借用書は、金銭の貸し借りで大切な役割を果たす文書です。法的に有効な借用書を交わしておけば、お金の貸し借りでトラブルに巻き込まれることもないでしょう。
法的に必要な項目が書かれていない借用書を交わしたり、無効な金銭の貸し借りをしたりすると、後々貸したお金が戻ってこないなど自分が困ることになります。
この記事では、借用書の意味や書き方の注意点について解説します。借用書サンプルもダウンロードできますので、ぜひ参考にしてください。
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借用書とは「金銭の貸し借りで必要な文書」
借用書とは、おもに金銭の貸し借りで必要な文書です。お金を貸したり借りたりするとき、借用書がなくても金銭取引はできます。しかし、金額や返済期限などを書類で残したほうが法的効力もあり、なにかと安心です。お金だけではなく物品の貸し借りでも借用書を交わす場合もあります。
借用書には、貸し手と借り手の氏名などの基本情報のほか、借入額や返済条件などが細かく記載されており、双方の権利と義務が明記されています。
ただし、法的に効力がある借用書を交わすには、いくつかの点に注意しなければいけません。例えば自筆の署名がなかったり改ざんされるような金額の書き方をしたりすると、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性もでてきます。
借用書とはどのような文書か、役割や、もし借用書がなかったらどのようなリスクがあるのか、解説します。
借用書は金銭の貸し借りを証明するために必要な書類
借用書は、金銭の貸し借りがあったことを証明するために必要な書類です。借用書があれば、貸し手と借り手との間で金銭取引がおこなわれたことを証明できるため、貸し手は借用書をもとに返済を求めることができますし、借り手の責任も明確にできます。
ただし、金銭の貸借などの契約において「かならず借用書が必要か?」というと、そうではありません。民法522条では「書面がなくても契約が成立する」と記載されています。具体的には口約束でお金の貸し借りに関する取り決めをしても、金銭貸借の契約は成立します。
民法522条(契約の成立と方式)
引用:e-GOV法令検索 民法
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
では「口約束でも契約が成立するのになぜ借用書が必要?」と思うかもしれません。
たしかに口約束でも金銭貸借に関する契約は成立しますが、借用書は双方の関係が悪化したときに特に有効です。借用書を交わした段階で貸し手と借り手の関係が友好的でも、後日双方の関係が悪化することも考えられます。例えば後日トラブルが発生し「お金を借りたつもりはない」「決めた期日までに返済されない」など、見解の相違が出てくることもあるでしょう。
借用書があれば「言った言わない」などのトラブルを防げますし、書面があれば誤解も解けます。また、万一訴訟問題に発展した場合、借用書は法的な効力を持つ書類となるため、金銭貸借では借用書を残すのが一般的です。
参考:法テラス公式サイト「よくある質問」より
引用:法テラス公式サイト
【質問】……借用書を作らずに、友人にお金を貸しました。このような契約は無効ですか?
【答え】……有効です。金銭の貸し借りについての契約(金銭消費貸借契約)は、書面(書類)を作成していなくても成立します。
【説明】
・法的な手続により返済を請求する場合には、金銭の返済を約束したことや金銭を渡したことを証明する必要があります。
・この証明のためには、借用書を利用するのが一般的です。
・契約後において、借主が貸金を返還しない(返さない)、または契約そのものを否定するなどの問題が生じた場合には、お金を取り戻すために、契約が成立したことの証拠が必要となります。その際に、借用書は有力な証拠となりますので、金銭消費貸借契約を行う際には、借用書を作成したほうがよいでしょう。
・金銭の貸し借りについて直接の証拠となる借用書がない場合、裁判で貸金の返還を求めるには、間接的な証拠から貸し借りの存在を証明していくこととなります。
・詳しくは、弁護士等の専門家にご相談ください。
借用書がないままお金の貸し借りをした場合のトラブル事例
借用書なしでお金の貸し借りをしてしまうと、次のようなトラブルが起こる可能性があります。
借用書がないと「そもそも借りたつもりはない」「お金はくれたものと理解していた」など、貸し借りの事実そのものを否定される場合があります。口約束も契約上は有効ですが、双方の見解相違があると、金銭貸借の事実を証明するのに時間がかかります。
