新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業。政府からユニコーン100社創出が宣言されたこの状況下において、「現在の成長企業・ベンチャー企業の生き様」は、最大の関心事項と言える。ジャンルを問わず、一社のトップである「社長」は何を思い、どこにビジネスチャンスを見出しているのか。その経営戦略について、これまでの変遷を踏まえ、様々な角度からメスを入れる。

株式会社AIRI
(画像=株式会社AIRI)
児玉 皓雄――代表取締役 会長
1966年 広島大学理学部化学科卒業
1968年 広島大学大学院理学研究科化学専攻修士課程修了
1971年 同大学院理学研究科化学専攻博士課程修了
1971年 通商産業省大阪工業技術試験所入所
1978年 同所第1部電気化学研究室主任研究官
1986年 同所無機機能材料部燃料電池研究室長
1989年 同所研究企画官
1991年 同所無機機能材料部長
1993年 福岡県工業技術センター所長
1993年 (社)電気化学協会「溶融塩賞」受賞
1995年 通商産業省大阪工業技術研究所所長
1999年 通商産業省電子技術総合研究所所長
2001年 大阪ガス株式会社技術顧問
2001年 株式会社KRI顧問
2003年 株式会社KRI常務取締役コンサルティング本部本部長
2003年 同社専務取締役
2008年 株式会社先進知財総合研究所代表取締役会長
2013年 瑞宝中綬章受賞
2016年 (社名変更)株式会社AIRI代表取締役会長
株式会社AIRIは、知的財産ビジネスで世界をリードすることを目指しています。特許庁からは、特許出願に関する先行技術文献の調査業務を受託しています。創業時は僅か13名でしたが、現在は様々な専門分野を持つ約350名の元研究者・技術者や元特許庁審査官を擁しており、特許庁登録調査機関として民間企業でトップのシェアを誇っています。今後はさらなる飛躍のため、社員の専門性を活かして顧客企業の競争力を高める事業を展開・強化して参ります。

目次

  1. これまでの事業変遷について
  2. 自社事業の強み
  3. 現在一番関心のあるトピック・関心事項とその理由
  4. 思い描いている未来構想や今後の新規事業や既存事業の拡大プラン

これまでの事業変遷について

—— 御社の創業についてお聞かせください。特に60代での起業は珍しいと思いますが、その経緯や背景について教えていただけますか?

児玉 私が起業したのは、一般的には社会人の引退を考える年齢でした。国の研究機関で働き、58歳で退職しました。研究者としてのキャリアを積み上げ、退職の時はつくばの研究所で所長を務めていました。そこで改めて気づいたのは、定年後の研究者や技術者たちが報われない状況です。日本の社会は、技術者集団に対する再就職口が非常に少ないのです。

私は、そういった人たちの知識や経験を活かす場を作り出すことが、日本の将来にとって重要だと考えていました。現役時代からそのような場を提供するために努力していましたが、なかなか実現できませんでした。私自身は退職後に、大阪ガスの技術顧問として働く機会を得ましたが、やはり自分の手でそういう場を作りたいという思いが強くなりました。

—— なるほど、そのような思いを抱えての起業だったのですね。具体的にはどのようにして会社を立ち上げたのでしょうか?

児玉 ちょうどその頃、特許庁が先行技術文献調査を外注する受け皿として広く民間企業に調査事業への参入を図ろうとしていました。大阪ガスでもその呼びかけに応えるべく検討はしたものの、やはり諸般の事情から難しいということになりました。

それならばと、私は自分自身で事業を立ち上げることを決意しました。そして大阪ガスを退職後に、通常の定年年齢を大きく超えた 64歳で本格的に事業を開始しました。大阪ガスも快く理解してくれ、事業を始めることができました。

—— 現在、どのように事業を展開されているのでしょうか?

児玉 事業の目的は、研究者・技術者の潜在能力を活用し、科学技術と知的財産を通じて、世界の発展に貢献することです。優秀な人材が定年後に活躍できる場を作りたいと考えています。最初は13人から始めましたが、今ではバイオからITまで様々な分野に専門性を持つ350人の技術者を抱えるまでになりました。企業として独り立ちするまでには3年ほどかかりましたが、今では日本でも有数の技術者集団を形成しています。

—— 350人というのはすごいですね。今後の課題はどのようなものでしょうか?

