2011年に数十万円を元手に完全独学で株式投資をスタートし、2018年には運用資産5億円を達成した響煇嚆矢さん。コロナ禍でも冷静沈着に対処し、さらに資産を増やしたという。響煇さんが投資を始めたきっかけやその投資哲学、これまでの成果などについて詳しく話をうかがった。

※2020年9月2日に配信した記事を再配信しております。

響煇嚆矢(ひびき・こうし)
2011年に数十万円を元手に株式投資をスタートし、日本株のトレードで2018年には運用資産5億円を達成した敏腕投資家。
ブログ:Be a pioneer
Twitter:@hibiki_koshi

世の中の流れを読み、自分の能力を高める

(画像=PIXTA)

――響煇さんが株式投資を始めたきっかけについて教えてください。

あるIT企業に勤めていたのですが、給料がなかなか増えなくて、老後に備えた貯蓄もままなりませんでした。それに、思い込みや好みで仕事を評価する傾向がある職場で、論理的な判断で仕事をしない場面が数多く見受けられたんです。僕は論理的な判断で仕事をして成功したいと考えていました。

このまま働き続けたとしても、自分自身が仕事を通じて成長し、金銭的にも豊かになれるというイメージを抱けないことに不安を感じていました。そんな折に1冊の本を読んだことが、株式投資を始めた大きなきっかけとなったのです。

――その本とはなんですか?

元芸能人の島田紳助さんが書いた『自己プロデュース力』(ヨシモトブックス)という本です。特に感銘を受けたのは、「才能×努力」から成る自分の能力(X)と、世の中の流れ(Y)を統合すれば成功し続けられるという「X+Yの法則」でした。そして、この「X+Yの法則」という考え方に基づいて、株式に投資してみようと思ったのです。景気や流行などといった世の中の流れ(Y)はコントロールできませんが、自分の能力(X)は高めることが可能です。

才能が乏しくても、その分だけ努力を重ねればいい。そうやって磨き上げた自分の能力(X)で緻密にデータ分析を行い、世の中の流れ(Y)を見極めて勝負の設計を行えば、株式投資で成功できるのではないかと考えたわけです。

ただ、僕は理系出身で経済の知識は皆無でした。長期金利が何年ものの国債利回りのことを指しているのかも知らなかったんです。そこで、まずは日本経済新聞の朝刊、夕刊に出ているすべての記事を隅から隅まで通読することから始めました。

――隅から隅までというのは結構時間がかかりそうですね。

そうですね。毎朝9時に出社していましたし、帰宅後に数時間かけて新聞を読み込みました。その一方で、気になった記事や企業のことを詳しく調べていたので、睡眠時間はかなり削られ、何度も挫折しそうになったものです。ただ、『ももいろクローバーZ(ももクロ)』のDVDやYouTube動画が当時の僕を支えてくれました。

『ももクロ』の歌には「弱い自分を超えて挑戦する」といった内容の歌詞が多く、睡魔に襲われそうになった場面などで非常に励まされました。それに、当初はまだ知名度が低かった彼女たちがトップアイドルへと成長していく姿を見て、うらやましく思うとともに、自分もがんばろうと思いました。

「X+Yの法則」の方程式で言えば、才能が5の人は5の努力で25の結果を出せます。才能のない僕が結果を出すには、とにかく努力するしか術はありません。

――見事に努力が結実したわけですね。どういったトレードスタイルを確立していかれたのでしょうか?

僕の場合、あえて投資スタイルは限定していません。デイトレから長期投資まで、いずれかに的を絞ることなく、利益を狙えそうだと思ったらあらゆる手法を試してみます。ターゲットとする銘柄も特定せず、成長株から材料株まで幅広く手掛けています。

あらゆるスタイルで成果を出せるようになれば、それに越したことはありませよね。もちろん、いずれの手法を用いる場合も、世の中の流れ(Y)を徹底的に分析したうえで、必ず自分なりの確信を抱けることを大前提としています。

