特集『隠れ優良企業のCEO達 ~事業成功の秘訣~』では、日本を支える「隠れ優良企業」をピックアップし、そのトップにインタビューを実施。「オーナー社長」に事業を立ち上げるに至った背景や想い、今後の挑戦などを聞くとともに、事業を成功に導く秘訣に迫る。
今回は、調剤薬局チェーンやドラッグストア向けに薬剤師・患者を支援するシステムを提供する、株式会社グッドサイクルシステム代表取締役社長の遠藤朝朗氏にお話を伺った。
(取材・執筆・構成=齋藤一美)
大学卒業後、株式会社スタッフサービスに入社。人材派遣の営業・計数管理業務を経て、電子カルテ(電子薬歴)を扱う会社に転職する。同社で販売・企画・機能設計業務に従事する中で、薬剤師の調剤業務を支援するシステムの開発を決意。その実現に向けて、2004年12月に株式会社グッドサイクルシステムを創業する。
電子薬歴システムで業界をリード
― 株式会社グッドサイクルシステム様の事業内容について、お聞かせください。
株式会社グッドサイクルシステム代表取締役社長・遠藤 朝朗氏(以下、社名・氏名略):株式会社グッドサイクルシステムは、調剤薬局やドラッグストア様に向けて、薬剤師と患者様を支援するシステムを開発・販売する会社です。
主力商品は薬剤師一人ひとりがiPadで電子薬歴を確認できるサービス「スマート薬歴『GooCo(グーコ)』で、全国に約6万件ある薬局のうち5,000店舗以上でご利用いただいています。
― 創業のきっかけを教えてください。
以前勤めていた会社で新しい電子薬歴システムのリリース業務を任せてもらったのですが、ある日社長から「この製品はリリースできない」と言われ、プロジェクトの担当を外されてしまったのです。その時の悔しさをバネに、新たな仕事先を探すことを決めました。
そんな折、取引先の薬剤師の方から「患者様に必要なヒアリングを行った後に薬を調剤する『先確認・先指導』のシステムが欲しいのだが、何とかならないか」というご相談をいただいたのです。
それまでは、患者様が病院から受け取った処方箋を見て、薬剤師がそのとおりに調剤し、薬を渡してから患者様にヒアリングを行うという流れが一般的でした。しかし、調剤の前にヒアリングを行い、医師の処方箋をダブルチェックしてから調剤するのが、あるべき姿です。「このフローは必ずスタンダードになるから、そのために必要なシステムを自分で開発しよう」と思ったことが、創業のきっかけです。
それ以降は「先確認・先指導」を実現するべく電子薬歴に特化してシステム開発や運用提案を行い、現在では電子薬歴システムのリーディングカンパニーとして、業界で広く認知していただけるようになりました。
お客様に合わせた薬局DXを実現するソリューション
他社との資本業務提携で市場拡大を狙う
― 2021年に株式会社EMシステムズと資本業務提携をされましたが、その背景を教えてください。
株式会社EMシステムズは、調剤レセコン(レセプトコンピューター※)トップの企業です。弊社もレセコンを扱っていたのですが、なかなか販売数が伸びませんでした。一方でEMシステムズの方は電子薬歴の分野が弱かったので、2社が提携すれば競争力を高めることができると考え、2020年頃から資本業務提携に向けて動き始めました。
もともとグッドサイクルシステムは上場を目指していたのですが、コロナ禍ということもあってタイミングが合いませんでした。そんな中、上場企業であるEMシステムズと資本業務提携ができたことは、大きな意義があると考えています。
EMシステムズは約1万8,000件のユーザーを抱えていますので、そこでグッドサイクルシステムのシステムを販売することで、さらにシェアを伸ばしたいと考えています。また、EMシステムズは現在3割ほどにとどまっている薬局でのシェアを5割程度に伸ばすことを目標にしているので、弊社は電子薬歴の部分で支援する方針です。
昨年からは人事交流も始まり、私自身も弊社の代表とEMシステムズの薬局向けシステムの企画部門責任者を兼任することになりました。昨年末にはお互いのシナジーを活かし、新たに「MAPs for PHARMACY DX」という電子薬歴・レセコン一体クラウド型薬局向け業務支援システムをリリースしました。今後も、レセコンと電子薬歴という枠を超えた薬局DXの構築に取り組んでいきたいと考えています。
※レセプトコンピューター:レセプト(診療報酬明細書)を作成するコンピューター
