セブンセンス税理士法人_大野氏画像
(画像:NET MONEY編集部)

税理士の仕事は、AIに奪われる——。そんな未来予測が現実味を帯びるなかで、「単なる税務代行」を超え、起業家や中小企業の経営を根幹から支える“伴走者”として注目を集めている税理士法人があります。

それこそが、セブンセンス税理士法人です。同法人は、成長著しいスタートアップ企業が直面する難解な「資本政策(出資や株主構成の設計)」や「イグジット戦略(IPOやM&Aなどの出口戦略)」、そして最新の「生成AIを活用したデューデリジェンス(DD:投資やM&Aのための企業調査)」など、従来の士業の守備範囲を大きく超えたサービスで、顧客の成長と成功を支えています。

本記事では、セブンセンス税理士法人の公認会計士・税理士でありディレクターでもある大野修平氏に、AI時代に専門家が取るべき新しい戦略について伺いました。AIをフルに活用し、“コンサルティングの質”を10倍に高めた具体的な取り組みと、その背景にある考え方に迫ります。

今回お話をお伺いした方
大野 修平(おおの しゅうへい)
公認会計士・税理士 セブンセンス税理士法人取締役/税理士
大学卒業後、有限責任監査法人トーマツへ入所。金融インダストリーグループにて、主に銀行、証券、保険会社の監査に従事。
​トーマツ退所後は、資金調達支援、資本政策策定支援、補助金申請支援などで多数の支援経験を持つ。
また、スタートアップ企業の育成・支援にも力をいれており、各種アクセラレーションプログラムでのメンタリングや講義、ピッチイベントでの審査員および協賛などにも精力的に関わっている。
生成AIの活用や今後の税理士像を探求する税理士事務所向けの会員組織である『AI研究会』(https://www.ai-kenkyukai.com/)の総合ディレクターを務めるなど、生成AIへの造詣も深い。

社名に込めた「第七感=ユーモア」という原点

――まずは社名についてお聞きします。セブンセンス税理士法人という名称には、「第七感(セブンセンス)」という言葉が使われていますが、そこにはどのような思いと理念が込められているのでしょうか。

大野 修平氏(以下、大野氏):セブンセンスは、直訳の通り「第七感」を意味します。第六感が霊感的なものだとすれば、我々は第七感を「ユーモア」だと定義しました。事務所のロゴに「hmr(Humour)」の頭文字を掲げているのも、そうした価値観の現れです。

シビアな税務の世界では、適時かつ適切な申告の支援というプレッシャーが常に存在します。高い品質を求められる業界だからこそ、社内はともすれば殺伐とした雰囲気になりがちです。

しかし、そんな環境でこそ「ユーモア」は組織の酸素になります。ユーモアを持ち、明るい職場で働くこと。これが、セブンセンスという名前に込めた根幹の思いです。

――そうした理念やこれまでの歩みを踏まえ、現在はどのような企業を主なクライアントとし、どのような分野で強みを発揮されているのでしょうか。

大野氏:現在では、国内の中小企業をメインとしつつ、特に急激な成長期にあるスタートアップ企業のサポートにも力を入れています。

スタートアップは、一般的な中小企業とは異なる独自の課題や論点を数多く抱えていますが、これらに網羅的に対応できる税理士事務所は、まだ多くありません。そうした背景もあり、多くのスタートアップ経営者からご紹介やお問い合わせをいただいています。

――スタートアップ企業特有の論点について、具体的に教えてください。

大野氏:最も根本的な課題は、「経営資源の乏しさ」です。一般的な企業は時間をかけて、人・モノ・金・情報といった経営資源を蓄積していきますが、スタートアップは短期間で急激な成長を求められるため、常に資源が成長スピードに追いついていません。

特に「金」、すなわち資金不足が顕著です。成長を支えるための先行投資が多額になる一方で、収益がまだ追いついていない。そのため、多くのスタートアップが資金調達を行います。

