この記事の情報は2022年8月26日時点での情報です。

特集「不動産業界トップランナーに聞く。アフターコロナ時代の経営戦略」では、各社のトップにインタビューを実施。新型コロナウイルス感染症が収束した後の社会における不動産業界の展望や課題、この先の戦略について、各社の取り組みを紹介する。

「都市部で心地よく暮らせる家づくり」をコンセプトに、東京・神奈川エリアにおける戸建て住宅の設計から施工を行う株式会社テラジマアーキテクツ。1958年に世田谷区で工務店として設立してから60年あまり。デザインと性能を両立した「自由度の高い注文住宅」を得意とし、都内屈指の設計事務所兼工務店として人気を集めている。CEOを務める深澤彰司氏に、同社のあゆみ、コロナ禍で激変した不動産業界の今、そしてアフターコロナの成長戦略について伺った。

(取材・執筆・構成=杉野 遥)
 

深澤 彰司(ふかさわ しょうじ)
――株式会社テラジマアーキテクツCEO

2004年テラジマアーキテクツ入社。建築家としてシンプルモダンや和モダンといった同社の代表的なテイストを確立。これまでに手掛けた住宅は500棟以上。デザインと生活空間の両立した住宅、お引渡し後も長く安心して住まえる住宅を目指し、使い勝手や動線に配慮した設計、お客さまと一緒につくる過程を大切にしている。
株式会社テラジマアーキテクツ
東京都目黒区に本社を置く独立系の設計事務所・工務店。「上質な暮らしの創造」をビジョンとして、注文住宅の設計・施工と戸建・マンションのリノベーションのほか、住宅の維持・暮らしに関わる各種サービスを展開する。1958年創業の寺島工務店が母体。2023年に創立65周年を迎える。

目次

  1. 株式会社テラジマアーキテクツについて
  2. 株式会社テラジマアーキテクツの顧客層とコンセプトについて
  3. 同業他社との違いとは
  4. コロナ禍で実感している変化とは
  5. 株式会社テラジマアーキテクツの展望

株式会社テラジマアーキテクツについて

― テラジマアーキテクツ様の創業から現在までの状況をお聞かせください

株式会社テラジマアーキテクツCEO・深澤彰司氏(以下、社名・氏名略):テラジマアーキテクツは、東京・神奈川エリアに特化した地域密着型の設計事務所兼工務店です。一戸建ての新築注文住宅を中心に手掛けており、500棟以上の実績を誇ります。

テラジマアーキテクツが手掛ける案件の多くは、いわゆる住宅密集地の家づくりです。都心部ではコンパクトな土地が多いですし、道路の幅員は狭い。さまざまな制約がある中で、テラジマアーキテクツの設計技術によって土地のポテンシャルを引き出し、快適な住環境をつくりだす。「都市部で心地よく暮らす家づくり」がテラジマアーキテクツのコンセプトであり強みです。

1958年、東京都世田谷区に寺島工務店として創業しました。大工と棟梁がいる、昔ながらの地場の工務店です。当初は、近所にお住まいの方が知人を紹介してくださる形でした。それから、徐々にお客様を増やしていきました。

2000年代初頭に大きな事業改革を行いました。1958年の設立時から、工務店として事業を続けていましたが、設計事務所の機能を併設する形で再スタートを切ったのです。建築士による設計を行い、施工までテラジマアーキテクツがワンストップで対応する。こうした事業スタイルは、建築業界内では珍しいのです。

2013年に私が代表を引き継ぎ、現在に至ります。「設計×施工」という基本的な事業スタイルを守りつつ、ブラッシュアップを加えて事業展開を進めています。2021年には、新たにリノベーションの専門部署を立ち上げました。

