借用書の書き方完全ガイド!お金の貸し借りでトラブルにならないための作成手順を詳しく解説

借用書は、お金の貸し借りにおいて「言った・言わない」のトラブルを防ぐための最も確実な証拠です。

しかし、実際には 「家族や友人だから」「少額だから」といった理由で、借用書を交わさないまま金銭のやり取りをしてしまう人 が少なくありません。

その結果、取り返しのつかない事態に発展することもあります。

本記事では、法的に有効な借用書の書き方を9つの必須項目に分けて図解付きで詳しく解説。借用書と金銭消費貸借契約書の違いや、公正証書にするメリット、借金に関わる「時効」の基礎知識まで、トラブル予防に必要なポイントを網羅しています。

さらに、今すぐ使えるWord/PDFテンプレートも無料でダウンロード可能。正しい書き方を知り、いざという時に自分を守れる「効力ある借用書」を作成しましょう。

この記事の専門家
竹澤 佳
著者NET MONEY編集部 編集長
詳細はこちら 立教大学大学院修了。流通業界専門の出版社で編集長を務めた後、IT企業のメディア部門に転職。現在は金融ジャンルに特化し、クレジットカード・カードローン・証券などの取材、編集執筆に従事。与信審査や金融商品比較など専門性の高いテーマを多数手がける。自身でも5枚のクレジットカードを使い分け、暗号資産・株式投資・外貨投資で資産運用中。

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  1. なぜ借用書は絶対に作るべき?個人間の貸し借りこそトラブルの元!
    1. 借用書と「金銭消費貸借契約書」の違いとは?どちらを作るべき?
  2. 法的に有効な借用書の書き方|必須9項目を図解付きステップガイドで解説
    1. ① 表題:「借用書」と明確に記載する
    2. ② 貸主・借主:誰が誰に貸したかを特定する
    3. ③ 借入金額:改ざん防止に必須の「大字」一覧と書き方のルール
    4. ④ 日付:借用書の「作成日」と金銭授受の「借入日」
    5. ⑤ 返済期日と返済方法:「いつまでに」を曖昧にしない
    6. ⑥ 返済方法:「どうやって」を具体的に決める
    7. ⑦ 利息:年率の定め方と無利息の場合の「贈与税」リスク
    8. ⑧ 署名・捺印:必ず自署で!実印が望ましい理由
    9. ⑨ 用紙と筆記用具:消えるペンはNG!訂正方法も解説
  3. 今すぐ使える借用書テンプレート(Word/PDF無料ダウンロード)
  4. 借用書の効力とは?
    1. 借用書の書き方によって効力は変わる?
    2. そもそも本当に借用書に効力はあるのでしょうか?
    3. 無効とみなされる借用書とは?
    4. 借用書よりさらに効力がある公正証書とは?
    5. 借用書を2枚作って署名し正本2通を作成しよう
    6. 高齢者への貸付では意思能力に注意
    7. 借金の時効は5年または10年
  5. 借用書の書き方に関するよくある質問(Q&A)
    1. 連帯保証人はつけるべき?
    2. 誤字や脱字を発見した場合はどうすれば良い?
    3. 借用書に金額が書いていない場合はどうなる?
    4. メールの文面や音声データは証拠になる?
    5. 金利を請求する場合に上限はある?
    6. 遅延損害金とは?
    7. 債務不履行に備える方法はある?
    8. 差し押さえをするためにはどうすれば良い?

なぜ借用書は絶対に作るべき?個人間の貸し借りこそトラブルの元!

