次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスの混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回のゲストは、株式会社バイク王&カンパニー代表取締役社長の石川秋彦氏。買取専門からリテールの強化に転換して利益率を高めている同社の事業戦略や未来構想を聞いた。

(取材・執筆・構成=落合真彩)

株式会社バイク王&カンパニー
(画像=株式会社バイク王&カンパニー)
石川 秋彦(いしかわ・あきひこ)
株式会社バイク王&カンパニー代表取締役社長執行役員
1987年にバイク買取専門業の先駆けとなる「ナショナルオート」に入社し、新店舗立ち上げに携わる。94年に同店舗の営業譲渡を受け、バイク王&カンパニーの前身となる「メジャーオート」を設立し、現在に至る。2014年からバイク王&カンパニー社長。愛車は米ハーレーダビッドソン。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

リテールへと本格進出した2016年がターニングポイント

冨田:まずお伺いしたいのは、この3年~5年あたりの事業の変遷の部分です。こちらからお願いします。

石川:ここ数年を振り返ったときの大きな転換点としては、買取ビジネスに加えてリテールを進めてきたことです。当社はバイクの買取専門店としてスタートし、2006年に上場するまではほぼバイク買取で事業を行ってきました。

2006年3月にバイク専門の駐車場事業を営む子会社を設立したことを皮切りに、水面下でリテールの進出を図ってきたのですが、大きく動き出したのが2016年でした。従来のバイク買取専門店としての「バイクを売るならバイク王」から、バイクに係る全てのサービスを総合的に提供する「バイクのことならバイク王」に変更し、買取専門店から買取とリテールを併設した複合店の出店を始めたことで、リテールへの進出が大きく進みました。

加えてここ数年は、リテール強化の施策として、高市場価値車輌(流通市場で高価値が認められる原付二種以上のバイク)を中心に仕入れる活動をしてきました。さらにホールセール(卸売)事業においても、無責任に中古バイクを市場に流すのではなく、可能な限りメーカー出荷時に近づけて流通させようと、整備を充実させてきました。前期、今期と行ってきたそれらの施策が奏功し、市場から認められる水準にまで至ったのではないかと思っております。

株式会社バイク王&カンパニー

冨田:ありがとうございます。取り組みの成果はこの1~2年の業績にも表れています。直近の決算でも、今期3 Q売上高が前年同期比で約20%増収。これだけの売上高規模で素晴らしいのですが、なんと経常利益では111.7%増。驚異の増益となっていますね。これは今おっしゃったような転換が行われてきたことの反映であると理解してよろしいでしょうか。

石川:そうですね、高市場価値の車輌に注力したこと、仕入れにおいて徹底的な営業管理を行ったこと、ホールセールにおいて丁寧な整備をしたこと、リテールの比率を高めていったこと。これらに加え、ここ数年はバイクというものが「キャンプ・アウトドア」のカテゴリーに加わったことによる影響や、コロナ禍における通勤・通学のバイク需要なども、少なからず追い風になったかと思います。

前期、今期と一定の利益水準を得られたことは、2016年以降の活動の賜物だと考えておりますし、それがようやく前期から成果として出てきたなという実感です。

全国展開のブランド力とサプライチェーンの総合力が圧倒的な強み

株式会社バイク王&カンパニー

冨田:ありがとうございます。内訳を拝見すると、ホールセールが前年同期比7.3%増に対して、リテールがなんと43.3%増と大きく伸びています。利益率が高いリテールの仕組みが構築されて、まさに爆発的成長が始まったばかりというタイミングで、ここからリテール比率が上がっていくとなると、全体の利益率や増益率の向上が見込めるという美しいモデルだと感じます。

石川:このタイミングでリテールを高めていくこともそうですし、一方でまだまだ我々が広げられてない領域、例えば部品や用品を提供できる仕組みをつくり上げていこうとしています。2019年にバイクの部品・用品卸の株式会社ヤマトを子会社化しました。

また、2021年4月には「バイク王ダイレクト」というEC専門の子会社をつくり、7月にECサイトをリリースしました。そういった取り組みを通して、全体の利益構造強化、売り上げの伸長、あるいはポートフォリオの最適化をしていきたいと考えています。

我々はリテールにおいてのシェアはまだ低いほうだと思っておりますので、リアル店舗の見直しを図りながら、ECサイトとの融合を進めて、バイクにおけるオムニチャネル化も目指せるのではないかと考えています。

冨田:ありがとうございます。元々の買取が圧倒的に強かったからこその展開だと思います。決算の中でも、優良な在庫確保の結果として高価値車輌を流通させることができ、利益率が向上する。これは表現を変えると「利幅があるビジネスへの進出」と捉えられます。これまでされてきたBtoBのホールセールに比べて、リテールは利幅という観点で優れたモデルになっているわけですね。また、何よりそれができるような優良在庫を確保できるのが、買取ブランドとして確立されているバイク王さんならではですね。

さらには、リアル店舗があるからこそ、ECに参入する際もブランドがあるところからスタートできる。絵に描いたような経営戦略のループがステップバイステップで行われてきたのだなと思った次第です。このような仕組みができた裏側にあるコアコンピタンスは、石川社長の中ではどのようにお考えでしょうか?