そして、この資金調達に伴って発生するのが、従来の税務の枠を超えた経営課題です。税理士の業務領域は本来、会計が締まった後の先に生まれる「税務」ですが、会計情報が揃うと、今度はその数字に基づく「経営」の相談が必ず発生します。スタートアップ支援では、まさにこの経営課題への対応が中心的なテーマになっています。

セブンセンス税理士法人 理念

画像引用:セブンセンス税理士法人 理念

スタートアップ支援のコア領域「資本政策と人材戦略」

――資金調達に伴って発生する経営課題とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。

大野氏:まず大きいのが資本政策です。資金調達の際、投資家(VCやエンジェル)に対して自社の株を渡すことになります。株は会社の所有権に関わる非常に強力な権利ですから、「誰に」「何株」「どのタイミングで」渡すのかを設計する資本政策が極めて重要になります。

株に関する論点は非常に複雑です。単なる普通株だけでなく、ステージが進むと、さまざまな条件を組み合わせた種類株を発行することもあります。これらの株価算定や、発行する際の条件設定に関するアドバイスは、一般的な税理士の守備範囲を大きく超える領域であり、高度な専門知識が不可欠です。

さらに、人材戦略も重要なテーマです。優秀な人材を確保し、急激な成長を実現したい一方で、スタートアップは高額な給与をすぐに支払うことが難しい場面が多くあります。そこで、後々自社株を安く買える権利であるストックオプションを付与するケースが増えています。

――ストックオプションは、税制優遇の観点からも税理士の専門性が求められる領域ですね。

大野氏:その通りです。税制上の優遇措置を受けられる「税制適格ストックオプション」のアドバイスは税理士の専門業務ですが、単に税制の知識があるだけでは不十分です。なぜストックオプションを発行したいのか、誰にどれくらい配るべきか、ストックオプションがイグジットにどのように影響を与えるか——こうした経営戦略の深い部分まで理解していなければ、的確なアドバイスはできません。

私たちは、これらの資本政策や人材戦略に加え、出口戦略としてのIPO(株式公開)やM&A(合併・買収)といったイグジットの局面におけるルールやマナーについても、総合的にサポートしています。これこそが、従来の税理士の業務領域を超えた、私たちならではの提供価値だと考えています。

――大野さんご自身は、どのような経験から、こうした経営的な視点を培ってこられたのでしょうか。

大野氏:私は公認会計士・税理士の資格を持っていますが、キャリアの出発点は監査法人トーマツでした。トーマツは古くからベンチャー企業を積極的に支援する文化があり、私も多くのスタートアップ経営者とお会いし、現場でのリアルな悩みや意思決定に触れてきました。

机上の理論ではなく、実際の事業の成長や失敗のプロセスを共有してもらえたことが、今の自分の土台になっていると感じています。現在では、さまざまなアクセラレーションプログラムでメンターを務め、経営者が事業に集中するあまり見えにくくなっている「客観的な視点」や「ビジネスのヒント」をお渡しする役割を担っています。

いわゆるコンサルティングというより、私は自分を経営者の「壁打ち相手」だと捉えています。私が絶対的な正解を持っているわけではありません。むしろ、経営者の頭の中にあるアイデアやモヤモヤを言語化し、一段深く掘り下げるための対話の場をつくることに価値があると思っています。そのプロセスの中で、意思決定の整理や優先順位づけのヒントを一緒に見つけていく——;それが私の役割です。

AIを「部下」にしてデューデリジェンスの質を10倍に高める

――近年、御社が特に注目を集めているのが、M&Aにおけるデューデリジェンス(投資・M&Aのための企業調査・評価)での取り組みですよね。

大野氏:M&Aや事業承継の際に行われるデューデリジェンス(DD)は、買い手にとって非常に重要なプロセスです。私たちはその財務DDにおいて、生成AIを最前線で活用していると自負しています。

ChatGPTが登場した当初から、その可能性を検証してきました。最初は、人間の判断を支える「補助役」として、リスクの抜け漏れがないかをチェックするサポート的な使い方でしたが、今ではAIと人間の主従関係が逆転しつつあります。

