人生の大きな転換点で避けて通れない「お金」の悩み。しかし、いざプロに相談しようとしても、提示されるのは特定の金融機関に偏った商品だったり、営業担当者のノルマが透けて見える提案だったりすることは少なくありません。

情報の非対称性が根強く残る保険業界において、ユーザーが真に納得して選択できる環境を整えることは、長年の課題です。この構造的な歪みに挑み、「テクノロジーと人の力」を掛け合わせることで、金融業界の新たなスタンダードを構築しようとしているのが、ツリーファイナンシャル株式会社です。

同社を率いるのは、2025年1月に代表取締役CEOに就任した中村昴喜氏。同氏が掲げる「金融に、透明性と自由を。」というミッションの裏側には、これまでの業界の常識を覆す緻密な戦略がありました。

今回お話をお伺いした方
中村 昴喜(なかむら こうき) 氏
ツリーファイナンシャル株式会社 代表取締役CEO
関西学院大学経済学部卒業後、大手専門商社にて事業推進・営業に従事。その後、複数のスタートアップにおいて事業立ち上げからグロースまでを経験。2023年12月にツリーファイナンシャル株式会社へ参画し、副業からスタートしたのち、2025年1月よりCEOとして経営の舵取りを担う。現在は事業戦略の策定から実行、組織づくりまでを統括し、金融領域における新規事業開発とサービス成長に注力している。

副業から代表へ。金融業界に感じた「違和感」の正体

—— 中村社長は、2025年1月に代表取締役に就任されたばかりですが、参画の経緯は非常にユニークですね。まずはその歩みからお聞かせください。

中村 昴喜氏(以下、中村氏): 私は2017年に大学を卒業後、専門商社や複数のベンチャー企業で事業立ち上げを経験してきました。ツリーファイナンシャルには2023年末に参画したのですが、実は最初からフルコミットしていたわけではなく、最初は「副業」という形での関わりだったんです。

創業メンバーとは以前からの知り合いで、声をかけてもらったのがきっかけでした。もともと私自身、過去に保険業界に関わっていた経験もあり、金融領域への興味は強く持っていました。しかし、外部の視点を持ちながら副業として事業の深部に入っていく中で、あらためてこの業界が抱える「根深い課題」を強く感じるようになったのです。

—— 中村社長が感じられた「業界の当たり前への違和感」。具体的に、現在の金融サービスにはどのような課題があるとお考えですか。

中村氏: 端的にお伝えすれば、今の保険市場は「売る側の都合」で回ってしまっている、ということです。

保険は形のない、非常に複雑な商材です。それゆえに情報の非対称性が著しく、一般のユーザーが自分一人で最適な選択をすることは極めて困難です。結果として、保険会社の営業担当者や代理店の「売りたい商品」が優先されたり、半ば強引な勧誘によって、内容をよく理解しないまま契約を結んでしまったりするケースがあります。

—— 「誰を信じていいかわからない」というユーザーの声が聞こえてくるようです。

中村氏: 多くのユーザーは「相談したい」というニーズを持っている一方で、その窓口が信頼に足るものかどうかに大きな不安を感じています。

よくわからないまま知り合いの紹介で入ってしまった。窓口に行って勧められるがまま決めてしまった。こうした「納得感のない意思決定」が積み重なることで、業界全体への不信感に繋がっている。これが、私が変えたいと願っている最大の課題です。

画像:中村昴喜社長

「1対1」の限界を打破する、独自の「複数比較」マッチング

—— その課題に対し、御社が展開する「マネードットコム」はどのようなアプローチをとっているのでしょうか。

中村氏: 私たちが導き出した答えは、「ユーザーに選択の自由を戻す」ことです。そのための具体的な戦術が、1人のユーザーに対して「複数(最大3名)」のファイナンシャルプランナー(FP)をマッチングさせるという仕組みです。

—— 「マッチングサービス」自体は他にもありますが、あえて複数を引き合わせるのは珍しいですね。

中村氏: はい。従来のマッチングは「1対1」が基本です。しかし、これでは担当者との相性が「運任せ」になってしまう。いわゆる「担当者ガチャ」の状態です。

私たちは、1人のユーザーに対して複数の異なるバックグラウンドを持つFPをマッチングし、ユーザーが彼らを「比較」できるようにしました。FPから保険商品を提案される前に、まず「どのFPと一緒に人生設計を考えるか」をユーザーが選べる。このステップを挟むことで、マッチングの透明性は劇的に向上します。

