日本クレアス税理士法人グループ_中村亨氏画像

全国11拠点、グループ社員数600名(2025年12月20日)。税理士・公認会計士のみならず、社会保険労務士、弁護士、M&Aアドバイザーを擁し、上場企業から個人まで1万を超えるクライアントを支援する日本クレアス税理士法人グループ。総合型税理士法人グループとして国内屈指の規模を誇る同グループの代表が中村亨氏だ。

創業から20余年、徹底した「顧客共感」で評判を呼び、経営統合を繰り返しながら拡大を続けてきた。DXが進み、士業の存在意義が問われる今、中村氏が見据えるのは2032年の「1,000名体制」と、社会のインフラ足りえる税理士法人グループの形成だ。会計事務所の枠を超え、進化を続ける同グループの核心に迫る。

今回お話をお伺いした方
中村 亨(なかむら とおる)氏
日本クレアス税理士法人グループ 代表 / 公認会計士・税理士
1968年、富山県生まれ。大阪府立北野高校卒業後、早稲田大学政治経済学部入学。卒業後、監査法人トーマツを経て2002年に独立し、現在の日本クレアス税理士法人グループを創業。「明日を創る」という理念を掲げ、徹底した顧客共感と戦略的な経営統合を軸に、グループを国内屈指の総合型プロフェッショナルファームへと成長させた。現在は一般社団法人会計事務所連携協議会の理事も務め、業界全体の地位向上に尽力している。

逆風の中で磨かれた「個の力」

――まずは、中村代表が公認会計士を目指した背景からお聞かせください。当時はバブル崩壊直後の激動期でしたね。

中村 亨氏(以下、中村氏):1993年に早稲田大学を卒業したのですが、当時はバブルが崩壊へと向かう過渡期で、社会全体に奇妙な停滞感がありました。周囲の友人の多くは銀行や証券会社へ就職していきましたが、私はOB訪問で目にした光景に強い違和感を覚えたのです。

当時、大手金融機関では不祥事が相次いでいました。憧れの先輩を訪ねて「どんな仕事をされているんですか」と問うと、返ってきたのは「毎日、お客さんにお詫び状を書いている」という言葉でした。

――組織の不始末に翻弄される現場を目の当たりにされたのですね。

中村氏:ええ。私はもともと、企業の根幹を支える「資本の部」に強い関心がありました。融資のように負債を積み上げる仕事でもなく、証券の仲介のように取引をつなぐ仕事でもなく、企業そのものの価値や構造を左右する“核”に触れる仕事はないか。

そう悶々としていた時に、大学の食堂で資格試験のパンフレットを手に取りました。そこに並んでいた「プロフェッショナル」という言葉の響きに、自分の生きる道はこれだ、という直感があったのです。組織の事情に左右されるのではなく、自分の専門性で勝負する。そのために1年留年して受験勉強に専念することを決め、1993年の試験で無事に合格することができました。

その後、公認会計士としての第一歩を踏み出したのが監査法人トーマツでした。そこでの経験が、私のキャリアのすべての出発点となっています。

「顧客への寄り添い」が生んだ評判の連鎖

――その後、2002年に33歳で独立されます。当時はお一人でのスタートだったそうですが、現在の組織へとつながる成長の種はどこにあったのでしょうか。

中村氏:独立当初の軸は、極めてシンプルでした。「自分」と「目の前のお客様」。この二つに真摯に向き合うことです。当時はベンチャー企業のお客様がメインでしたが、彼らは経理の育成から資金繰りまで、本当に多種多様な悩みを抱えていました。私はそれらの課題に対し、プロフェッショナルとして意見を述べるだけではなく、徹底して寄り添うことを大切にしました。

――共感こそが、サービスの核であった、と。

中村氏:そうです。中小企業の経営者はとても孤独です。だからこそ、できる限り早く向き合うようにし、難しい点は噛み砕き、親身になって相談に乗る。その姿勢が評判を呼び、ウェブサイトもパンフレットもない時代でしたが、口コミだけで次々とご紹介をいただけるようになりました。創業からしばらくの間、集客に困ることは一度もありませんでした。

当時は「中村さんに頼めば、どんな小さな悩みでも聞いてくれる」「専門用語を使わずに経営の先を照らしてくれる」といった声が、経営者仲間の間で広がっていったのです。目の前の一人に誠実に向き合う。その積み重ねが、今の私たちの基盤を作りました。

お客様に貢献し続けるため、プレイヤーから経営軸へ

――順調な滑り出しですが、その一方で、組織が20人、30人と増えていく過程で「壁」にぶつかったことはありますか?

