(画像:NET MONEY編集部)

「顧問税理士とコミュニケーションが取れない」「業績報告が遅くて経営判断ができない」――。多くの中小企業経営者が抱えるこうした悩みに対し、創業68年の歴史を持つ新経営サービス清水税理士法人は、極めてアナログでありながら本質的な答えを提示しています。

同法人の新代表2026年1月に就任した中村和弘氏は、京都で初めての女性税理士だった創業者の教え「常時知悉(じょうじちしつ)」を胸に、この道一筋19年間歩み続けてきました。

伝統ある老舗事務所の看板を守りつつも、Web集客や組織改革といった“革新”にも果敢に挑む中村氏に、これからの税理士法人に求められる真の価値を聞きました。

今回お話をお伺いした方
中村 和弘(なかむら かずひろ)氏
新経営サービス清水税理士法人 代表社員税理士
大学卒業後、2007年新経営サービス清水税理士法人に入社。段階的に経営の中核を担い、2026年1月に代表社員に就任。「経営者の良き理解者でいること」を信条に、現場で奮闘する中小企業経営者の組織的な支援を強化。併せて、職員一人ひとりの成長を後押しできる体制づくりにも力を注いでいる。

京都初の女性税理士が遺した「冷蔵庫の中まで知りなさい」という教え

――2026年1月に新代表に就任されました。おめでとうございます。中村先生は19年間、一筋にこの事務所でキャリアを重ねてこられたそうですね。

中村 和弘氏(以下、中村氏): ありがとうございます。振り返れば、2006年に大学を卒業してから少しの間は税理士試験の勉強に専念し、その後、2007年1月に当事務所へ入所しました。それから19年間、ずっとこの現場で育ててもらいました。

特別な功績を挙げてスピード出世したわけではなく、本当に泥臭い積み重ねの連続でした。お客様の元へ何度も足を運び、仕訳を打ち、経営者の愚痴を聞き、ともに悩む――そうした一つひとつの仕事を大事にしてきました。

大きな転機となったのは、2019年(令和元年)の税理士試験に合格したことです。税理士法人の経営は特殊で、有資格者でなければ出資も代表就任もできません。私が資格を手にしたことで、約4年前に現経営陣から「次の代を任せたい」というお話をいただきました。

――そこから副社長として、実質的に経営のタクトも振るってこられたわけですが、貴社が京都で68年もの長きにわたり支持され続けてきた理由は何だとお考えですか。

中村氏: それは間違いなく、創業者が遺した「理念」の力だと思います。創業者は、京都で初めての女性税理士でした。私が若手だった頃にはすでに80歳を超えていましたが、毅然と仕事をこなしていました。

その創業者が口癖のように言っていたのが、仏教用語を語源とする「「常時知悉(じょうじちしつ)」という言葉です。「常日頃から、ことごとく、隅々まで知り尽くしなさい」という意味で、具体的な姿勢として私たちに叩き込んだのが「お客様の家の冷蔵庫の中まで知りなさい」という教えでした。

――「冷蔵庫の中まで知る」というのは、とても印象的な表現です。

中村氏:もちろん、プライバシーの時代ですから、実際に冷蔵庫を開けるわけではありません(笑)。ただ、それぐらいの距離感でお客様に関心を持ちなさい、というメッセージなんです。

「今、あそこの社長は何に悩んでいるのか」「何に興味があるのか」「ご家族の状況はどう変化したのか」――数字の裏側にある背景を把握して初めて、血の通ったアドバイスができます。業績が悪くて落ち込んでいる社長には、数字を突きつける前に、まず励まし寄り添う。調子が良いときは共に喜びつつ、慢心を戒める。

19年間の教育を通じて、この「常時知悉」は私自身の体にも染み付いています。今でも職員には「単なる計算屋ではなく、お客様の人生の伴走者であれ」と伝え続けています。

 

単なる記帳代行からの脱却――経営コンサルと医療特化へ

――創業70年を前に、現在のグループは100名規模(税理士法人50名、コンサル会社40名超)にまで拡大しました。この成長の背景には、どのような戦略があったのでしょうか。

