「美と健康」をテーマに衣食住に関わる様々な商品を多角的に開発、製造、オンライン及び実店舗での販売をしている企業。キャリアの最初で大病を患った経験から治療院を開業し、現在の前身である有限会社ソフトを開業した。

本企画では、幾多の困難を乗り越え、多くの人から愛されるような商品を生み出し続ける企業の秘訣を社長自らお聞きしていく。(執筆・構成=川村 真史)

(画像=株式会社ファイテン)
平田 好宏(ひらた よしひろ)
ファイテン株式会社 代表取締役
平田 好宏(ひらた よしひろ)――ファイテン株式会社 代表取締役 1953年 京都府網野町(現丹後市)生まれ。家業で絹織物を扱っていた縁から、1972年に京都府の織物メーカーに入社。1978年 料理人に転職。1980年 膠原病と診断されたことをきっかけに、「療術」の道を目指す。1982年 一社)近畿療術師連絡協議会で「療術師」の免許を取得し、治療院を開業。1983年 施術のみならず、患者自身で手軽にケアができる機器の開発を目的に、有限会社ソフトを設立。1994年 ファイテンに社名を変更し、現在に至る。
ファイテン株式会社
今年で40周年を迎える京都市に拠点を持つボディケア企業。国内外のトップアスリートを初め、多くの競技者をスポーツギアやサービスによってサポートしてきた。プロフィギュアスケーターの羽生結弦選手や卓球の早田ひな選手、野球選手が首に着けているネックレスを製造販売している企業といったほうがわかりやすいかも知れない。現在ではスポーツギアのみならず、化粧品から医薬部外品、医療機器、不動産事業にまで幅広く展開している。

起業のきっかけとこれまでの事業変遷

―まずは創業に至ったきっかけと経緯について教えていただけますか。

最初のキャリアで大病を患った経験が創業のきっかけです。 元々は、繊維業を営んでいた家業の廃業により、子供の頃から好きだった料理の道でキャリアをスタートさせました。

しかし、周りより遅れて料理の道に入ったため、追いつくためにかなり一生懸命働かなければいけませんでした。その中で体調を大きく崩してしまい、筋肉の炎症が起こって、心臓が止まる危険性のある深刻な病気と診断されました。奇跡的に一ヶ月で回復したのですが、その病気を経験したことで、大きく価値観が変わりました。

回復後、料理人を続けていく中で、独立し、徐々に知識をつけていって利益を上げることができましたが、大病を患った経験による医療への興味を捨てきれず、ライセンスを取得し、治療院を開業し始めました。

その当時から、日々のホームケアを重視しており、治療院に患者さんが行ったとしても、対症療法として一時的にしか健康を維持できないのではと考えていました。そこで、単に苦痛を緩和するだけではなく、健康状態を維持することを目指しました。その中で私が技術開発から製品販売、健康指導までを行うことで、普段の日常生活から健康状態を作っていくことを目標に現在の仕事をスタートしました。

―その技術開発が現在のファイテンの事業につながっているのですね。次に、現状の御社の事業内容とその強みについて教えていただけますか。

まず、弊社の事業内容ですが、「美と健康」をテーマに衣食住に関わる様々な商品を多角的に開発、製造、オンライン及び実店舗での販売をしています。 また、弊社の強みは創業当初から掲げている、「日常生活の中で健康になる」というコンセプトに基づいた商品開発です。病気を急に治すというよりは、体調管理をしっかりと行い、どんな病気でも人間が持っている本来の身体のバランスを活用して治していく考え方のもと、商品企画や技術開発を行っています。薬を飲んだり、手術をしたりするのは一時的な対症療法でしかなく、本来の健康づくりには足りていないと感じています。そこで、生活全体から健康状態をプラスに変えていくために様々な形で商品開発を行っています。

健康とライフスタイル: スポーツネックレス業界の新たな挑戦

―ありがとうございます。次に御社の過去の成功実績についてお伺いしたいのですが、特に御社のブレイクスルーのきっかけについて教えてください。

数多くのアスリートの方々に弊社商品を使っていただいたことが大きなきっかけになりました。当初からお客様の中には、体の故障と隣り合わせにあるアスリートの方も多く、我々の治療法を元に多方面からサポートさせていただいていました。

そのアスリートのお客様には、我々の提供するアスリート向け製品の手軽さと有効性を十分に理解し使用していただいています。一見アクセサリーに見えますが、数多くのアスリートの方々に使用していただいていた信用と実績をもとに、体のケア用の製品であることを多くの方に理解していただけるようになり、スポーツアクセサリーとして売れるようになりました。

その後、2001年のサッカー日韓ワールドカップで小野伸二選手が弊社のアスリート用ネックレスを着用したことがきっかけで大きくブレイクすることになりました。テレビ番組で弊社の商品を取り上げられるようになってからは、販売域が全国区になり、半年分の在庫が3日でなくなるようなこともありました。

商品マーケティングの戦略について

―マスメディアの活用は、御社の商品の強みがあってこそだと思いますが、マーケティング戦略として変わってきている部分はありますか?

積極的にマス広告を使っていくことも重要なマーケティング戦略の一つですが、体験を通して我々の商品の価値を直接知っていただくことを大事にしています。その価値が消費者の方々に波及的に浸透していくことが理想です。

具体例として、イベント等に出店し、弊社商品を活用したボディケアの体験を提供しています。これも宣伝をするというよりも、我々の技術の本質を消費者に体感してもらうこと、我々の商品の機能性を理解してもらうことが目的です。これが我々のマーケティングの基本的な考え方であり、当初から変わらず続けていることでもあります。

―それは大変な努力ですね。何か他の具体的な例はありますか?