「家族や友人との間でお金の話はしにくい」「借用書を要求するのは、相手を信用していないようで気が引ける」――そう感じる方は少なくないでしょう。

その考えは非常に危険です。

個人間、特に親しい間柄での金銭の貸し借りは、その関係性ゆえに口約束で済まされがちです。しかし、後になって深刻なトラブルに発展し、お金だけでなく大切な人間関係まで失ってしまうケースは後を絶ちません。

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親しい仲だからこそ、お互いの関係を守るために、客観的な記録である「借用書」が絶対に必要です。

借用書トラブルイメージ

口約束は「言った・言わない」のトラブルの温床です。

口約束には、主に以下のようなリスクが潜んでいます。

  • ● 貸した・もらったの認識のズレ
    貸した側は「返してもらうつもり」でも、借りた側は「もらったものだと思っていた」と主張するケースです。借用書がなければ、貸し借りであったことを証明するのは非常に困難になります。

  • ● 返済条件の曖昧さ
    「いつまでに返すか」「利息はつけるのか」といった重要な条件を口約束で決めると、後になって「そんな話は聞いていない」「無利息だと思った」といった水掛け論に発展しがちです。

  • ● 貸し借りの事実自体の否定
    最も深刻なのが、「そもそもお金を借りた覚えはない」と、貸し借りの事実そのものを否定されるケースです。こうなると、貸した側は裁判で貸付の事実をゼロから立証する必要があり、精神的にも金銭的にも大きな負担を強いられます。

適切に作成された借用書は、こうしたトラブルを防ぐための法的に有効な「証拠」となります。万が一、返済が滞り裁判になった場合でも、借用書があれば「誰が、いつ、いくら借り、いつまでに返す約束だったか」を明確に証明できます。

参照:Money Forward「借用書とは」

借用書と「金銭消費貸借契約書」の違いとは?どちらを作るべき?

借用書と似た書類に「金銭消費貸借契約書(きんせんしょうひたいしゃくけいやくしょ)」があります。どちらも金銭の貸し借りにおいて法的な効力を持つ重要な書類ですが、その性質と作成方法に違いがあります。

比較項目 借用書 金銭消費貸借契約書
作成者 借主(お金を借りる側)が作成する 貸主と借主の双方が共同で作成する
性質 借主が貸主に対して「お金を借りました」と約束する一方的な文書 貸主と借主が「貸します」「借ります」と合意する双務的な契約書
署名・捺印 原則として借主のみ 貸主と借主の双方
原本の保管 貸主が1通を保管する 双方が署名・捺印したものを各1通ずつ保管する

借用書と金銭消費貸借契約書の違い

では、どちらを作成すべきでしょうか。それぞれの特徴から、以下のような判断基準が考えられます。

「借用書」で十分なケース
  • ✓ 比較的少額の貸し借り
  • ✓ 急な申し出で、契約書を準備する時間がない場合
  • ✓ 貸主として、まずは「借りた事実」を証明する簡単な書類が欲しい場合
「金銭消費貸借契約書」を作成すべきケース
  • ✓ 高額な貸し借り
  • ✓ 分割返済や利息、遅延損害金など、返済条件が複雑な場合
  • ✓ 貸主・借主の双方が、契約内容を明確に記した原本を手元に保管しておきたい場合
参照:よつば総合法律事務所「金銭消費貸借契約書の作成やチェックのポイント」
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どちらを作成するにせよ、金銭の貸し借りがあった事実と、その条件を明確に書面で残すことが何よりも重要です。

次の章では、より一般的に使われる「借用書」を中心に、法的に有効な書き方を詳しく解説していきます。

法的に有効な借用書の書き方|必須9項目を図解付きステップガイドで解説

法的に有効で、いざという時にあなたを守ってくれる借用書を作成するには、記載すべき必須項目を漏れなく盛り込むことが重要です。

このセクションでは、借用書のサンプルを見ながら、誰でも間違いなく有効な借用書を作成できるよう、以下9つの必須項目をステップ・バイ・ステップで詳しく解説していきます。

① 表題:「借用書」と明確に記載する

まず、文書の一番上に「借用書」または「借用証書」と大きく記載します。

これは、この書類が「金銭の貸し借りに関する文書」であることを誰の目にも明らかにし、後から「領収書だと思った」「預かり証のつもりだった」といった言い逃れを防ぐために非常に重要です。

② 貸主・借主:誰が誰に貸したかを特定する

次に、契約の当事者を明確にするため、「誰が(貸主)」と「誰に(借主)」を正確に記載します。

借用書の記載例

 

 

