内山会計事務所様_内山氏画像
(画像:NET MONEY編集部)

家庭と仕事の両立に悩み、「妻」や「母」以外の自分を見失いそうになっている女性にとって、「在宅ワーク」や「起業」は、自分を取り戻すための大きな選択肢です。

しかし、事業の規模が小さかったり、子育てや介護、病児のケアなどで時間に制約があったりすると、「そもそも誰に相談していいのか分からない」「扶養の範囲内で働きたいけれど、税金や手続きが不安」といった壁に直面します。

大手監査法人で約10年にわたり上場企業の監査に携わりながら、次女の心臓病をきっかけに退職・独立した公認会計士・税理士の内山智絵(うちやま ちえ)氏は、まさにその悩みを自ら経験し、乗り越えてきた一人です。

現在は、「扶養内で働きたい」「病児を抱えながら在宅で稼ぎたい」といった、他の士業が対応しにくい“ニッチだけれど切実なニーズ”を持つ女性たちの、心強い伴走者となっています。

AIが進化してもなお揺るがない「専門家」の真価と、自身の人生観を反映させた「社会貢献型ビジネス」についてお話を伺いました。

今回お話をお伺いした方
内山 智絵(うちやま ちえ)氏

株式会社SheBliss代表取締役社長
内山会計事務所代表
公認会計士・税理士・AFP
1985年生まれ。東京出身。娘2人と息子1人の3児の母。大学在学中に公認会計士試験に合格し、大手監査法人の地方事務所にて約10年間勤務。
出産・育児を機に監査法人を退職した後、2021年春に個人会計事務所を開業。
2025年夏には女性起業家支援のための株式会社SheBlissを設立。自身の経験や女性起業特有の課題を踏まえ、女性が「やりたいこと」を形にして続けていけるよう、専門性の高いサポートとコミュニティを提供している。

大手監査法人からの転身——病児出産が教えてくれた「働き方の限界」

ーーまずは、公認会計士を目指したきっかけと、これまでのご経歴について教えてください。

内山 智絵氏(以下、内山氏):大学4年生のときに公認会計士試験に合格しました。私は東京出身ですが、大学進学をきっかけに新潟に移り、そのまま新潟で大手監査法人の新潟事務所に就職しました。そこで約10年間、上場企業(主に製造業や金融機関など)の監査業務に携わってきました。

ーー監査法人時代は、どのような働き方・日常だったのでしょうか。

内山氏:仕事自体はとてもやりがいがあったのですが、監査法人というフィールドはご想像のとおりかなりの激務です。長女を出産して一度職場に復帰したものの、当時は育児との両立に対する理解が十分ではなく、「残業して当たり前」「終わらないなら家に持ち帰ってやるのが当然」という空気の中で、心身ともにかなり追い詰められていました。

もともと「この働き方を続けるのは難しいかもしれない」と感じていたところに、次女の妊娠・出産が重なりました。次女には心臓病があり、治療や入院の付き添いが必要な状況でした。

両家とも新潟在住ではなく、祖父母の支援を得られる環境でもありませんでしたから、「このまま激務の監査法人にいるのは現実的ではない」と判断し、1年半の育休を経て退職しました。

ーー退職を決断されたあと、どのように今の働き方へとつながっていったのでしょうか。

内山氏:幸い、次女の治療は想定よりも順調で、状態も安定してきたため、育休を切り上げるタイミングで自分の会計事務所・税理士事務所を開業したのが2021年です。非常勤の監査業務を請けながら税理士登録を行い、少しずつ税務の仕事も増やしていきました。そこから数えて、現在は開業5年ほどになります。

内山会計事務所HP

画像引用:内山会計事務所HP

なぜ、女性起業家と「病児を抱える家族」を支援するのか?

ーー独立当初から、「女性の在宅ワーク支援」にフォーカスされた理由を教えてください。

内山氏:長女の職場復帰のときに経験した両立の難しさ、そして次女の病気によって、「外に働きに出ること」のハードルを強く感じました。私の場合、もし子どもが急に入院することになっても、病院内でも仕事ができるような体制でないと現実的ではなかったんです。

次女の育休中は1年半ほどありましたが、その間に子どもを連れていろいろな場所へ出かける中で、「在宅で起業してみようかな」「家でできる仕事を始めたい」という女性に出会う機会がたくさんありました。

そうした方々から「税金のことを教えてほしい」と相談を受けることが増え、公認会計士として、ある程度は説明できる自分の立場に気づきました。

ーーそうした出会いの中で、「病児のご家族」への支援というテーマが、ご自身の中でどのように形になっていったのでしょうか。

内山氏:私自身、病気を抱えた子どもがいることで、外で働く選択肢がぐっと狭まる感覚を経験しました。頻繁な通院や付き添い入院が必要になると、「会社勤めを続ける」という選択はほとんど現実味を失ってしまいます。

一方で、家や病院にいながら自分で稼ぐ術があれば、仕事と子どものケアを両立できる可能性が広がります。

たまたま私のケースでは、「病児を抱えている」という状況と、「在宅で働きたい女性が増えている」という社会の流れが重なりました。そこで、「病児を抱えるお母さんや、外で働きに出られない事情のある女性たちを支援すること」が、自分が独立する大きな動機になっていきました。