—— 複数を比較できることで、ユーザーの反応にはどのような変化がありましたか。

中村氏:ユーザーからは「初めて自分の意志でパートナーを選べた」「複数の意見を聞くことで、何が自分にとって重要なのかが整理された」という声をいただきます。最短1週間から、長い方だと2ヶ月ほどかけて3名全員と面談し、納得いくまで吟味される。この「選ぶプロセス」こそが、納得感を生むために不可欠な要素だと思いますね。

情報の非対称性を解体する「4つのサービス」の相乗効果

—— 「マネードットコム」を核として、他にも複数のメディアを展開されていますね。全体の設計思想を教えてください。

中村氏: 私たちのミッション「すべての選択に、”信頼できる道しるべを”」を具現化するために、4つのサービスが有機的に繋がっています。

まず入口となるのが「マネーメディア」です。ここでは特定の商品の勧誘ではなく、NISA、iDeCo、ふるさと納税、あるいは「どう貯金すべきか」といった、本質的な金融リテラシーを分かりやすく提供しています。

—— なぜ、自社で教育メディアを持つ必要があるのでしょうか。

中村氏: 全く知識がない状態でプロに相談に行くと、どうしても相手の言いなりになりがちです。ユーザーが一定の知識武装をし、「何を聞くべきか」を分かっている状態で相談に臨む。この「準備」が整って初めて、対等な対話(パートナーシップ)が成立するからです。実際、メディア経由でマッチングしたユーザーの方が、契約に至る確率が高いというデータも出ています。

FPの「物語」を可視化し、直感と論理を繋ぐ

—— もう一つのメディア「マネーストーリーズ」についても、その役割を伺いたいのですが。

中村氏: これは、FPの方々の「プロフィールメディア」です。FPの資格や実績といったスペック情報だけでなく、なぜ彼らが今の仕事を選んだのか、どんな挫折を味わい、どんなスタンスでお客様と向き合っているのかという「物語(ストーリー)」を深掘りして掲載しています。

—— スペックだけでは分からない「人間味」を可視化するわけですね。

中村氏: その通りです。お金の相談は、非常にプライベートで繊細なものです。スペックが優秀なのは前提として、最後は「この人なら腹を割って話せるか」という直感的な信頼が決め手になります。「マネーストーリーズ」の記事があることで、面談の冒頭から「記事を読みました」と信頼関係が築かれた状態でスタートできますしね。

FP側からも「自分自身の価値観を理解してもらった上で会えるので、仕事がしやすくなった」と好評です。

AIが導き出す「運命のパートナー」——マッチングの精度を極める

—— ここまで、ユーザーが「選べる」仕組みについて伺ってきました。今後はそのマッチング自体をテクノロジーでさらに進化させていく形ですね。

中村氏: はい。まさに今月(2026年1月)システムを構築しており、来月にはAIを本格的に導入した新マッチングエンジンをローンチする予定です。

これまでは居住地や年齢といった基本的な属性データをもとにしていましたが、今後はより「情緒的なニーズ」や「具体的な悩み」の深層までを解析し、最適なFPを選定できるようになります。

—— 「情緒的なニーズ」とは、具体的にどのようなものでしょうか。

中村氏: 例えば、問い合わせ項目の中に「知り合いからよく分からないまま保険に入ってしまった人」向けの選択肢をあえて設けています。これは単なる「見直し」という言葉以上に、ユーザーが抱える後悔や不安という「ストーリー」に寄り添うための工夫です。

ユーザーが歩んできた体験の文脈をAIが読み解き、その解決に最も適したFP——例えば、強引な勧誘を否定し、論理的な比較を得意とするFPなど——を自動的にマッチングさせる。テクノロジーで「出会いの精度」を極限まで高め、最終的な「納得感」は人間の対話によって担保する。この「テック×ヒューマン」の融合が、私たちの勝ち筋です。

