志水 雄一郎(しみず・ゆういちろう)
フォースタートアップス株式会社代表取締役社長
福岡県出身、慶應義塾大学環境情報学部卒業後、株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)に入社。営業企画部門にて、転職サイト「doda(デューダ)」の企画立案を行い、正式に事業として立ち上げる。そのとき志水は人が集い形成されるチームの強さ、素晴らしさを知る。
2016年に成長産業支援事業を推進する、株式会社ネットジンザイバンク(現フォースタートアップス株式会社)を創業、代表取締役社長に就任。2016年「Japan Headhunter Awards」にて 国内初「殿堂入りHeadhunter」に認定される。2019年より日本ベンチャーキャピタル協会ベンチャーエコシステム委員会委員に、2020年より経団連スタートアップ委員会企画部会・スタートアップ政策タスクフォース委員に就任する。
2020年3月フォースタートアップスは創業3年半にて東証マザーズに上場。事業を「国策」として打ち立て、成長産業支援事業を展開し続ける。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身、一橋大学経済学部卒業。大学在学中にSNSソーシャルマーケティング分野で起業した経験を持つ。2006年、野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍を対象に、エクイティストーリー戦略立案、上場準備・事業承継などの支援を行う。
金融の現場に身を置き、改めて激しい課題と葛藤を感じることとなった冨田は、日本の金融業界が抱える課題を解決すべく事業を起こそうと決意していた。2013年4月、株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。
資産運用の総合プラットフォームを創り上げ、IT革命をはじめ金融業界に新たなムーブメントを発信し続ける。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリー構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。
終わりを告げた大企業至上主義、失われた30年、今スタートアップこそが新産業を芽吹かせる
冨田:失われた30年といわれ、経済低迷期をむかえる現代の日本ですが、スタートアップ企業の必要性について具体的にお話をお聞かせください。
志水:今の日本経済をみると、一人当たりGDPは世界で30番目です。主要先進国の平均賃金をみると24番目と、スペインやイタリアと変わらず、直近では韓国に抜かれ、ポーランドと争っています。
日本国内でいういわゆる「エリート」は世界でみると、「貧乏」という経済レベルなんです。
「iPhoneが安い、ビックマック指数が低い」という状態は、日本経済のサービスシステムがすごいからではなく、国民が貧乏で、安くないと買えないから起きている現象です。
今から約30年前の1989年、世界の時価総額ランキングで、上位50社中6割は日本企業となっており、日本はまさに世界を席巻していたわけです。その頃の日本人はよく学び、よく働き、アメリカという市場でも、ビジネスモデル・プロダクトの作り方は日本のほうが優秀であったため、世界で戦うのが当たり前だった時代でした。
それが今は、上位50社中、日本の企業は1社だけで「トヨタ」が入っているかどうか、という状態です。ただ、電気自動車しか売れないアメリカやヨーロッパ市場で、電気自動車化への取り組みが遅かったため、テスラに抜かれています。世界NO.1の座を譲ってしまったわけです。
テスラ
テキサス州オースティンに本社を置く、アメリカの電気自動車およびクリーンエネルギー関連企業
国家に着目しても、かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という経済本が出るくらい、日本は世界NO.1の競争力を持っていたんです。1992年くらいまでは世界1位の競争力を持っていました。それが今はタイやマレーシアよりランクを落とした34番手です。
日本は今、「前向きな指標がない」という危機を迎えています。かつて日本が「高度経済成長期」といわれた時代、大企業で働くということはとても良いことでした。日本のGDPは1位を目指せるほど高く、生産性も世界で2番目に高い状態だったんです。生活水準も、海外から出稼ぎにきてくれるような、そんな高水準の日本をリードする企業で、安定的に働くことは重要だったのです。