中村氏: 当事務所の歴史には、大きなターニングポイントが3つあります。

第一の転機は、約40年前に「経営コンサルティング会社」をグループ内に立ち上げたことです。今でこそ「MAS監査(経営支援)」を掲げる税理士事務所は増えましたが、当時は「記帳代行(経理処理の代行)」と「税務申告」こそが税理士の主な仕事だと考えられていた時代です。

その中で先代たちは、「数字をまとめるだけではお客様の未来は作れない」といち早く気づき、経営計画の策定や実行支援に舵を切りました。現在では、グループ売上の半分以上をこのコンサル部門が占めています。

第二の転機は、医療分野、特に歯科医院への特化です。これは約30年前、前代表が自身の専門性を生かして切り拓いた領域です。医療業界には独特の会計慣行や厳しい規制があり、専門知識が求められます。そこに長年取り組んできた結果、開業支援から事業承継までワンストップで対応できる強みが生まれました。現在も医療系のお客様が非常に多く、とりわけ歯科医院のシェアは圧倒的です。

――専門特化することで、他事務所には真似できない深みが出てきたわけですね。では、三つ目の転機は何でしょうか。

中村氏: 三つ目は「組織としての営業マインドの醸成」です。ここが最も他事務所と違う点かもしれません。

一般的な税理士事務所は、所長一人がトップセールスとして顧客を獲得し、下の職員は振られた作業をこなすだけという「分業型」の組織が多い。一方、当事務所では早い段階から「担当者自身が紹介を生み、自分で営業に行く」という文化を作ってきました。

お客様に満足いただければ、必ず「中村さんを誰かに紹介したい」という声が上がります。そのとき、所長を連れて行くのではなく、若手であっても担当者自らが会いに行き、信頼を勝ち取ってくる。職員一人ひとりがフロントに立つ意識を持ったことで、事務所全体の規模は一気に拡大しました。

 

今の税理士に不満を持つ理由―― 現場で見た「当たり前」の欠如

――現在は年商1億~10億円規模の中小企業がメイン顧客層とのことですが、日々どのような相談が持ち込まれていますか。

中村氏: 驚かれるかもしれませんが、弊社への乗り換えを希望されるお客様の最大の理由は、「今の税理士とコミュニケーションが取れない」という、非常に初歩的な問題です。

「質問しても返事が遅い」「担当者が頻繁に変わる」「年に数回しか顔を出さない」。こうした不満を抱えた経営者が、「新経営サービスさんはしっかり伴走してくれると聞いた」と紹介を通じて訪ねてこられます。

――デジタル化が進む一方で、結局は「人と人との対話」が求められているのですね。実務面での課題はいかがでしょうか。

中村氏:実務面で目立つのは、「タイムリーな業績把握」ができていない会社が非常に多いことです。

例えば今が2月だとします。本来、経営判断に必要なのは1月の試算表です。しかし、多くの中小企業では社内の経理体制が整っておらず、「3カ月前の数字」しか分からない状態で経営しているケースが少なくありません。

さらに、税理士側も資料が届くのをただ待つだけで、督促も指導もしない。これでは、アクセルを踏むべきなのか、ブレーキを踏むべきなのか、判断しようがありません。

私たちはまず、お客様の社内フローに入り込み、「どうすれば翌月15日までに数字が出るか」を一緒に考えます。時には経理担当者を指導し、クラウドツールの導入も支援しながら、リアルタイム経営の実現を目指します。

――「当たり前」を徹底することが、最大のアドバイスになるということですね。

中村氏:その通りです。毎月、正確な数字が出るようになると、次は「資金繰り」の相談に移ります。

特に現在は、コロナ融資の返済が始まり、キャッシュフローに頭を悩ませる経営者が急増しています。私たちは過去の数字を整理するだけでなく、未来の資金ショートを予測し、銀行交渉にも同席します。

経営者にとって一番の恐怖は、「いつお金がなくなるのか分からない」状態です。その霧を晴らして差し上げることが、私たちの重要な役割だと考えています。

 

30年の長期融資と10年先を見据えた「資金繰りシミュレーション」

――これまで手がけられた案件の中で、特に印象に残っている事例を教えてください。

中村氏: コロナ禍が始まる直前にご相談をいただいた、老舗の靴販売店様の事例が忘れられません。年商は約10億円、地域に愛される立派な会社でしたが、大きな課題を抱えていました。