これまでにアメリカのメジャーリーグベースボールのスプリングキャンプに参加した経験もあります。全チームがアリゾナに集まるのですが、その時に我々の商品を体験してもらいました。その結果、ランディ・ジョンソン選手などのトッププレイヤーと友人になり、彼らが我々の商品を広く周囲に伝えてくれました。

また、プロゴルファーの松山英樹選手にも大学時代からマスターズで優勝するまで様々な形でボディケアを提供してきました。

松山選手をはじめ、数多くのトップアスリートの方々に弊社の商品や技術を体験していただくことで結果的に認知度向上に繋がっていますが、ただ認知度を上げる目的で提供しているわけではなく、本当に自分たちが納得して良いと思うモノや価値を効果的に消費者に知っていただくことを大事にしています。

―それは素晴らしい考えですね。しかし、商品の機能性を重要視して使用している方とファッション性を重要視して使用している方とでは、商品の使用継続度に違いがあると思いますが、その点についてはどう思いますか?

おっしゃる通り、その両者では商品の使用継続度は全然違います。その比率をどう変えていくかが、現在の課題になっています。

我々はファッションとして商品をただ使用していただくだけでなく、あくまで商品や技術の価値、または機能を理解して使用していただくことを重視しています。

一方で、昨今の情勢を鑑みても世の中のトレンドを全く無視することはできず、ファッション性も蔑ろにはできないと考えています。

いかに機能性とファッション性のバランスが取れた商品を開発し世に出していけるのか、これからも考え続けるべき課題だと思います。

技術開発の最前線に立つ、平田氏の挑戦とビジョン

―では、御社の未来構想についてお伺いしたいと思います。御社の未来構想を語る上でどのような点が重要になってくると考えていますか。

弊社の目指す未来に向けて、技術開発力の更なる強化が重要だと考えています。創業当初の技術レベルから向上していかないと良い商品は作れません。創業から現在に至るまで私自身の使命としてエネルギーをかけて取り組んでいますし、これからもより重要になると考えています。

技術開発に関して、今後もより強化していきたいポイントを、具体例を交えて2点紹介させていただきます。

1つ目は、素材に関する技術開発です。創業当初、弊社では当時絶対に水に溶けないとされていたチタンという金属を水に溶かすことに成功しました。

当時、汎用性の高さと金属アレルギーなどが起きにくい生体適合性、弊社商品の将来的な多様性から、弊社商品に水に溶かしたチタンを使用しようとしていました。チタンが水に溶けないことを知らずに試行錯誤する中で、従来とは違う手法で水に溶かすことに成功しました。しかし、チタンは溶けないからこそ安全だとされていて、特許庁からは「チタンが水に溶けるなんてことを言われても困る」という反応でした。

結局、特許申請から「水溶化」という文言を外し、「チタン超微粒子分散水」という名前の特許を取得することができました。今では、「アクアチタン」としてこの技術は広く認められています。この独自技術を他の金属の水溶化にも転用してきましたし、これからも素材の技術開発には精力を傾けて取り組みたいと考えています。

2つ目は、コロナ禍で取り入れた新規ビジネスに関する技術開発です。

我々の仕事は効果伝達が大切で、対面接客が中心のビジネスですが、コロナウイルス蔓延の影響により対面接客が困難になり、大きなダメージを受けました。そこで商品に新たな機能(非接触)を付与するという技術を開発することに成功しました。この技術開発により、遠隔地であってもお客様との接点を持つことが可能になりました。さらに、弊社が商品を作らずともこの技術を提供することでビジネスが成立するようになります。これは創業以来最大の技術開発における成功事例だと考えています。

ファイテン株式会社のビジネス戦略 - 在庫問題の解決とサービスの転換

―先ほどの御社の未来構想を踏まえた上で、御社の今度のビジネスモデルはどのように転換していかれるのでしょうか。

一言で申し上げますと、「物販中心のビジネスモデルからの脱却」です。先ほど申し上げた、コロナ禍で成功した技術開発による新規ビジネスを拡大させるために、フランチャイズ展開を強化しようと考えています。特に注目すべきは、店舗規模と運営資金の大幅削減が可能になる点です。

また、今までは我々が商品を作り販売していましたが、お客様の持っている商品に弊社独自の機能を付与することが可能になっていくことで、我々が不要な在庫を抱えずに済む可能性が高くなり、在庫不良によるリスクを限りなく減らすことができます。弊社の商品であろうとお客様自身の持ち物であろうと、日常生活から健康を作り出すために、弊社の提供する機能を活用していただくことが大切なのです。

さらに、今度レンタルサービスも拡大しようと考えています。従来の物販ビジネスモデルだとお客様との関係が短期間で切れやすくなってしまいます。そこで、レンタルサービスを通じて、お客様との長期的な関係性の構築が可能になるのではないかと考えています。

お客様自身の商品に付加価値を与えるビジネスと、レンタルサービスのビジネスの両輪を拡大し、物販だけに頼らないビジネスモデルがより確立することで大きな成功につながると考えています。

―ありがとうございます。それでは最後に、読者の皆様にメッセージをお願いします。

我々は健康だけでなく、健康と関連が深い美も含めた「美と健康」をテーマにしています。これは人が生きている以上、全員が関係するテーマです。そのテーマだけでもビジネスチャンスは大いにあると思います。そして、我々の技術がどこまで世界中の人々の「美と健康」に貢献できるかが勝負だと考えています。皆様には、こんなものが世の中にあるんだという興味を持って知ってほしいです。また、私たちのコンセプトに共感いただけると嬉しいです。ありがとうございました。