GDPとは
「Gross Domestic Product」の略で、「国内総生産」のこと。GDPによって国内でどれだけの儲けが産み出されたか、国の経済状況の良し悪しを端的に知ることができる。
しかしその後、「失われた30年」の中で大手企業にいることが必ずしも正解ではなくなってしまった。「安定した企業に入り、世界の中で勝負しないことを是とする」親や学校や社会が、知らずして子供たちに伝え、大企業至上主義のキャリアを選択させ続けてきた結果、優秀なリーダーシップを持った人の未来を限定的にしてしまうことになったわけです。
本来であれば新産業を創り、未来をアップデートする役回りを果たし、時価総額100兆円の事業を生み出すような人材の未来を、です。
「雇用を創出し、税金を納め社会システムの向上にも努め、M&AやIPOで利益を得るイグジットにより社会貢献もしていく、そして仲間とともに人類の未来をアップデートするようなプロダクトを創る」そんな人材が日本では限られた選択しかしていない。
みんなで行ってきた結果として、今の衰退した日本があるわけです。
アメリカなら現在の雇用の半分はスタートアップが占めています。雇用全体の半分がスタートアップってものすごいことだと思いませんか?内閣官房の資料によると、アメリカでのスタートアップの調達額は年間40兆円規模、ユニコーン企業の数は600数十社です。アメリカの国家価値の4割程度は新産業側が作っています。
参照:スタートアップに関する基礎資料集、National Venture Capital Association “Yearbook 2021”
ユニコーン企業とは
評価額が10億ドル以上(1ドル110円換算で1,100億円)、設立10年以内の、非上場のベンチャー企業のこと
日本はどうかというと、スタートアップの調達額は年間8,000億、ユニコーン企業の数は為替の問題もあって現在6社です。ここが次の数兆・数十兆の種になるとしたら、日本経済は将来にわたってもっと負け続けるということになるんです。
新産業が「人を採用して成長する」ことを考えると、アメリカではスタートアップ側が雇用を生み出しています。日本はどうかというと、大手人材業界もスタートアップ向けに人的資本を投入するかというとそんなことはありません。いまだに大企業や外資・ITを優先して人を紹介する、なぜならそこに日本の雇用の大票田があるからです。
日本がこのまま「お金もない・人もない」状態だと、世界の中で新しい競争力を持つ産業やプロダクトが生まれないことになります。アメリカだと既存産業と新産業とのあいだで、採用競争が生じ、人材獲得・雇用維持のため、労働者の賃金が上がるんです。
日本にはこの構造が出来上がっていません。このまま、既存産業だけで賃上げすることを選択しても、競争力が逆になくなると思います。社会を上げて、新しい産業が生まれるためのエコシステムを作らなければならないわけです。そして2022年、世界で最も遅れをとりながら、日本はスタートアップ政策を始めました。
「次、日本はこれで勝つぞ」政府が旗を降り、民間が動くー高度資本主義経済に学ぶ重要な動きー
冨田:日本が不況である原因のひとつに「ベンチャーキャピタルにお金が集まらなくなっている状況がある」といわれますが、今後の見通しについてご意見をお聞かせください。
志水:世界に比べると少額ですが、日本でもベンチャーキャピタルにはお金が集まっているんです。ドライパウダーに着目しても、ファンドレイズは順調です。
- ドライパウダー:投資家のコミットメントのうち、投資などに利用されていない未払込資金のこと
- ファンドレイズ:未上場の株式への投資を行う「PE(プライベート・エクイティ)ファンド」による投資家からの資金調達のこと
投資できる対象と、バリュエーションさえあえばみんな投資できます。ただ、今までだと国家が持ってる年金機構から、リスクマネーを引き出せませんでした。
なぜかというと、アメリカ企業への投資のほうが利益が出る傾向にあるからです。大企業も身銭は過去最大に膨らんでいるのに、VC側にお金を出していない傾向です。銀行だって国会だってキャッシュを持っています。それなのにそのお金は新産業のために使われておらず、新産業育成のためのインフラは、今時点では極小です。
しかし、鶏が先か卵が先かという観点で考えたとき、今、日本のスタートアップへの投資が必要になっています。お金を出そうと思ったらあるわけで、国だけでなく、民間も動く必要があります。