株式会社テラジマアーキテクツの顧客層とコンセプトについて

― どのような顧客層をターゲットとされていますか

テラジマアーキテクツが手がけているのは注文住宅ですから、基本的に家の価値に重きを置いている方がお客様になります。建売住宅などのいわゆる企画型住宅や分譲マンションは、周りの家と似たつくりになりがちです。そうではなくて「自分の感性を表現した空間で暮らしたい」「デザインや仕様に妥協せず、納得のいく住まいを手に入れたい」そういった価値観の方が当社を選んでくださいます。

新規でご成約されるお客様の多くは、既存顧客からのご紹介です。例えばお子さまが同級生を家に呼んだことをきっかけに、同級生の親御さんが興味を持ってくださるということもあります。ほかには、会社の同僚や先輩・後輩、学生時代のご友人など、さまざまなつながりからご紹介をいただいています。

― コンセプトとされる「都市部で心地よく暮らせる家づくり」とは、具体的にどのようなものでしょうか

住宅密集地のような環境は、どうしても採光や風通りが悪くなります。この点をデザインと設計の技術で解決するというのが大きなテーマです。吹き抜けや中庭をつくるなど、土地のポテンシャルに合ったデザインをご提案しています。人類進化の歴史をみても、人々の暮らしには「光と風」は必要不可欠なものではないでしょうか。洞穴住まいから始まり、やがて木造建築へと進化しました。日光を浴び、新鮮な空気が巡る環境こそが、住まいの本質ではないかと思っています。

また、注文住宅を専門としている点にもテラジマアーキテクツのこだわりがあります。実際のところ、注文住宅というのは定義があいまいなものです。例えば、新築マンションでキッチンやフローリングの色が選べる。これだけでも「注文」だといえてしまうのです。

戸建て住宅において「注文住宅」と聞いて、いざ契約するとさまざまな制約があり、がっかりしてしまう方もいらっしゃいます。しかし、テラジマアーキテクツの注文住宅は、建築素材から選ぶことが可能です。床はフローリングに限らず、タイルでもカーペットでも大丈夫。フローリングもさまざまな素材からお選びいただけます。

同業他社との違いとは

― 同業他社との違いはどのような点にあるのでしょうか

柔軟な家づくりを可能にしているのは、設計から施工を内製化しているためです。社員の建築士が設計して、施工時には社員が現場監督を務めます。

また、パートナーである職人の質にもこだわっています。信頼できる職人を集めた「建心会」というコミュニティを形成しており、参加社数は100社ほどにおよびます。

設計から施工のワンストップ体制とコミュニティによる「一流の設計と一流の職人による家づくり」、そして都市部の環境に対する知見。この3点が真の注文住宅を提供できる独自の強みです。

2021年に立ち上げたリノベーション事業にもテラジマアーキテクツの強みを活かせると考えています。2022年現在、リフォーム業務を行うための特定の資格や免許はありません。そのため、リフォーム会社の質は玉石混合であるといえるでしょう。壁紙の貼り換えやユニットバスの交換程度であれば困ることはないと思いますが、戸建ての大規模なリノベーションとなると、構造面や防水面など家全体の知識と技術が必要になります。リノベーションに関してもお問い合わせが増えている状況で、テラジマアーキテクツの新築住宅で培った経験はリノベーションの付加価値になると考えています。

コロナ禍で実感している変化とは

― コロナ禍は不動産業界に大きな変化をもたらしたと思います。どのような点で実感されていますか

「集客方法の変化」について、特に大きな変化を感じています。集客方法の中心に住宅展示場を据えていた企業は、とても大きな打撃を受けたはずです。

かつての住宅展示場は、ウインドウショッピングのように気軽に情報収集をする目的で来場する場所でした。どれだけ多くの人に集まってもらうのかが重要なポイントでしたが、コロナ禍では密集はNGになってしまいましたよね。

コロナ禍の結果として、住宅展示場が担っていたウインドウショッピング的な役割は、ウェブサイトやSNSが担うような動きが加速しました。ある程度の情報をウェブ上でキャッチした後に、最終確認として展示場で実物を見る、という動きに変わったと思います。

