中西知行氏画像
(画像:NET MONEY編集部)

クラウド会計やAI(人工知能:人の判断や作業を補助する技術)の普及で、税理士業界は「記帳代行」や「申告書作成」といった“作業”の価値が大きく変わりつつあります。

そんな時代に、滋賀県大津市で創業50年を迎えた税理士法人TERASは、あえて“対面(Face to Face)”を重視し、地域密着で存在感を高めてきました。

「効率化は、削減のためじゃない。会う時間を増やすため」。代表社員(税理士)の中西知行氏が語るその言葉は、AI時代の士業(専門職)が提供すべき価値を、まっすぐに指し示します。

なぜ今、人に投資するのか。大阪・京都のサテライト都市とされる滋賀の大津市で、どのように“地域一番店”を目指すのか。TERASの現在地と、これからの展望を伺いました。

今回お話をお伺いした方
中西 知行(なかにし ともゆき)氏
TERAS Group(テラスグループ)代表
1974年滋賀県大津市生まれ。大学卒業後、一般企業勤務を経て北浜会計事務所(現税理士法人TERAS)に入所。CFP、社会保険労務士、税理士などの資格を取得し30年以上にわたって地域の中小企業に寄り添う。また近畿税理士会、TKC近畿京滋会、日本FP協会、大津商工会議所、滋賀県中小企業家同友会、大津ロータリークラブなどにも参加。関与先や保険会社、金融機関の顧客向けセミナー等のイベントにて講師を担当する等幅広い活動で地域の活性化と発展への貢献に勤しんでいる。

50年のバトンと「先生業」からの脱却

――まずは、税理士法人TERAS様の歩みと、中西代表がこの道を選ばれた背景を教えてください。

中西 知行氏(以下、中西氏):当事務所は先代創業者が個人事務所として立ち上げてから、今年で50年になります。私は大学卒業後、一般企業で営業職に就きました。当時は就職氷河期の真っ只中で、「手に職をつけたい」という気持ちもあり、この業界へ転身したのが正直なところです。

――業界に入ってから、どのように承継を進めてこられたのでしょう。

中西氏:事務所に入所し、税理士登録を経て承継しました。令和元年に創業者が引退した後は、新たなパートナーを迎え、事務所の譲受や合併を経て、現在は総勢40名超の組織になっています。

――現在の顧客層や地域との関わりについても教えてください。

中西氏:法人の関与先が約200件、個人や資産家のお客様が約500件ほどいらっしゃいます。特徴的なのは、お客様の8割以上が大津市の方である点です。特定業種に絞るというより、この地域で暮らす方、事業を営む方のお役に立てるなら、業種・規模を問わず支援しています。

――一般企業での営業経験は、税理士としてのスタンスにどう影響しましたか?

中西氏:非常に大きかったです。当時は税理士に「先生業」の側面が強く、上からの物言いになりがちな体質も残っていました。でも営業職時代に叩き込まれたのは「お客様あっての自分たち」という商売の基本。そこにギャップを感じたんです。

お客様に満足していただいて初めて、こちらも成長できる。サービス業として当たり前の感覚でお客様と向き合えるのは、営業経験のおかげだと思います。

――創業者が築いたものを引き継ぐうえで、特に大切にしていることは何でしょう。

中西氏:「地域のお客様を大切にする」という土台を守り抜くことです。滋賀県大津市で、地域の皆様に生かしていただいている。その感謝を忘れず、時代に合わせてどう進化させるか。それが私の使命だと考えています。

AI時代、効率化のゴールは“会う時間”

――近年、会計業界ではクラウド化やAI導入が進んでいます。御社はどう向き合っていますか?

中西氏:AIやIT(情報技術)の進化は本当に速いですね。記帳代行や税務申告書作成など、いわゆる「作業」部分の付加価値は、今後間違いなく下がっていくでしょう。いずれ無くなる業務かもしれません。

――その前提に立つと、TERAS様が「アナログ回帰」を掲げるのは印象的です。

中西氏:私たちは、事務処理など“お客様から見えない部分”はAIやITで徹底的に効率化します。その上で、浮いたリソースをすべて「お客様に会う時間」に投資する。ここが大事なんです。

――効率化は目的ではなく、手段だと。

中西氏:「3時間かかっていた業務が1時間で終わりました」だけでは生産性向上として不十分で、浮いた2時間で何をするかが本質です。付加価値の高い経営助言や、コミュニケーションに時間を使い、専門サービスをきちんと提供していくことに尽きると思っています。

AIを入れるほど、人がやるべき仕事が明確になります。私たちは「会う」ために効率化する。その一点に尽きます。

画像:税理士法人TERAS

Face to Faceでしか拾えない「温度」と「本音」

――「Face to Faceの信頼関係」を重視される理由を、もう少し具体的に教えてください。

中西氏:今はWeb会議で済ませることもできますが、私たちは原則として毎月お客様の事業所へ訪問し、膝を突き合わせてお話しすることを重視しています。

現場の空気感や経営者の表情、その場の温度感といった非言語情報(言葉以外の情報)は、画面越しでは伝わりにくい。特に経営の深い悩みやご家族の問題など、デリケートな話題ほど対面の安心感が不可欠です。

――対面の積み重ねが、相談内容の深さにも影響しますか?

中西氏:影響しますね。数字の報告だけで終わらせず、経営者の本質的な悩みを聞き出し、解決策を一緒に考えられます。信頼関係ができると、「実はこういうことも…」と、表に出にくい課題が共有されるようになります。

税務会計だけでは不十分で、労務管理、採用・教育支援、資産運用、保険、M&A(企業の合併・買収)支援なども含めて、ワンストップで対応できる体制を整えてきました。

「税金の計算をしてくれる人」ではなく、「経営や資産の悩みを何でも相談できるパートナー」になること。ここはAIには代替できない、人が担う付加価値だと確信しています。

地方都市 大津で進めるドミナント戦略(地域集中戦略)

――滋賀県、特に大津エリアの地域特性や課題をどう見ていますか?