国が身銭を切るなら、民間も新産業育成のためにお金を出すべきなんです。誰が音頭を取って力強い動きをとりにいくか、というのが1番重要なんだと思います。
リスクマネーとは
高いリターンを得るため、回収不能になるリスクを負う投資資金のこと
かつて繊維産業が国の経済を下支えしていた時代、「次は自動車産業で勝つぞ」という風に、日本国家は指針を示しました。当時、繊維産業の人たちから批判の声がありましたが、国が新しい発信をしたことによって繊維産業も事業を移しました。このような「次、日本はこれで勝つぞ」という、発信を日本は続けるべきだったんです。
政府が旗を降り、それに合わせて民間が動く、という風にできればよかったのですが、日本はそれを続けることができなかった。昨今まで何が起きていたのかというと、「既存産業だけに注力」という動きです。雇用確保の面も考慮して、日本の大手で上手くいっていないところに資金を注入して倒れないようにしたんです。
しかし今は新たに生まれてくる産業、「新たに雇用をつくるんだ」という側にお金を回さなければならないんです。国がそう動けばみんな少しずつ変わると思います。現に少しずつ変化は起きています。例えば最近、デットファイナンスで700億調達という動きがありました。
デットファイナンスとは
借入れによる資金調達。企業における資金調達の方法のひとつで、社債発行や銀行借入など、他人資本の増加になる調達のこと
また、銀行がつくり始めたスタートアップ向けの融資モデルは、今後日本の金融機関に広まるのではと思います。ここからです。本格化する2023年から5年で日本経済の一丁目一番地にスタートアップが来るはずです。もしこの5年でスタートアップを非日常から日常にもってこれなかったら、もう二度と日本の成長はないと思います。
2023年~2028年の5年間は勝負の5年なんです。このことを、国民全体が知っているでしょうか?日本が、世界における存在価値を明確に示すべき5年といえます。これは、国民全体が意識すべきことなんです。そうでないと子どもたちによりよい未来を残すことはできません。
冨田:いいですね、そのストレートなメッセージを、私たちも発信したいです。
スタートアップの広大なエコシステムで、勝ち残るのはいいチームをつくれる企業
冨田:生き残るスタートアップ企業の傾向を教えていただけますでしょうか。
志水:スタートアップに限った話ではありませんが、勝ち残る企業の特徴は、「いいチームが作れている」ことです。
すべてのスタートアップが生き残ることはありません。40兆規模の投資が行われているアメリカにおいても、生き残るスタートアップは少ないです。多産多死なんです。でも、それでいいんです。なぜなら、みんなが平べったく生きる社会とは、つまり誰も勝たない社会を指します。
大切なのは、多産多死の社会で圧倒的な競争力を持つ会社ができ上がっていく仕組みです。今の日本には、シリコンバレーにあるような「スタートアップの広大なエコシステム」がありません。例えばアメリカには、テスラやスペースエックスのように多産多死の状況で勝ち残ったスタートアップに対し、国家の競争力とすべく、国が買い支える「政府調達」の仕組みがあります。
テスラ
2009年に最初の自動車モデルであるロードスターの生産を開始。その後、2012年に「Model S」セダン、2015年に「Model X」SUV、と次々に新型の電気自動車を販売し、2020年には、電気自動車の生産台数が100万台の大台を突破した。業種・国境を超えた大競争が巻き起こる電気自動車業界で、勝ち残る。
SpacX(スペースエックス)
アメリカの航空宇宙企業で、正式名はスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ (Space Exploration Technologies Corporation)です。2002年にイーロン・マスクによって設立される。民間企業として初めて有人宇宙飛行を成功させた。
また、広大なエコシステムの中で多産多死のマーケットができたとき、敗者になったらそれで終わりでなく、勝ち残ったチームに参画していけます。そこで、世界において圧倒的な競争力を持つ会社ができていくわけです。
今後、このエコシステムを、国家として・日本としてつくれるか、というのが重要になってきます。日本人が日本語しか話せない、日本のマーケットサイズでも成り立つ、イグジットについても、そこまで高いバリュエーションがなくてもIPOできる、など、いろいろな理由で、そこまで大きくないスタートアップが生まれていることは事実です。