●貸主(お金を貸す人)
借用書の冒頭、本文の前に「貸主 〇〇 〇〇 様(殿)」のように、お金を貸す人の氏名をフルネームで記載します。貸主が法人の場合は「〇〇株式会社 御中」とします。

●借主(お金を借りる人)
文書の最後に、借主の住所・氏名を記載し、捺印する欄を設けます。この部分は、借主本人が自筆で署名することが極めて重要です(詳細は後述します)。

参照:企業法務ナビ「借用書と金銭消費貸借契約書まとめ」

③ 借入金額:改ざん防止に必須の「大字」一覧と書き方のルール

借入金額は、借用書の中核をなす最も重要な情報です。後から金額を不正に書き換えられるリスクをなくすため、以下のルールを徹底してください。

●算用数字(1, 2, 3)は使わない
アラビア数字は、「1」を「7」に書き換えたり、末尾に「0」を付け足して10倍の金額にしたりと、改ざんが容易です。

●「大字(だいじ)」を使用する
改ざんを防ぐため、契約書などの重要書類では、古くから画数が多く複雑な「大字」が用いられてきました。実際に、戸籍法や商業登記の規則でも一部の大字の使用が定められており、その信頼性の高さがうかがえます。借用書でも必ず大字を使用しましょう。

算用数字 簡単な漢字 大字(借用書で使用)
1
2
3
10
100
1,000
10,000

●金額の前後に文字を入れる
さらに安全性を高めるため、金額の冒頭に「金」、末尾に「也」を付け加えます。これにより、前後に数字を書き足す余地をなくします。

【記載例】

良い例金 壱百萬円也

悪い例1,000,000円

参照:保険ステーション「借用書の書き方」

④ 日付:借用書の「作成日」と金銭授受の「借入日」の両方を書く

借用書には、2種類の重要な日付を記載する必要があります。

●借入日(お金を受け取った日)
実際に借主が貸主からお金を受け取った日付です。この日は、法的に返済義務が発生し、利息を計算する際の開始日(起算点)となるため、極めて重要です。本文中に「私は貴殿より、〇年〇月〇日に下記金額を確かに借り受けました」のように明記します。

●作成日(借用書を作成した日)
この借用書という書類を作成した日付です。通常は文書の最後に、借主の署名欄の近くに記載します。

参照:GMOサイン「口約束の借金に支払い義務はある?」

借用書テンプレート画像

多くの場合、「借入日」と「作成日」は同じ日になりますが、お金を後日渡す場合など、日付が異なるケースもあります。

両方の日付を正確に記載することで、いつ契約が成立し(参照:e-Gov「民法第522条」)、いつ金銭の授受が行われたかを明確に記録できます。

⑤ 返済期日:「いつまでに」を曖昧にしない

貸したお金をいつまでに返してもらうのか、その最終期限を明確に定めることは、トラブルを避けるうえで極めて重要です。

返済期日は、「〇年〇月〇日」というように、誰が見ても特定できる日付を記載してください。

「〇か月後」や「来年の春頃」といった曖昧な表現は、解釈のズレを生み、「まだ期限は来ていないと思った」という言い訳の余地を与えてしまいます。必ず具体的な年月日を定めましょう。

【記載例】

良い例:返済期日:令和8年3月31日

悪い例:返済期日:契約から1年後

民法では、返済期日を定めなかった場合、貸主は「相当の期間を定めて」返済を催告できるとされていますが(参照:民法第591条)、この「相当の期間」が何日なのかは明確でなく、不要な争いの原因となります。必ず具体的な日付を記載しましょう。

⑥ 返済方法:「どうやって」を具体的に決める

返済期日と合わせて、「どのように返済するのか」という返済方法も具体的に定めておきましょう。これにより、返済の証拠が残り、後日のトラブルを防ぎます。

借用書の記載例(返済方法)

 

 ✓ 一括返済か、分割返済か

 ✓ 現金手渡しか、銀行振込か

 ✓ 銀行振込の場合、振込先口座情報(金融機関名、支店名、口座種別、口座番号、口座名義)

 ✓ 振込手数料をどちらが負担するか(通常は借主負担とします)

 