中村氏:壁というものはほとんど感じませんでしたね。組織が拡大していっても、私自身の「想い」と「情熱」は変わることはありませんでした。それは今もこの先も、変わりません。

組織が大きくなる中で徐々に、自分一人がプレイヤーとして必死にお客様に向き合っていくスタイルから、人財育成や仕組み作りといった「経営」そのものに軸足を移すべきなのだろうとは考えました。その方が、本当の意味で多くのお客様に貢献し、高い価値を届け続けることができるだろうと思いました。

そこで、お客様への「想い」と「情熱」はそのままに、軸足を「プレイヤー」から「経営」に移す決断をしました。

多角化と経営統合で300名体制へ

――情熱を燃やし邁進していった結果、どのようにして現在の規模まで成長を加速させたのでしょうか。

中村氏:大きな転機は、2010年頃から本格化させた「多角化」と「経営統合」です。まず多角化については、会計事務所の枠を超え、社会保険労務士、弁護士、M&Aアドバイザー等、多くのプロフェッショナルを擁するワンストップ体制をいち早く整えました。

そしてもう一つの転機が、業界のレジェンドである辻・本郷税理士法人の本郷孔洋先生との出会いです。当時、本郷先生が全国の「後継ぎ難」に悩む事務所を次々と承継して価値を再生していく姿を目の当たりにし、これからの時代は統合こそがプロフェッショナルサービスの価値を最大化すると確信しました。そこから2020年までの10年間で、10以上の事務所を統合し、社員数は300名に達しました。

――300名体制……、一つの大きな節目ですね。

中村氏:はい。300名までは、「やり方」が組織を押し上げてくれました。どう統合し、どうサービスラインを拡張するか。しかし、その規模に達したとき、私は再び強烈な危機感を覚えました。テクニックだけで組織が大きくなっても、そこに「心」が伴わなければ、提供価値は必ずどこかで鈍り始めるからです。

そこで、創業20年を迎えた2022年、経営の軸足を「やり方」から「あり方」へと移す決断をしました。日本クレアスという看板を背負う人間が、いかにあるべきか。その「本質」を定義し直すことが、1,000名体制への唯一の道だと確信したのです。

――「あり方」を磨くために、具体的にどのようなアクションを起こされたのでしょうか。

中村氏:最も注力したのは教育です。現在の税理士業界は、受験生の減少など人材確保が難しい状況が続いています。背景には、単純作業に追われて本来の価値を十分に発揮できていない事務所が多いことがあります。

しかし、小規模な体制では、最新システムの導入も、教育体制にも限りがあります。だからこそ、私たち準大手には、業界の未来を担う人材を育てる責任があると感じました。

そこで億単位の資金を投じて研修制度を刷新したのです。税務知識だけでなく、経営者の孤独に寄り添う姿勢や、未来を語るコミュニケーションスキルまで、プロとして必要な力を包括的に鍛えられる環境を整えたのです。

「日本クレアスにいれば、どこでも通用するプロになれる」と社員が確信できる場所を作ること。この「あり方」への投資が実を結び、採用力と定着率は大きく向上しました。その結果、2022年からのわずか3年で、社員数は300名から600名規模へと倍増したのです。

経営統合における日本クレアスの「あり方」は、無理に染めない「文化の融合」

――組織の規模がそれだけのスピードで拡大する中、特に経営統合で加わった異なる文化を持つ組織を、どのように一つにまとめてきたのでしょうか。経営統合の難しさもあるかと思います。

中村氏:これまでに24の事務所を統合してきましたが、その経験から確信したことがあります。それは、東京本社のやり方を一方的に押し付けては決してうまくいかないということです。