しかしもし、このようなエコシステムが実現されたとき、勝ち残るには、いいチームをつくれることが重要になります。
スタートアップが生き残るため、一番重要なのは、誰がどんな意志をもってやっているか、ということになります。事業内容はもちろんですが、それはきっかけにしかなりません。同じミッションバリューをかかげ、共通の志を持つ人が参画するチームがいいチームといえるのです。どのスタートアップも頑張っているのは同じです。しかし、年間で上場に行き届く会社は10,000社中100社程度です。
上場に行き届く会社の何が違うのかというと、「いいチームが作れている」。このことにつきます。上場は、経営陣が折れずにミッション・ビジョン・バリューを仲間とともに実行した結果です。良いプロダクトや市場は、勝手につくられるものではなく、人がつくるからです。
いいチームをつくれるスタートアップは勝つ、つくれなければ負ける、すごく単純なことだと思っています。
冨田:例えば韓国など、世界と闘うため、国策でサムスンやLGをどんどん合併させているので、国として、広大なエコシステムを実践している面がありますね。
志水:韓国のスタートアップ政策は素晴らしいと思います。政府や大企業が、スタートアップをバリューアップするようなプログラムも充実しています。生産性やスタートアップをつくる力や、1人当たりの生活水準で見たら、韓国のほうが日本より上なわけです。今、韓国のほうが強くなっている、にもかかわらず日本人はそのことに目を向けない、という実態があります。
私がこのビジネスをかけてやっていることは「知らない悪の解消」です。日本のメディアにおける透明度は世界で70~80番目といわれています。
さらに日本のエリートは、日本がこれだけ負けているのに、負けている事実の中で普通に生きている。そこには、日本の思想教育の限界があると私は思っています。
そもそも人には無限大の可能性があります。人はみんなイーロン・マスクやマーク・ザッカーバーグと同じなんです。
- イーロン・マスク:南アフリカ共和国出身の実業家・エンジニア。電気自動車開発大手のテスラ、そして宇宙開発ベンチャーSpacXを設立した経歴のほか、 電子決済企業PayPal共同設立、TwitterのCEO歴任の実績を持つ。
- マーク・ザッカーバーグ:メタ・プラットフォームズ(旧称: Facebook, Inc.)の共同創業者兼会長兼CEO。
人は何のために生きるのか、もっと高い視野・視座・視点で考えるべきなんです。社会や未来、次世代のために生きる、そのことを子供たちに教えていくべきです。国民がどのような競争力を身につけるべきか、何を教え何を実装するのか、国民の生活水準をどのくらいにするのか、逆算して考えなければなりません。
例えばアメリカなど世界では、賃金水準が昔と比べ1.5~2倍になっていますが日本は停滞しています。日本の賃金水準を引き上げるため必要な産業や収益性から、どんな能力が必要か逆算して何を今から教えるべきか、考えなければならないんです。現状、行政が縦割りゆえ、それが実装できない状態にあります。
家庭でも親が子供に「トヨタくらいあなたならつくれる」と教えるべきです。
冨田:最高ですね、そんな家庭で育つ子どもは。それを小さなときから伝えてもらったら、無限の可能性を持つ人材が出来上がります。そうなったら日本は変わりますよね。
志水:本当にそのとおりです。今私がやってるのは、成長産業・スタートアップ支援事業ですが、これは手段にすぎません。本当の目的は、正しい情報を伝えアップデートされた思想を根付かせることです。
私は横浜国立大学や、早稲田、慶応などさまざまな大学で教えていますが、学生はみな「未来が暗い」といいます。なぜなら、自分の先輩や父親・母親はみな暗い顔をして生きてるからです。学生たちは、スマホ代を払った残りのお金ではファストファッションしか着れないし、YouTubeでキラキラした世界を見て「自分とは違う」と思いながら生きる、という。
「日本はかつて席巻していて、みんな買いたいものが買えるバブル期があった、皆さんもできる、もう一度あんな時代をつくれる」という話をしても、学生たちは「昔話にしか聞こえない」というんです。
自分の先輩や母親や父親、大人が暗い顔をしているから「頑張れるわけないじゃん」と思ってしまうんです。
冨田:現代日本で、若者は挑戦することをうまくイメージできないのかもしれません。