ーー「ママや妻以外の自分」を大切にしたいという思いも、支援の背景にあるそうですね。

内山氏:私は、子育てや家事だけの生活になると、「ママ」や「妻」としての自分だけが前面に出てきて、それ以外の自分がどんどん薄れていくような感覚に、強い危機感を覚えるタイプでした。

だからこそ、自分の経験からも、「もう一度、自分を取り戻したい」「社会との接点を持ち続けたい」と願う女性たちの最初の一歩を支えたいと思っています。

病児のご家族を含め、外で働きに出るのが難しい女性たちが、「在宅で働く」という選択肢を通じて、自分らしさを取り戻せるようにサポートすること。それが、今の事務所の根っこにある思いです。

「小さな案件」に潜む女性起業家の具体的な課題と解決策

ーー現在、どのようなクライアントの方が多いのでしょうか。共通点があれば教えてください。

内山氏:今はありがたいことにとても忙しくさせていただいていて、クライアントをある程度「選ぶ」という状況になっています。その中でも特に多いのが、私の専門領域でもある女性の起業家さんです。

インフルエンサー、ハンドメイド作家、コンサルタント、独立された美容師さん、飲食業の方など、業種は本当に幅広いです。ただ、ほとんどの方に共通しているのは「子育てや家事と両立させながら、自分の仕事を続けたい」という思いですね。

ーーそのような起業家さんは、どのような悩みや不安を抱えて相談に来られるのでしょうか。

内山氏:一番多いのは、「外に働きに出られないから在宅で何かを始めたい」という方です。多くは個人事業主で、「夫の扶養の範囲内で働きたいけれど、どこまで稼いでいいのか分からない」「売上がそれなりに出てきたので確定申告が必要そうだけれど、自分ではできない」というようなご相談ですね。

女性特有の「扶養のライン」や「在宅ワーク」という条件が絡み合うので、悩みがとてもデリケートです。ところが、そうした“規模の小さな事業者”を丁寧に見てくれる税理士さんは、実はあまり多くありません。

だからこそ私は、「扶養内で働きたいけれど、ちゃんと確定申告もしたい」「家庭の事情も踏まえて相談したい」という方々を、比較的お手頃な価格でサポートしています。税金だけではなく、扶養の相談にも乗り、その方の家庭環境をきちんと理解した上で伴走するイメージですね。

ーー一般的な税理士事務所では扱われにくい「小さな案件」をあえて引き受けている背景と、それをどのような戦略で成り立たせているのか教えてください。

内山氏:多くの税理士事務所は、どうしても単価の高い中堅・大企業や、一定規模以上の法人案件を中心に扱います。そのビジネスモデル自体は理にかなっているのですが、「扶養内で在宅で細く長く稼ぎたい」というような、比較的小さな個人事業主のニーズには、なかなか手が回らないのが実情です。

一方で、私が支援したいのは、まさにその“ちょっとした一歩”を踏み出したい女性たちです。ですので、そこはほぼボランティアに近い価格帯で確定申告などをサポートしています。もちろん、その価格帯の仕事だけでは事務所は維持できません。そこで取っているのが、いわゆる「二極化」の戦略です。

一つ目の軸が、いまお話しした女性の在宅ワーク支援のような、社会貢献的で低価格なサービス。もう一つの軸が、それを支えるための高単価なバックグラウンド業務——公認会計士としての監査の業務委託や、ビジネス誌などの記事監修といったお仕事です。

税務だけでなく、公認会計士・税理士・ファイナンシャルプランナーとしての知識を組み合わせて収益源を多角化することで、「本当に支援したいニッチな層」にも、無理なく手を差し伸べられる体制をつくっています。

AI時代に税理士が提供すべき「究極の付加価値」とは

ーー近年は「税理士不要論」や、AI・会計ソフトの進化も話題になります。そうした時代背景を、どのように受け止めていますか。

内山氏:今は会計ソフトが本当に優秀になっていて、レシートをスマホで撮影すれば自動で仕訳が上がり、銀行口座やクレジットカードと連携すれば、ボタンを数回クリックするだけで帳簿が完成してしまいます。マイナンバーカードを使えば、スマホだけで確定申告まで完結しますよね。

正直に言うと、「基本的な記帳と申告」だけであれば、税理士は必ずしも必要ない時代だと私も思っています。むしろ、そういうところはどんどんAIやシステムに任せてしまっていい、と考えています。

ーー「それでも税理士に相談したい」と、内山さんのもとに依頼が集まるのは、どのような価値が評価されているからだと感じますか。

内山氏:私が大事にしているのは、「AIでは判断できないグレーゾーン」に対して、しっかりヒアリングをして、一緒に答えを見つけていくことです。

典型的なのが「家事按分(かじあんぶん:生活費と事業費を割合で分けること)」です。自宅を仕事場として使っている個人事業主さんの場合、自宅の家賃や電気代、水道光熱費、新潟のような車社会の地域であればガソリン代など、プライベートと仕事で共通して使っている費用をどの程度、経費として計上するかを決めなければいけません。