中西氏:正直、大津は「産業の空洞化」が進んでいると言わざるを得ません。京都や大阪へのアクセスが良い分、消費が流れますし、企業の支店機能も集約されつつあります。街にはマンションが増え、ベッドタウン化が加速しています。

――その環境で、TERAS様はどのように成長戦略を描いているのでしょう。

中西氏:法人より個人の資産家や地主の方々が多く住んでいるという側面もあります。実際、当事務所は法人より個人の資産家のお客様が多い。だから全国から広く浅く集客するのではなく、大津に特化したドミナント戦略で、「大津で相続の相談ならTERAS」と想起される地域一番店を目指しています。

――集客手法も“アナログ”を大切にされていると伺いました。

中西氏:Webマーケティングだけに頼るのではなく、チラシ、看板、地域セミナー、無料相談会といった手法にも力を入れています。地域の方にとっては、顔が見える接点が安心につながるからです。

――「近江マネーフェスタ」の取り組みも特徴的です。

中西氏:一昨年から滋賀県出身または滋賀県に根を下ろして活動する各方面の専門家らと一緒に、お客様の希望に合わせた資産の全体最適を目指す新しい資産管理サービスを提供するチーム活動を実施しています。地主さんや富裕層の方だけでなく、一般の方々にも質の高い金融情報を届ける場として、無料相談会などにも力を入れています。

――地域コミュニティづくりにも注力されているそうですね。

中西氏:産業が少ないからこそ、地域の循環も生まれるという思想から、飲食店の繁盛化をサポートする会計事務所として売上・利益アップ等に至るまで飲食業に特化したサポートを実施しています。

また「次世代経営者塾」を立ち上げ、2代目経営者や若手起業家が横のつながりを持てる場も作ってきました。コンサル会社のプログラムのように答えを渡すのではなく、経営者自身が経営を考える場にしたい、というスタンスです。

――地域内での事業承継やM&Aの相談も増えているとか。

中西氏:増えています。後継者不足は深刻で、親族内承継が中心だった状況から、M&Aを含む外部承継の事例が徐々に増えています。仲介業者も増えて、関心が高まっているのを感じます。私たちのような事務所でも、今では年間1~2件程度はM&Aのご相談があります。 承継が実現し、その後も引き続き経営に関与できるケースは、本当に嬉しいですね。地元の灯を消さずに次世代へバトンを繋ぐ支援ができればと思っています。

画像:税理士法人TERAS中西氏

最大のテーマは人材——「滋賀で働きたい」をつくる

――今後、特に力を入れていきたい分野はありますか?

中西氏:「相続」と「人(労務)」ですね。相続分野は、不動産オーナー様だけでなく一般のご家庭からのご相談も急増しています。相続税申告だけでなく、生前の資産管理会社の設立、不動産運用、争族(相続トラブル)対策としての分割協議サポートなど、資産全体を最適化するアドバイスに力を入れています。

――法人のお客様の課題はどのあたりにありますか?

中西氏:採用難や育成といった「人」に関する課題解決が急務です。労務部門を強化し、税務と労務をセットで支援できる体制をさらに盤石にしていきます。数字と人は切り離せないので、両方を見ていく必要があります。

――その体制づくりには、御社自身の人材育成が鍵になりそうです。

中西氏:おっしゃる通りです。私たちの最大の課題は「人材」です。大津は住みやすい街ですが、優秀な人材ほど京都や大阪の企業に働きに出てしまう傾向があります。京都や都市部から、滋賀まで働きに来ている人の数は決して多いとはいえません。

――Face to Faceを掲げる以上、特に“人の力”が問われます。

中西氏:AI時代に求められるのは、人間力(相手の気持ちを汲み、信頼を築く力)やコミュニケーション能力です。これがなければ、私たちの掲げるFace to Faceの価値は提供できません。

だからこそ、まずは私たち自身が「滋賀にも面白い会社がある」と思ってもらえる魅力的な組織にならなければならない。滋賀・大津で育った優秀な方々に、「京都や大阪に行かなくても、ここで働きたい」と思っていただくことが、最も大きな課題であり、解決策だと考えています。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

中西氏:時代がいかにデジタル化しようとも、ビジネスや生活の根幹にあるのは「人と人との信頼関係」です。私たちは滋賀県という地域に根を張り、皆様の人生や経営に寄り添う「最も身近な相談相手」であり続けたい。

相続のこと、事業のこと、そして未来のこと。どんな些細なことでも構いません。まずは一度、膝を突き合わせてお話ししましょう。AIには出せない「温度のある解決策」を、私たちが提案します。

画像:税理士法人TERAS

――効率化の波に流されるのではなく、効率化で生まれた時間を“手間のかかる対話”へ投資する。税理士法人TERASの姿勢は、AI時代における士業の生存戦略を、真正面から提示しているように見えました。

今回お話を伺った企業
税理士法人TERAS(ゼイリシホウジン テラス)
この記事のインタビュアー
竹澤 佳
著者NET MONEY編集部 編集長
詳細はこちら 立教大学大学院修了。流通業界専門の出版社で編集長を務めた後、IT企業のメディア部門に転職。現在は金融ジャンルに特化し、クレジットカード・カードローン・証券などの取材、編集執筆に従事。与信審査や金融商品比較など専門性の高いテーマを多数手がける。自身でも5枚のクレジットカードを使い分け、暗号資産・株式投資・外貨投資で資産運用中。

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