志水:これは学生に限った話ではありません。すべての年代に挑戦心が必要です。スタートアップは、若い人たちだけが実践する事業ではないからです。スタートアップは実は中高年のものでもあります。成功する起業家の創業時平均年齢は45歳なんです。再現性と勝ち筋を持つプロフェッショナルとなったとき、成功するからです。スタートアップにはいくつになっても挑戦できます。
スタートアップ成功者の人数は、20代と60代とで変わらないという調査結果もあります。60代から勝負して成功する人が、20代とかわらない割合でいるんです。いくつになっても勝負し続けるというのが、人として、リーダーとしての使命です。私は全世代型起業国家にすべきだと思っています。「思想のアップデート」といった課題があるとき、みんなすぐ、聖域といわれる「教育」に話を持っていきたがるけど、私は違います。起業国家にすることで社会思想に変革を起こしたい。
90~100年間の人生で、50、60歳で仕事をあがって医療費や介護費は若い人たちに担保させる、果たしてそんなポートフォリオで、輝く人生といえるでしょうか。それより60、70代になってもキラキラして新規事業に挑戦したり第二の恋愛をしてみたり、「人生何度でも生きられる」そんなモード感にもっていったほうが絶対いいはずです。
いかにして、永遠に魂を燃やすのか、そこを追究することが最大のアンチエイジングになると思うんです。投資家になる、で終わるのでなく、大事なことはみずから稼ぎ続けること、活躍し続けることです。「社会の中で自分の価値・重要性をプロットし続けられる」そんな社会思想が必要になります。
参照:中小企業庁|2020年版「中小企業白書」 第1部第3章第3節 多様な起業の実態
冨田:志水さんは、その社会思想をつくることを目的とされているんですね。
志水:そうですね。私は政治家にはならないけれど、この新たな思想を、国に実装していかなければならないと考えています。実現できたら、大人がキラキラしてる・頑張ってる姿を見せられる。そして現状と未来の課題解決に務める素晴らしさを、若い人たちに伝え、子どもと次世代に対しいい影響を与え続けることができるんです。これさえできれば、人生の後半戦となりますが、私の生きる理由につながります。
冨田:そうやって挑戦し続け、素敵に生きる大人たちがいる社会は子供も明るく楽しいでしょうね。
スタートアップを起こそうと頑張る人を支えるための産業が必要ースピーディな上場の裏にある決意ー
冨田:スタートアップ支援事業は「手段のひとつ」とおっしゃりましたが、創業の経緯と、理念についてお聞かせください。
志水:2016年9月フォースタートアップス創業となりました。その前、私はヘッドハンターとしてスタートアップ向けの活動を行っていたんです。グロービスキャピタルパートナーズを始めとした、国内最高のベンチャーキャピタルから投資先を紹介していただく、というのが当時の活動モデルでした。私は身ひとつなので、案件全部をいっぺんに支援することは不可能です。
そこで1社ずつ優先順位をつけて支援していこうと思い各担当者に聞いて回ったんです。ある担当者からは「SmartNews」といわれ、また別の担当者からは「メルカリ」といわれ、順に支援してきました。そこが始まりです。
「ベンチャーキャピタルから1番有力な起業家を紹介してもらう、そしてベンチャーキャピタルと起業家と、ヒューマンキャピタリストが三角形になってプロジェクトを遂行する」これが大元の事業モデルとなっています。このモデルで規模を拡大しようとなったのが経緯です。
「日本の再成長を実現するためのデータドリブンなハイブリッドキャピタルを創る」
会社の設立趣意書にはそう記載しました。私は人の支援をする身ですが、お付き合いしているベンチャーキャピタル・キャピタリストへの強烈な憧れがあります。各々の企業の初期段階から投資をしてきたセコイア・キャピタルなど、著名なベンチャーキャピタルがApple、Google、Zoomといった企業を生み出していくわけです。
お金だけでなく、人、戦略の支援など、すべて包括的にやっている姿を見て、自分たちも人とお金を組み合わせたハイブリッドキャピタルをやるために法人化しようと思いました。
セコイア・キャピタルとは
Apple、Google、Zoomといった企業に各々の企業の初期段階から投資をしてきた著名なベンチャーキャピタル
冨田:もうひとつ、データドリブンという言葉に込められた想いについてお聞かせください。
志水:スタートアップ支援にかけられる人もお金も、日本では極小なので、だからこそ、順番に集中投資をしていくのかが、未来のアップデートのスピードにかかわるのではと思いました。しかし、上場会社だったら情報開示が義務化されているため誰が存在しているのか、財務状況がうまくいっているのかがわかるんですけど、未上場企業に関しては義務化されていないので、わからない。