【記載例:一括返済の場合】

返済方法:上記返済期日までに、貸主指定の下記銀行口座へ元金及び利息の全額を振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は借主の負担とする。

【記載例:分割返済の場合】

返済方法:令和〇年〇月から毎月末日限り、金〇〇円を貸主指定の下記銀行口座へ振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は借主の負担とする。

参照:相続税のチェスター「家族間で借金する際の借用書の書き方」

現金手渡しでの返済は、記録が残りにくく「返した」「受け取っていない」というトラブルになりやすいため、できる限り銀行振込とし、通帳に記録が残る形にすることをおすすめします。

⑦ 利息:年率の定め方と無利息の場合の「贈与税」リスク

個人間の貸し借りでも、当事者の合意があれば利息を設定することができます。借用書には、以下のように記載しましょう。

【記載例】

利息:年10%とする

ただし、利息を設定する場合は、法律で定められた上限金利を守る必要があります。

利息制限法では、貸付額に応じて以下のように上限金利が定められています。これを超える部分の利息契約は無効となります。

元本の額 上限金利(年率)
10万円未満 20%
10万円以上100万円未満 18%
100万円以上 15%

ただし、利息を設定しない場合でも油断は禁物です。無利息での貸し借りには、別のリスクが潜んでいます。

【重要】無利息の貸し借りに潜む「贈与税」のリスク

家族や友人間の貸し借りで「利息は取らない」というケースは多いですが、注意が必要です。税法上、利息を取らないことで借主が得る「利息相当額の経済的利益」が、贈与とみなされる可能性があるからです。

国税庁の見解では、その利益が年間110万円の基礎控除額を超える場合、贈与税の課税対象となることがあります。また、返済能力に見合わない高額な貸し借りや、「出世払い」のような返済期限が曖昧な契約も、借入金そのものが贈与と認定されるリスクがあります。

参照:国税局「贈与税がかかる場合」

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「家族だから」と安易に考えるのではなく、贈与とみなされないためにも、契約書を作成し、実際に返済を行うことが重要ですよね。

⑧ 署名・捺印:必ず自署で!実印が望ましい理由

借用書の署名欄は「自署(本人の手書き)」が基本ルールです。パソコンで本文を作成しても、署名だけは借主本人が手書きで記入することで、「本人が書いた証拠」として法的な証明力が高まります。

また、署名に押印する印鑑については、認印でも有効とされていますが、トラブル時の証明力を重視するなら実印+印鑑登録証明書の添付が最も安全です。

【記載例】

良い例自署+実印+印鑑登録証明書を添付

最低限の例自署+認印(ただしトラブル時に弱くなる可能性あり)

参照:法務省「押印についてのQ&A」

実印登録がない場合は、銀行印や普段使いの印鑑で代用しても問題ありませんが、なるべく印鑑登録を済ませておくと安心です。

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私自身、過去に金融記事を多数執筆する中で、「署名は印字でもいいのか?」という質問を何度も見かけてきました。しかし、少しでもトラブルの芽を摘むには、署名は必ず手書きで行うべきだと感じています。

⑨ 用紙と筆記用具:消えるペンはNG!訂正方法も解説

借用書の記入には必ず「消えない筆記具」を使いましょう。鉛筆や消せるボールペン(フリクションなど)は改ざんのリスクがあるため、法律文書としては不適切です。

黒の油性ボールペンまたは万年筆が望ましく、署名や金額欄には特に注意が必要です。

書き間違えた場合は、二重線で訂正し、その横に正しい内容を記入し、訂正印を押すという方法が正式な訂正手順となります(画像下)。

訂正方法の画像

修正テープや修正液の使用は避けてください。

参照:国税局「契約内容を変更する文書」

今すぐ使える借用書テンプレート(Word/PDF無料ダウンロード)

本章では、家庭内や友人間での少額貸付けなど、日常的なシーンで利用しやすいシンプルで無利息タイプの借用書テンプレートを用意しました。

Word形式(.docx)とPDF形式の両方に対応しており、印刷して手書きでも、パソコン上での編集でもすぐに使えるのが特徴です。

テンプレートには、借入金額、返済期日・返済方法、借主・貸主の氏名・住所、署名・押印欄など、最低限の記載事項を網羅しており、法律的な基本要件をしっかり満たしています。