iPadの登場が急成長を後押し
― これまでに、大きな転機やブレークスルーはありましたか。
2006~2007年頃、薬局が訪問薬剤管理指導に取り組んでいこうという動きがあり、当社も早くからクライアントと協議し、さまざまなソリューションを検討していました。薬剤師というのは訪問薬剤管理指導を始めとして動き回る仕事ですから、電子薬歴を持ち歩く必要があったのです。
そんな中、iPadが登場したことが非常に大きなブレークスルーにつながりました。それまでもWindowsのタブレットはありましたが、iPadは比較にならないくらいレスポンスが良かったですし、大きさも手頃でした。これは使えると思い、それまで開発していたものを一度リセットし、iPadをベースとしたシステム開発に乗り出しました。日頃からユーザー様の声にしっかりと耳を傾けていたからこそ、迅速に舵を切ることができたのだと思います。
2011年に訪問薬剤管理のシステムを、そして2012年に電子薬歴システムをiPad版でリリースしたのですが、これが非常に大きな反響を呼びました。当時のユーザー数は約1,000件だったのですが、そこからは年間800件のペースというかなりのスピードでユーザーが増えたのです。このことが、企業として大きく成長するきっかけになりました。
BtoCに注力し薬局と患者の接点を担う
―貴社は、ユーザー様からの声を積極的に事業に活用されているとお聞きしました。
コールセンターに寄せられたご意見やご質問は、企業様ごとにすべて公開しています。店舗数が100を超える大手調剤薬局チェーン様もありますので、全店舗からの声を課題の優先順位を付ける際の判断材料にさせていただき、システムに反映しています。このように、ユーザー様の声を集めて活かす仕組みを早くから構築していることは、当社の隠れた武器といえるかも知れません。
―課題だと思うことや、今後強化したいことはありますか。
これまで薬局やドラッグストア様などを対象としたBtoBビジネスを展開してきましたが、患者様を対象としたBtoCの部分がまだまだ弱いと思っていますので、今後はここを強化していきたいですね。その上で、患者様と薬局をつなぐ接点となるサービスを提供していきたいと考えています。
今後、高齢化社会が進んでいくと、複数の病気で病院にかかり、複数の薬を飲む患者様も増えることが予想されます。そうなると薬の飲み合わせにも注意しなければなりませんから、LINEなどのアプリを使って事前に薬局に処方箋を送り、薬剤師さんにチェックしてもらえるような仕組みなどがあると便利ですよね。
また、最近は薬局に行くことなくオンラインで服薬指導を受け、後で薬を発送してもらうようなサービスも登場しています。今後はビデオ通話と決済の仕組みを組み合わせるといったソリューションが必要になると思いますので、弊社も患者様の手間を減らせるようなサービスを提供していきたいですね。
薬局システムにおけるシェア拡大を目指して
― 今後の目標や展望についてお聞かせください。
直近5年くらいのスパンでいうと、EMシステムズと協業して市場のシェアを高めていくことに注力しつつ、電子薬歴や電子カルテにおける顧客管理システムや、患者様向けのソリューションの提供に力を入れていきたいですね。
保険制度の違いがあるため海外展開は難しいのですが、10年後には薬局システムで他社が太刀打ちできない首位独走になっていたいと考えています。そのためには開発力の強化が必要なので、ベトナムに子会社を作り、そちらでアプリケーションの開発を行うことも検討しています。そうすることでコストを抑えつつ、商品の品質を上げていくことを目指しています。
― 最後に、投資家に向けてメッセージをお願いします。
弊社が協業しているEMシステムズは、医療系システム会社の中でまだ株価が割安だと思っていますので、バリュエーションに注目していただきたいですね。
EMシステムズが競合だった頃から「この会社がもっと本気で調剤に取り組んだら、もっとシェアが取れる」と思っていました。そこに調剤の薬歴分野で実績を積んできた弊社が協業することになりましたので、今はシェアを拡大する絶好のチャンスだと考えています。グッドサイクルシステム単体としての数字はあまり表に出ないのですが、EMシステムズは上場企業として数字が開示されますので、ぜひ注目していただきたいと思います。