築数十年の本店が老朽化し、建て替えが避けられなくなったのです。ただ、その店舗は歴史ある商店街のアーケード内にあり、日中の工事が一切禁止。夜間工事しか認められないという厳しい制約がありました。その結果、通常なら数カ月で終わる工事が「2年かかる」と見積もられたのです。

――2年間も本店の営業が制限されるとなると、売上へのインパクトは相当大きいですね。

中村氏: おっしゃる通りです。本店の売上は全体の約6割を占めていましたから、その部分が2年間大きく落ち込むとなれば、会社存続の危機です。社長は「このままでは会社が潰れるのではないか」と真っ青な表情で相談に来られました。

私はまず、経理担当者の方と膝を突き合わせ、「本店がない状態」での徹底的な業績予測を行いました。そして、「10年間の資金繰りシミュレーション」を構築したのです。特に工事中の2年間と、リニューアルオープン後1年間の計3年間については、月次単位で1円単位のキャッシュフローを可視化しました。

――10年間のシミュレーションは、銀行への説得材料としても相当なインパクトがあったのでは?

中村氏: はい。ただ、実際の交渉は簡単ではありませんでした。通常、運転資金の融資期間は5~7年、長くても10年程度です。しかし、2年間の売上減を耐え抜き、その後の投資回収を確実にするには、それでは到底足りませんでした。

そこで社長と共に、既存の取引先だけでなく新規の金融機関へも足を運び、この10年計画を丁寧にプレゼンしました。「この2年は耐える期間だが、3年目からはこれだけのV字回復が見込める。その根拠はこの数字だ」と。粘り強く説明を尽くした結果、最終的には事業資金としては異例中の異例である「30年返済」での資金調達を実現することができました。

――30年! それはもはや住宅ローンのようなスパンですね。

中村氏: そうですね。しかし、その長期融資によって月々の返済負担が大幅に抑えられ、会社は倒産の危機を免れました。

その後はご縁が広がり、「特例事業承継税制」を活用した自社株の承継や、ホールディングス化による組織再編など、数年にわたってトータルでサポートさせていただきました。現在は本店のリニューアルも無事に終わり、業績も順調に推移しています。あのとき、社長と夜遅くまでシミュレーションを回し続けた時間は、今でも私のキャリアの中で大切な宝物です。

新代表が挑む組織の若返りとWeb戦略の全貌

――輝かしい実績の一方で、中村先生は「今の事務所には課題も多い」と冷静に分析されていると伺いました。具体的には、どのような点を変革しようとしているのでしょうか。

中村氏: 課題は山積みです。一言で言えば、「成長の鈍化」です。

私が入社してからの19年間、税理士法人の売上は横ばいに近く、トータルで見ても10%程度しか伸びていません。年平均に直せば、ほぼ微増レベルです。もちろん、売上を維持すること自体も簡単なことではありませんが、私は「成長しない組織に未来はない」と考えています。

――なぜ、今あらためて「成長」が必要だとお考えなのですか。

中村氏: 理由はシンプルで、「若い世代のため」です。

組織規模が拡大しなければ、新しいポストは生まれません。30代でバリバリ働きたい職員がいても、その上に40代、50代のベテランが詰まっていれば、キャリアのイメージが描けず、結果的に退職してしまうこともあります。実際、そうした理由で優秀な人材を失った苦い経験もありました。

私が代表になるからには、再び成長カーブを描き、若手が「この事務所で夢を見られる」状態を作りたい。そのためのエンジンが「Web集客の強化」です。

――これまでは紹介が中心だったところから、Web戦略へと舵を切るわけですね。

中村氏: そうです。正直に申し上げて、弊社のWeb活用は周回遅れの状態です(笑)。紹介は質の高いお客様との出会いに繋がる一方で、どうしても似たような業種や規模に偏りがちです。今の起業家やフリーランスの方は、まずインターネットで検索して比較検討しますから、そこにきちんと出ていかなければなりません。

そこでまず「広報部」を新設し、今日同席している高山彩(氏)を責任者に据えました。彼女のような柔軟な発想を持つスタッフにリソースを割き、当事務所の強みを言語化して発信していきます。さらに、社内の力だけで完結させるのではなく、外部のコンサルティングも積極的に取り入れ、マーケティングの仕組みをゼロから構築していくつもりです。

