特集『Hidden unicorn企業~隠れユニコーン企業の野望~』では、各社のトップにインタビューを実施。今後さらなる成長が期待される、隠れたユニコーン企業候補のトップランナーたちに展望や課題、この先の戦略について聞き、各社の取り組みを紹介する。

今回は、ペットフード業界においてフレッシュフードという新たな市場を生み出し、多くの顧客から支持を得ることに成功した株式会社バイオフィリア代表取締役CEOの岩橋洸太氏にお話を伺った。

(取材・執筆・構成=斎藤一美)

岩橋洸太
株式会社バイオフィリア代表取締役CEO
慶應義塾大学経済学部卒。新卒でSMBC日興証券株式会社に入社し、IPOを準備・支援する業務に4年半ほど従事する。在職中にかつての友人であった矢作裕之氏(現:株式会社バイオフィリア取締役)と再会し、お互いの知見を活かしてビジネスを立ち上げることを決意。「大好きな動物を幸せにしたい」という熱い想いを持って株式会社バイオフィリアを設立する。
株式会社バイオフィリア
2017年8月創業、本社は東京都目黒区。「豊かな食事体験から多くのワンちゃん・ネコちゃんと飼い主様の幸せな一生をサポートしたい」という想いから、手づくりペットフードの開発・販売を行う。現在は獣医師監修の国産手づくりフレッシュフード「ココグルメ」「ミャオグルメ」をサブスク方式で販売する他、飼い主のためのアルバムアプリ「ぺっとる」の運営も手がける。

目次

  1. 会員の悩みに寄り添うBtoCビジネス
  2. 「やり切る姿勢」でブランド力を強化
  3. 最大のテーマは「既存事業の拡大」
  4. 50~60年、経営者を続ける覚悟

―― 最初に、バイオフィリア様の事業内容について教えてください。

株式会社バイオフィリア代表取締役CEO・岩橋洸太氏(以下、社名・氏名略):バイオフィリアのメイン事業は、獣医師監修の総合栄養食「ココグルメ」「ミャオグルメ」の製造と販売です。これまでペットフードにはドライフードとウェットフードという2つのカテゴリーがあったのですが、「ココグルメ」「ミャオグルメ」は飼い主の方がキッチンでつくる手づくりごはんに代わるものとして生み出した、冷凍タイプのフレッシュフードという新たなフードです。

「ココグルメ」「ミャオグルメ」の特徴は、大きく分けて3つあります。1つ目は、余計な添加物を入れず人間が食べる食品のみを使い、食品工場で生産していること。2つ目は栄養素を損なわないよう低温調理して、でき立てを冷凍していること。だからこそおいしいですし、動物たちも喜んで食べてくれます。

そして3つ目が、獣医師や栄養士、大学教授の方に監修していただいていることです。おいしいだけでなく栄養バランスも考えられているため、安心して家族であるペットに食べさせられます。現在はこのフレッシュフードをサブスク方式で販売しており、会員数は15万人を突破しました。

―― 創業のきっかけと、「ココグルメ」「ミャオグルメ」が誕生した背景を教えてください。

バイオフィリアの創業は2017年8月なのですが、当初はワンちゃんの殺処分を失くしたいという想いのもと、ワンちゃんと飼い主さんをマッチングする事業を行っていました。しかし軌道に乗らず、「想いがあってもビジネスとして成り立たないと、この世界を変えることはできない」ということを痛感しました。

ペットフードの製造・販売に舵を切ることになったきっかけは、愛犬2匹の死でした。病気で亡くなってしまったのですが、「食事にもっと気をつけてあげていたら、あの子たちはもっと長生きできたのではないか」と後悔する日々を送り、ペットフードについて調べ始めたのです。

すると、ドライフードを食べていたワンちゃんと手づくりフードを食べていたワンちゃんでは、後者のほうが3年近く長生きするというデータがありました。ワンちゃんの3年を人間の寿命に換算すると10年ほどになりますので、本当に大きな差です。

世の中のワンちゃんをもっと幸せに、長生きさせてあげたい。そんな想いで開発を始めたのが、手作りごはんに代わるフレッシュフードでした。

(画像=株式会社バイオフィリア)

会員の悩みに寄り添うBtoCビジネス

―― サブスクの会員数も順調に伸びているそうですが、フレッシュフードが顧客に受け入れられた理由は何でしょうか。

やはり、そこには歴史的な背景があると思っています。ひと昔前、ワンちゃんは番犬として庭で飼うような存在でしたが、平成のペットブームによって室内で飼われるようになりました。こうしてペットは家族の一員になっていくのですが、一方でペットフードはあまり進化していなかったのです。