こんな場面で利用

  • ✓ 家族・友人間でのお金の貸し借りを記録したいとき
  • ✓ 事業仲間との一時的な貸付けを明確にしたいとき
  • ✓ 返済期限や金額をきちんと残しておきたいとき

ダウンロードはこちら

利用前には、必ず内容を確認し、必要に応じて返済方法や日付、金額などをご自身の状況に合わせて調整してください。署名前に誤りがないか、十分にチェックしましょう。

借用書の効力とは?

借用書は金銭の貸し借りが原因で裁判になったときに、証拠として提出できる効力があります。ただし、借用書の書き方によっては効力が弱くなることもあります。裁判で、より強力な証拠として借用書を提出したいなら、公正証書を利用する方法もあります。

借用書の書き方によって効力は変わる?

必要事項が書かれている借用書なら、裁判で効力のある書類として使用できます。ただし、書き方によっては、借用書の効力が変わる場合があるため注意が必要です。

特に次のような場合は法的な場面では効力が弱くなり、トラブルがあった際の証拠として採用できない可能性もでてきます。

  • 日付が記載されていない
  • 借入額や返済条件、利息などの重要事項が記載されていない
  • 借り手側の情報(住所や氏名など)が記載されていない

なお、金銭の貸借の相手が未成年者などの「制限行為能力者」だった場合、借用書に必要事項が書かれていても効力を失う場合があります。

そもそも本当に借用書に効力はあるのでしょうか?

お金の貸し借りに関する文書には、公的機関が発行する「公文書」と個人が作成する「私文書」とがあります。個人が作成する借用書は「私文書」となりますが、私文書でも法的効力を持つ書類としては有効です。

借用書が法的に有効かどうかは、借り手側が「返済義務を負ったことを認めているか?」が重要になります。

必要事項が書かれており、借り手の氏名が自署で記入され押印された状態なら、借り手がお金を借りたことを認めているわけですから法的に効力がある書類といえます。

無効とみなされる借用書とは?

次のような借用書は「無効」と見なされる場合があります。

①自筆の署名捺印がない借用書
②未成年や成年被後見人が記入した借用書
③犯罪目的が絡む借用書
④公序良俗に反する目的に絡む借用書
⑤欺瞞(ぎまん:人の目をごまかし騙すこと)や強要により作成された借用書
⑥借用書を書いたにも関わらず実際に融資が実行されていないケース

参考までに、実際の判例もご覧ください。

神戸地方裁判所の判決によると、金銭の貸付契約を締結した場合であっても「実際にお金を貸していない」「貸し手と借り手が面談すらしていない」といった場合、金銭貸借の契約そのものが無効になる判決が下されています。

お金を「貸す側」「借りる側」どちらの場合でも、借用書の有効性について不安があるなら弁護士や司法書士など法律の専門家に相談するのがいいでしょう。

借用書よりさらに効力がある公正証書とは?

借用書よりも効力がある「公正証書」とは、公証人役場で作成してもらう書類のことです。

公正証書に執行認諾約款(※1)を記載しておけば、裁判所を利用しなくても強制執行(※2)に移れるため、貸し倒れリスクを防ぐ効果があります。

※1「執行認諾約款とは」……公正証書に記載する特記事項のことで「お金が返済しないときは直ちに強制執行に服します」など許諾内容を記載するのが一般的
※2「強制執行とは」……判決や公正証書に基づき、国の執行機関である執行官に差し押さえなどを実行してもらうこと

下表では借用書だけでお金を貸した場合と、公正証書を利用してお金を貸した場合とで何が違うのか比較しています。

公正証書作成には所定の手続きが必要で費用もかかります。しかし「返済されない」などのトラブルが発生した場合は借用書よりも効力が高い文書であるため、できれば公正証書を作成して金銭の貸し借りをおこなうのがいいでしょう。