地方拠点を統合する際、一般的には「東京本社のルールに合わせよう」と中央集権的に進めがちです。しかし、それではシナジーが生まれません。私が現場に伝えているのは、皆さんが大切に育ててきた文化を無理に上書きする必要はないということです。双方の価値観や強みが溶け合い、“新しい第三の文化”が生まれる。それこそが、経営統合のあるべき姿だと考えています。

――「第三の文化」を創る。具体的になぜ、それがうまくいくのでしょうか。

中村氏:鍵は、ハードとソフトを切り分けることにあります。まずハード面、つまりシステム・インフラ・専門知識はクラウド型に統一し、東京本社の専門チームが地方拠点をリアルタイムで支える「パワード・バイ・クレアス」の体制を整えました。

一方でお客様との向き合い方や心の通わせ方といったソフト面については、地域ごとに育まれた流儀を尊重します。この、“仕組みは統一し、心は尊重する”という考え方が、統合後の組織を強くしていくのです。

――仕組みは統一しつつ、心までは型にはめない、と。

中村氏:そうすることで現場には、「日本クレアスの一員になったことで、地域にいながら高度なコンサルティングができるようになった」というポジティブな変化が生まれます。この仕組みへの信頼と仕事への誇りが共有されることこそが、物理的な距離を超えた「ワンファーム」の正体です。

――そうした「誇り」や「あり方」を重視する経営において、理念の浸透こそが最も難しいのではないでしょうか。

中村氏:おっしゃる通りです。一人ひとりの日常業務にまで浸透させるためには、徹底した「理念教育」と「仕組み化」が必要でした。

私たちの理念「明日を創る」にはお客様の明日、自分自身の明日、組織の明日を創るという3つの意味があります。これらを形骸化させないため、私は今も全国の拠点を回り、対話を重ねる研修を継続しています。プロとして判断に迷ったとき、「それは明日を創ることに繋がるか?どうすれば明日を創ることができるか?」と全員が自律的に問い直せる集団でありたいからです。

――理念をどう「評価」に落とし込んでいるのでしょうか。

中村氏:採用から評価まで、一貫した「ものさし」を導入しています。評価は「成果」だけでなく「理念行動」や「技術」など4領域で行い、昇格基準もすべて公表しています。不透明さをなくすことで、社員が自分の成長と向き合える環境を整えています。

――「実力主義の終身雇用」という言葉も掲げておられますね。

中村氏:プロとして厳正に評価はしますが、成果だけで切り捨てることはしません。安心して腰を据え、お客様と向き合ってほしいからです。「ポストが空くのを待つのではなく、自らの成長で役割を創り出す」。この文化こそが、私たちの原動力です。

AI時代の勝機――「作業」を脱ぎ捨て「明日」を創るプロへ

――AIやDXの劇的な進化は、士業の「あり方」をどのように変えていくとお考えですか。

中村氏:結論から申し上げれば、本物のプロフェッショナルを目指す者にとっては、これ以上ないチャンスが到来したと考えています。

実は「新しい技術が士業を脅かす」という騒ぎは、今に始まったことではありません。約30年前、Windows 95が登場し会計ソフトが普及し始めた頃も、「税理士はいらなくなる」と言われました。しかし現実はどうだったか。会計事務所のマーケットは縮小するどころか、より複雑化する経営課題に応える形で広がり、市場は大きく成長しました。

――技術は仕事を奪うのではなく、役割を進化させてきたわけですね。

中村氏:その通りです。人財を大きく「作業型」と「価値創造型」に分けて考えると、自ずと答えは見えてきます。AIが得意とするのは、過去のデータを整理・集計する「作業」です。終わった数字を追いかけるだけの仕事は、AIに任せればいい。しかし、経営者の「明日を創る」仕事は、人間にしかできません。

――では「明日を創る」という仕事において、人間のプロが果たすべき役割とは?