石川:バイクをお乗りになる方以外でも、「バイク王」という名前は聞いたことがある方が多いと思います。この認知度やブランド力については、他社さんよりは強い部分だと思います。当社はリアル店舗の全国展開を行っており、スタッフも常駐しておりますので、スケールメリットと機動力を併せ持っています。

リテールを強化していることもあり、レンタルバイクの拠点も少しずつではありますが増やしております。部品商の子会社化や、ECサイトを含めて、強固な仕入れという基盤から複数のサービスを提供できる総合力。これが当社の競争優位性を保てている要因ではないかと思います。また、お客さまの声や社員からの提案を経営に受け入れていく素地、風土も含めて当社の強みだと考えております。

周辺領域への拡張をさらに推し進める

冨田社長

冨田:総合力という言葉がまさにそうですね。ブランド力を生かしたビジネスモデルをつくられている。「バイクを売るなら」から始まっているからこその競争優位だなと思います。

石川:創業時、買取専門からスタートしたのですが、実は当時から、いずれはリテールビジネスにも進出しようと考えておりました。

冨田:そうだったのですか!なるほど。

石川:ただ、中古バイクを販売するにあたっては、やはりいいものを供給できるボリュームが安定的に得られないと、仕入れに左右されてしまうことが懸念されましたので、一定程度安定的に仕入れられる環境ができて初めてリテールに進出できるだろうと。このサイクルをつくり上げるまで相当な時間を要しましたが、その環境が整って複合店を始めた2016年から、ようやくリテールを加速させることができました。

冨田:ありがとうございます。ホールセールからリテール、リテールでもリアルとECというところまで広げられ、バイクの周辺用品も含めて提供されています。未来に向けてバイク王&カンパニー社がどういう方向に向かわれるのか、未来に向けてのお話を伺えますでしょうか。

石川:仕入れにおいてはようやく固まりつつあると考えています。一方でリテールにおいてはまだまだ整備の部分が十二分とは申し上げにくいので、整備の拠点づくりや整備技術の向上、バイクテクニカルアドバイザー(整備職)の増員など、アフターサービスにつながる部分を高めていきたいと考えています。

また、本当にいいタイミングで首尾よくECサイトがリリースできたので、現在は中古バイクとバイク部品・用品のみですが、これからはEVのようなモビリティ、高齢者向け商品、あるいはキャンプ・アウトドア用品などに広げていき、リアル店舗とEC連携もより進めていきたいと考えております。

さらにバイク事業の周辺まで広げて、バイクを通したライフスタイルのご提供、例えば交通インフラのようなものも場合によっては手がける可能性もあるかと思います。レジャー、アウトドアとバイクは親和性が高いので、このあたりのマッチングも考えているところです。

バイクの安心・安全・選べる、そして「楽しさ」の提供

冨田:「バイク×ライフスタイル」というのはおっしゃるとおりですね。当社にもバイク好きでよくツーリングをするメンバーが何人かいて、話を聞くとすごく楽しそうだと感じます。ツーリングはどこかに行って一泊したり、あるいは日帰りで温泉に行ったり、何かしら「行き先」と「アクション」がセットになっていると思います。またそのときに一緒に行く「仲間」との交流や「景色」も楽しみの1つですよね。

そういった中で、先ほど交通インフラというお話もされていましたけれども、例えば途中で休憩スポットを提供するといったことだったり、あるいはバイク好きの方たちが半日休める滞在先みたいなものが開発されたりということも、もしかしたらあり得るのかもしれません。

整備のお話もありましたが、お客さまのバイクライフ、つまり買ってから整備したり新しいものに乗り換えたり、2台目を買ったり、そういう形で寄り添っていくことで、結果としてLTVが伸びていく。それがまたライフスタイルやアクションを提供することにもつながっていく。そんな未来を描いていく可能性もある会社なのではないかと想像しました。

石川:ありがとうございます。今はバイクにお乗りになっている方は、車に比べると圧倒的に少ないのですが、安全あるいは安心をご提供できるということと、何よりも「楽しいですよ」ということをお伝えしていきたいと考えています。

僕もコロナ前は社員とツーリングによく行っていましたが、おいしいご飯を食べに行ったり、温泉に行ったりする道中で季節も感じられますし、休憩のときや降りた後のコミュニケーションによって仲間同士の一体感が生まれます。こんなに五感に訴えられる乗り物や趣味はバイク以外にそう多くはないだろうと感じます。

その楽しみをご提供できるようになれば、もっとバイク人口が増えると思いますし、当社ならそれができるのではないか。そういった環境を整えていくこともバイク王の使命だと考えています。もっともっと夢や希望を広げていきたいですし、それを社員たちが実現できるような環境が作られればなお、社員の成長にもつなげられると思います。

今お話いただいた中でも、これからどう描くかについて、いろいろときっかけになるお言葉をいただきましたので、この後、社員と一緒に企画を練ってみようかなと思います(笑)。

冨田:私が勝手に妄想したものですけれども(笑)、ありがとうございます。たくさんお話いただきまして、バイク王さんのことを今後の可能性も含めて想像できるお話でした。

プロフィール

氏名 石川 秋彦
会社名 株式会社バイク王&カンパニー
役職 代表取締役社長執行役員
ブランド名 バイク王