「ユーザーファースト」を超え、対等なパートナーシップを築く

—— システムを高度化しても、最終的にユーザーと向き合うのは「人」です。組織として、あるいは提携するFPに対して、どのような姿勢を求めていますか。

中村氏: 弊社ではバリューとして「ユーザーファーストを超えた、パートナーシップ」という考えを掲げています。

単なる「お客様と業者」という関係性では、本質的な課題解決はできません。人生の伴走者として、時には耳の痛いことも言える対等なパートナーであるべきです。これは社内のスタッフだけでなく、提携しているFPさんに対しても同じです。弊社が案件を「投げる」側で、FPさんが「受ける」側という上下関係ではなく、一緒にこの不透明な業界をクリーンにしていく「同志」でありたいと考えています。

金融からライフスタイルへ。「トクベル」が描く巨大なプラットフォーム構想

—— 御社は今、金融領域にとどまらない、より大きな「意思決定のプラットフォーム」を描こうとしていますね。新サービス「トクベル」について詳しく教えてください。

中村氏: 私たちは現在、「金融」という切り口からユーザーの課題を解決していますが、「お金の不安をほどく」という価値は、実は金融以外の領域の意思決定にも密接に関わっています。それを具現化するのが、4月にリリースを控えている「トクベル」です。

—— 金融から生活全般の「意思決定」へ。この拡張にはどのような狙いがあるのでしょうか。

中村氏: そもそも、人が将来のために資産形成を考えるとき、その動機は「支出を最適化したい」「もっと豊かな生活を送りたい」という切実な願いに基づいています。

例えばFPとライフプランを立てる中で、「将来のために月3万円の貯蓄を作りたい」という目標が立ったとします。その手段は、投資信託を始めることだけではありません。

むしろ即効性があるのは、「生活の固定費を見直すこと」ですよね。スマホのプラン、電気、ガス、あるいは住宅の買い方。しかし、これらもまた金融商品と同じように、選択肢が多すぎて「どれが自分にとって最適か」を判断するのが非常に面倒で難しい。「トクベル」は、こうした人生のあらゆる選択肢を網羅的に扱い、ユーザーが納得して選べる状態を作るプラットフォームを目指しています。

—— 具体的にはどのようなジャンルを扱っていく予定ですか。また、これまでの比較サイト等とは何が違うのでしょうか。

中村氏: 携帯電話の乗り換え、美容、さらには住宅、教育、電気・ガスといったインフラまで、BtoCのあらゆるジャンルをカバーしていく予定です。現在はシステムを構築中ですが、ローンチ前から「人と人」を繋ぐ形で徹底的に検証を行っています。

「トクベル」が追求するのは、あくまでユーザー視点の透明性です。FPが中立的な立場でアドバイスを行うように、「トクベル」もまた、ユーザーにとって何が最善の選択肢なのかを、客観的なデータとシステムによって提示します。

情報の荒波の中で、「後悔しない選択」を届けるために

—— 最後に、お金や将来の不安を抱えつつも、一歩踏み出せないでいる読者の方々へメッセージをお願いします。

中村氏: 「情報を集めて、自分で考える」ということを、決して諦めないでほしいと思っています。

結婚、出産、老後。人生には必ず、大きなお金が動くタイミングが訪れます。その時に、誰かに言われたから決めるのではなく、「自分で納得して選んだ」という感覚を持っていただきたい。そのための材料は、私たちの「マネーメディア」や「マネードットコム」に揃っています。

答えを出すのは、あなた自身でいい。私たちは、その決断が「最高の正解」になるための最高の伴走者であり続けたいと考えています。

—— 情報の非対称性を利用して利益を上げるモデルが終焉を迎えつつある今、あえて「比較させる」「物語を見せる」という手間のかかる手法を選ぶツリーファイナンシャルの戦略は、一見遠回りに見えて、実は最も強固なブランドを築く近道なのかもしれません。

今回お話を伺った企業
ツリーファイナンシャル株式会社
この記事のインタビュアー
竹澤 佳
著者NET MONEY編集部 編集長
詳細はこちら 立教大学大学院修了。流通業界専門の出版社で編集長を務めた後、IT企業のメディア部門に転職。現在は金融ジャンルに特化し、クレジットカード・カードローン・証券などの取材、編集執筆に従事。与信審査や金融商品比較など専門性の高いテーマを多数手がける。自身でも5枚のクレジットカードを使い分け、暗号資産・株式投資・外貨投資で資産運用中。

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