口約束でお金の貸し借りをすると「無利息だと思っていた」「返済期限は聞いていない」など、利息や返済期限の面で見解の相違が出る場合があります。
万一返済されないなどのトラブルが発生し訴訟に発展した場合、借用書があれば比較的スムーズに法的手続きをとれます。一方、書面がないと貸し手と借り手との見解に相違が発生し、トラブル解決にも時間がかかります。
事実、借用書がないと「借りたつもりはない」など、トラブルが発生した事例もあるようです。
<ヤフー知恵袋より>
引用:ヤフー知恵袋
半年前に、友達に2万円を手渡しで渡しました。その女の子に返してというと「ふつうにくれたのかと思った」「借りた証拠なくね?」と開き直りです。絶句しました。(後略)
借用書には「〇万円から必要」など金額に関するルールはない
借用書には「〇万円から必要」など、金額に関するルールはありません。100円を貸す場合でも、金銭貸借について書面で残す必要があれば借用書は交わすべきでしょう。ただ、借用書を書くだけでも手間がかかるため、一般的には数百円の貸し借りなど「返済されなくても許せる金額」であれば借用書を交わさないのが一般的です。
また、貸し手と借り手の関係性によっても借用書の必要有無は変わってきます。少額の貸し借りでも、相手が見ず知らずの人で返済を求めるのであれば、今後の貸し倒れリスクを考えて借用書を交わしておくといいでしょう。一方、普段から関係が良好で、かつ少額の貸借なら書面は不要かもしれません。
借用書を用意するのは「貸し手」署名欄に借り手がサインして渡すのが一般的
借用書は、借り手が署名捺印し貸し手に渡すのが一般的です。書類作成については、借り手が書いたり貸し手が書いたり、さまざまなケースがあります。書類の作成者については法的なルールはありません。インターネットによくある汎用書類をダウンロードしたり、弁護士など、第三者が借用書を作成したりする場合もあります。ただ、個人間での金銭の貸し借りにおいては、貸し手が返済期日や利息などの条件を決めるケースがほとんどです。そのため、通常は貸し手が借用書を作成し、借り手に署名捺印を求めるのが一般的です。
ただし、借り手も借用書に記載された条件を確認してからサインするようにしましょう。貸付条件を理解せずサインすると「利息が支払えない」「返済期限に間に合わない」など、トラブルにつながる恐れがあります。
借用書を交わすときは、お金を貸す側も借りる側も、双方で諸条件を読み合わせて合意するのが大切なポイントです。
借用書は貸し手が保管するが借り手もコピーを持っておくほうがよい
借用書は、貸し手が保管するのが一般的です。なぜなら、万一貸したお金が返済されない場合、借用書を根拠に訴訟などをおこすのは通常「貸し手」の場合がほとんどだからです。
借り手が原本を保管していると、返済が滞った場合、貸し手側の手元に書類がないことが原因でスムーズに訴訟手続きができない可能性も出てきます。
ただし、借り手も借用書のコピーを保管しておくのがおすすめです。借用書が手元にあれば、借入額や利息の条件・返済期限などをすぐに確認でき、貸し手に迷惑をかけることも少なくなります。なお、法的効力を重視したいなら、コピーではなく原本2枚を作成し、それぞれ自署したうえで双方が保管するようにしましょう。コピーした借用書は「偽造の疑いがある」として法的効力が弱まる可能性があるためです。
なお、借用書の保管には「紙の書類そのもの」を金庫などに保管する方法も有効ですが、できれば書類をスキャンしておくなど「デジタル方式での保管」がおすすめです。デジタル方式での保管なら紛失も防げますし、貸し手と借り手の双方がいつでも内容を確認できます。
ただ、デジタル方式での保管は「保存場所を忘れてしまう」「保存したパソコンが壊れる」などのリスクもあります。可能なら、紙とデジタル方式の両方で保管しておくのがおすすめです。
借用書を書くタイミングは「金銭貸し借りの前」が基本
一般的に、借用書は「金銭の貸借がおこなわれる前」に作成するのが理想です。貸し借りが終わったあとで借用書を交わすと、「口頭では金利10%と言っていたのに20%と記入されている」など、齟齬(※そご=意見が食い違うこと)が発生します。
金銭の貸借をする際は、借用書を交わす前に双方で十分な話し合いをし、借用書を交わしてから実際の貸し借りを行うようにしましょう。
借用書には決まった様式はないが必要事項を漏れなく書くのがポイント