――ターゲットとする顧客層も広げていかれるのでしょうか。

中村氏: コアな強みはあくまで「年商1億~10億円規模の法人」への伴走支援であり、ここは揺るぎません。あまりに大きな企業(年商数百億円~)を追ってしまうと、賠償リスクも跳ね上がりますし、私たちの良さである「冷蔵庫の中まで知る」ような密着支援が難しくなります。

一方で、今後の成長が期待される創業期のスタートアップや、法人成りを検討しているフリーランスの方々も積極的にサポートしていきたい。Webはその入り口になると考えています。

――Webのほか、AIやDXといったテクノロジーについては、どのように捉えておられますか。

中村氏: 会計ソフトのAI機能など、生産性を高めてくれるツールは徹底的に活用すべきだと思っています。ただし、情報の扱いには細心の注意が必要です。士業には厳しい守秘義務がありますから、「AIが学習にデータを使う」ことのリスクを100%払拭できない限り、お客様の機密情報を安易に投げ込むようなことはしません。

テクノロジーはあくまで「手段」です。それによって生まれた時間を、お客様との対話――つまり「常時知悉」の実践に使う。これこそが、私たちの考える本当の意味でのデジタルトランスフォーメーションです。

 

給料を「もらう側」から「払う側」へ。同じ経営者としての覚悟

――最後に、この記事を読んでいる全国の経営者、そしてこれから中村先生と共に歩むお客様へ、メッセージをお願いします。

中村氏: 事前にこの質問をいただいてから、ずっと考えていました。これまでは「経営者に向けたアドバイス」を求められることが多かったのですが、今の私の心境は少し違います。

1月から代表という立場になり、私は初めて「雇われる側」ではなく、「全責任を背負う経営者」になります。これまでは給料を「もらう側」でしたが、これからは「50人の仲間の給料を払う側」になる。その重圧を感じ始めたとき、お客様が日々抱えてきた孤独や不安の本当の意味が、ようやく肌感覚で分かり始めた気がします。

だからこそ、偉そうなアドバイスではなく、自分自身への「自戒」を込めた言葉をお伝えしたい。それが、「理念と革新」です。

創業者が遺した「お客様を隅々まで知り、伴走する」という理念。これは何があっても変えません。守り抜くべき伝統です。一方で、「革新(イノベーション)」も必要です。30歳以上年上の先輩たちとは違う、今の時代に合った集客、組織づくり、テクノロジーの活用を、摩擦を恐れずに実行していく。

私も一人の“新米経営者”として、失敗を恐れずに挑戦し続けます。お客様に「挑戦してください」とお伝えする以上、まず自分が一番挑戦している姿をお見せしなければならない。

経営の苦しさも楽しさも、すべてを分かち合える「同志」として、皆さまの傍らにいたい。冷蔵庫の中まで知るほどの深い信頼関係を、一社一社と築いていく。それが、私・中村が率いる新しい「新経営サービス」の誓いです。

――老舗ならではの「重厚感」と、ベンチャー企業のような「瑞々しい危機感」が同居しているのが貴社の強みです。京都の地で培われた「常時知悉」の教えが、新たなリーダーの手によって、これからどのように全国へ広がっていくのか。その「確信」が形を帯びていくプロセスから、目が離せません。

今回お話を伺った企業
  • 法人名:新経営サービス清水税理士法人
  • 所在地:京都府京都市下京区河原町通五条上る御影堂前町843番地
  • 連絡先:075-343-0870
  • 公式サイト:https://www.shinkeiei.jp/

 

この記事のインタビュアー
竹澤 佳
著者NET MONEY編集部 編集長
詳細はこちら 立教大学大学院修了。流通業界専門の出版社で編集長を務めた後、IT企業のメディア部門に転職。現在は金融ジャンルに特化し、クレジットカード・カードローン・証券などの取材、編集執筆に従事。与信審査や金融商品比較など専門性の高いテーマを多数手がける。自身でも5枚のクレジットカードを使い分け、暗号資産・株式投資・外貨投資で資産運用中。

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