そもそも、僕が資産を増やしてきた手法についてこと細かく解説しても、真の意味で読者の役に立たないと思うんです。その通りにやって仮に儲かったとしても、単なる模倣にすぎません。きちんと本質を理解していなければ、継続的な結果にはつながらないからです。

大切なのは誰かの手法を参考にすることではなく、自分の能力(X)を高める努力を積み重ねて、世の中の流れ(Y)を読み解く力を養うことだと僕は考えています。

――確かに、勝っている投資家のやり方をそのままやって勝ち続けられるのであれば、勝ち組だらけになってしまいますね。

とはいえ、世の中の流れ(Y)を精査するための情報源に関しては、他の個人投資家の方々とまったく変わらないと思います。僕は『株探』という情報サイトでIR関連のリリースや市場関連のニュースをこまめにチェックし、重要だと感じたものを自分のデータベースに蓄積しています。また、相場の流れを把握するために、テレビ東京系の『Newsモーニングサテライト』や『ワールドビジネスサテライト』、『今日の株式 明日の株式』は、毎日欠かさず見ています。

世界的な感染拡大を先読みし、インバース型ETFで6,000万円の大勝

(画像=PIXTA)

――過去に大勝を収めた銘柄、逆に大損を被った銘柄について教えてください。

本格的に株式投資を始めたのは2011年からなのですが、初期に手掛けた銘柄で、特に大きな成果を得られたのはくら寿司(当時の社名はくらコーポレーション)でした。回転寿司業界でいち早く注文データの分析に取り組んでいましたし、ラーメンまでメニューに加えたり、すし皿を使ったゲームを導入したり、客を飽きさせない工夫を凝らしていたので注目したところ、一時は購入価格の約10倍まで株価が上昇しました。

こうした成長株を見つけ出せたことで資産は順調に増えていったのですが、2015年は試練の年でしたね。後にチャイナショックと呼ばれる急落局面が訪れた際、信用取引でレバレッジを効かせていたことから、損切りを強いられて2カ月のうちにマイナス40%という大きな損失を被ってしまい、これが投資を始めてから今日までの間で、最も大きな失敗となっています。

しかし、その後は再び着実に資産を増やせるようになりました。その中でも大きな成果を残せたのは、2017年に手掛けたペッパーフードサービスです。一時、同社が展開する『いきなり!ステーキ』は大人気で店の前に大行列ができていましたが、僕はそれ以前の段階からこの銘柄に集中投資を行っていました。

「X+Yの法則」に基づいて同社関連のデータを徹底分析し、当時の世の中が『いきなり!ステーキ』のような店を求めていることを確信できたからです。その予想が的中した結果、僕はこの銘柄だけでかなりの資産を築くことができました。

――新型コロナの感染拡大以降は、世の中の流れ(Y)をどのように読み解いていますか?

1月に中国の武漢で新型コロナの感染者が急増していたころは、風邪の新種にすぎないだろうと思っていました。過去に新型インフルエンザが流行した局面でも、当初は大騒ぎになったものの、さほど大きな影響は生じませんでした。

今回も同じようなパターンと考えていたんです。しかし、世界各国の感染者数の推移を観察し続けていたところ、当初は中国や韓国、日本などでの増加にとどまっていたのに、3月に入っていきなりイタリア北部でも急増し始め、いくつかの都市がロックダウンされました。そのニュースを見た瞬間、僕は世界的な感染拡大に発展するのではないかと思うようになりました。

そして、それまで保有していたポジションで4,000万円以上の損切りを行ったうえで、日経平均のダブルインバース(ベア)型ETFを買いました。ダブルインバース型ETFは日経平均が1万7000円を割り込んだ頃合いで売却し、6,000万円程度の利益を得ています。

――多くの投資家が資産を失うなか、その切り替えは見事ですね。

個別銘柄に関しては、コロナの感染が深刻化する前の時点で、自分の能力(X)に基づいて新聞などの情報を精査し、オンライン診療を推進するメドレーという会社に注目していました。ただ、世の中の流れ(Y)に関しては、「日本におけるオンライン診療の普及は、まだかなり先のことになるだろう」との見通しを立てていました。

