次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回のゲストは、面白法人カヤック(株式会社カヤック)代表取締役CEOの柳澤大輔氏。「面白法人」としてのブランドを築き上げ、ユニークな人・企業・モノを生み出し続ける同社の強みや思い描く将来像を伺った。

(取材・執筆・構成=丸山夏名美)

面白法人カヤック
(画像=面白法人カヤック)
柳澤 大輔(やなさわ・だいすけ)
面白法人カヤック代表取締役CEO
1998年、面白法人カヤック設立。鎌倉に本社を置き、ゲームアプリや広告制作などのコンテンツを数多く発信。SDGsの自分ごと化や関係人口創出に貢献するコミュニティ通貨サービス「まちのコイン」は全国10地域で展開中(2021年9月30日時点)。さまざまなWeb広告賞で審査員をつとめるほか、ユニークな人事制度やワークスタイルなど新しい会社のスタイルに挑戦中。著書に「鎌倉資本主義」(プレジデント社)、「リビング・シフト 面白法人カヤックが考える未来」(KADOKAWA)、「面白法人カヤック社長日記 2015年-2020年愛蔵版」ほか。まちづくりに興味のある人が集うオンラインサロン主宰。金沢大学非常勤講師、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授。「デジタル田園都市国家構想実現会議」構成員。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

面白いモノを生み、クリエイターが集まる好循環と、それを支える鎌倉から生まれた「ちいき資本主義」

冨田: カヤックさんは創業当初より実にユニークな事業や組織を展開し続け、今ではIT業界で知らない人はいない知名度と実績を誇りますが、現在に至るまでどのような変遷を遂げてきたのかお聞かせください。

柳澤:弊社は1998年に合資会社として設立し、2005年に株式会社化、2014年に上場を経て23年目を迎えます。一般的に上場企業は投資家の方にどのように利益を出すのかご理解をいただくため、事業を絞って集中することが定石ですが、合資会社としてスタートした私たちは、むしろ多岐にわたって面白いことをしようと考えていました。

「面白法人」と名乗っている以上、1つの事業だけやっているのは違うなと。ただ、なんでもやるのではなく、方向性を定めようと考え、組織としてはクリエイターという職種に絞ることにしました。

ですので、創業から約10年間はメンバーのほとんどがクリエイター。その他エンジニアとプログラマーしかいない環境でした。クリエイターを軸に、広告制作、アプリやWebサービスの開発などを展開し、営業スタッフは原則として置かない受託開発系が主な事業領域でした。

2007年から2008年に時流もあってスタートさせたゲーム事業が軌道に乗り、ビジネス全体の半分ぐらいを占めるようになりました。そこから、広告クリエイティブをメインとする受託事業とゲーム事業を2つの柱として進めてきました。

今でもそれらは大切な事業ですが、例えばゲーム事業はタイトルごとに当たり外れがありサイクルが短い。もっと新しく他の領域も手がけていこうと考え、現在力を入れているのがeスポーツ事業と、ちいき資本主義(まちづくり)事業です。

ちいき資本主義事業は、面白さ=多様性であるという創業時からの理念に基づき、地域の多様な魅力を資本として企業もまた成長していきたいという考え方がベースになっています。カヤックが本社所在地に鎌倉を選んだのは、組織の大半を占めるクリエイターが働きたい環境を選んだ結果です。環境が魅力的なら自然とクリエイターが集まってきて、良いデザインや作品ができ、さらにクリエイターが集まってくる。そんな好循環を生み出すには環境が大きく影響します。

職住近接の生活を送り、自分たちの住む地域のことを当事者として取り組んだら、人生が2倍、3倍にも面白くなるはず。そう考えて、2013年には、鎌倉で活動する経営者たちと「カマコン」という地域活動を立ち上げました。希望して参加しているカヤック社員も多くいます。カヤックが運営する「まちの社員食堂」や「まちの保育園」なども、こうした地域とのかかわりから生まれたものです。2018年から移住促進サービス「SMOUT」、翌2019年にはコミュニティ通貨(地域通貨)サービス「まちのコイン」を立ち上げ、2020年から「ちいき資本主義」事業部をスタートさせました。

面白法人カヤック
▲ちいき資本主義事業の一環である地域通貨「まちのコイン」

冨田:軸の持ち方、新規事業の考え方に他社にはないユニークさがありますね。鎌倉という地域から始まり、今は子会社や支店が秋葉原や石垣島にもあるのはどのような意図なのでしょうか。

柳澤:地域と一体化して事業を作る、もしくは事業が生まれると考えると、事業ごとに合う地域が異なります。鎌倉はクリエイティブ関連事業にははまるけれど、ゲーム事業とはどうか。そこで秋葉原の拠点、株式会社カヤックアキバスタジオを置いています。石垣島には、そのエリアでの地域通貨事業や移住促進などの事業を行う株式会社カヤックゼロを置いていて、別のミッションがあるんです。

事業や組織は、地域と密接に結びつき、共生する。その考え方は、根幹となる「地域資本主義」の思想とつながっています。それを書籍化したのが、2018年に出版した「鎌倉資本主義(プレジデント社、著:柳澤大輔)」です。

ブレない「面白法人」の軸がブランド・エクイティを蓄積し、優れた人・企業・ものを輩出する

冨田:決算説明資料の3ページ目「企業理念と経営方針」に、「我々の事業=面白コンテンツ」と書かれていますね。そこに広告、ゲーム、不動産、結婚式……と個々の事業が紐づいている。必要なクリエイティビティは、結果として拠点とする街や地域につながっているんですね。