だから、未上場企業の情報をデータ化することに意味と意義があると思いました。そして2016年、データドリブンでハイブリッドなキャピタルとして動き出しました。
データドリブンとは
データを収集・分析し、ビジネス上のさまざまな課題に対して判断・意思決定を行うこと
事業を立ち上げて1年後の2017年、私は大きな覚悟、つまり上場することを決めました。日本にはスタートアップ支援という巨大な産業が必要なのでは、と思ったんです。スタートアップが個々で努力して勝ち上がっていくこと自体、それぞれやっていく価値はあると思います。しかし発射台、ジャンプ台があれば違います。スタートアップを起こそうと頑張る人を支えるための産業が必要だと思ったんです。
そして私は覚悟しました。「ベンチャーキャピタルはすごい存在で優秀だけれど、もう一つ産業家のためのイニシアチブ(主導権)をとるようなチームをつくろう」と。
スタートアップ支援をどうせやるなら、ベンチャーキャピタルのみなさんとともに、新産業を私がつくろうと決めたんです。
しかしそのイニシアチブをとるチームが上場してないことがあろうか、と考えました。そこで一般社団法人日本経済団体連合会や新経済連盟といった経済団体に入り、上場会社のさまざまな資本市場の中で戦い、同じ目線で日本の未来をつくる側に立つ、責任と覚悟をもって自分たちをそういう存在にしようと決めたんです。それが2017年です。
上場に際して、選択肢は2つありました。非常に良いバリュエーションで上場するのか、最短で上場するのか、ということです。設定したモデルを考えると、バリュエーションでの上場は困難では、と予測できました。だとしたら自分たちの存在を早く示し、産業家に向けた活動を行うのが先決であり、そのためには最短で上場する必要があると判断しました。
結果として3年半、当時では過去2番目のスピードでフォースタートアップスは上場することとなったんです。「データドリブン」という言葉を実現しようとしたのは2018年です。
スタートアップ支援を国策にできなければ日本は負けるー国策銘柄としての事業、力強い動きー
志水:2018年、データドリブンというミッションにもとづき、成長産業に特化した情報プラットフォームである「STARTUP DB」をつくりました。「STARTUP DB」により、未公開株市場を可視化できる仕組みができたんです。
今、スタートアップや大企業、投資家の皆様に留まらず、国や金融機関、メディア、学術研究などのさまざまな分野で活用いただいております。また、「STARTUP DB」のデータを英語化して展開することで、海外の機関投資家が日本のスタートアップを発見できる仕組みにもなっています。
2020年に上場したタイミングで、私たちが機関投資家向けに話していたことは「スタートアップ支援は国策である」ということです。「私たちはこれを国策にできるように動く、いわば私たち国策銘柄である」と伝えたんです。
そして2021年、私たちがハイブリッド化のため子会社でベンチャーキャピタルをつくった翌年、2022年に岸田政権がスタートアップ創出元年を宣言。スタートアップ支援を国家の重要な成長戦略のひとつと位置づける、と発表しました。本国会においてスタートアップ5ヵ年計画が承認され、ここから5年で日本のベンチャー投資市場を10倍にしよう、ユニコーン企業を100社にしよう、という力強い動きが生まれたわけです。
参照:
自由民主党|スタートアップ育成5か年計画に向けた提言 |
岸田政権|資料1スタートアップ育成5か年計画・基本的考え方
冨田:スタートアップ支援政策を先導するような動きを、御社は図らずして実践されていたわけですね。国策としてスタートアップ支援を行う、今の流れで、御社のタレントエージェンシー事業が果たす役割についてお聞かせください。
志水:タレントエージェンシー事業で行っているのは起業支援と転職支援ではなく、起業・転職支援です。起業と転職を切り離さない支援です。なぜなら世界NO.1のブライトキャリアは起業家だからです。優秀な人に会うと、「あなたは起業しますか?しませんか?」と聞きます。
冨田:「あなたは転職しますか?」ではなく
志水:そうです。例えば目の前に孫正義さんがいたとして、あなたはマッキンゼーに入りますか?三菱商事にいきますか?とは言わないと思います。
