特集『隠れ優良企業のCEO達 ~事業成功の秘訣~ 』では、各地から日本経済を支える優良企業の経営トップにインタビューを実施している。経営者たちは何を思い描いて事業を立ち上げ、ムーブメントを起こしてきたのか。どのような未来を思い描いているのか。会社のトップである「オーナー社長」に疑問をぶつけ、企業のルーツと今後の挑戦に迫る。

株式会社オカモトヤは、創業110周年を迎えるオフィス構築事業をメインとした商社だ。本インタビューでは、代表取締役社長である鈴木美樹子氏に同社の企業概要や日本経済の展望、今後の事業展開などについてうかがった。

(取材・執筆・構成=山崎敦)
この記事の情報は2023年8月3日時点での情報です。

(画像=株式会社オカモトヤ)
鈴木 美樹子(すずき みきこ)――株式会社オカモトヤ 代表取締役社長
成蹊大学経済学部卒業後、株式会社エドウイン入社。2006年に株式会社オカモトヤに入社し、営業本部長・専務取締役を経て、2022年の創業110周年を機に事業承継し、代表取締役に就任。働き方改革・健康経営などの制度設計を行うとともに、中小企業ユーザーに働き方を体感してもらえるショールームオフィス『OACISオアシス』をオープン。2022年には新規事業として女性活躍推進サービス『Fellne』を立ち上げ、災害用レディースキットはリリースから半年で3万個を受注。2児の母。
株式会社オカモトヤ
2022年に創業110周年を迎える、オフィスのレイアウトやデザインを始めとしたオフィス空間構築事業を主力とする企業。その他、オフィスサプライ事業、文具店事業などを行う。2015年より社内の働き方改革を進め、さまざまなライフステージの女性が働きやすい環境を整備している。

目次

  1. 経済の中心地で110年続く老舗企業の変遷
  2. 内需を活性化させるのが日本経済復活のポイント
  3. 女性の活躍推進をサポートする新規サービスブランドの立ち上げ

経済の中心地で110年続く老舗企業の変遷

――株式会社オカモトヤ様のカンパニープロフィールと、現在までの事業内容についてお聞かせください。

オカモトヤ代表取締役社長・鈴木 美樹子氏(以下、社名・氏名略):当社は、私の先代が1912年に「岡本洋行」という文房具屋を居抜きで買い取ったことから事業がスタートしました。今も、当時と同じ「虎ノ門1丁目1番地」で活動しています。当時は文房具の販売がメインでしたが、今はオフィス向けの専門商社になっています。

ずっと同族企業としてやってきましたが、1912年に事業を始める前は東京の神田で写真館を営んでいました。そして、写真館から活動写真のほうに事業を転換しましたが、活動写真は水物的な要素が強いという判断から、もう少し堅い商売を後世に残したいと考え、岡本洋行を買い取ったことが最初の事業転換です。

官公庁街を中心に紙や硯など、いわゆる文房四宝と呼ばれるものをリヤカーに乗せて、納品させていただくというところから、その事業はスタートしました。その後、第二次世界大戦が勃発しましたが戦地でも事業を行い、戦後の高度経済成長の波に乗り、印刷や紙をファイルに綴る、紙や帳票を保存するといった業務に必要な文房具やサプライ用品を提供することで事業が拡大していきました。その後は印刷や紙だけでなく、文房具、ファイルなどの収納用品、コピー機なども扱うことでオフィスの専門商社になっていきました。

――オカモトヤ様の事業における成功の秘訣は何でしょうか?

鈴木:強みは、やはり東京の中心地にいるということです。これは、事業を継続させるにあたって非常に重要だったと思います。現在は約3,300社とお取引させていただいていますが、どんなお客様でも必ず使うものを提供していますので、小さくても継続的な接点があることも、オカモトヤとしては非常に重要なストロングポイントだと思います。

文房具なので競合他社さんも非常に多くいらっしゃいますが、その中でもサービスのスピードが速く、商品の質が高いため、さまざまなお問い合わせやご依頼をいただけることもオカモトヤの特徴です。取り扱う品目数が非常に多いことと、それに伴い長い付き合いの仕入先様もとても多いことから、お客様を支えるサポート体制が当社の経験値だけでなく、仕入先様の歴史や取り扱っている商品、流通網にも支えられていることも、長い歴史があるが故の強みです。

関東大震災の際も会社が燃えず、経営者が全員生きていました。そして、第二次世界大戦の際も経営者が生還しています。私の祖父もガダルカナルの戦地に赴きましたが、学生社長の任を得ながら戦地に行って7~9年後に帰還し、その後の高度経済成長に乗って商売を繁栄させました。生きて帰るという当たり前ではないことを成し遂げたことは、当社にとって大きなポイントだったと思います。その後は経済成長の波に乗って文具業界の流通を作ったり、メーカー・卸売・小売の全体で団体を作ったりして、連携を取りながら業界を盛り上げていくための基盤を作っていきました。