面白法人カヤック

柳澤:おっしゃるとおり、事業の軸となるのが面白コンテンツなんです。中でもコア事業は広告とゲームで、そこからうまく他の事業にも横展開している形です。

また、新規事業の1つ、eスポーツはとても良いポジションを取ることができています。2017年にグループ会社としてジョインしたウェルプレイド(現:ウェルプレイド・ライゼスト株式会社)に加えて、業界で国内トップクラスの存在感があり実績を出しているSANKOグループの3社をグループ会社化しました。まだまだ成長段階の市場ですので、ここもしっかりと力を入れていきます。

冨田:多くの企業が軸とする領域を事業名やテクノロジーで説明する中、面白コンテンツというより理念に近いもので展開している。そして、しっかりと全体の事業が伸びている。これは他社さんでは、やろうと思ってもなかなかできないことだと思いますが、競争優位性やコアコンピタンスはどこにあるのでしょうか。

柳澤:どんな企業も行き着くところは理念やビジョンだと思います。私たちにとっての「面白法人」という言葉がそこにあたります。「面白法人」という名前にふさわしい事業や結果を作り、それによって市場から注目されてさらに事業が加速したり、新しい取り組みができたりしてきました。そうやって「面白法人」としてのブランドが、価値として蓄積されてきたんです。

特にブランドは、クリエイターの採用に大きく効いています。面白さを生み出すと、クリエイターが集まり、そこで結果を出せばまた優秀なクリエイターが集まるという好循環が回っています。「面白法人」を打ち出すのは、この好循環を生み出すための投資的な意味合いもあります。結果として、グループ会社も増えてきたと考えています。

色々な事業展開をしていますが、「面白法人」のブランドがあって、そこに人が集まってきて事業を作る。例えば、ゲーム事業で言うと、IP系(ゲームやアニメのタイトルやキャラクターなどの知的財産を活用したゲーム)からハイパーカジュアル系まで使う技術や枠にこだわりはありません。トップダウンではなくボトムアップで、全世界で合計1億ダウンロードを突破したハイパーカジュアルゲームが生まれることもある。

このような再現性が定着しているのは、クリエイターが勝手に新しいことをする・作る環境があるからです。「人とブランド」で事業が伸びることが私たちの競争優位性ではないでしょうか。

本質的な社会的価値やSDGsにつながるクリエイティビティ

面白法人カヤック

冨田:「面白法人」を軸に、ブランド・エクイティがどんどん上がるというのは究極的ですね。お話をお伺いしていると、組織にしても、事業にしても、無形資産と呼べるような付加価値が高いと感じました。言い換えると、よく言われる「機能の限界」を超えて、最終的に選ばれる社会的な価値の提供や、人々の共感を得る力まで備わっていると捉えました。

柳澤:世界的にも有名な戦略ファームが、質の高いクリエイティブチームを買収するという例も出てきましたが、機能だけではなく、クリエイティブが競争優位性に直結する時代なのだと思います。

機能面では勝敗が決まらないようになって、ではクリエイティブを頑張ろうと思っても、すぐにできるものではなく、遺伝子のように長らくかけて備えていないと実現できない。カヤックでは、そのようなクリエイティブに創業時から優先して取り組んできました。

また、広告チームは、いわゆる「バズる」、つまり話題になるクリエイティブ作りをすることが得意です。こうやったら好かれる、話題になるということを理解してものを生み出しているので、お客さまからは、広告だけでなくブランディングの相談までいただけるんです。

最近、日清食品のカップヌードルの猫耳フタのデザインを手掛けました。フタの開け口(タブ)が2つあって、それが猫耳のようなので「カップニャードル」と名付けたのですが、一見ダジャレのように見えて、実はとてもエコ。廃止された「フタ止めシール」の代わりとなって、プラスチックを削減することができるんです。

SDGsが大事と分かっていても、それだけで人気が出るわけではありません。クリエイティブで、面白くて注目もされて、そして地球環境にも貢献できる。こういうところで差がでるのだと思います。

“資本主義のアップデート”で未来のニューノーマルを築き、確実に事業化する

面白法人カヤック

冨田:最後に今後の展開や思い描く構想についてお聞かせください。

柳澤:投資家の方も「面白法人」カヤックとして見ていてそこに期待をしていただいていると思いますから、単に大きくなるだけではなく、自分たちらしい価値をどう社会に提供するかが重要です。

その中で、大きく掲げるのは資本主義のアップデートです。創業から数年前までは、「仕事は面白くていい」という価値観や、とにかく自由度の高い組織のあり方などを発信してきました。社会が変わってきて、自由度の高い働き方ができるようになった中、次は新しい資本主義の形を作り、発信していくミッションができました。

資本主義は便利なものですが、あまりに追求しすぎた結果、お金というモノサシであらゆる物事を測る世界ができてしまった。効率以上に面白さやクリエイティブを追求すること、我々の事業でもある地域通貨を通じた多元的な価値観の可視化によって、本当の価値や豊かさを広げたいです。

もちろん、企業ですから事業として成り立たせなくては意味がありません。まだ誰も生み出したことのない世界と、それをしっかり収益化すること、事業化することに取り組んでいきます。

冨田:お伺いしていると、存在そのものが世界の流れであり、また近年の金融市場としても注目するSDGsなどの社会課題とビジネスがリンクしているんですね。「面白法人」でなくては生み出せない価値が今後も期待されます。どうもありがとうございました。

プロフィール

氏名 柳澤大輔
会社名 面白法人カヤック
役職 代表取締役CEO
出身校 慶應義塾大学環境情報学部