが、わからない」というケースが多いように見受けられます。その場合、まずは「どうやってお金を得ているのか?」「誰からお金を貰っているのか?」「どこでビジネスを行っているのか?」という、3つを主軸にして考えることが重要です。

今回は、コストコという日本でもなじみ深い企業を例にあげつつ企業分析のやり方について解説していきましょう。

コストコは「小売業ではない」?

コストコ
(画像=PIXTA)

コストコを企業分析する際に、まず見るべきは、上述のように「どのようにしてお金を得ているのか?」という点です。これを明らかにするためにコストコの売上・利益の内訳を見てみましょう。

コストコは会社発表資料の中で、売上の98%が小売業、2%が会員費だと発表しています。そして利益については、なんと3割が小売業、7割が会員費からとなっていることがわかります。これらの情報をかみ砕いてみると、コストコは、非常に安い価格で商品を販売することによって「コスパの非常に良いお店」として知名度を獲得。その安さを求める人たちから会員費を徴収するという構造になっていることがわかります。

つまり、先ほど述べた1つ目のポイント「どうやってお金を得ているのか?」の答えは、「コスパの良い商品を販売することで、有料会員になってもらう」であることがわかります。

次に2つ目のポイント「誰からお金を貰っているのか?」という点を考えてみましょう。これは当然一般的なお客様ですよね。日本でも米国でもコストコはいわゆる一般消費者をターゲットとしたビジネスを行っているので、簡単に「一般消費者」と答えることが出来るでしょう。

では、最後のポイント「どこでビジネスを行っているのか?」はどうでしょうか?

どこでビジネスを行っているのか?という点については、企業が投資家向けに3か月に1度開示している資料を読んでみればわかります。この資料を読んでみると、ここ5年の平均では約7割が米国、3割がそれ以外の外国から得ているということがわかります。

これら3つの情報をまとめてみると、コストコのビジネスモデルについて、以下のようにまとめることが出来ます。

・コストコとは、米国を中心に一般消費者向けの小売店を展開している企業である。
・その特徴は非常に販売品の価格が安く、コストパフォーマンスが良いことだ。
・そのためコストコに日常的に通える人々はコストコの利用頻度が非常に高い傾向にある。
・コストコはその安さと収益性を両立させるために有料会員制というシステムを取っている。
・つまりコストコは、コストパフォーマンスの良い商品を自らの店舗で買う権利を販売しているサブスクリプション型のビジネスを取っている企業である。

このようにビジネスモデルを把握することで、その企業に投資を行う際に見ておくべきチェックポイントを把握できるのです。

通常の小売店の場合、チェックするべきポイントは米国であるならば毎月発表される小売売上高という指標になるでしょう。これは百貨店、スーパーなどの小売・サービス業者の売上をまとめた経済指標で、一般消費者が買い物にどれだけお金を使ったかが分かるというものです。

普通の小売企業ならば、この小売売上高が非常に重要ですが、コストコの場合は、この指標の重要性が下がります。なぜなら、上述したように収益の7割は小売業ではなく、会員の年会費から得ているからです。当然、買い物頻度が減少すれば会員解約につながるので重要ではあるものの、コストコの場合は、他の小売店に比べてこの指標の重要性が低いということになります。

代わりにコストコにとって重要視すべき指標は、「現在どれだけ有料会員数がいるのか」になります。

このようにビジネスモデルを把握することで、その企業の利益に直結しやすい指標、見るべきポイントを明確にすることが出来るのです。そして、ポイントを明確にすることで、この後の企業分析が非常にスムーズに進めやすくなります。では、次の段階へと進めていきましょう。

企業の強みを読み解く方法・キーエンスの場合

工場
(画像=PIXTA)

企業分析を行う上では、その企業が同業他社に対していかに優れているのか?というポイントを考える必要があります。例えばユニクロで有名な日本のファーストリテイリングという会社をiPhoneで知られる米国のAppleと比較してもあまり意味はないでしょう。国もビジネスモデルも何もかもが違いすぎていて、比較する意味がないからです。

企業分析をする目的は様々ですが、株式投資を前提とした企業分析を行うのであれば、その企業が同業他社に対していかに優れているのか?という点について考える必要があります。つまり、企業の強みを読み解くポイントは、その企業が属している業界や、ライバル企業に対して、「どこが、どのような理由で、どれくらい優れているのか?」ということを考えることが重要になるのです。

たとえばキーエンスという企業を例に挙げてみましょう。

キーエンスの強みは圧倒的な利益率で、その粗利益率はなんと8割を超えています。同業他社や業界平均が3割前後であるにもかかわらずです。

その理由を企業が投資家向けに発表しているIRやインタビュー記事などから考えてみると、大きく分けて以下の3つであるとされています。

・同業他社の製品に比べての品質の高さ
・顧客に対して相場よりも高い価格で製品を販売することの出来る営業力
・販売後の顧客の工場稼働に対するコンサル活動などによって高い価格でも買ってもらうことができる

これらによって、キーエンスの強みである「非常に高い利益率」は生み出されています。同じ金額を売り上げても同業他社の2倍近い利益を得ることが出来、その利益率を維持している秘密が「営業力と、付加価値によって高い金額でも買ってもらうことができる」という点です。顧客である工場は、他社製品よりも高品質の製品を買うことが出来ることに加え、工場稼働に対するアドバイスももらえるので、高くてもキーエンスの商品を購入するというわけです。

このように企業分析を行う上では、「同業他社と比べてどこが優れているのか?」「なぜ優れているのか?」という点が重要になるのです。

今回は、企業分析の基礎を解説しました。株式投資をするにあたって企業分析を実際にやってみようと思う方は多いですが、売上や利益といった表面的な内容だけにとらわれている方が多いという印象を持ちます。しかし分析の目的が株式投資であるならば、その分析は企業の強みや、今後見ていくべきポイントを明らかにするために行われるべきです。

その第一歩として、まずは今回紹介したような点を、企業分析を行う上でチェックすべきポイントにしてみてはいかがでしょうか?

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