特集『Hidden Unicorn企業~隠れユニコーン企業の野望~』では、各社のトップにインタビューを実施。今後さらなる成長が期待される、隠れたユニコーン企業候補のトップランナーたちに展望や課題、この先の戦略について聞き、各社の取り組みを紹介する。
今回は、日本で最もフードロス削減を目指すソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」を運営する株式会社クラダシ代表取締役社長の関藤竜也氏と取締役執行役員CEOの河村晃平氏に、起業のきっかけや目指す将来像についてお話を伺った。
(取材・執筆・構成=斎藤一美)
1995年総合商社入社。高度経済成長期の中国駐在を経て独立。戦略的コンサルティング会社取締役副社長を経て、2014年フードロス問題を解決するため、株式会社クラダシを設立。
「EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー 2021 ジャパン」関東地区代表選出。
国連WFP協会評議員。食品ロス・廃棄に関する国際標準化対応国内委員会メンバー及び国際委員会メンバー。
早稲田大学を卒業後、2009年より豊田通商株式会社にて自動車ディーラー事業に従事。約5年の中国駐在後、株式会社Loco Partnersの執行役員を経て、2019年6月株式会社クラダシに入社。2022年7月より取締役執行役員CEOに就任する。
また、売上の一部を環境保護・災害支援を行う団体への支援に充てることで、フードロスのみならず、SDGsのさまざまな目標達成に貢献することを目指している。
フードロスの現状を憂い、起業を決意
―― 最初に、クラダシ様について教えてください。
株式会社クラダシ代表取締役社長・関藤竜也氏(以下、関藤氏):クラダシは、ソーシャルグッドカンパニーであり続けることをミッションとし、日本で最もフードロスを削減する会社を目指すことをビジョンに掲げ、ソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」を運営しています。
創業のきっかけは、私自身の2つの原体験でした。1つ目は、1995年1月に起きた阪神・淡路大震災です。当時、私は大学4年生でした。自分自身も被災したのですが、発生直後に居てもたってもいられず、単身支援活動に参加しました。その時に感じたのが、「一人の力でできることには限界がある」ということでした。
2つ目は、商社の仕事で中国に赴任していたときの体験です。そこで大量の食糧が廃棄されているのを目の当たりにし、「将来大きな問題となるであろうフードロスを解決したい」という想いで起業を決めました。
▼フードロス削減を目指す「Kuradashi」
食品に新たな価値を付加して再流通
―「Kuradashi」の仕組みについて教えてください。
株式会社クラダシ取締役執行役員CEO・河村晃平氏(以下、河村氏):食品メーカー様と小売の間には「3分の1ルール」という商慣習があります。3分の1ルールは、賞味期限の迫った商品が店頭に並ぶのを避けるため、スーパーなどの食品小売事業者が取引事業者との間で設定する日本独特の商習慣です。製造から最初の3分の1を超えると賞味期限がまだまだ残っていても廃棄される可能性があるのです。
箱つぶれやパッケージ汚れも同様です。このような、まだ食べられるのに廃棄されてしまう可能性のある食品を「Kuradashi」が買い取り、お得にユーザーにお届けし、売上の一部をクラダシ基金や環境保護・災害支援などを行う団体への支援に充てています。メーカー、ユーザー、社会貢献団体の「みんながトクする」ビジネスモデルが「Kuradashi」のビジネスモデルです。クラダシという社名には「お蔵入りになっている賞味期限内の食品を蔵から出し、新たな価値を付けて再流通したい」という想いを込めています。
▼株式会社クラダシのビジネスモデル
― 事業を立ち上げる際に、苦労したことは何ですか。
関藤氏:最初は100戦100敗という状況で、食品メーカー様に営業に行っても「いずれそういうことは考えないといけないと思うが、すぐに会社として取引を始めるのは無理かな」といった反応が大半でした。あきらめずに食品メーカー様と対話を重ね、2015年9月に国連総会で『持続可能な開発のための2030アジェンダ』が採択されたこともあって、少しずつ食品メーカー様の理解が深まりました。
2015年2月にソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」をローンチしたのですが、当時はこのようなサービスがなかったため、プレスリリースを配信すると多くのメディアで取り上げていただきました。その後、SDGsやフードロス問題を多くのメディアが取り上げるようになり、日本でも浸透していく中、お陰さまで「Kuradashi」のユーザー数・取引メーカー数は右肩上がりで増えていきました。2023年3月時点でユーザー数は約46万人、取引先メーカー数は1,300社になりました。
河村氏:私がジョインしたのは2019年6月頃なのですが、そこからIPOを目指す動きになり、企業としても加速度的に成長していきました。当時正社員は3名しかいなかったのですが、今ではアルバイトを含めると従業員数は約60名になりました。
1.5次流通という新たな市場を創造
―御社の強みは何でしょうか。