<借用書と公正証書の効力の違い※貸し倒れが発生した場合で比較>

公正証書を利用して
お金を貸した場合
借用書を利用して
お金を貸した場合
①公正証書に「執行認諾約款」を記載しお金を貸す ①借用書に借入額や返済期日などの必要事項を記載しお金を貸す
②貸したお金が返済されない事態が発生 ②貸したお金が返済されない事態が発生
③裁判をおこすことなく強制執行が可能 ③強制執行を希望する場合は裁判をする
  ④判決や調停調書などをもらう
  ⑤判決などをもとに強制執行してもらう

借用書を2枚作って署名し正本2通を作成しよう

借用書を書くときは、基本的に正本2通を作成するのが理想です。借用書の署名欄は「借り手側の署名欄のみ」で、通常は借り手が署名をして貸し手に渡すのが一般的ですから、借用書は1枚で済みます。

しかし、後々のトラブルを避けるためにも、借用書は2枚作成し貸し手と借り手の双方が1枚づつ保管しておくようにしましょう。借り手も借用書が手元にあれば返済期日などをすぐに確認できますし、返済意識が薄らいでしまうのも防げます。

また、貸し手と借り手の間で認識の相違があった場合でも、お互いすぐに借用書を確認し合えるため、大きなトラブルになることも防げるでしょう。

高齢者への貸付では意思能力に注意

金銭の貸借などの契約行為では、一部の高齢者など判断能力に乏しい人との契約が無効になる場合があります。

そのため、次のような相手と借用書を交わしたとしても、取り消される場合があるため注意が必要です。

<借用書があっても金銭の貸借契約が無効になるケース>

  • 制限行為能力者との契約(未成年者や成年被後見人(※1)、被保佐人(※2)や被補助人(※3)など)
  • 公序良俗に反する契約(犯罪目的でのお金の貸し借り)
  • 錯誤による契約(明らかに勘違いとわかるような契約)

お金を貸す相手が高齢の場合は、弁護士などの第三者のアドバイスを受けながら、金銭の貸し借りをしてもいいかどうか判断するといいでしょう。

※1「成年被後見人とは」……精神上の障害により判断能力を欠くとして、家庭裁判所から後見開始の審判を受けた人(民法第8条)
※2「被保佐人」……家庭裁判所の審判により一定の法律行為をするにあたって保佐人のサポートを受ける必要があるとされた人
※3「被補助人」……精神上の障害があるために、補助人を付けられた人

(成年被後見人の法律行為)
第九条 成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。

(保佐人の同意を要する行為等)
第十三条 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。

(補助人の同意を要する旨の審判等)
第十七条 家庭裁判所は、第十五条第一項本文に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求により、被補助人が特定の法律行為をするにはその補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、その審判によりその同意を得なければならないものとすることができる行為は、第十三条第一項に規定する行為の一部に限る。

4 補助人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。

引用:法令検索e-gov

借金の時効は5年または10年

借用書を正式に交わした金銭の貸し借りであっても「借金の時効」がある点には注意が必要です。

<借金の時効とは>

借金における時効とは「消滅時効」とも呼ばれます。一定期間「貸し手が請求をしない」「借り手が返済をしない」期間が続くことによって、債権(お金を返してもらう権利)そのものが消滅してしまう制度です。時効が成立すると、借り手は返済する必要がなくなります。

令和2年4月1日に施行された改正民法では、お金の貸し借りに関する時効について次のように定めています。

<一般的な債権(借金)の時効期間>

①債権者(貸し手)が返済を求める権利の存在を知った時から5年
②債権者(貸し手)が返済を求める権利の存在を知らなかった場合でも、権利を行使できる時から10年(改正民法166条1項)

一般のお金の貸し借りでは、債権者(貸し手)は返済を求める権利があることを知りながら借用書を受け取ります。したがって、時効が到来するとすれば上記①の「返済を求める権利の存在を知った時」つまり「借用書を交わしてから5年後」ということになります。

ただし、時効が成立する前に貸し手が裁判を起こしたり、借り手が返済義務を認めたりすると時効がリセットされます。ほとんどのケースでは返済が滞ると裁判になるケースも多いため、実際に時効が成立するのは稀です。