私の父である現会長の鈴木眞一郎は基幹システムを構築し、仕入れから買掛、売掛までシステム化することで、人海戦術に頼らない盤石な社内体制を作り、さらにお客様に提供する文具の共同物流も作りました。1990年代前半までは人が文房具の注文を取り、自社の倉庫から商品をピッキングして営業のついでに納品するというスタイルでしたが、それを外注し、商品を物流に流すというスキームを同業さんと一緒に構築したことで、営業活動の幅が広がったこともポイントかと思います。

やはり、同族で事業を継承することができた環境があったことが大きいですね。110年という歴史の中で、同族が事業を継承したタイミングはブレークスルーの大きなポイントだったのではないでしょうか。祖父は103歳まで生きて、約50年間社長を務めました。先代である私の父は、35年間社長を務めました。もちろん良いことばかりではありませんが、一代ごとに長いスパンで経営を行っていることも、強みかもしれません。

――オカモトヤ様は110年以上の歴史があり、メインのオフィス空間構築事業やオフィスサプライ事業だけでなく、移動文具店などのユニークな活動もされています。パートナー様とともにビジネスを進めていく上で、特に重視していることは何でしょうか。

鈴木:私が社長に就任した2022年に、会社のパーパスを「『働くひと』のミカタ」に変更しました。これまでは「オフィス作りのパートナー」を事業ドメインとして掲げて活動していましたが、オフィスという言葉が入っていると、どうしてもオフィスという空間にとらわれてしまいますし、もう少し広い視野でオカモトヤの事業を見直すと違う景色が見えてくるのではないかと思い、「『働くひと』のミカタ」というパーパスを掲げました。そうすることで、移動文具店などを含めたオカモトヤのこれまでの歴史や、お客様や先代がやってきたことを違う目線で届けていく、時代にあった事業を承継していくことになるのかと思いました。

お店というのは、店を構えてお客様を待ち、物を提供するというのがあるべき姿だとは思いますが、流通が変わっていく中で自分たちだからできることを実現したいと思っています。「文具を使う人たちにもっと楽しんでもらいたい」という思いから、クラウドファンディングを用いて「ヤング号」という車を買って移動文具店を始め、コロナ禍で地方からお越しいただけなくなってしまったお客様のもとに私たちのほうから伺い、文具を楽しんでいただくという活動も行っています。

ビジネスを進めていく上で重視しているポイントは、端的に言えば「オカモトヤらしさ」です。また、今までの事業から逸脱しないこともかなり重視していまして、そこに「『働くひと』のミカタ」という言葉があることによって、道を外さずにこれまで大事にしてきたことを発展させていくというビジネスモデルに転換していくのではないかと思っています。

内需を活性化させるのが日本経済復活のポイント

――成長目覚ましい企業の代表から見た、現在の日本経済が直面している課題と今後の日本経済の動向についてお考えをお聞かせください。

鈴木:日本経済は刻々と変化していると思いますが、日本に関心がある海外の方に関しては、2020年に東京オリンピックが予定されていて、年間約4,000万人の観光客が訪れることを目標にして外需を見込んでいたところ、コロナ禍で3年ほど停滞してしまったという実情があります。2023年はロシアの戦争や不安定な為替などの影響もあり、現在の日本のお金の価値はあまり高くないと思います。そのため、製造業の方たちは海外からの仕入れに苦労されているのではないでしょうか。

日本は島国であり、昔は日本国内だけでさまざまなことが成り立っていましたが、規制緩和や海外からのニーズもあり、食糧や物品だけでなく、労働力も海外に依存する割合が増えてきました。そういった過渡期を経て今の日本があるので、これからは国内、つまり内需で活気を出していくことが非常に重要になると思います。

もちろん海外の方が日本に訪れて買い物をするのは大事ですし、日本古来の文化に触れていただけることも日本の強みだとは思いますが、それをさらに活かして国内生産や国内消費、国内雇用を日本は率先してやっていかなければならないでしょう。日本国民が日本の良さを理解し、教育やビジネス、生活を豊かにしていくことに対して、国が政策で後押しする必要があると思います。

少し前には「グローバルな視点が大切だ」といわれ、当社も海外進出を勧められましたが、それがオカモトヤらしさかといえば違うと思います。当社は歴史があるからこそ、どうやって海外の方に日本の良さを伝えていくかというアプローチのほうが、オカモトヤのドメインには合っていると思います。そのような視点で日本らしさ、ひいてはオカモトヤの歴史や事業を発展させていくことが、オカモトヤの使命だと考えています。

――オカモトヤ様と同様の事業領域を持つ企業が、2023年以降の市場において成長していくためのポイントは何でしょうか。

鈴木:当社の事業領域は、実はとても広いです。文具を始めオフィスの構築、業務改革などのICT機器関連、ネットワークなどのシステムインフラ構築と多岐に渡るため同業態ではないかもしれませんが、中でも売上の多くを占めるオフィス環境構築事業の視点でお伝えします。