――どういうことでしょうか。

大野氏:端的に言えば、「生成AIが、我々人間に指示を出す」というワークフローに変わった、ということです。

AIは「このリスクを分析したいので、この資料を依頼してほしい」「この点について、先方にこういう質問をしてきてほしい」といった“次にやるべき行動”を提案してきます。私たちはその指示に沿って資料を集め、結果をAIに戻す。AIはそれを踏まえて分析を深め、リスクの有無や大きさを判断していきます。

こうした使い方になった背景には、プロンプト(指示)の出し方の変化があります。以前は「この作業をやってほしい」と手順まで細かく指定していましたが、今は「この会社の財務DDをしたい。最初に何をやるべきですか?」と“目的だけ”を伝え、段取りはAIに考えさせることが一定程度可能になってきました。そのほうがAIの発想や網羅性を引き出せますし、人間がAIの能力を縛らずに済むと感じています。

結果として、AIの提案や指示に基づいて動くほうが、全体として最も効率的だと分かってきました。

――AIが自ら問いを立て、必要な情報を要求し、専門家を動かす...従来のDD作業とはまったく違うスタイルですね。

大野氏:その通りです。このワークフローに変えたことで、DDのスピードと品質の両面で改善が見られ、付加価値は体感で10倍ほど向上しました。従来のDDでは、公認会計士や税理士といった高単価のプロが、何週間もかけて作業を行う必要があり、時間もコストも大きくかかっていました。

今は、専門家は最終的なレビューと意思決定に集中し、資料収集や一次分析の多くは一般スタッフと、低コストで利用できる生成AIに任せられるようになりました。

そして何より大きいのは、人間特有の「癖」や「お決まりの型」に縛られにくくなったことです。どれだけ経験を積んだプロでも、自分なりのパターンに寄ってしまいがちですが、AIに任せると「そういう見方もあったか」と気づかされることが多い。結果として、DDの網羅性と質が大きく高まっています。

――その結果、最終的なレポート作成のプロセスも変わってきましたか。

大野氏:はい。最終的にパワーポイントなどのレポート形式にまとめる作業も、今ではAIの最新モデルを使えば、高いレベルで自動生成できます。もはや「我々が作ったものをAIにチェックさせる」のではなく、「AIが作ったものを我々がレビューすると同時に、人間のほうがAIから学んでいる」という状況です。

さらに、AIは「同時並行処理」が得意です。人間が複数のDD案件を同時に進めると、案件同士の情報が頭の中で混ざってしまうリスクがありますが、AIにはそれがありません。複数案件を同時に、高精度で処理できることも、大きな強みだと感じています。

AI時代、税理士の仕事は「代行」から「伴走支援」へ

――御社が主宰されている「AI研究会」には、600近くの税理士事務所が参加されているそうですね。そこでは、どのような知見を共有しているのでしょうか。

大野氏:AI研究会では、生成AIや会計ソフトの最新動向を踏まえながら、「どの業務をどこまでAIに任せるか」「浮いた時間をどう付加価値の高い仕事に振り向けるか」をテーマに、各事務所の事例を持ち寄って議論しています。

かつては「記帳代行」だけで顧問料をいただくこともありましたが、AIが記帳や決算、申告を高速かつ高精度でこなす時代は、もう目前です。いずれ「お客様自身がAIを使いこなし、自分で記帳から決算、申告まで済ませる」状況になってもおかしくありません。

だからこそ、DDのような高付加価値業務にAIとともに取り組むことや、税理士の視点を活かして経営コンサルティングや事業計画の策定を行うなど、経営者に寄り添う「伴走支援」へ役割をシフトしていくことが重要だと考えています。

――なるほど。今後、税理士が提供すべき、新たな付加価値とは何でしょうか。

大野氏:一言でいえば、人間にしかできない意思決定のサポートと実行支援です。経営アドバイスの場面では、AIは多くの選択肢や改善案を提示してくれますが、この社長にとって、今このタイミングで最適な一手は決められません。