借用書に法律で決められた書式やルールはありません。しかし、金銭貸借でのトラブルを避けるため、借用書には下記のポイントを漏れなく書くようにしましょう。
<借用書に記載すべきポイント>
要素 | 内容 |
---|---|
日付 | 借用書を作成した年月日を記載 |
貸し手と借り手の情報 | 氏名、住所、連絡先などを記載(借り手は自署で署名し捺印する) |
貸借の対象となる金額や物品 | 借入額を記載 |
金利条件 | 貸付金利を年率で記載 |
返済スケジュールと完済期日 | 毎月返済や年数回の返済など返済スケジュールと返済期限を記載 |
返済遅延や滞納時の取り決め | 延滞時に遅延損害金を支払うかどうかなどを記載 |
担保や保証人に関する情報 | 金銭の貸借にともなう保証人の個人情報や担保に関する情報 |
借用書に必要な記載事項
借用書に必要事項が正確に記載されていれば、お金の貸し借りが発生したあとで「借りたつもりはない」「返済期日など聞いていない」などのトラブルも防げます。
自分で借用書を作成する場合には、次の9つのポイントを網羅して書類を作るといいでしょう。
①収入印紙欄
金銭の貸借契約が1万円以上になると収入印紙を貼る必要があります。したがって、借用書を作るときは、念のため収入印紙の貼付欄を設けておきましょう。
なお、収入印紙は郵便局や金券ショップなどで購入できます。
ただし、収入印紙の条件については地域の税務署などで見解が異なる場合があります。実際に収入印紙を貼るかどうかわからない場合は、最寄りの税務署に相談するのがいいでしょう。
参考:国税庁公式サイト「印紙税額の一覧表」
文章の種類 | 印紙税額 (1通または1冊につき) |
---|---|
【消費貸借に関する契約書】 金銭借用証書、金銭消費貸借契約書など |
例①記載された契約金額が1万円未満……非課税 例②記載された契約金額が10万円以下……200円 |
②表題は「借用書」または「借用証書」と書く
借用書の表題は、一般的に「借用書」と記載するのが一般的です。また、お金の貸し借りがあったことの証明という意味で、「金銭借用証書」と記載しても問題はありません。
借用書の表題は、金銭や物品の貸し借りなどの取引行為が明確にわかる一文が理想です。また、借り手が署名して貸し手に渡すなど一方的な書類であれば「借用書」とし、貸し手と借り手の双方が署名捺印する場合は「金銭消費貸借契約書」と書く場合もあります。
③借入額
借用書には「いくら借りたのか?」明確に金額を記載しましょう。ただし、借用書に書かれた金額を改ざんされないように、数字はアラビア数字ではなく漢数字で記載するのが理想です。
例えば借入額が「百万円」だった場合、アラビア数字で100万円と書くと、0を付け加えて1,000万円にすることも可能です。「1」を加筆して「7」にする、または「2」を「3」に書き換えることも容易にできてしまいます。
借用書で使うべき漢数字の例を表にしていますので、参考にしてください。
改ざんされる可能性のある 金額表記 |
改ざんされないための 金額表記 |
---|---|
100万円 | 壱百萬円也 |
200万円 | 弐百萬円也 |
300万円 | 参百萬円也 |
④借用書の作成日
借用書には、書類を書いた年月日を右上に明記します。一般的には金銭の貸し借りをおこなう前に、貸し手と借り手が借入額や返済期限などについて協議し、その後実際にお金の貸し借りが発生します。
そのため、借用書には書類の作成日を記載し、作成日とは別で借入日を記載するのが一般的です。(例:作成日「2023年6月1日」、借入日「2023年6月10日」など)また、日付を書く場合は〇月〇日だけではなく、西暦/月/日を明確に記載するようにしましょう。
⑤氏名や住所(借り手は自署で署名し捺印するのが基本ルール)
借用書には貸し手と借り手の住所氏名を記載しなければいけません。特に借り手は自署で署名し捺印したあと、貸し手に借用書を渡すのが基本的なルールです。
住所や氏名を書く際は、筆記体など読みづらい書体は避けて、一般的に使用される書体で書くようにしましょう。なお、お金を貸す側は借り手の住所氏名に虚偽記載がないか、運転免許証などの身分証明書で確認するのが理想です。転居をしたばかりなど、運転免許証の住所と借用書に記載された住所が違う場合は、住民票など運転免許証以外の公的書類を求める方法もあります。
また、後日借り手が転居する可能性もあるため、借用書の条項には「転居の際は貸し手側に速やかに申し出ること」と記載しておくといいでしょう。