関藤氏:弊社は国連がSDGsを採択する7ヵ月前からフードロスビジネスを始めており、ファーストペンギンであることは大きな強みですね。また、私自身が商社で長年サプライチェーンを見てきたので、サプライチェーンの特徴を熟知していることも強みだと思います。しかし、これからはフードロス削減に取り組むプレーヤーがもっと出てくるでしょうし、むしろ出てきたほうがよいと思っています。
フードロス問題は、それほど切羽詰まっているのです。日本では税金を投入して食品を大量に廃棄する一方で、食材の6割を輸入に頼り、7人に1人の子どもがろくにご飯を食べられないという異常な状況に陥っています。私はこのようなマイナスからプラスを生んだり、分配のための成長を実現したりすることこそが、新しい資本主義だと考えています。そのため、クラダシは「1.5次流通」という新しい流通市場を作ることを目指しているのです。
「Kuradashi」では通常ルートである1次流通、中古販売である2次流通に対して、新品であるにも関わらずさまざまな理由によって流通過程で廃棄されてしまう商品を「1.5次流通」させることにより廃棄コストを削減し、CSR、CSV、SDGs、ESGなどの観点でもサプライヤーの企業価値向上につながるサーキュラーエコノミーを実現しています。
これまでも「廃棄処分する食品をディスカウンターに渡す」というルートはありましたが、単なる安売りはブランドイメージを損ねるため、ディスカウンターで販売したくないメーカーは、お金をかけて廃棄処分していました。これまで廃棄していたものをお得な価格で販売し、売上の一部を社会貢献活動への支援に充てる「Kuradashi」を利用すれば廃棄コストを抑えることができ、ブランドイメージを損なうことなく、むしろ企業のブランド価値の向上が期待できます。
ユーザー様にとっても「Kuradashi」でお得にお買い物をすることで気軽に社会貢献できるというメリットがあるため、双方にとってWin-Winのビジネスモデルといえます。また、クラダシはトルコやシリア、ウクライナなど紛争で苦しんでいる国々に対する緊急支援なども行っています。
ウクライナ支援における「日本の食品ロスを食料支援に変える」という試みに、多くの食品メーカー様が賛同してくださっていますし、クラダシがハブになり、今後もこのような取り組みをどんどん広げていきたいと考えています。
2030年度にフードロス半減が目標
― 今後の目標や展望についてお聞かせください。
河村氏:現在、クラダシはマーケットプレイスとしてサイトの運営を行っています。その中で商品の仕入れや倉庫での保管、消費者への配送、CS対応などさまざまな業務を行っており、ノウハウを蓄積しています。今後はこれまでのサイト運営に関する知見を活かし、コンサルティングやマーケティング支援のサービスとして提供することを検討中で、すでに一部の食品メーカー様にはサービスを提供しています。
また、現在ロジスティックについては産地から直接配送していただく形と、食品メーカー様からクラダシの倉庫に商品を納品していただく形があるのですが、今後は弊社の倉庫と食品メーカー様の倉庫を一体化するフルフィルメントサービスの提供も模索しており、食品メーカー様の輸送の手間やコストを削減する取り組みも行う予定です。「Kurdashi」は、「みんながトクをする」フードロス削減のインフラになりたいと考えています。
加えて2023年5月下旬には初の常設店舗が「たまプラーザ テラス」にオープンします。今後は常設店舗を展開することで、オンラインではリーチできないようなユーザーへもアプローチしたいと考えています。
関藤氏: 2030年度にフードロスを半減することを大きな目標としています(2000年度比)。これは、国の目標としても掲げられている数字です。クラダシがハブとなり、食品メーカー様や自治体など、さまざまな方々と手を取り、連携することで目標実現に向かって邁進します。
▼常設店舗イメージ図
新資本主義の第一人者を目指す
― 現在、最も関心のあるトピックは何でしょうか。
関藤氏:パーパス経営のムーブメントに関心があります。もともとクラダシはミッションビジョンを強く押し出しているので、投資家、ユーザー、メディアのすべてにご満足いただけるようなソーシャルビジネスを展開できていると自負しています。今後は、この部分の精度をもっと高めていきたいですね。
河村氏:弊社のビジネスモデルはソーシャルグッドマーケットを創ることで、アメリカにおいて環境に配慮したサステナブルな企業に与えられる認証の「B Corp(Bコープ)」を2022年6月に取得しています。最近は営利目的ではない新資本主義の概念も広まっていますので、弊社はその第一人者でありたいですし、パーパス系ビジネスをブームではなく、ムーブメントにしたいと考えています。
― 最後に、投資家に向けてメッセージをお願いします。
河村氏:弊社は、フードロス削減ビジネスにおいて常に第一人者でありたいと考えています。もし、そのような会社にご興味があれば、提携の話でも新規事業の話でも結構ですので、お声がけいただけますと幸いです。また、クラダシが大きくなるほど社会のためになる仕組みになっているので、そこにも興味を持っていただけたら嬉しいですね。
関藤氏:「Kuradashi」 は「みんなトクする」三方良しのビジネススキームなので、多くの人に使っていただきたいです。もちろん投資家の方にも興味を持っていただき、関わっていただければと思っています。食はすべての人に関わる分野ですので、さまざまなお取引やお付き合いができると思います。食品業界に限らず、さまざまな業界の方とコンタクトを取らせていただければ幸いです。