- 孫正義: ソフトバンク株式会社を福岡で旗揚げした、日本トップの資産家。2021年のフォーブス世界長者番付で世界第29位
- マッキンゼー(マッキンゼー・アンド・カンパニー):国内外の最新の知見と豊富な支援実績をもとに、幅広い分野で領域横断的にクライアントの価値創造を支援する、世界トップの 外資系コンサルティング会社
そんなことになったら、10兆の企業価値が損失するかもしれませんし、雇用機会も失うことにつながるかもしれません。ですから私たちは「あなたはリーダーに向いているから、時代のリーダーとして覚悟して旗を立てましょう」と伝えます。実際、私たちが起業支援した方は、ユアマイスターやTERASSなど、フォーブスのジャパンライジングスターに選ばれるような活躍をされています。
スタートアップ転職成功の秘訣はベンチャーキャピタルに着目すること
冨田:フォースタートアップスさんの活動により、今後スタートアップに参画したい方が増えるのではと思いました。そんな方たちに向け、自分に合うスタートアップ起業の選び方を教えていただけますでしょうか。
志水:スタートアップ転職で重要なのは「正しい情報をつかむ方法」を把握することです。未公開市場は可視化されていないからわからないし、メディアに出てるから必ずしもイケてるというわけではありません。判断するにはベンチャーキャピタルに着目することです。
「スタートアップ転職ガイド2022」でもお伝えしていますが、有力なベンチャーキャピタルがついているか、確認することが大切です。まずはベンチャーキャピタルのラインナップをチェックしてください。
重要なのは、ベンチャーキャピタルの顔ぶれです。誰が投資の筋として入っているかしっかりと見ることが不可欠です。Forbesでは毎年、「日本のベンチャー投資家ランキング」などを出していて、投資運用実績を掲載しています。運用実績が優秀なベンチャーキャピタルが投資チームに入っているかどうか、チェックしたほうがいいです。
さあ、どうやって世界に挑む?誰もが挑戦し続ける日本へ
冨田:御社「フォースタートアップス」についてお話をお聞かせください。社員に共通している点はありますか?
志水:私たちに共通しているのは、覚悟です。
一番大事なのはどこで働くかでなくて、どう生きるかの選択だと思っています。「お金を稼ぐ、給料もらって何かしらのミッションを追う」程度であればフォースタートアップスに来る意味はありません。
現状の課題にストレートに向き合う私たちのポジションには、社会と未来の集積解が集まります。集積解の中で、未来をどうアップデートするのか、何を持って課題解決するのか、という生き方をしています。私たちは無限大の可能性とともに、社会や世界の1番青いもの・未熟なものを知ってしまうからです。
それでも、どうやって社会を青くするか・未熟ではあるけれどまっすぐで尊い思想を根付かせるのか、そして自らどのように青くなるんだと考え抜き実践しているんです。見ざる聞かざるでは論理破綻するからです。
1番青いものと、それを取り囲む社会がどうなっているかを知ったうえで、じゃあ私たちは集団でどう行動するのか、ディシジョン(決意)し集っているので、覚悟はあります。
その覚悟が私たちに共通している点です。
冨田:志水さんありがとうございました。これほど強烈なパッションで日本を動かそうとされている方は、そうたくさんいないです。このメッセージが下の世代に届いたら、正しい情報を伝えられたら、未来が変わると私も思いました。
「あなたには無限大の可能性があり、人生の価値は、挑戦し続けることにある」「大切なのは、社会の中で自分の価値をプロットし続けること」そんな社会思想が根付いた子供たちが育っていったら……
「いやいや日本とかではないでしょ、世界でしょ。さあ、どうやって世界に挑む?」
子どもも大人も、そんな会話を日常でしている日本になっていくと思うし、そうなってほしいと痛烈に感じました。
私も、なんとなく現状の日本に対する課題認識はあったんですけど、志水さんのお話くらい、一から創ろうとか、巻き込もうとか思っていなかったです。そんな風に新しい思想のもと育った子供が、日本から世界のトップに立つ事業を産出したら、結果として日本の勇気や力になります。
確かにこれまで、トヨタや任天堂など日本を引っ張る企業の存在には、少なからず勇気づけられたわけです。しかしそんな大企業の背を借りて再復興させようというのでなく、新しい発想をもった起業家を一から育てることで、国民みんなを巻き込むことで日本を変えていこうと、ストレートに発信されていることが刺激になりました。これからもどんどん発信していただきたいです。