日本では岸田総理が異次元の少子化対策などの政策を打ち出し、出産人口が70万人を割ってどんどん人口が減る中、2023年、2025年、2027年には都市開発が進み、オフィスの面積は大幅に広がります。2023年には虎ノ門に「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」が建ち、そこにはオフィスタワーができます。それ以外にも麻布台では大規模な地区開発があり、2027年には渋谷も非常に大きな開発エリアになります。そのため、主要都市にビルの建設が相次ぎ、オフィスの床面積も増えていくでしょう。

その流れから、オフィス市場に関してはオフィスの価値がコロナ禍を経て、別の形に進化していくのではないかと思います。それについて、当社がお客様の目線に合わせたオフィスを構築したり、働き方や健康経営、ウェルビーイングのようなワークライフバランスの取れたオフィスを構築したりする時代に突入していくでしょう。そのためのノウハウをお客様に提供することができれば、この業界の成長の余地はさらに広がるのではないでしょうか。

――コロナ禍を経て、オフィス構築の需要はどのように変化しましたか。

鈴木:今は需要が元に戻りつつあります。コロナ以前は出社して仕事をするがは当たり前でしたが、現在は「全社員在宅勤務」に振り切る企業さんも少なくありません。NTT様のように転勤を廃止するような企業さんもあり、コロナ禍を経て働き方が見直され、その企業らしさが働き方に表れるようになったと思います。

当社の業務で言えば、コロナ禍で在宅ワークが始まった頃にはオフィスの面積を縮小したり、移転したりする需要がありましたし、オフィス賃貸の業者さんからは、各企業がオフィス面積を縮小して家賃が減る分、オフィスをきれいにする、リニューアルするといったところに投資をするというお話も増えています。また、中小企業における働き方改革は、コロナ禍後に本格的に訪れているように感じます。そのため、需要が減ったというよりは、別の形の需要が生まれ始めたという感覚です。

最近は「テレワークやオフィスの縮小によってコミュニケーションが取りにくくなった」という声もあり、せっかく出社するのであれば出社する目的があるようなオフィスを作るといった、オフィスの在り方自体を見直し、そこに投資するという流れもあります。

女性の活躍推進をサポートする新規サービスブランドの立ち上げ

――オカモトヤ様の今後の目標や5年後、10年後に目指すべき姿についてお聞かせください。また、その際の課題は何でしょうか。

鈴木:10年以内に、売上100億円を超えたいと思っています。そのためには、会社や社員の質をもう一段階上げなければなりません。

当社は商社なので、営業担当がお客様のもとに伺い、提案することによって付加価値を生み、お客様から利益をいただくというビジネスモデルです。その意味で、営業だけでなくバックオフィスの質も上げなければ、業績を拡大することはできないと思います。

今は階層別研修として、社員には自社だけでなく外部の研修にも参加してもらっています。外部の研修では他社の方と一緒に研修を受けることになり、自社の置かれている状況や他社さんのことも研修の中で学べるため、オカモトヤの良い面も悪い面も把握できると考えています。

ただ、外部研修だけで不足していると思うのは、社員それぞれはスキルやノウハウを持っているのになかなか共有されていないというところです。外部研修だけでなく、社員同士の連携を図れる、商品知識を身に付けられるような研修メニューを社内で作らなければならないいうというのが課題です。当社には人事専門の部署がないため、研修に関しては私がプランニングを行い、社員にスケジュールを伝えています。そのため、人事面の構造的なテコ入れが必要になる可能性もあります。

2024年には人事制度も見直し、年功序列型の評価制度を変えたいという思いもあります。物事には順番がありますが、110年の歴史を踏まえつつも、そろそろ見直しの時期が来ているという考えです。

――最後に、弊媒体の読者層である投資家、資産家を含めたステークホルダーの皆様へメッセージをお願いします。

鈴木:110周年を機に事業承継を行ったタイミングで、2022年8月に新たなサービスブランドを立ち上げました。「Fellne」という女性の活躍推進をサポートするもので、そのサービスの一つに「災害用レディースキット」というものがあります。日本は災害大国と呼ばれていますが、東京都では災害があった際には社屋の中に3日間留まることが義務化されています。これから女性の就労が増えていくため、被災時にも女性が多いことを想定して、こういった商品やサービスを提供しています。

今後は「女性と男性がどのようにしてバランスを取って働くか」ということが重要な課題になると考えています。この課題を新たなサービスの提供を通じて解決し、同じような考えを持つ企業様と連携を取りながら、オカモトヤの企業活動を拡大していきたいと思います。オカモトヤに魅力を感じていただけたのであれば、何か協業できることがあるかもしれません。老舗だからこそできることを模索しながら、日本国内が潤うよう活動していきたいと考えています。