家族なのに、自分と愛犬の食べるものがあまりにも違うことへの違和感が顕著になってきたのだと思います。だからこそ、おいしくて健康的なフレッシュフードをサブスクで購入できるという我々のサービスが受け入れられたのでしょう。

おかげさまで「他のご飯は食べないのに、『ココグルメ』は一瞬で食べました」というお声や、ご飯を食べなかったワンちゃんが食べられるようになり、「命の恩人です」という感動的なお声をいただくことができ、その時はとても嬉しかったです。やはり、おいしいのでしょうね。実は私自身もよく試食するのですが、ほんの少しの試食のつもりがおいしいので気づくと全部平らげてしまっています(笑)。

―― 消費者との接点の拡大にも、かなり力を入れられているそうですね。

私たちが目指しているのは、お客様の悩みに寄り添ったBtoCのビジネスモデルです。弊社のInstagramでは、ユーザーの方々が「ココグルメ」というハッシュタグでさまざまなご意見を発信してくださっており、その数は月500件に上ります。担当者がこれらすべてに返信していますし、いただいたご意見はしっかりと商品改良に活かしています。

また、カスタマーサポートに寄せられた「食材が大きくてワンちゃんが食べきれない」という声を反映して、食材を小さくカットしたり、「ニンジンが消化しきれずフンとして出てきてしまっている」という声を反映してニンジンの過熱時間を変えるなどの取り組みも行っています。

「やり切る姿勢」でブランド力を強化

―― 他社にはないバイオフィリア様の強みは何だと思われますか。

とにかく良い商品を生み出すために、本当にすべてをやり切っているところですね。商品改良も3年間で7回行っています。そんな会社は他にはないのではないでしょうか。この「やり切る姿勢」がお客様の共感を呼び、圧倒的なブランド力につながっているのではないかと考えています。

お客様も真剣に「自分たちの家族に良いものを食べさせてあげたい」と思っている方ばかりです。「命の恩人です」というお声をいただくように、私たちは大事な家族の命を支えているのです。その責任とやりがいを胸に、お客様と同じ方向を向いて、真摯に全力を尽くしていこうという気持ちが私たちの原動力になっていますし、それが結果にもつながっているのではないでしょうか。

とにかく私たちの会社は「動物大好き人間」の集まりですし、お客様とワンちゃん、猫ちゃんに喜んでもらえることが私たちの幸せでもあると考えています。

最大のテーマは「既存事業の拡大」

― 今後の目標や展望についてお聞かせください。

動物や飼い主様のために、フレッシュフードを当たり前にしていくことが私たちのミッションです。その数値目標として、2~3年の間に、売上高100億円を達成したいと考えています。そして10年後、いえ、5年後には海外進出も果たし、売上高300億円に到達したいですね。この成長スピードは難しく見えるかもしれませんが、いなば食品さんは「ちゅーる」を軌道に乗せてから5~6年で1,000億円の売上を達成していますから、決して絵空事ではないと考えています。

そのための最大のテーマは、既存事業の拡大です。もっと多くの方に「ココグルメ」「ミャオグルメ」を使っていただくために、メニューの充実や、より利便性の高い常温で使える商品を開発するなど、新商品開発に取り組んでいきたいと思っています。

また、販売チャネルを拡大するために実店舗での販売にも取り組んでいます。昨年10月にイオンペットさんでの販売を開始し、全国の店舗でお取り扱いいただいています。今後はドラッグストアやコンビニなどでも販売して、幅広いお客様に手に取っていただきたいですね。

先ほどお話したとおり、私たちは本当に動物大好き人間の集まりですから、動物への愛情をブランドの強さに転換することが私たちの使命だと思って、前進を続けたいと思います。そして、最終的には世界一のペットフードブランドになりたいと考えています。

50~60年、経営者を続ける覚悟

― 今最も関心のあるトピックがあれば、教えてください。

もともと動物を幸せにしたいという想いでビジネスをスタートしましたので、クリーンミート、いわゆる培養肉にも関心があります。屠殺される動物も、家庭のワンちゃんと同じ命だと思っています。とはいえ私たち全員が肉食をやめるのは現実的ではないので、おいしくて健康的に食べられる培養肉が出てくることが必要だと考えています。10年先、20年先を視野に入れれば、私たちの会社でも手がけたい領域です。

― 最後に、投資家に向けてメッセージをお願いします。

私自身が証券会社の出身ですから、投資家の方々の投資先に対する想いは理解しているつもりです。そんな想いにしっかりコミットできるよう、この事業を経営していきたいと思っています。マクロ環境などはこれからどんどん変わっていくと思いますが、私自身はあと50~60年は経営者を続け、この事業に人生を懸けることにコミットしています。長期的な視野で応援していただけたら、嬉しいですね。