特集「令和IPO企業トップに聞く ~ 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。
目次
創業からの事業変遷
ーー 創業から現在に至るまでの事業変遷について、教えてください。
室町ケミカル株式会社 代表取締役社長・青木淳一氏(以下、社名・氏名略): 創業は1917年で、医薬品事業において家庭用の目薬の製造からスタートし、現在では3つの事業から成り立っています。
1つ目は医薬品事業です。1917年から市販の医薬品の製造を始め、現在は原薬を主軸に製造しています。本格的に医薬品原薬の製造を開始したのは、1999年でしたが、それ以前に基盤はできていました。
2つ目は化学品事業です。1955年からイオン交換樹脂や分離膜というろ材を扱っていて、イオン交換樹脂を中心とした液体処理に関する実績を積み重ねてきました。その技術蓄積が現在の大きなアドバンテージとなっています。
3つ目は健康食品事業です。1981年から健康食品の製造を開始しました。当初は錠剤タイプを展開していたのですが、コスト競争が厳しく、中々収益が出ない状況が続いていました。その中で、2006年にゼリー状の健康食品を作ってみないかというご依頼があり、ゼリーの健康食品に本格的に参入しました。そこから現在はゼリータイプ一本で健康食品事業を展開しています。
ーー 医薬品事業を主軸に展開しておりますが、営業利益の増減要因として、原価率の向上と販管費の部分が挙げられています。今後、どのような対策を打っていくのでしょうか?
青木: 基本的には売り上げのトップラインを上げていくことを考えています。ただし、採算が合わない事業については部分的な撤退の可能性も考えています。
化学品事業については、投資家説明会でも全体の70%が当事業に関する質問であることから、市場での注目度が高いと感じています。 開発依頼も多いため、今後は積極的に開発と営業に力を入れていきたいと考えています。また、医薬品事業についても、シェアはまだ1%程度ですが、ご依頼も増加していて、国内回帰を求めるお客様も多くいます。このため、化学品事業と同様に営業と開発に力を入れています。
今後は、売上のトップラインを着実に上げつつ、それを回収していく方針で進めていく予定です。
そもそもエクイティを活用しようと思った背景や思い
ーー 長年経営をされてきた根幹には、貴社の技術の信頼度が非常に高いからだと考えています。令和に入ってから新規上場を果たした目的や、背景についてお聞かせいただけますでしょうか。
青木: 大きく分けて3つの理由があります。
1つ目の理由は、新規の設備投資資金を確保するためです。特に医薬品事業においては現在様々な依頼をいただいており、成長基盤となりつつあります。医薬品事業の中で、新しい分野を拡大させていくために一定規模での設備投資が必要だと考えました。
2つ目の理由は、財務体質の改善を図るためです。当時の自己資本比率はかなり低かったため、上場を通じて財務体質を改善しようと考えました。
3つ目の理由は、知名度を上げるためです。当社は小さな会社であり、市場でのアピールが単独では難しいと感じていました。上場を通じて、知名度を上げることで、人材確保やお客様、タイアップ企業との繋がりを強化したいと考えました。
今後の貴社における事業戦略や展望
ーー 今後の事業戦略について教えてください。
青木: 中長期の視点では医薬品事業に力を入れたいと考えています。医薬品は開発に着手してから販売に至るまでに、案件にもよりますが4、5年ほどかかります。そのため、中長期の戦略としては医薬品事業が非常に重要です。
また、医療品事業が将来の売上と利益の柱になると考えています。そのため医薬品事業を着実に進めつつ、設備投資をして、国内で製造できる、かつ、原薬あるいは原材料を海外から調達ができるような事業を展開していきたいと考えています。現段階で、複数のチャネルや他国からの調達ルートができています。価格競争力という点では市場で戦える可能性が非常に高まってきています。このアドバンテージを用いながら、着々と体制を整備していきたいと考えています。
ーー 化学品事業においてはイオン交換樹脂をメインに事業を展開していくのでしょうか?
青木: そうですね。私たちのアドバンテージは分析能力だと考えています。イオン交換樹脂を直接作ってるわけではなく、海外の技術力のあるメーカー複数社と共同開発を進めています。その際に、これまでに蓄積したノウハウを活かした分析を行っているのです。それによって市場のニーズに合ったものが開発されているかどうかを、正しく評価することができます。このアドバンテージを活かして、市場のニーズに合わせた新製品を製作していきたいと考えています。
ーー 健康食品事業については、これまで健康分野と美容分野に重点を置いていましたが、トレンドに左右されやすく、製品ライフサイクルが短いという課題があるようですね。
青木: 健康と美容の分野は、ヒット商品を生み出せれば大きな成果が得られます。しかし、その際には製造可能数の限界まで作らなければいけなかったり、製品需要が短期間で終わってしまうリスクもあります。そこで、安定的な収益を得るために、高齢者向けの栄養補填剤をゼリーで提供する方向性にシフトしています。
ーー 高齢化社会が進む中で、栄養素が不足しがちな高齢者に対してニーズがありそうですね.
青木: そうですね。必要な栄養素をゼリーに高濃度で配合し、効率的に摂取できるようにしています。このような高齢者向けの健康食品ニーズは今後も増えると考えており、健康食品事業の中心に据えて展開していきます。
この金融/経済市場においての、貴社または代表ご自身のファイナンスにおける課題や重点テーマ
ーー 金融・経済市場における、ファイナンスに関する課題や重点テーマについて教えていただけますか。
青木: 現状は複数の金融機関と取引があり、事業活動を支援していただいているところです。しかし、今後金利が上昇することも予想されますので、直接市場から資金調達することにも魅力を感じています。
また、今後の成長に伴いM&Aや大型設備投資が必要になる局面も予想しており、規模感の大きい資金需要が発生した場合には、POも視野に入れた効率的な資金調達手段を検討することが必要だと考えています。
そのためにも、業績や資本効率を意識した経営が求められます。投資家から投資価値のある会社として評価されるよう、努力を重ねていく必要があります。今後さまざまな変化が予想される中で、先ほど述べた点を含めた準備を進めていくつもりです。
ZUU onlineのユーザーに一言
ーー ZUU onlineのユーザーに一言お願いします。
青木: 室町ケミカルは、まだ世間に広く知られていないと認識しております。まずは、我々がどのような会社であるか知っていただくことが大切だと考えています。我々の会社は、健康と環境の両方に貢献し成長していくことを目指しており、医薬品・化学品・健康食品の3つの事業を展開しています。問題解決型企業として、これまでのスタイルを継続しながら成長していくことを目指しています。
また、上場を機に知財戦略を変更しました。以前はノウハウを重視していましたが、現在は特許出願を積極的に行い、知財権を得ながらPR活動を行っています。今後も、我々が開発した技術や展開について積極的にPRしていく予定です。ぜひ注目していただければ幸いです。
- 氏名
- 青木 淳一(あおき じゅんいち)
- 社名
- 室町ケミカル株式会社
- 役職
- 代表取締役社長