ところが、この割合には「これが正解です」という数字はありません。ネットで検索しても、情報が多すぎて、むしろ迷ってしまう方がほとんどです。そこで私は、お客様の生活実態を丁寧にヒアリングしたうえで、「電気代は〇割くらいにしておきましょう」「ガソリン代はこのくらいを経費にしましょう」といった“落としどころ”を一緒に決めていきます。

この「最終的な判断」は、現時点ではAIにはできませんし、相談に来られる方の多くは、まさにこの部分に悩んで私のところを訪ねてくださっています。

ーーAIやツールをうまく使いながら、どのようなスタンスで「専門家としての役割」を担っていきたいと考えていますか。

内山氏:私はAIの活用にはかなり前向きで、自分自身も日常的に使っています。レシート読み取りなど、「人間がやらなくてもいい作業」は、どんどんAIやシステムに任せて効率化すべきだと思っています。

そのうえで、専門家としてフォーカスすべきは、「お客さまの話をしっかり聞き、状況を立体的に理解すること」、そのうえで「グレーゾーンに対して責任を持って判断を下すこと」、そして事業を続けていくための「数字の読み方やお金の感覚を一緒に育てていくこと」だと考えています。

特に私は、女性の個人事業主さんには「自分で帳簿を付けて、自分で数字を見られるようになりましょう」と強くお伝えしています。数字が読めるようになると、事業がうまくいっているのか、どこを改善すべきか、自分で判断できるようになります。それが結局、3年、5年と事業を続けていく力になります。

AIに任せるところは任せる。その上で、人間にしかできない「寄り添い」と「判断」と「育てるサポート」を提供する。そういう住み分けをしながら、税理士・会計士としての役割をアップデートし続けたいと思っています。

内山氏

画像:内山氏

揺るがない理念が描く「病児家族支援」の未来

ーー今後のビジョンについて教えてください。どのような方向性を描いていらっしゃいますか。

内山氏:今は、立ち上げたばかりの女性起業家支援の会社(株式会社SheBliss)を、しっかり軌道に乗せることに力を注いでいます。スタッフも数名いますので、彼女たちと一緒に新しいコンテンツやサービスをつくりながら、事業の可能性を広げていきたいと考えています。

SheBliss

画像:SheBliss

内山氏:一方で、私の中で揺るがない最終目標は、やはり病児とそのご家族の支援です。病気を抱えるお子さんがいるお母さんたちは、「外で働きたくても働けない」「私には何もできない」と感じ、自己肯定感が下がってしまうことが少なくありません。

ーー「資格やスキルがないから働くのは難しい」と感じている方も多いと思います。そうした方々には、どのようなメッセージを伝えたいですか。

内山氏:よくお話するのは、「特別な資格やスキルがないからといって、すべてを諦める必要はない」ということです。

たしかに、私の場合は公認会計士・税理士という資格があったので、「じゃあ自分でやってみよう」と比較的スムーズに独立に踏み出せたかもしれません。でも、それはかなりレアなケースですし、皆さんに同じことを求めるつもりはありません。

大事なのは、「ママや妻としての自分」だけでなく、「自分自身としてどう生きたいか」を一度立ち止まって考えてみることだと思っています。

子育てや家事が楽しい、そこに十分な充実感があるのであれば、それも素晴らしい選択です。ただ、もしどこかで、「ママや妻以外の自分も持ちたい」「社会との接点を、もう一度取り戻したい」と感じる瞬間があるなら、そのときが「働く」という選択肢を考えるタイミングなのだと思います。

ーーそうした一歩を踏み出したい方に対して、ご自身はどのような存在でありたいと考えていますか。

内山氏:在宅で少しでも稼いでみたい、自分の力を試してみたい——そんな「小さな第一歩」を、私自身の経験と、公認会計士・税理士としての専門性を掛け合わせて支えていきたいと思っています。

病児を抱えていても、外に働きに出るのが難しくても、「働く」という選択肢そのものを諦めなくていい。そのための道筋を一緒に考え、寄り添いながら伴走していく存在でありたいですね。

――病児の母としての経験と、公認会計士・税理士としての専門性を掛け合わせ、「ママ・妻以外の自分を取り戻したい」と願う女性たちの最初の一歩に伴走している内山氏。「扶養内でも、在宅でも、諦めなくていい」というメッセージは、働き方に悩む多くの女性にとって、現実的で心強い羅針盤になるはずです。

今回お話を伺った企業
内山会計事務所
この記事のインタビュアー
竹澤 佳
著者NET MONEY編集部 編集長
詳細はこちら 立教大学大学院修了。流通業界専門の出版社で編集長を務めた後、IT企業のメディア部門に転職。現在は金融ジャンルに特化し、クレジットカード・カードローン・証券などの取材、編集執筆に従事。与信審査や金融商品比較など専門性の高いテーマを多数手がける。自身でも5枚のクレジットカードを使い分け、暗号資産・株式投資・外貨投資で資産運用中。

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