⑥借入日は実際にお金を貸した日を記入する
借用書を交わすときは、書類の作成日とは別で「実際に金銭の貸借が発生した日」を明確に記載します。例えば、借用書の作成日が2023年6月1日でも、実際のお金の貸し借りが発生した日が6月10日なら、借入日の欄に「2023年6月10日」と記載するようにしましょう。
なお、借入日には次の3つの意味があるため、間違いなく記載することが大切です。
- 金銭貸借が実際におこなわれた日
- 借り手が負う「返済義務」が発生した日
- 利息が発生する場合は利息計算の初日
実際に貸し借りがおこなわれた日と借用書の日付とが違うと、利息の計算も変わってきます。後々トラブルに発展しないためにも、くれぐれも正しい日付を記入するようにしましょう。
⑦返済期限
借用書に記載する返済期限欄には「いつまでに返済するか?」明確な日付を記載する必要があります。また、借用書の返済期限欄には、次のような補足事項も記載するとトラブルを避けられます。
- 返済スケジュール
- 毎月の返済日
- 返済されなかった場合のペナルティ(遅延損害金の支払い義務など)
一度決めた返済期限は後々変更するのが難しいため、返済期限を書くときは貸し手と借り手の双方でよく話し合い、間違いのないように記載しましょう。
⑧利息
金銭の貸借において利息の支払いが発生する場合は、借用書に金利や利息に関する条件も明記します。
個人間でお金の貸し借りをする場合は、年利や月利で金利を記載することもあれば「完済時に利息〇万円を加算して支払う」などと記載するケースもあります。利息については貸し手と借り手が合意していないと、後々「利息が高く支払えない」などのトラブルの原因にもなりかねません。利息の支払い日や利息計算の根拠なども明記して、双方が合意することが大切です。
なお、個人間でお金の貸し借りをする場合、利息制限法の範囲内で年率20%以内の金利を設定するのが一般的です。返済負担が不安なら、できれば金利10%以下で貸し借りを行うといいでしょう。
Q6. 利息の利率を定めるときは、どういう注意が必要ですか?
引用:日本公証人連合会「金銭消費貸借」
金銭消費貸借においては、通常、利息支払の約定をしますが、それと同時に、多くの場合、遅延損害金の割合も定めます。利息の上限利率は、どの場合も一律に下記1のとおりです。また、遅延損害金の上限利率は下記2のとおりです。 営業的金銭消費貸借の場合の上限利率は20%です。いずれも、その超過部分につき無効となります。
【記1】
・10万円未満……年20%
・10万円以上100万円未満……年18%
・100万円以上……年15%
⑨返済方法
返済方法については、次の要素を書くようにしましょう。
- 返済タイミング(毎月返済や一括返済など)
- 具体的な返済方法(現金を持参するのか?銀行振込なのか?など)
- 返済にともなう追加費用を負担するのは誰か?(振込手数料など)
また、「毎月返済」と決めた場合でも、借り手側の都合で追加の任意返済ができるよう記載しておくといいでしょう。任意返済が自由にできるようにルールを決めておくと、貸し手は貸し倒れリスクを減らせますし、借り手は早く完済できるなどメリットがありおすすめです。
借用書を書くときの用紙や筆記用具などの指定はある?
はじめて借用書を書くときは「手書きとパソコンどちらがいい?」「指定の筆記用具はあるるの?」などさまざまな疑問が出てくるかもしれません。
借用書を書くときの気になるポイントについても解説します。
借用書の用紙サイズに決まりはないがA4サイズがおすすめ
借用書で使用する用紙には法的なルールはありません。一般的に使用されるコピー用紙や便箋などを使用しても問題はないでしょう。
用紙サイズは、通常のファイリングで標準とされる「A4サイズ」がおすすめです。借用書と一緒に公的書類などのコピーも付けて保管するケースも多いため、極端に小さい用紙や大きな用紙は借用書としては不向きです。
なお、借用書は場合によっては何年も保管するケースもあるため、感熱紙など長期保管に適していない用紙は避けるようにしましょう。
借用書はパソコンで作成してもいいが借り手の署名欄は自署が基本ルール
借用書は「手書き」「パソコン」のどちらでも問題はありません。ただ、手書きの場合は書き手によって読みづらいこともあるため、できればパソコンで作成したほうが「金額の読み違い」などトラブルも避けられるでしょう。