児玉 今後の課題は、この優秀な人材をどのように活用していくか、あるいは本当に目的通りやっていくかということです。会社の将来ビジョンとして、知的財産ビジネスで世界をリードする、そして技術者や研究者の潜在能力を最大限に発揮させることを掲げています。法人というのは法が定めた人で、人格を有します。AIRIは法人としての精神的なバックボーンを持ち、社会に貢献する会社でありたいと考えています。

自社事業の強み

—— 市況における御社の強みについてお聞かせいただけますか?

児玉 やはり多様性に富む大きな技術者集団を抱えている点が、当社の強みです。文系の人たちが集まっているコンサルティングの世界はたくさんありますが、文系中心の世の中で、技術者集団がその高い技術力を活用する会社はそう多くありません。技術力で世界的に認められている日本において、技術者が第2、第3の人生において誇りと尊厳を持って生活できる会社にしたいと考えています。

また、競争するなら海外と、それが私のモットーです。知的財産ビジネスで世界をリードするというのは、まさにそれを目指しています。世界と競争して、知財で日本の力を示したいと思っています。

株式会社AIRI
(画像=株式会社AIRI)

現在一番関心のあるトピック・関心事項とその理由

—— 児玉さんご自身の、現在の関心事について教えていただけますか?

児玉 今の関心事というよりも、私の年代になると、多くの人が老後を楽しむ時代になっているんですよね。私自身も年齢や肉体的な衰えを感じていますが、それでも夢を持ち続けています。若い人たちは、老人が人生を達観して悠々と生きていると思いがちですが、実際には夢を持っている人が多いと思います。年をとっても夢は消えません。これはぜひ伝えておきたいですね。

—— 夢を持ち続けることは大切ですね。

児玉 私もAIRIを創業してから18年が経ちましたが、当社は法人格として成人を迎えたようなものです。会社が親から離れるように感じています。会社はまさに自分の子どものような存在です。母親が子どもに対して無私の愛情を注ぐように、私もこの会社に愛情を注いで来ました。

ただ、組織が大きくなり構造化が進むと、どうしても会長の思いが伝わりにくくなることがあります。それは、少し寂しくもあり、親離れのようなものですが、これは決して悪いことではないと思います。私はこの会社に夢を持っており、それは母親が子どもに夢を抱くのと同じです。この思いを社員の皆さんが共有していただいて、AIRIが世界に向かって大きく羽ばたいていく夢を実現したいものですね。

—— 興味深い考え方ですね。最後に、成功に対する考えをお聞かせください。

児玉 人が何かを成し遂げるためには、強い思いが必要です。まだまだ発展途上ですが、一般的に見れば成功と言えるかもしれません。私は本当に運が良かったと思っています。

思い描いている未来構想や今後の新規事業や既存事業の拡大プラン

—— これからの展望についてお伺いしたいと思います。AIRIとして、世界に進出する計画があると聞いていますが、具体的にはどのようなステップを考えていらっしゃいますか?

児玉 これからの10年、20年は、AIRIが世界に進出するための基盤作りが重要です。第二、第三の創業を為すべきこの期間に、しっかりとした緻密な計画を立てて、地道に進めていく必要があります。国の仕事をさらに伸ばしつつ、それを上回る伸び率で民間の仕事を獲得していき利益率を向上させることが目標です。

—— なるほど、長期的な視点での計画が重要ということですね。それに対して、どのように具体的な行動を起こしていくのでしょうか?

児玉 一歩一歩、着実に進めていくことが大切です。これまでの18年間も、少しずつ積み上げてきました。私は研究者としての経験を活かし、将来を予測し、解析し、課題を明確にすることを心がけています。人がやらないことをやるという研究者的な姿勢で、実行と評価を繰り返すことが重要です。

—— 本日は素敵なお話をありがとうございました。

氏名
児玉 皓雄(こだま てるお)
社名
株式会社AIRI
役職
代表取締役 会長