借用書の書き方に関するよくある質問(Q&A)

お金の貸し借りや借用書の記載には法的な知識が必要です。人によっては借用書の作成に関してさまざまな疑問が出てくることもあるでしょう。

「借用書を書かずにメールや録音データだけが残っているが法的効力はある?」など、わからないことも多々あります。

借用書に関わるいくつかの質問についてもお答えしていきたいと思います。

連帯保証人はつけるべき?
借り手の返済能力が乏しい場合には、連帯保証人をつけてもらったほうが安心です。連帯保証人は借り手と同じ責任を負い、万一借り手が返済できないときは、代わりに返済しなければいけません。

連帯保証人の責任
連帯保証人は保証人よりも責任は重く、自分が借主になったことと同じです。

引用:徳島県消費者情報センター「保証人・連帯保証人の責任」
連帯保証人をつけてもらう場合は、金額にもよりますが連帯保証人の与信調査も必要でしょう。

なお、連帯保証人をつけて融資をする場合、貸し手は連帯保証人と面談したうえで借用書にサインしてもらうのが理想です。なぜなら、借り手が連帯保証人に「書類にサインしてもらうだけだから」など、嘘をついて保証人になるように説明している場合があるからです。

貸し手は、連帯保証人と直接会って「返済義務を負う覚悟はあるか?」などを確認してから、お金を貸すようにしましょう。
誤字や脱字を発見した場合はどうすれば良い?
誤字脱字など、記入ミスがあった際は間違った箇所に二重線を引き訂正印を押してから、余白に正しい内容を加筆しましょう。記入ミスが多い場合は見づらくなるため、はじめから作り直したほうがいいかもしれません。また、訂正した経緯がわかるように「※借主の希望により返済期限変更」など、メモも追記しておくと後々トラブルになったときでも安心です。

※<実際の訂正例>
 
実際の訂正例
借用書に金額が書いていない場合はどうなる?
借用書に金額が書かれていないと、借用書としての効力は無効となります。なぜなら、借用書では「貸し手と借り手の個人情報」「借用額」「返済期限」の要素が必要だからです。金額欄が空欄だと、後々貸し手や借り手により勝手に加筆される可能性もあります。借用書を書くときは、かならず金額を記入するようにしましょう。
メールの文面や音声データは証拠になる?
借用書を交わしていなくても、金銭の貸し借りに関する記録がメールや音声データに残っていれば、法的には有効です。LINEでお金の貸し借りに関するやり取りをした場合でも「〇日までに返済してください」「わかりました必ず返済します」などのやり取りが残っているなら、明らかに金銭の貸借があったことを証明できます。

万一「借用書を交わしていない」または「紛失してしまった」などの事態になったら、メールやLINEなどに金銭貸借に関する会話が残っていないか確認しておくようにしましょう。
金利を請求する場合に上限はある?
結論からいうと、個人間融資など貸金業を営んでいない(生業としておこなっていない)場合は、出資法で決められた「109.5%」が上限金利となります。一方、貸金業者がお金を貸す場合は、出資法のルールでは「上限20%まで」と定められています。

2 出資法の主な内容

(1) 出資法は次のような内容を定めています。
・ 金融業者は年20%超,金融業者以外は年109.5%(うるう年は109.8%とし,1日あたり0.3%)超の金利の契約を禁止

引用:兵庫県弁護士会「出資法解説」

金銭の貸し借りでは、出資法のほかに利息制限法も関係してきます。利息制限法では最高20%の上限金利が定められており、「借り手は20%を超える利息は支払わなくてもよい」とされています。

【質問】高利を支払っていた場合には、取り戻すことができるのですか?
【回答】・利息制限法に基づいて支払うべき利息(年15~20%)を計算し、払い過ぎていれば、過払金を取り戻すことができます。

(説明)
・貸金の利息について、利息制限法は、次のとおり上限を定めています。
1 元本10万円未満の場合:年20%
2 元本が10万円以上100万円未満の場合:年18%
3 元本が100万円以上の場合:年15%
・この制限を超えて利息を支払うことを約束しても、超過部分の約束は無効です。