なお、パソコンで借用書を作成した場合は、貸し手や借り手の住所氏名などは手書きで署名するのが基本です。パソコンで氏名を記載してしまうと署名の偽造が疑われることもあるからです。裁判になった際、法的に認められる書類にしておくためにも、くれぐれも氏名欄は手書きでの署名、そして捺印も忘れないようにしましょう。なお、作成した借用書は紙のまま保管してもいいですが、紛失リスクなどを回避するためにもPDF化してパソコンに保存しておくのがおすすめです。
数字はアラビア数字ではなく画数の多い漢数字で書く
借用書に金額や金利を記入するときは、「1」などのアラビア数字ではなく「壱」など画数の多い漢数字を使用しましょう。漢数字で記入するのには、次のような理由があるためです。
- アラビア数字で記載すると誤って読まれる場合がある。「7」を「1」と読むなど(特に手書きの場合に注意)
- アラビア数字で記載すると偽造される場合がある。「0を追加する」「2を3に書き換える」など
参考までに、いくつかの例を表にまとめていますので参考にしてください。
借用書で推奨されない 書き方 |
借用書で推奨される 書き方 |
---|---|
2023年2月13日 | 令和五年弐月拾参日 |
1,000,000円 | 金壱百萬円也 |
年率15% | 年率拾五%(または年壱割五分) |
記入は鉛筆や消せるボールペンはNG
借用書への記入は鉛筆ではなく、ボールペンか万年筆で書くのが理想です。なぜなら鉛筆で書いてしまうと、簡単に消しゴムで消せますし簡単に偽造されるリスクがあるためです。
鉛筆で書かれた借用書でも法的効力はありますが、改ざんリスクを考えると使用しないほうがいいでしょう。また「消せるボーペン」を普段から多用する人も多いですが、消せるボールペンも推奨できません。
法的トラブルに発展したときには有効な証拠として借用書を使用することもあるため、記載は「消えない」「偽造できない」筆記用具で書くようにしましょう。
書き間違えたら二重訂正線をひいて訂正印を押す
借用書に記載する文言や金額を間違えた場合は、間違った箇所に二重線を引いて訂正し、正しい情報を上下の余白に書くようにしましょう。二重線を引いた部分には、修正した側の訂正印を押す必要もあります。
※<実際の訂正例>
訂正箇所が多い場合は二重線があちこちにあると見づらいため、新規で借用書を作り直したほうがいいかもしれません。借用書の作成では記入ミスなども多く発生するため、できればパソコンで作成し、署名欄のみサインできるようにしておくのがおすすめです。なお、後々訂正の経緯がわかるようにしたい場合は、訂正理由などを余白に記載しておくと安心です。
(例:返済期日を変更する場合……「貸主〇〇の依頼により〇年〇月〇日に変更」など)
借用書テンプレート
一般的に使用できる借用書のテンプレートについては、こちらからダウンロードしてください。借用書には法的に決められたフォームはないため、借用書のひな形を利用して、個人の事情に応じた条文などを追記するといいでしょう。
借用書のひな形
【借用書のひな形ダウンロードはこちら】
借用書の効力とは?
借用書は金銭の貸し借りが原因で裁判になったときに、証拠として提出できる効力があります。ただし、借用書の書き方によっては効力が弱くなることもあります。裁判で、より強力な証拠として借用書を提出したいなら、公正証書を利用する方法もあります。
借用書の書き方によって効力は変わる?
必要事項が書かれている借用書なら、裁判で効力のある書類として使用できます。ただし、書き方によっては、借用書の効力が変わる場合があるため注意が必要です。
特に次のような場合は法的な場面では効力が弱くなり、トラブルがあった際の証拠として採用できない可能性もでてきます。
- 日付が記載されていない
- 借入額や返済条件、利息などの重要事項が記載されていない
- 借り手側の情報(住所や氏名など)が記載されていない
なお、金銭の貸借の相手が未成年者などの「制限行為能力者」だった場合、借用書に必要事項が書かれていても効力を失う場合があります。
そもそも本当に借用書に効力はあるのでしょうか?
お金の貸し借りに関する文書には、公的機関が発行する「公文書」と個人が作成する「私文書」とがあります。個人が作成する借用書は「私文書」となりますが、私文書でも法的効力を持つ書類としては有効です。
借用書が法的に有効かどうかは、借り手側が「返済義務を負ったことを認めているか?」が重要になります。
必要事項が書かれており、借り手の氏名が自署で記入され押印された状態なら、借り手がお金を借りたことを認めているわけですから法的に効力がある書類といえます。
無効とみなされる借用書とは?