社長の価値観や家族の状況、会社の歴史、従業員の顔ぶれ、将来のビジョンまで踏まえ、「今はこれが最善だと思います」と背中を押せるのは人間だけです。

その選択肢を「実行」していくプロセスも、地道な積み重ねの連続です。AIのリマインド通知は無視できても、税理士の訪問や声がけ、時には厳しい一言はなかなか無視できません。お客様のお尻を叩きながら、目標達成まで伴走する進捗管理やメンタルサポートこそ、AIには代替できない、新しい顧問の価値だと考えています。

AI研究会

画像引用:AI研究会

業界再編期を乗り切る人間力と新たな顧問メニュー

――AI時代を迎え、専門家としてこれから活躍を目指す人材に求めるものは何でしょうか。

大野氏:今いちばん重視しているのは「ソフトスキル」、つまり人間力です。知識や経験は、時間と努力で身につきますし、その多くは今やAIが補ってくれます。

当事務所でも未経験者には、最大1年3ヶ月間、現場から離れて集中的に学んでもらう「NeST(New Star Training)」という新人育成部門を設け、知識と実務の基礎をしっかり身につけてもらっています。

ただ、どれだけ知識があっても、コミュニケーション力や、お客様の課題に真摯に向き合う姿勢がなければ、AI時代の顧問は務まりません。従来の税理士業界には「先輩の背中を見て覚えろ」という職人文化が根強くありますが、それだけでは人間的な魅力にあふれた人材は育ちにくいと感じています。

――専門家が「人間力」を磨くことの重要性について、もう少し詳しく教えてください。

大野氏:これは税理士に限らず、ホワイトカラー全体に言えることですが、AIに仕事を奪われないためには、「人にしかできないこと」に時間とエネルギーを注ぐ必要があります。だからこそ当事務所では、既存のお客様に対して「伴走支援」としての価値をより深め、経営アドバイザリー業務のメニューを強化しています。

従来は「記帳代行いくら、申告いくら」といったメニューが中心でしたが、今後は、予実管理や四半期ごとの計画見直し、幹部会への参加・ファシリテーションなど、税理士の枠を超えてシナジーを生む業務を、明確なメニューとして提示していくことが求められるかもしれません。

――税理士業界の今後の展望、そしてその中でのセブンセンス税理士法人の戦略について教えてください。

大野氏:税理士業界は今、大きな再編期に入っていると考えています。私たちの戦略は、「業界の中心に位置し続ける」ことです。業界内で「高付加価値なサービスを提供している税理士法人はどこか」と聞かれたときに、必ず名前が挙がる存在でありたい。AI時代に求められる新たな価値、特に「伴走支援」と「AI活用による高付加価値業務」を徹底的に磨き続けることで、新しい時代の顧客から選ばれ続ける法人を目指しています。

――AIと共存しながら高付加価値を生み出そうとするセブンセンス税理士法人の挑戦は、AI時代を生きる専門家にとって大きなヒントになりそうです。今後のさらなるご活躍にも注目していきたいと思います。本日はありがとうございました。

今回お話を伺った企業
セブンセンス税理士法人(東京上野オフィス)
  • 所在地:東京都台東区上野1-19-10 上野広小路会館7F
  • 連絡先:03-6803-2905(代表)
  • 公式サイト:https://seven-sense.co.jp/
この記事のインタビュアー
竹澤 佳
著者NET MONEY編集部 編集長
詳細はこちら 立教大学大学院修了。流通業界専門の出版社で編集長を務めた後、IT企業のメディア部門に転職。現在は金融ジャンルに特化し、クレジットカード・カードローン・証券などの取材、編集執筆に従事。与信審査や金融商品比較など専門性の高いテーマを多数手がける。自身でも5枚のクレジットカードを使い分け、暗号資産・株式投資・外貨投資で資産運用中。

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