中村氏:会計や税法は、基本的には過去をどう処理するかという学問です。そのため、多くの士業は正解を出すことに終始しがちです。しかし、経営者が本当に求めているのは、正解のない「これからどうするか」という未来の話です。

だからこそ、AIが引き受けてくれる作業は任せて、生み出した時間でお客様とじっくり対話し、10年後のリスクを先回りして摘み取ったり、新たな投資や事業判断の基準を一緒に考える。こうした未来志向の対話は、AIには代替できません。

AIを使いこなすことで、個々のプロの付加価値はさらに高まります。本当の意味でプロの実力が問われるのは、これからだと捉えています。

「競い合い」から「助け合い」の時代へ

――個人や小規模な事務所が生き残るのが難しくなる一方で、業界全体のあり方も変わりつつありますね。

中村氏:はい。私たちは現在、業界大手17社で一般社団法人会計事務所連携協議会を立ち上げ、私も理事として活動しています。かつては互いに競い合う場面も多かったですが、今はもう競争だけでは価値を生み出せない時代になりました。

DXの知見、M&Aの専門性、国際税務のノウハウ。それぞれの強みを隠すのではなく、教え合い、補完し合う。その連携が業界全体の水準を底上げし、日本の中小企業を元気にしていくことにつながります。一社で抱え込まず、ナレッジを共有する。これこそが、これからのプロフェッショナルの姿だと考えています。

――情報の独占ではなく価値の共有が、社会貢献に直結するということですね。

中村氏:本来、税理士や会計士は情報の格差を埋める存在です。私たちが手を取り合い、高度なソリューションを標準化していくことで、地方の小さな企業でも、上場企業と変わらないレベルの専門サービスを受けられるようになります。

特定の誰かだけが突出するのではなく、誰もが高度な支援を享受できる状態を作る。それこそが、私が目指す「社会のインフラ足りえる総合的なプロフェッショナルファーム」のあり方です。専門家集団である前に、社会を支える基盤でありたい、その思いが、今の取り組みの原点になっています。

2032年、1,000名体制の先にある「社会インフラ」への道

――2032年の1,000名体制という目標の先にある、日本クレアスの使命とは何でしょうか。

中村氏:私たちが目指しているのは、単なる規模の拡大ではなく、お客様から長く信頼され続ける「安心・安全な全国ブランド」を確立することです。

士業のスキルは属人的になりがちですが、それはお客様にとってのリスクでもあります。誰が担当しても、専門チームとシステムによって常に「日本クレアス品質」の最適解が提供される。その安心を社会全体に届けられる存在へと進化したいと考えています。

――これからこの道を志す若い世代、そして共に歩む仲間へのメッセージをお願いします。

中村氏:今、この業界を目指すことは大きなチャンスだと思います。この10年で税理士試験の受験生は減少していますが、それは裏を返せば、挑戦する人にとって大きな可能性が開けているということです。「士業はなくなる」という表面的な言葉に惑わされずに、じっくり腰を据えて学べば、これほど面白く、経営者から感謝される仕事はありません。

そして、一人前のプロとしての「あり方」を身につければ、長いキャリアの中で必ず自分自身の武器になります。私たちはこれからも挑戦者を支え、共に「明日を創る」存在であり続けたいと思っています。2032年、1,000名の仲間と共に、社会インフラ足りえる総合的なプロフェッショナルファームの姿を実現していきます。

――2032年の1,000名体制に向け、日本クレアスは今、会計事務所の枠を超えた新たなステージへと歩みを進めている。大変勉強になりました。

今回お話を伺った企業
日本クレアス税理士法人グループ
  • 所在地:東京都千代田区霞が関3丁目2番5号 霞が関ビルディング33階
  • 公式サイト:https://j-creas.com/
この記事のインタビュアー
竹澤 佳
著者NET MONEY編集部 編集長
詳細はこちら 立教大学大学院修了。流通業界専門の出版社で編集長を務めた後、IT企業のメディア部門に転職。現在は金融ジャンルに特化し、クレジットカード・カードローン・証券などの取材、編集執筆に従事。与信審査や金融商品比較など専門性の高いテーマを多数手がける。自身でも5枚のクレジットカードを使い分け、暗号資産・株式投資・外貨投資で資産運用中。

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