次のような借用書は「無効」と見なされる場合があります。
①自筆の署名捺印がない借用書
②未成年や成年被後見人が記入した借用書
③犯罪目的が絡む借用書
④公序良俗に反する目的に絡む借用書
⑤欺瞞(ぎまん:人の目をごまかし騙すこと)や強要により作成された借用書
⑥借用書を書いたにも関わらず実際に融資が実行されていないケース
参考までに、実際の判例もご覧ください。
神戸地方裁判所の判決によると、金銭の貸付契約を締結した場合であっても「実際にお金を貸していない」「貸し手と借り手が面談すらしていない」といった場合、金銭貸借の契約そのものが無効になる判決が下されています。
お金を「貸す側」「借りる側」どちらの場合でも、借用書の有効性について不安があるなら弁護士や司法書士など法律の専門家に相談するのがいいでしょう。
借用書よりさらに効力がある公正証書とは?
借用書よりも効力がある「公正証書」とは、公証人役場で作成してもらう書類のことです。
公正証書に執行認諾約款(※1)を記載しておけば、裁判所を利用しなくても強制執行(※2)に移れるため、貸し倒れリスクを防ぐ効果があります。
下表では借用書だけでお金を貸した場合と、公正証書を利用してお金を貸した場合とで何が違うのか比較しています。
公正証書作成には所定の手続きが必要で費用もかかります。しかし「返済されない」などのトラブルが発生した場合は借用書よりも効力が高い文書であるため、できれば公正証書を作成して金銭の貸し借りをおこなうのがいいでしょう。
<借用書と公正証書の効力の違い※貸し倒れが発生した場合で比較>
公正証書を利用して お金を貸した場合 |
借用書を利用して お金を貸した場合 |
---|---|
①公正証書に「執行認諾約款」を記載しお金を貸す | ①借用書に借入額や返済期日などの必要事項を記載しお金を貸す |
②貸したお金が返済されない事態が発生 | ②貸したお金が返済されない事態が発生 |
③裁判をおこすことなく強制執行が可能 | ③強制執行を希望する場合は裁判をする |
④判決や調停調書などをもらう | |
⑤判決などをもとに強制執行してもらう |
借用書を2枚作って署名し正本2通を作成しよう
借用書を書くときは、基本的に正本2通を作成するのが理想です。借用書の署名欄は「借り手側の署名欄のみ」で、通常は借り手が署名をして貸し手に渡すのが一般的ですから、借用書は1枚で済みます。
しかし、後々のトラブルを避けるためにも、借用書は2枚作成し貸し手と借り手の双方が1枚づつ保管しておくようにしましょう。借り手も借用書が手元にあれば返済期日などをすぐに確認できますし、返済意識が薄らいでしまうのも防げます。
また、貸し手と借り手の間で認識の相違があった場合でも、お互いすぐに借用書を確認し合えるため、大きなトラブルになることも防げるでしょう。
高齢者への貸付では意思能力に注意
金銭の貸借などの契約行為では、一部の高齢者など判断能力に乏しい人との契約が無効になる場合があります。
そのため、次のような相手と借用書を交わしたとしても、取り消される場合があるため注意が必要です。
<借用書があっても金銭の貸借契約が無効になるケース>
- 制限行為能力者との契約(未成年者や成年被後見人(※1)、被保佐人(※2)や被補助人(※3)など)
- 公序良俗に反する契約(犯罪目的でのお金の貸し借り)
- 錯誤による契約(明らかに勘違いとわかるような契約)
お金を貸す相手が高齢の場合は、弁護士などの第三者のアドバイスを受けながら、金銭の貸し借りをしてもいいかどうか判断するといいでしょう。
(成年被後見人の法律行為)
引用:法令検索e-gov
第九条 成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。
(保佐人の同意を要する行為等)
第十三条 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
(補助人の同意を要する旨の審判等)
第十七条 家庭裁判所は、第十五条第一項本文に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求により、被補助人が特定の法律行為をするにはその補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、その審判によりその同意を得なければならないものとすることができる行為は、第十三条第一項に規定する行為の一部に限る。
4 補助人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。
借金の時効は5年または10年
借用書を正式に交わした金銭の貸し借りであっても「借金の時効」がある点には注意が必要です。
<借金の時効とは>
借金における時効とは「消滅時効」とも呼ばれます。一定期間「貸し手が請求をしない」「借り手が返済をしない」期間が続くことによって、債権(お金を返してもらう権利)そのものが消滅してしまう制度です。時効が成立すると、借り手は返済する必要がなくなります。
令和2年4月1日に施行された改正民法では、お金の貸し借りに関する時効について次のように定めています。
<一般的な債権(借金)の時効期間>
①債権者(貸し手)が返済を求める権利の存在を知った時から5年
②債権者(貸し手)が返済を求める権利の存在を知らなかった場合でも、権利を行使できる時から10年(改正民法166条1項)
一般のお金の貸し借りでは、債権者(貸し手)は返済を求める権利があることを知りながら借用書を受け取ります。したがって、時効が到来するとすれば上記①の「返済を求める権利の存在を知った時」つまり「借用書を交わしてから5年後」ということになります。
ただし、時効が成立する前に貸し手が裁判を起こしたり、借り手が返済義務を認めたりすると時効がリセットされます。ほとんどのケースでは返済が滞ると裁判になるケースも多いため、実際に時効が成立するのは稀です。
借用書に関するよくある質問
お金の貸し借りや借用書の記載には法的な知識が必要です。人によっては借用書の作成に関してさまざまな疑問が出てくることもあるでしょう。
「借用書を書かずにメールや録音データだけが残っているが法的効力はある?」など、わからないことも多々あります。
借用書に関わるいくつかの質問についてもお答えしていきたいと思います。
- 連帯保証人はつけるべき?