ところが、コロナのパンディミック後は情勢が一変するわけです。僕は自分の能力(X)でメドレーのポテンシャルを分析しつつ、コロナ禍による相場全体の暴落を見定めていました。WHO(世界保健機関)が運営するウェブサイトを毎日チェックし、日本を含めた主要先進国の感染者数と死亡者数の推移を自分のブログに記録しています(※現在は該当記事を非公開)。コロナに対する世間の恐怖度の合いを測っていたわけです。

世の中の流れ(Y)についても、3月下旬から日本でも感染拡大が深刻化し、僕は「議員&厚生労働省VS日本医師会」の熱い議論の行方を見守っていました。感染者数の急増とともに日本株は3月19日(年初来安値)に向けて暴落し、日本中がコロナの恐怖に襲われます。メドレーの株価も1,500円を瞬間的に割り込み、その瞬間に僕は、「日本でもオンライン診療を認めざるをえないだろう」と判断しました。

そこで、すぐにメドレー株を購入し、「議員&厚生労働省VS日本医師会」の議論の推移を注視していました。すると、当初はオンライン診療の導入に慎重なスタンスだった日本医師会の対応に変化がうかがえるようになったのです。こうした動きを反映して、メドレーの株価は上昇し、判断は正しかったと証明されていきます。やがて初診からオンライン診療が認められた段階で利益を確定させ、トレードは終了しました。

――ほかにはどのような銘柄を売買したのですか?

ほかには、eコマースで物流サービスを提供しているファイズという銘柄を売買しました。その他の個別銘柄も含め、合計で2,000万円以上の利益を得ることができました。もっとも、5月下旬以降は世界的な金融緩和の効果で少し株価が上がりすぎていると感じたので、様子を見ることしました。感染者数が減っておらず、むしろ世界ではどんどん増えているにも関わらず株価の上昇が続いたからです。

勝つためには、つねに本気で取り組むことが大切

――利用している証券会社と選んだ理由、評価しているポイントについて教えてください。

もっぱら利用しているのは楽天証券です。その理由は、貸株サービスが便利だから。貸株サービスとは、保有中の株式を証券会社へ貸し出し、その見返りに貸株金利を得られるというものです。

ほかのネット証券にも同様のサービスがありますが、100株単位で自分が貸したい株数を選択できるというのは楽天証券だけですね。それに、確定申告の際に必要な貸株で得た利益の証明書も作成してもらえるのも助かります。いろいろな証券会社の口座を試してみたうえで、現在は楽天証券がメインの証券会社になっていますね。

――これから投資を始めようと思っている人たちへアドバイスをお願いいたします。

株を始めようと思っている人は、誰しも儲けたいと思っていることでしょう。儲けるためには、株式投資という勝負に勝たなければなりません。では、勝負に勝つとはどういうことか?それは、「他者よりも強い」ということです。当然ながら、他者よりも弱ければ勝つことはできません。

ならば、株式投資で他者よりも強くなるにはどうすればいいのかというと、知識と技術をちゃんと身につけること。たとえば、株価が下がって割安だと判断する際にも、他者よりも優れた知識で値段を見定めることが求められます。勝つためには、知識と技術をもとに自分自身で考えた作戦を冷静に遂行しなければなりません。作戦を遂行する前提条件が崩れた場合には、速やかに逃げることも求められてきます。

『賭博黙示録カイジ』という漫画の登場人物である利根川幸雄がこんな名言を口にしています。「30になろうと40になろうと、やつらは言い続ける。自分の人生の本番はまだ先なんだと。『本当のオレ』を使ってないから、今はこの程度なのだと。そう飽きず言い続け、結局は 老い、死ぬ。その間際、嫌でも気づくだろう。今まで生きてきたすべてが丸ごと『本物』だったことを」。

目の前の現実がすべて「本物」なのですから、つねに本気で取り組むことが大切だということでしょう。初心者であっても、自分の強みを知ったうえで知識と技術をきちんと身につけ、論理的に作戦を練れば、きっと結果が伴うと思います。もう一つ、必要最低限の知識を身につけるためにも日本経済新聞は読んでおいたほうがいいと思います。