企業側としては、リアルな展示場やイベントに頼らず、ウェブやデジタルの世界で集客力を高めることが不可欠になりました。

テラジマアーキテクツは、もともと展示場を持たずにオウンドメディアやSNSを活用してきましたが、今後、よりデジタル面を強化する方向で検討しています。

コロナ禍では、顧客が求める家のありかたも大きく変化しました。リモートワークが普及し、在宅時間が増えたことが主な要因です。今まではマンション住まいだった方が、「周囲の音が気になる」などの理由で戸建てに興味を持たれています。特にパワーカップルといわれる共働き世帯からのお問い合わせが増えています。

具体的に変化を感じるのは書斎に対するニーズです。以前は部屋の一角に書斎コーナーをつくる、といったお話が多かったのですが、最近は「完全にクローズドできる部屋にしたい」という希望が増えています。読書やネットサーフィンにふけるといった、インプット中心の空間とされていたものが、現在はオンライン会議で使用するなど、自ら情報を発信する場として使用するアウトプットの空間として求められている印象があります。

株式会社テラジマアーキテクツの展望

― テラジマアーキテクツ様の展望をお聞かせください

特別新しいことを始めるのではなく、今まで大切にしてきたことをベースに枝葉を伸ばしていきたいと考えています。

コロナ禍は、人々が「家の質」に再注目する大きな転機になったのではないでしょうか。SNSによって豊富な情報が得られるようになり、お客様の目が肥えているのです。家にこだわりのない方と、思い入れを持ってしっかりつくりこみたいという方との二極化が進んでいるように感じます。

また、長期優良住宅やZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)などに代表されるような省エネ性、断熱性といった性能面も高い水準を求められます。法律でも性能面の基準が上がっていますので「デザインと性能の両立」を重視しながら取り組んでいきたいと考えています。

こうした家の質にこだわる動きは、テラジマアーキテクツのスタンスと合致していますし、むしろ好機だといえます。

新築住宅においては、今まで20億円ほどの業績で推移していますが、ご提供する住まいやサービスの品質を維持できる範囲で業績向上を図ります。

リノベーションに関しては、対象となるお客様が年々積み重なっていくわけなので、伸び代が大きな事業です。既存顧客へのアフターフォローをきっかけとして、積極的にご提案していきたいと考えています。

長期的な展望としては、全国展開のスキーム確立をめざしています。これまでは品質維持の観点から商圏エリアを東京都や神奈川県に絞っていました。全国各地からお問い合わせをいただきながら、すべてお断りしており、これはとても大きな機会損失です。

そこで、実験的な取り組みとして始めたのが、全国にある工務店ネットワークの活用です。基本コンセプトはテラジマアーキテクツが担当し、建築は信頼できる各地の工務店さんへお願いするというもの。このスキームを安定化させて、将来は「テラジマアーキテクツがデザインした家を全国どこにでも建てられる」という形にしていきたいと考えています。

― 最後に、読者へのメッセージをお願いします

現在の不動産価格は、高止まりしている印象があります。しかし、家の質が再注目されるアフターコロナの社会で急激に下落する可能性は考えにくいでしょう。高いクオリティのものには相応のコストがかかる、という認識が定着するのではないでしょうか。

不動産投資にご興味がある方にお伝えしたいのは「土地は縁」だということです。良い土地とめぐり合うために、常に情報にアンテナを張ることが大切です。

気になる場所がある方は、周辺を散歩したりドライブしたりしてみましょう。家を解体しているような土地を見つけたら、不動産会社へこの土地が気になっている旨、伝えておくのです。そうすれば、土地が売りに出されるタイミングですぐに連絡がもらえるでしょう。先手を打つというのがポイントですね。

テラジマアーキテクツとしては家づくりの本質的なスタンスを守りながら、より多くの方に喜んでいただけるよう努めてまいります。家づくりの可能性を知っていただけるよう、ウェブマガジン「More Life Lab.」を運営しておりますので、ぜひ参考にしていただければ幸いです。