- 借り手の返済能力が乏しい場合には、連帯保証人をつけてもらったほうが安心です。連帯保証人は借り手と同じ責任を負い、万一借り手が返済できないときは、代わりに返済しなければいけません。
連帯保証人の責任
引用:徳島県消費者情報センター「保証人・連帯保証人の責任」
連帯保証人は保証人よりも責任は重く、自分が借主になったことと同じです。
なお、連帯保証人をつけて融資をする場合、貸し手は連帯保証人と面談したうえで借用書にサインしてもらうのが理想です。なぜなら、借り手が連帯保証人に「書類にサインしてもらうだけだから」など、嘘をついて保証人になるように説明している場合があるからです。
貸し手は、連帯保証人と直接会って「返済義務を負う覚悟はあるか?」などを確認してから、お金を貸すようにしましょう。
- 誤字や脱字を発見した場合はどうすれば良い?
- 誤字脱字など、記入ミスがあった際は間違った箇所に二重線を引き訂正印を押してから、余白に正しい内容を加筆しましょう。記入ミスが多い場合は見づらくなるため、はじめから作り直したほうがいいかもしれません。また、訂正した経緯がわかるように「※借主の希望により返済期限変更」など、メモも追記しておくと後々トラブルになったときでも安心です。
※<実際の訂正例>
- 借用書に金額が書いていない場合はどうなる?
- 借用書に金額が書かれていないと、借用書としての効力は無効となります。なぜなら、借用書では「貸し手と借り手の個人情報」「借用額」「返済期限」の要素が必要だからです。金額欄が空欄だと、後々貸し手や借り手により勝手に加筆される可能性もあります。借用書を書くときは、かならず金額を記入するようにしましょう。
- メールの文面や音声データは証拠になる?
- 借用書を交わしていなくても、金銭の貸し借りに関する記録がメールや音声データに残っていれば、法的には有効です。LINEでお金の貸し借りに関するやり取りをした場合でも「〇日までに返済してください」「わかりました必ず返済します」などのやり取りが残っているなら、明らかに金銭の貸借があったことを証明できます。
万一「借用書を交わしていない」または「紛失してしまった」などの事態になったら、メールやLINEなどに金銭貸借に関する会話が残っていないか確認しておくようにしましょう。
- 金利を請求する場合に上限はある?
- 結論からいうと、個人間融資など貸金業を営んでいない(生業としておこなっていない)場合は、出資法で決められた「109.5%」が上限金利となります。一方、貸金業者がお金を貸す場合は、出資法のルールでは「上限20%まで」と定められています。
2 出資法の主な内容
引用:兵庫県弁護士会「出資法解説」
(1) 出資法は次のような内容を定めています。
・ 金融業者は年20%超,金融業者以外は年109.5%(うるう年は109.8%とし,1日あたり0.3%)超の金利の契約を禁止
金銭の貸し借りでは、出資法のほかに利息制限法も関係してきます。利息制限法では最高20%の上限金利が定められており、「借り手は20%を超える利息は支払わなくてもよい」とされています。【質問】高利を支払っていた場合には、取り戻すことができるのですか?