参照:法テラス公式サイト

個人間融資で認められている109.5%の上限金利でお金を貸したとしても、借り手から裁判を起こされると「20%以上の利息は支払わなくてもよい」との判決が下ります。

そのため、後々の面倒なトラブルを避けるためにも、109.5%などの高い金利ではなく、20%以下の金利で金銭の貸し借りをするのが理想です。

<金銭の貸し借りで適用される法律と上限金利>
 
適用される法律 上限金利
出資法 年109.5%(貸金業者などは20%)
利息制限法 年20%(借入10万円未満の場合)
年18%(借入10万円以上100万円未満の場合)
年15%(借入100万円以上の場合)
遅延損害金とは?
遅延損害金(ちえんそんがいきん)とは、返済に遅れたことで発生した損害を賠償するために支払うお金のことです。

個人間における金銭の貸し借りでも、借用書に「返済が遅れたときは遅延損害金を請求する」と書いておけば、借り手は遅延損害金を支払わなければいけません。

なお、利息制限法では遅延損害金の上限利率を「契約金利×1.46倍まで」と定めています。個人間での金銭の貸し借りの場合、借入額に対する遅延損害金の上限は下表の通りとなります。(貸金業者が設定する遅延損害金の金利は年率20%まで)
 
借入額 10万円未満 10万円~100万円 100万円以上
利息制限法における上限金利 20% 18% 15%
遅延損害金の上限 29.2% 26.28% 21.9%
引用:法令検索e-GOV利息制限法4条1項
債務不履行に備える方法はある?
債務不履行とは、貸したお金が戻ってこない状態のことを指します。

債務不履行に備えるには、次の3つの方法が有効です。

①借り手の返済能力を確認してから融資をする
②借り手が言い逃れできない方法で督促する
③返済されない状態が続くようであれば裁判も検討する

まず、お金を貸すときには「返済能力に応じた金額」を超えた融資は控えるようにしましょう。いくら「困っているから」「かならず返すから」と言われても、身分不相応な金額を貸すと結局は自分が困ることになります。

返済されない状態が続くなら、内容証明郵便で督促するようにしましょう。内容証明郵便なら郵便局にも督促した内容が記録されるため「催促は受けていない」などの言い逃れも防げます。

内容証明郵便による督促でも返済されないなら、裁判所を通じて催告状を送付したり少額訴訟などをしたりする方法もあります。
 
差し押さえをするためにはどうすれば良い?
債務不履行が続いて長期間にわたり返済されないなら、借り手の財産差し押さえも可能です。裁判所などへの手続きを踏めば、借り手の預貯金や不動産などの差し押さえができ、返済に充てられます。

差し押さえの具体的な流れは次の通りです。

STEP①……少額訴訟など裁判をおこし判決をもらう
STEP②……財産調査(弁護士などに依頼)
STEP③……裁判所への申立て(申立書や差押債権目録の提出)
STEP④……債権差押命令の発送
STEP⑤……差し押さえ実行と配当(回収できたお金を配当してもらう)

ただ、訴訟などをしている間に借り手が財産を処分してしまうと、差し押さえができなくなってしまいます。借り手が財産を第三者に移したり処分したりするリスクがある場合は、「仮差し押さえ手続き」をするといいでしょう。

「仮差し押さえ手続き」とは、借り手の財産処分を禁止し保全しておくための制度です。「仮差し押さえ手続き」は裁判所でおこないますが、手続きが認められると、裁判所は借り手の財産が処分できないよう外部に公示します。

仮差押えは、金銭債権について将来の強制執行を保全するために債務者の財産を処分できないようにすることを目的とする手続です。

引用:裁判所「民事保全手続きについて」

「仮差し押さえ」が執行されると、借り手は不動産や預貯金も動かせなくなります。そのため「お金は返すので仮差し押さえを解いて欲しい」と返済意思を伝えてくるケースがほとんどです。

ただ、差し押さえには財産調査や裁判所での手続きなど法的な知識が必要となります。

個人でも手続きは可能ですが、できれば弁護士など法律の専門家に相談するのがいいでしょう。