参照:法テラス公式サイト
【回答】・利息制限法に基づいて支払うべき利息(年15~20%)を計算し、払い過ぎていれば、過払金を取り戻すことができます。
(説明)
・貸金の利息について、利息制限法は、次のとおり上限を定めています。
1 元本10万円未満の場合:年20%
2 元本が10万円以上100万円未満の場合:年18%
3 元本が100万円以上の場合:年15%
・この制限を超えて利息を支払うことを約束しても、超過部分の約束は無効です。
個人間融資で認められている109.5%の上限金利でお金を貸したとしても、借り手から裁判を起こされると「20%以上の利息は支払わなくてもよい」との判決が下ります。
そのため、後々の面倒なトラブルを避けるためにも、109.5%などの高い金利ではなく、20%以下の金利で金銭の貸し借りをするのが理想です。
<金銭の貸し借りで適用される法律と上限金利>
適用される法律 上限金利 出資法 年109.5%(貸金業者などは20%) 利息制限法 年20%(借入10万円未満の場合)
年18%(借入10万円以上100万円未満の場合)
年15%(借入100万円以上の場合)
- 遅延損害金とは?
- 遅延損害金(ちえんそんがいきん)とは、返済に遅れたことで発生した損害を賠償するために支払うお金のことです。
個人間における金銭の貸し借りでも、借用書に「返済が遅れたときは遅延損害金を請求する」と書いておけば、借り手は遅延損害金を支払わなければいけません。
なお、利息制限法では遅延損害金の上限利率を「契約金利×1.46倍まで」と定めています。個人間での金銭の貸し借りの場合、借入額に対する遅延損害金の上限は下表の通りとなります。(貸金業者が設定する遅延損害金の金利は年率20%まで)
借入額 10万円未満 10万円~100万円 100万円以上 利息制限法における上限金利 20% 18% 15% 遅延損害金の上限 29.2% 26.28% 21.9%
- 債務不履行に備える方法はある?
- 債務不履行とは、貸したお金が戻ってこない状態のことを指します。
債務不履行に備えるには、次の3つの方法が有効です。
①借り手の返済能力を確認してから融資をする
②借り手が言い逃れできない方法で督促する
③返済されない状態が続くようであれば裁判も検討する
まず、お金を貸すときには「返済能力に応じた金額」を超えた融資は控えるようにしましょう。いくら「困っているから」「かならず返すから」と言われても、身分不相応な金額を貸すと結局は自分が困ることになります。
返済されない状態が続くなら、内容証明郵便で督促するようにしましょう。内容証明郵便なら郵便局にも督促した内容が記録されるため「催促は受けていない」などの言い逃れも防げます。
内容証明郵便による督促でも返済されないなら、裁判所を通じて催告状を送付したり少額訴訟などをしたりする方法もあります。
- 差し押さえをするためにはどうすれば良い?
- 債務不履行が続いて長期間にわたり返済されないなら、借り手の財産差し押さえも可能です。裁判所などへの手続きを踏めば、借り手の預貯金や不動産などの差し押さえができ、返済に充てられます。
差し押さえの具体的な流れは次の通りです。
STEP①……少額訴訟など裁判をおこし判決をもらう
STEP②……財産調査(弁護士などに依頼)
STEP③……裁判所への申立て(申立書や差押債権目録の提出)
STEP④……債権差押命令の発送
STEP⑤……差し押さえ実行と配当(回収できたお金を配当してもらう)
ただ、訴訟などをしている間に借り手が財産を処分してしまうと、差し押さえができなくなってしまいます。借り手が財産を第三者に移したり処分したりするリスクがある場合は、「仮差し押さえ手続き」をするといいでしょう。
「仮差し押さえ手続き」とは、借り手の財産処分を禁止し保全しておくための制度です。「仮差し押さえ手続き」は裁判所でおこないますが、手続きが認められると、裁判所は借り手の財産が処分できないよう外部に公示します。仮差押えは、金銭債権について将来の強制執行を保全するために債務者の財産を処分できないようにすることを目的とする手続です。
引用:裁判所「民事保全手続きについて」
「仮差し押さえ」が執行されると、借り手は不動産や預貯金も動かせなくなります。そのため「お金は返すので仮差し押さえを解いて欲しい」と返済意思を伝えてくるケースがほとんどです。
ただ、差し押さえには財産調査や裁判所での手続きなど法的な知識が必要となります。
個人でも手続きは可能ですが、できれば弁護士など法律の専門家に相談するのがいいでしょう。
まとめ
借用書は、金銭の貸し借りにおいて必要な借入額や返済期日など、諸条件を明確に記載した重要な書類です。借用書がないと、後々「返済されない」「お金を借りた覚えはない」などトラブルになったときに困ります。
借用書には決められたフォームなどはありません。本記事でダウンロードした文書を利用し、必要事項に抜け漏れがなければ法的にも有効な書類となります。
お金を貸したり借りたりするときは、後々トラブルになって人間関係にヒビがはいらないよう、本記事を参考に借用書を残しておくようにしましょう。